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5 Graduate School of Science Department of Mathematics

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数学専攻

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数学専攻

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  研究分野

 数学専攻では、次の分野が研究されています。

●整数論 ●可換環論 ●代数幾何学

●代数解析学 ●偏微分方程式 ●微分幾何学

●複素微分幾何学 ●位相幾何学 ●結び目理論

●離散群 ●変換群論 ●複素解析学

●多変数関数論 ●複素多様体 ●離散数学 

●確率論 ●スペクトル理論 ●力学系

●数理工学 ●情報理論 ●暗号理論

  教員組織と教員数

専任教員 教授/16、准教授/17、講師/2、助教/6

兼任教員 教授/6、准教授/5

教 授教 授教 授教 授教 授教 授教 授教 授准教授准教授准教授准教授准教授准教授准教授准教授准教授講 師助 教助 教助 教

臼井 三平小木曽啓示後藤 竜司今野 一宏土居 伸一西谷 達雄藤原 彰夫盛田 健彦石田 政司内田 素夫落合  理小松  玄砂川 秀明髙橋 篤史深澤 正彰森山 知則安田 健彦大川新之介庵原 隆雄小川 裕之松尾信一郎

教 授教 授教 授教 授教 授教 授教 授教 授准教授准教授准教授准教授准教授准教授准教授准教授

講 師助 教助 教助 教

大鹿 健一小磯 憲史小林  治杉田  洋中村 博昭林  仲夫満渕 俊樹渡部 隆夫植田 一石榎  一郎金  英子鈴木  譲角  大輝冨田 直人宮地 秀樹安田 正大

菊池 和徳大野 浩司原  靖浩三浦 英之

教 授教 授教 授准教授准教授准教授

有木  進小田中紳二日比 孝之大山 陽介永友 清和三木  敬

教 授教 授教 授准教授准教授

宇野 勝博松村 昭孝和田 昌昭茶碗谷 毅降旗 大介

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数学専攻各グループの研究案内

石田 政司

幾何学全般に興味を持って研究を進めています。特に、トポロジーと微分幾何が交差する所に興味を抱いています。より具体的には、4次元多様体上のEinstein計量およびRicci flow解の非存在問題に対し、Seiberg-Witten不変量と呼ばれる微分同相不変量を応用する立場から研究を進めています。最近ではこれらの研究と並行して、4次元とは限らない一般次元のRicci flowの研究も始めています。Ricci flowは3次元ポアンカレ予想の解決を目指して、1980年代初頭にR.S.Hamiltonによって導入されました。そのアイデアをさらに推し進める形で、約20年後、G.Perelmanによって予想は解決されました。Perel-manは様々な革新的なアイデアで予想を解決しており、その理論は、Hamilton-Perelman理論と呼ばれています。Ricci flowを使った3次元ポアンカレ予想の解決により、Ricci flowの研究は世界的に1つの大

きな流れとなっています。Ricci flowはある意味で最も単純な幾何学的フローであり、Harmonic Ricci flowやRicci Yang-Mills flowなど、その様々な一般化が導入されています。最近の関心事の1つは、Hamilton-Perelman理論の類似が構築され得るような新たな幾何学的フローを構成することです。

幾何学

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臼井 三平

代数幾何学とホッジ理論相互の関係について研究をしています。特に無限遠点から元の世界を眺めるために、対数幾何学を駆使した研究をしています。代数多様体はその積分周期でどれくらい規定されるかというのがトレリ型問題です。この問題に対して退化を利用した帰納的アプローチに興味を持ち続けています。この方向の枠組み整備として、加藤和也氏との共同研究により、周期写像についてのグリフィス理論とトロイダル・コンパクト化についてのマンフォード理論を、対数幾何学を使って一般化することに成功し、対数ホッジ理論ができました。さらに、加藤・中山能力・臼井の共同研究によって、対数ホッジ理論の一般化としての混合版対数ホッジ理論もほぼできて、ネロンモデルなども構成できました。この理論を構築するために様々なコンパクト化の間の関係を示す基本図式を構成しましたが、この図式こそホッジ構造変形の様々な極

限の間の関係を示す大枠であるということに気付きはじめました。この大枠の中でカラビ・ヤウ多様体の鏡対称性を捉えることにより次のような成果をあげています:対数ホッジ構造による鏡対称性の定式化、無限遠点での整数構造の定義、対数的法関数による領域壁張力の定式化。この方面とともにホッジ予想への応用にも興味があります。この研究領域には豊かな問題がいっぱいあるので、元気のよい大学院生諸君の挑戦を期待しています。

代数幾何学

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大川 新之介

これまで代数多様体の諸性質、特に幾何学的不変式論(GIT)と双有理幾何学に関連する事柄に興味を持って研究をしてきました。前者は代数多様体への代数的な群作用に関する商問

題を扱う理論であり、後者は代数多様体を「一部だけ改変する」という操作を扱う分野です。商問題を考える際には安定性条件と呼ばれる付加情報が必要です。これをいろいろと変えることによって一般には異なる複数のGIT商が得られるのですが、良い状況ではそれらが双有理同値になります。さらに特別な場合にはGITによって商の双有理幾何

学が完全に記述されるのですが、そのような商多様体のクラスとしてMori dream spaceというものが定義されています。私はこれまでにMori dream spaceからの正則射の像が再びMori dream spaceになることや、Mori dream spaceの標準束の正値性が商

を取る前の多様体の特異点の悪さと対応することなどを明らかにしました。最近は少し目先を変えて、代数多様体上の連接層が

為す導来圏に関わる研究、特に導来圏の半直交分解がどれくらい沢山あるのかについて研究をしています。この研究も双有理幾何学に動機を持っています。

代数幾何学

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数学専攻

金 英子

現在は曲面の写像類群について研究しています. 写像類群の元として一般的なものが, 擬アノソフと

よばれる写像類です. (大雑把に言えば, ランダムに写像類群の元を選ぶと, その元は擬アノソフです.) 私が興味を持っているのは, 最も単純な擬アノソフはどのようなものか? という問題です. もう少し詳しく説明します. 擬アノソフ写像類は, 力学系理論や双曲幾何学の観点から, 複雑な(それと同時に美しい)様々な性質をもっています. その複雑さを反映するいくつかの量があります. 例えばエントロピーや体積(これは擬アノソフの写像トーラスの双曲体積のこと)とよばれる量です. 曲面のタイプを固定して, その曲面の写像類群を考えると, 擬アノソフ写像類達のエントロピーや体積の集合にはそれぞれ最小値が存在します. エントロピーや体積の最小値を実現する写像類はどのようなものか? というのが上の問題です. 最近, Gabai, Meyerhoff, Milley 達は, 体積が小さ

い3次元閉双曲多様体, カスプを一つもつ3次元双曲多様体を完全に決定しました. とても興味深いことに, 彼らの結果からわかることは, これらの3次元多様体

は全て, たった一つの3次元双曲多様体のデーン手術とよばれる操作によって得られる, ということです. この特別な3次元双曲多様体は, 摩訶不思議な様々な性質を持つので, 専門家はマジック多様体とよんでいるのですが, 別な言い方をすれば, マジック多様体は, 体積が小さいという特徴的な性質を持つ3次元双曲多様体の"親"になっている, ということです.小さなエントロピーを持つ擬アノソフ写像類につい

ても, どうやらマジック多様体が "親" になっているのではないか? この予想は, 最近の私の研究や他の専門家の研究に基づいています. 曲面のタイプはもちろん無限種類あります. (例えば種数 ɡ の閉曲面の族など.) それそれの曲面の写像類群について, エントロピーの最小値を実現する写像類は存在します. 曲面のタイプは無限種類あるのでこのような写像類も無限にあります. このような無限にある写像類が, 実はたった一つの多様体から得られるのかもしれない. この研究に取り組んでいると, 我々のこの宇宙について, ときどき思いを馳せてしまいます.

位相幾何学

菊池 和徳

4次元微分多様体のトポロジーについて研究してお

り、特にホモロジー種数、微分同相群の交叉表現、分

岐被覆などに興味を持っています。中でも最も興味を

持っているホモロジー種数について、わかりやすく説

明しましょう。4次元微分多様体 M のホモロジー種

数とは、M の各2次元ホモロジー類 [x] に対し、[x]

を代表する滑らかな曲面の最小種数 g を対応させる

写像のことです。話を簡単にするため、M と [x] の

次元をそれぞれ半分にして、2次元多様体であるトー

ラス ( ドーナツ面 ) T の1次元ホモロジー類 [y] につ

いて考えてみましょう。地球儀にならい、T に経線

と緯線を描き、それらが代表するホモロジー類をそれ

ぞれ [m]、[l] とすると、[y] = a[m] + b[l] と書ける

ことがわかります (a、b は整数 )。一方、[y] は有限

個の二重交点のみを持つ円周のはめ込みで代表される

こともわかります。そこで、[y] を代表するそのよう

な円周のはめ込みのうち最小二重交点数 n はいくつ

か、という問題が自然な興味の対象になります。例えば、

(a,b) = (1,0) または (0,1) のとき n = 0、(a,b) =

(2,0) または (0,2) のとき n = 1、であることは容

易に予想できると思います。実際、一般の a、b に対

して最大公約数を d とすると n = d-1、であること

がトポロジー的方法によって証明されます。話を T

と [y] から元の M と [x] に戻すと、最小二重交点数

n に相当するようなものが最小種数 g ですが、トポ

ロジー的方法だけでは研究はなかなか進みません。微

分幾何的な方法、特に理論物理のゲージ理論を応用し

た方法が有力になることが少なくありません。難解に

はなりますが、面白い問題です。それでも、何でも目

で見るように理解しようというトポロジスト精神を忘

れずに研究しています。

微分トポロジー

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数学専攻小林 治

研究分野は多様体の微分幾何学です.部分多様体にはあまり興味がなく,と言っても Minkowski 空間内の極大曲面の論文がありますが,内在的な幾何学に興味があります.キーワードは曲率.特にスカラー曲率と Ricci 曲率に興味があります.スカラー曲率に関しては1980年代に山辺不変量と呼ばれる多様体の不変量を導入しました.この不変量に関わる問題はどれも難しいのですが魅力的です.これは私の研究の共形幾何学的側面です.一方,射影幾何学的視点からの微分幾何学の研究もしています.具体的には体積要素を平行にするトーション 0 のアファイン接続の Ricci 曲率です.接続は曲率と並んで微分幾何学の最も基本的な概念だと認められています.しかし一般のアファイン接続の内在的な研究はまだ少ないようです.

微分幾何学

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杉田 洋

私の専門は確率論です。とくに無限次元確率解析、モンテカルロ法、確率論的数論といった分野に興味を持っています。ここでは、モンテカルロ法について書くことにします。現代確率論が2年次で習う「確率・統計」よりどこ

が進歩しているか、を一言でいうと「無限個の確率変数を扱えるようになったこと」ということができます。たとえば「確率・統計」でN回のコイン投げの確率モデルが出てきますが、現代確率論では無限回のコイン投げの確率モデルを実現します。じつは驚くべきことに、確率論のすべての対象は(非可算個の独立確率変数を考える、などというマニアックな場合を除いて)原理的には「無限回のコイン投げ」を基にして作り上げることができます。この原理はモンテカルロ法において生かされます。

すなわち、モンテカルロ法では、まず、シミュレートしたい確率変数Sをコイン投げのサンプルの関数とし

て構成します。そして、コイン投げのサンプル…疑似乱数生成器と呼ばれるコンピュータプログラムを用いて算出されます…をその関数に放り込むことによって、Sのサンプルを計算するのです。そこで重要な問題は「疑似乱数生成器をどのように構成するか」ということです。長い間、ランダムな数列を生成するプログラムなど存在しない、という理由で、そもそも完全な疑似乱数生成器は存在しない、と信じられてきました。それが1980年代に提案された「計算量的に安全な疑似乱数生成器」という概念は、完全でない疑似乱数生成器でも確率変数Sのシミュレートを事実上完全に実行し得る可能性があることを人々に信じさせました。近年、私は大数の法則を利用して確率変数の平均値をモンテカルロ法によって求める場合に限っては、完全な疑似乱数生成器が存在し、実際にコンピュータで実現することができることを証明しました。

確率論

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数学専攻鈴木 讓

情報理論とその応用に関する研究をおこなっています。情報理論は、狭義には、デジタル情報の暗号化、符号化、圧縮の性能の限界を証明する学問領域ですが、最近は代数曲線暗号、ベイジアンネットワークなど数理科学として興味深い問題の解決に没頭しています。有限巡回群Gの2元の一方αを生成元として、もう

一方βがαの何乗か(離散対数)を計算機で求める問題(discrete logarithm problem, DLP)を考えます。位数が非常に大きいと、離散対数を求めるのは困難になります。この性質が最近の公開鍵暗号に応用されています。Gとして有限体上の楕円曲線の有理点の集合が用いられてきましたが、非特異代数曲線のヤコビアン群を用いる方法に一般化されています。効率のよい群演算(因子類の代表元を計算)、いくつかの解読方法について成果を出しています。この他、最近は、elliptic divisibility sequence

といって、楕円曲線の特定の点における等分多項式の値の系列を利用した暗号について研究しています。そ

の際に、ヤコビアン群の2元からきまるTateペアリングという双線型非退化な量を計算します。非特異代数曲線の中でも、先行研究として具体的な定義方程式を仮定したものは、超楕円曲線を利用したものしかなく、代数曲線の数理として、理論を構築していく余地があります。この領域は、暗号でではなく、数理物理(可積分系)への応用も可能です。この他、私はベイジアンネットワーク(BN)といっ

て、確率変数間の依存関係を非巡回有向グラフで表現する方法についての日本で最初の研究者とされています(1993年にUncertainty in Artificial Intelli-genceという該当分野の著名な国際会議で発表)。BNは、データマイニングや機械学習などに応用されています。2009年に「ベイジアンネットワーク入門」(培風館)という書籍を発行しました。数学では当たり前であっても、数学的に証明できることしか書いていない書籍は情報科学ではほとんどなく、その意味で強いインパクトを与えています。

数理情報学

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複素力学系、フラクタル

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中村 博昭

知りたい量をxとおき, xが満たす方程式を立てて解くことは人類が何千年も前から受け継いだ数学の伝統です.2次方程式に続き,3次4次の方程式に解の公式があることはイタリア・ルネッサンスの時代にカルダノやフェラーリによって公けにされましたが,5次以上の方程式に累乗根による解の公式がないこと,そして累乗根で解けるための必要十分条件は,19世紀になってからようやくアーベルやガロアの活躍で解明されました.このガロア理論の現代版が私の研究のメインテーマです.ガロア群の概念は20世紀に入るとグロタンディー

クにより「数論的基本群」の概念に拡張され,代数的数のガロア群と位相幾何的なループのなす基本群の間の緊密な相互関係の発見(ベリーの定理)を契機に「遠アーベル幾何」という分野が生まれました.そこには代数曲線やそのモジュライ空間の被覆の系列の制御と

いう重要な問題が横たわり, さらに深い数論的現象が立ち現れることが伊原理論により明らかになっています.有理点や定義体に関わるディオファントス問題やガ

ロアの逆問題,アソシエーターと呼ばれる非可換級数の性質を調べる問題など多岐にわたる分野が絡み合って活発に進展しているのみならず,関係する古典的な代数的数論や保形関数論の奥行きは深く,また応用する現代的な数論幾何学の間口も広いので勉強が大変ですが,重要な未解決問題も数多く残されています.少しでも解明に向けて前進したいと考えています.

整数論

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深澤 正彰

確率過程の漸近分布論を研究しています。

自然現象や社会現象を精密に記述する方程式はし

ばしば複雑になりすぎて、解の具体的な形はもちろん、

性質もよくわかりません。せっかく方程式を立てても、

そこから得られるものが少なければ空しいわけです。

しかし適当なパラメータに関して極限をとると、方程

式がすっきりして解けたり、解が明示的な関数に収束

することを証明できたりします。そしてその極限に必

要な情報が含まれていれば問題は実質的に“解けた”

ことになります。例えば、すべての物理現象の背後に

はミクロの領域の量子力学的な方程式があるわけで

すが、だからといって弾道を計算するためにシュレー

ディンガー方程式を解く必要はありません。プランク

定数が小さいことを踏まえて、この定数が0に収束す

る極限を考えると、古典的なニュートン力学の方程式

の解が現れ、これが問題の現実的な“解”を与えます。

私の興味はこのような摂動近似を極限定理として

定式化し証明することにあります。最近では数理ファ

イナンスの分野で、たとえばデリバティブ価格の特異

摂動展開を確率論的手法によって正当化しました。ま

たデリバティブの近似的最適ヘッジ戦略を高頻度取

引の安定収束理論によって陽に与えました。

物理学が新しい数学の素材を提供してきたのと同

様に、近年は金融工学からも多くの問題提起がありま

す。例によって複雑に入り組んだ問題に対し、漸近分

布論は強力なアプローチです。極限操作によって、絡

み合った糸をほどき、隠された宝箱を開ける、その瞬

間がこの分野の魅力です。

数理統計学,確率論,数理ファイナンス

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数学専攻

松尾 信一郎

四次元多様体論のDonaldson理論を幾何解析的な

観点から研究しています。Donaldson理論では四次

元多様体とその上の反自己双対接続のモジュライ空間

との絡み合いを研究します。四次元多様体の幾何に由

来する非線型偏微分方程式である反自己双対方程式の

解が反自己双対接続です。このとき,非線型偏微分方

程式の解析の技法と四次元多様体の幾何学の考察を織

り交ぜて,反自己双対接続のモジュライ空間を研究す

るのが,私の立脚点です。特に,モジュライ空間が無

限次元になる状況に関心があります。

大きな視点から言えば,私に興味を抱かせるのは,

無限と空間とランダムネスです。これまでは無限と空

間の交錯する無限次元空間を研究してきました。これ

からはなんとかしてそこにランダムネスをと狙ってい

ます。さらにざっくり言えば,混沌の世界に光あれと

宣言したくて,ずっと数学をやってきました。

微分幾何,幾何解析

満渕 俊樹

研究分野は複素幾何学です。研究対象はケーラー多

様体や代数多様体ということになるのですが,研究方

法については幾何学的方法の他に,しばしば幾何学的

解析手法,さらにはモジュライ理論で重要な安定性概

念を用います。

現在研究しているテーマの一例を挙げてみます。コ

ンパクトなケーラー多様体上の既約な正則ベクトル束

に対して「安定であることと Hermitian-Einstein計

量が存在することは同値である」というHitchin-

Kobayashi対応は,小林昭七,Donaldson,

Uhlenbeck-Yauらによって確立され,正則ベクトル

束のモジュライ空間における基本原理として重要な役

割を担いましたが,この多様体版として,射影偏極多

様体に対し,「偏極のK-安定性と,偏極類が定スカ

ラー曲率をもつケーラー計量を含むことは同値であろ

う」というDonaldson-Tian-Yau予想が知られてい

ます。ところが最近新しい展開があって,「偏極類が

定スカラー曲率のケーラー計量を含めば,偏極は

K-安定性である」ということが Stoppaや小生らに

よって示されました。現在我々の研究室は,この逆に

あたる「偏極のK-安定性を仮定すれば,偏極類が定

スカラー曲率のケーラー計量を含むであろう」という

存在問題に精力的に取り組んでいます。

複素幾何学

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数学専攻

盛田 健彦

エルゴード理論(ergodic theory)というのが私の

専門分野です。「エルゴード」という言葉はボルツマ

ン(Boltzmann)が1884年に出版した論文の中で導

入したもの で、ギリシャ語の ergon(仕事量)+

hodos(経路)を語源としているのだそうです。微視的

な世界の極めて多くの分子の運動の情報をもとに確率

論的手法を用いて、温 度や圧力といった巨視的な世

界の現象を説明することを考えてみましょう。そのた

めには、10の23乗個以上の分子の位置や速度を長

時間観測しそれを平均した値を用いたいところなので

すが、そんなことは現実問題としてまず不可能です。

そこ導入されたのが「エルゴード仮説」です。あらっ

ぽく書く と、「各分子の運動に関する物理量につい

ての長時間平均を、空間平均で置き換えることを可能

にする」ための根拠となる仮説です。不幸にしてこの

仮説は一般には成立しないことが知られています。以

上のような背景がある分野名が付いていることもあり、

「エルゴード問題」=「与えられた力学系がエル

ゴード的かどうか、すなわち、長時間平均=空間平均

をみたすような力学系であるかどうかを判定する問題

」が古くから主要課題の一つとなって来ました。しか

し、私が勉強し始めた20世紀後半には、既に様相が

一変しており、確率論、統計力学、力学系理論ばかり

ではなく微分幾何学、位相幾何学、数論、函数解析、

情報理論とありとあらゆる数学分野で応用されるよう

な分野となっていました。20世紀を代表する数学者

の一人コルモゴロフ(Kolmogorov) は生前、「エル

ゴード理論は数学諸分野の交差点である」といったと

も聞いています。私もそれにあやかって「あなたの専

門を一言でいって下さい」と質問されたならば、「時

間のような代数系が幾何学的対象である空間に力学系

として作用するとき、その挙動を確率論的手法で解析

し応用する数学の交差点的分野」のように答えること

にしています。

エルゴード理論

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安田 正大

整数論では整数係数の多変数多項式系を考察します。

このような多項式系の整数解を求めるのはしばしばと

ても難しい問題です。そこで整数解だけではなく、い

ろいろな可換環に値をもつ解を同時に考察します。す

ると連立多項式系をスキームと捉えることができ、整

数論に幾何的な考察を導入することが可能になります。

数論的なスキームに付随する Hasse-Weil L 関数

はコホモロジーを用いて定義されます。私はこの

Hasse-Weil L 関数の特殊値に興味を持ち研究をして

います。特殊値はモチヴィックコホモロジー群という

ものと結びついていると信じられています。モチ

ヴィックコホモロジー群は代数的サイクルや、代数的

K 理論を用いて定義され、通常計算が困難です。この

ような抽象的なものが、L 関数の特殊値というより具

体的なもの関係するというのは深みのある予想です。

モチーフと保型表現との間に対応があるとも信じら

れています。保型 L 関数にはいろいろな計算手段があ

るためこの信念は重要です。モチーフと保型表現との

間の関係を実現する道具に志村多様体がありますが、

私は近藤智氏との共同研究で、志村多様体の関数体類

似に対して、とあるモチヴィックコホモロジー群と

Hasse-Weil L 関数の特殊値とが関係することを証明

しました。

Hasse-Weil L 関数は Galois 表現を通じて定義さ

れます。そのため Galois 表現についての考察が必要

になります。特に p 進局所体の p 進 Galois 表現に

ついて詳しい性質を調べることが技術的に重要で、p

進 Hodge 理論を用いて調べることになります。p進

Hodge 理論は近年発展がめざましく、次々と新しい

理論が作られていますが、まだよくわかっていないこ

とも多く、まだまだ発展の可能性がある魅力的な分野

です。特に局所体の整係数 p 進表現の理論が、現状で

は扱いづらく具体的計算が困難のため、より扱いやす

い理論の構築を目指し、現在研究を行っています。

整数論

安田 健彦

私の主な研究対象は代数多様体の特異点です。代数

多様体とは代数方程式の解集合の成す図形のことです

が、図形の尖ったり、自分自身で交わっていたりする

点が特異点です。特異点は図形の解析を難しくします

が、多くの場面で現れるために特異点自体を理解する

ことが重要です。また、それ自体が豊かな数学を含ん

でいる興味深い研究対象です。

もう少し具体的には、特異点解消、特異点の双有理

幾何的性質、マッカイ対応などに興味があります。こ

れらは古典的な研究分野ですが、少し視点や問題設定

を変えると新しい現象を発見できることが(たまにで

すが)あります。このような発見こそが、私にとって

数学研究の一番の醍醐味です。モチーフ積分、フロベ

ニウス写像、モジュライ論的爆発、非可換環などの

様々な道具を用いて、ときには自分で道具を作って研

究をしています。

最近は正標数(1をいくつか足し合わせると0にな

る世界)における、特異点のミステリアスな振る舞い

に魅了されています。

代数幾何学,特異点論

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分野別セミナー紹介

●代数系セミナー

●幾何学系セミナー

 トポロジーグループでは次の4つのセミナーが開催

されています。3次元多様体、結び目、双曲幾何をテ

ーマとする低次元トポロジーセミナー(大鹿健一、宮

地秀樹)、接触構造、シンプレクティック構造、葉層

構造、力学系をテーマとする微分トポロジーセミナー

(大和健二)、変換群論およびそれに関連する話題を

テーマとする変換群論セミナー(原靖浩)、4次元多

様体、複素曲面をテーマとする4次元セミナー(菊池

和徳)。それぞれのセミナーでは新しい研究成果の発

表、初学者のための入門的講義などが行われ、関西圏

の研究者の情報交換、討論の場となっています。また

これらに加えて、分野の垣根を超えて様々なトポロジ

ー研究者の話を聴く交流の場として(月に1回位のペ

ースの)阪大トポロジーセミナーを開いています。

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力学系・フラクタルセミナー

力学系理論、フラクタル理論に関係した幅広い分野の研究者・学生が集まって、一ヶ月に一度程度、1時間半程度の長さのセミナーを行っています。そこでは、学内外の研究者や大学院生の方に最新の研究成果や研究進行状況を発表していただいて、参加者全員による活発な議論を行っています。また、参加者同士の交流や意見交換を盛んに行っています。

●解析系セミナー