はじめにはじめに 飛来・落下災害は身近な災害...

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はじめに 飛来・落下災害は身近な災害 飛来・落下災害は、身近な災害です。ヒヤリ・ハットを含めると、皆さんのほとんどの方が 経験されているのではないでしょうか。「飛来・落下災害」とまとめられていますが、落下災害 のほうが多く発生しており、落下災害は飛来災害の2.6倍発生しています。飛来・落下災害では、 物を飛来あるいは落下させて本人が被災することが多いのですが、共同作業者や下部あるいは 周辺で作業をしている作業員を被災させるというケースも、かなりあります。飛来・落下災害 を防ぐのは、自分自身のためだけでなく、相方や周辺作業者の身を守るためにも必要なことで す。 飛来災害でめだつのは、目の災害です。小さなゴミ、鉄片、コンクリートが手や顔にあたっ てもけがには至りませんが、目に入れば、非常に厄介なことになります。これらの物を加工・ 処理するときは、ゴミや破片が自分自身あるいは周辺作業者の方へ飛散しないようにすること が大事です。また、飛散しても目に入らないように保護メガネを必ず着用することです。 落下災害は、68%が取扱中の物を落下させることで発生しています。落下させている物は、 工器具、資機材、ローラーなどの機械に至るまで、あらゆるものを落としています。落下災害 の原因としては、うっかり、ぼんやりなどのヒューマンエラーが絡んでいることが多いのです。 落下災害防止の基本は、「物を落とさない」ことです。しかし、うっかり工具などを落として も、下には落ちないようにすることも大事です。たとえば、工具に紐をつけるなど、現場の知 恵と工夫で対応できることも多いと思います。 皆さんは、自分自身と働く仲間、そして第三者の安全・安心のため、「物を落とさない・飛散 させない」ということをよく考えて作業にあたってください。 はじめに──飛来・落下災害は身近な災害1

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◆はじめに◆

飛来・落下災害は身近な災害

 飛来・落下災害は、身近な災害です。ヒヤリ・ハットを含めると、皆さんのほとんどの方が経験されているのではないでしょうか。「飛来・落下災害」とまとめられていますが、落下災害のほうが多く発生しており、落下災害は飛来災害の2.6倍発生しています。飛来・落下災害では、物を飛来あるいは落下させて本人が被災することが多いのですが、共同作業者や下部あるいは周辺で作業をしている作業員を被災させるというケースも、かなりあります。飛来・落下災害を防ぐのは、自分自身のためだけでなく、相方や周辺作業者の身を守るためにも必要なことです。 飛来災害でめだつのは、目の災害です。小さなゴミ、鉄片、コンクリートが手や顔にあたってもけがには至りませんが、目に入れば、非常に厄介なことになります。これらの物を加工・処理するときは、ゴミや破片が自分自身あるいは周辺作業者の方へ飛散しないようにすることが大事です。また、飛散しても目に入らないように保護メガネを必ず着用することです。 落下災害は、68%が取扱中の物を落下させることで発生しています。落下させている物は、工器具、資機材、ローラーなどの機械に至るまで、あらゆるものを落としています。落下災害の原因としては、うっかり、ぼんやりなどのヒューマンエラーが絡んでいることが多いのです。 落下災害防止の基本は、「物を落とさない」ことです。しかし、うっかり工具などを落としても、下には落ちないようにすることも大事です。たとえば、工具に紐をつけるなど、現場の知恵と工夫で対応できることも多いと思います。 皆さんは、自分自身と働く仲間、そして第三者の安全・安心のため、「物を落とさない・飛散させない」ということをよく考えて作業にあたってください。

はじめに──飛来・落下災害は身近な災害◆ 1

◆目 次◆

C O N T E N T S

はじめに──飛来・落下災害は身近な災害……………………………………………………………………… … 1

飛来・落下災害は死亡災害の6%、死傷災害の11% … ……………………………………………… � 3

落下災害は飛来災害の2.6倍発生…………………………………………………………………………… � 4

飛来災害 目の保護と強風対策 ……………………………………………………………………………… � 5

飛来災害 作業と飛来物 … …………………………………………………………………………………… � 6◆ 1 人作業 その 1 釘 … ……………………………………………………………………………………… … 6◆ 1 人作業 その 2 ノックピンの頭………………………………………………………………………… … 7◆ 1 人作業 その 3 グラインダーの砥石…………………………………………………………………… … 8

 顔などにやけどや傷跡が残ったときの障害・等級の見直し  … ………………………………………… … 9◆ 1 人作業 その 4 カルコ(先端部)………………………………………………………………………… …10◆共同作業 その 1 コンクリート破片……………………………………………………………………… …11◆共同作業 その 2 鉄片… …………………………………………………………………………………… …12◆共同作業 その 3 クランプ(風)………………………………………………………………………… …13

落下災害 作業と落下物 … …………………………………………………………………………………… �14◆ 1 人作業 その 1 配管… …………………………………………………………………………………… …14◆ 1 人作業 その 2 仮受木製支柱…………………………………………………………………………… …15◆ 1 人作業 その 3 縁石… …………………………………………………………………………………… …16◆ 1 人作業 その 4 ブレーカー… …………………………………………………………………………… …17◆ 1 人作業 その 5 鉄筋束… ………………………………………………………………………………… …18◆上下作業 その 1 ハイテンションボルト………………………………………………………………… …19◆上下作業 その 2 ガラ… …………………………………………………………………………………… …20◆上下作業 その 3 単管パイプ… …………………………………………………………………………… …21

 年少者の就業制限  … ………………………………………………………………………………………… …22◆上下作業 その 4 差込み管… ……………………………………………………………………………… …23◆共同作業 その 1 配管材… ………………………………………………………………………………… …24◆共同作業 その 2 軽鉄材… ………………………………………………………………………………… …25◆共同作業 その 3 ALC板…………………………………………………………………………………… …26◆共同作業 その 4 敷鉄板… ………………………………………………………………………………… …27

 クレーン機能付きドラグ・ショベル(バックホウ)を活用しよう ……………………………………… …28◆共同作業 その 5 カゴ… …………………………………………………………………………………… …30

落下災害防止の要は「落とさない」「落としてもブロック」… …………………………………… �31

第三者に対して飛来・落下災害を起こすと、会社の社会的信用も一緒に落下… …………… �32

2 ◆目 次

死傷11%

死亡

6%

飛来・落下災害は死亡災害の6%、死傷災害の11%

 建設業の飛来・落下災害は、件数も、災害全体に占める割合も減少傾向にあります。しかし、最近 3年間の平均で、1年間に死亡災害20件、死傷災害1,870件が発生しており、多くの方が死傷されています。 また、建設業の型別災害に占める飛来・落下災害の割合は、最近 3年間の平均で、死亡災害で約 6%、死傷災害で約11%となっています。飛来・落下災害が、建設業の災害に占める割合は相当大きく、その防止に力を注ぐ必要があります。

飛来・落下死亡災害件数推移 飛来・落下死傷災害件数推移

0

5

10

15

20

25

30

35

40

H18 H19 H20 H21 H22

(人)

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

H18 H19 H20 H21 H22

(人)

飛来・落下災害の割合の推移

2.5

5.0

7.5

10.0

12.5

6.9% 6.5%7.7%

5.7%4.7%

10.8%

10.8%

11.1% 11%10.4%

死亡災害

死傷災害

H18 H19 H20 H21 H22

(%)

(出所) 厚生労働省職場のあんぜんサイトより「業種別・事故の型別死亡・死傷災害発生状況」を加工

飛来・落下災害は死亡災害の 6%、死傷災害の11%◆ 3

落下災害は飛来災害の2.6倍発生

 飛来・落下災害を飛来と落下に分けてみますと、飛来災害28%、落下災害72%となり、落下災害は飛来災害の2.6倍発生していることがわかります。

 落下災害をその発生形態別にみますと、取扱中の物の落下が68%と多く、その他の物の落下は32%となっています。落下災害防止では、取扱中の物を落とさない対策が最も重要になります。

 また、飛来災害をその発生形態でみますと、「加工・処理中の物体片の飛来」が40%と最も多く、続いて「加工・処理中の物の飛来」27%となっています。飛来災害では、加工・処理中の破片を飛ばさない、あるいは飛ばしてもブロックできる措置が重要となります。

(出所) 中央労働災害防止協会安全衛生情報センター「労働災害統計(平成20年)」より

その他の物32%

取扱中の物68%

破裂による物2%

加工・処理中の物 27%

その他の物31%

加工・処理中の物体片 40%

28%

72%

4 ◆落下災害は飛来災害の2.6倍発生

 飛来災害では、目を負傷する事例が多くみられます。飛来のおそれがあるときは、保護メガネをかけて目を守りましょう。 また、強風でベニヤ板、シートなどが飛ばされ、作業員にあたる災害がかなりみられます。強風時にはこれらの飛散しやすいものを養生しておくことが大切です。 なお、「強風」とは、10分間の平均風速が毎秒10m以上の風とされています。強風時には、高さ 2m以上の個所での作業、型枠組立て等の作業などが禁止されています。

 なお、防止対策については、リスクアセスメントの指針の優先順位にもとづき、下記のように分類しています。

①計画時の対策:…安全な工法への変更、危険な作業・材料の廃止・変更等の作業計画での対策

②機械・設備の対策:安全装置、インターロック等の機械や設備による対策

③管理面の対策:作業手順の整備、立入禁止措置、教育、訓練等の管理的対策

④保護具の使用:安全帯、保護帽、呼吸用保護具等の使用

飛来災害 目の保護と強風対策

飛来災害 目の保護と強風対策◆ 5

 飛来災害を「 1人作業」と「共同作業」中に発生したものに分け、さらに何が飛来したのかについても分析したうえで、その発生状況、原因および防止対策をわかりやすくまとめています。

飛来災害 作業と飛来物

◆大バールでこねて釘を抜いたところ、釘が抜け飛んできて、目にあたった

 梁側の型枠解体作業で、脚立足場の上に立ち、型枠に打ち込んである釘を大バールで抜いていた。釘が抜きづらかったので、力をこめてバールをこねたところ、抜けた釘が飛んできて目にあたった。

脚立足場は作業の高さをよく考えて、高さに合ったものを準備する

◆防止対策◆

釘が飛来する災害はかなり発生しているので、その対策をKY等の場で繰り返し教育する

釘の飛来のおそれのある作業では、保護メガネを使用する

1 人作業 その 1 釘

脚立足場の高さが足りなかったため、無理な姿勢で強引に釘を抜こうとした

6 ◆飛来災害 作業と飛来物

◆セットハンマーでノックピンを外すさいに、ノックピンの頭部が欠けて目に飛来

 鉄骨建て方時に使用したノックピン(径20㎜・長さ150㎜)をセットハンマーにて取り外すさいに、ノックピンを叩いたところ、その頭部が欠け、破片が左眼球に刺さった。

使用工具の作業前点検を確実に行う

◆防止対策◆

保護メガネの使用

作業姿勢、作業位置が正しいか、十分考慮して作業をするように教育する

1 人作業 その 2 ノックピンの頭

保護メガネを使用していなかった

飛来災害 作業と飛来物◆ 7

◆可搬式グラインダーの砥と

石いし

が割れて飛散し、頬にあたった

 軽量鉄骨工のAさんは、元請職員から、天井ボードを切断して、点検口を設置するよう指示を受けた。Aさんはまず、天井の下に置いた可搬式作業台に乗り、可搬式グラインダーで天井に切込みを入れて、開口部を設けることとした。作業を始めて30分ほど経過したとき、可搬式グラインダーの研削砥石が天井ボード裏の金属製下地材に接触し、割れて飛来した。その破片の一部がAさんの頬にあたり、頬には 3㎝の傷跡が残った。

天井に切込みを入れて点検口を設ける作業では、まず天井ボード裏の下地材の状況を確認する

元請職員は、天井に点検口を設置する指示を出すときは、天井裏の状況について説明する

◆防止対策◆

グラインダーは、研削砥石の覆いのあるものを使用する

砥石の最高使用周速度を超えて使用しない

保護メガネを使用する

1 人作業 その 3 グラインダーの砥石

砥石は、グラインダーの性能に合っていないものであった。砥石の最高使用周速度を超えて使用した

元請職員は、天井ボード裏の状況についてまったく説明しなかった

研削砥石には覆いがなかった

8 ◆飛来災害 作業と飛来物

顔などにやけどや傷跡が残ったときの障害・等級の見直し

 顔、頭部、頸部などの外貌に著しいやけどや傷跡が残ったときの障害等級は、「女高・男低」だったのが改められ、男女同一の等級になりました(平成23年 2 月 1 日付改正)。 たとえば、外貌に著しい醜状を残すものについては、これまで「女性=第 7級、男性=第12級」と、大きな差がつけられていましたが、今回の改正で、男性の等級を女性に合わせる形で、等級が改められました。「男性のカオが立った」、いや「上がった」ということでしょうか。 改正後の障害等級は、男性・女性とも同じで、次のとおりとなりました。

【顔にやけどや傷跡が残ったときの障害等級】

障害等級 身体障害

第 7級 外貌に著しい醜状を残すもの

第 9級 外貌に相当程度の醜状を残すもの

第12級 外貌に醜状を残すもの

� ➡

【第12級とは…】顔面部にあっては、10円硬貨以上の瘢はん

痕こん

または 3㎝以上の線条痕が残ったものです

顔などにやけどや傷跡が残ったときの障害・等級の見直し◆ 9