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福島の進路 2018.62
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加賀屋 正之(かがや まさゆき)
共栄株式会社 代表取締役いわき市
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はじめに 弊社は1978年にいわき市で創業した建設資材、産業資材、理化学機器等を販売する商社です。創業以降幾度か不況もありましたが、取引先各位のご支援をいただきながら社業を拡大することができました。しかし、2011年の東日本大震災と福島第一原発の事故はこれまでとは全く様相の違う災禍でした。震災直後はこれからどうなるのか全く想像もつかない状況でしたが、あれから7年以上経ち様々に復興が進みました。浜通り地区では、復興工事が数多く発注され建設資材の販売が伸びたほか、化学品を中心とする各工場向け資材も以前の水準にいち早く回復しました。また、除染関連資材、測定器なども新たな商材として売上拡大に繋がりました。 しかし、いわきでも震災復興モードはそろそろ終わりに近づきつつあるように思われます。そのような状況の下で、弊社は「既存事業の強化」と「新規事業の育成」の2つのテーマに取り組んで
おりますが、機会を得ましたので現在進めている弊社の新規事業を紹介させていただきます。
食品残ざんさ
渣を利用したバイオマス発電 バイオマス発電については、震災前から日本大学工学部が中心となった小規模な研究実験チームのメンバーとして参画しておりましたが、震災後は県の補助も得て小型バイオマス発電システムの実用化開発に開発主体として取り組んでいます。食品残渣は一般家庭のみならず、食品加工工場、スーパー、レストランやホテルなど様々な所から排出されていますが、わが国で年間に排出される推定約2,000万tの食品廃棄物の多くが焼却処理されております。この残渣を有効活用することと、プラントから排出される炭酸ガス、熱、廃液を将来は農業分野に使うという目標に向けて実用化開発を進めております。首都圏では処理量100t/日を超える大型プラントも稼働しておりますが、地方都市ではそれほど多くの食品残渣は調達できま
田人プラント外観 田人プラント内部 農業法人のニンニク栽培現場
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せん。そのため、弊社ではいわき市田人地区に日量3t処理の小型プラントを建設しました。小型プラントの問題点は割高なコストで、ステンレス製のタンク類をコンクリート製に換えた他、発酵を促進させる攪拌システムや保温システム、分別機、汚水浄化装置、配管などに様々な工夫を加えコストダウンを図りました。プラントコストの削減には目処がつきつつあり、これから進める発酵効率やランニングコストの検証が予定通りであれば、商業プラントとして県内、近県に販売していきたいと考えております。
農業への参入-会津でのニンニク栽培 ニンニク栽培については、「営業拠点を置く会津の地域振興に貢献したい」 「食の安全を守るために何かできないか」という2つの問題意識が具体化したものです。新規の事業を模索している時に、旧知の方から会津は青森と気候が似ており、ニンニクの栽培を始めたらどうかと勧められました。農業は全くの「飛び地」の事業で、個人として興味はあっても、会社の新規事業としては考えにくかったのですが、偶然にも会津の取引先の会長から、「地元農家30軒ほどが細々とニンニクを栽培しており、これを地域の特産品にしたい」との希望を聞き、話がトントン拍子に進みました。これまでは庭先程度の狭い畑で栽培されていましたが、収穫量も少なく、販路も持ち合わせない状況で、ほとんどが自家消費でした。一方、会津の食品加工メーカーからは、地元産のニンニクが安定的に入手できるのであれば「青森産から切り替えたい」 「地場産品を使った新たな商品を開発したい」という声もありました。このように生産サイド・需要サイドの双方にニーズがあったので、小規模に行われていたニンニク栽培に資本投下して大規模に栽培することにしました。実際には、昨年3月に地元の農家7軒を中心に農業法人を立ち上げてニンニクの栽培を行っておりますが、弊社は事業計画、販売、資金調達などを受け持ち、二人三脚で事業を進めております。ニンニクの種は当初は青森産の優良品種を使用し(現在はその種子の孫)、天栄村産の堆肥の施用、ミネラル分補給のため新潟で汲んだ海水の散布、外部機関に詳細な土壌分析を依頼しそれに基づき設計した肥料の投入、土壌管理機器の導入等様々な努力を重
ねた結果、糖度が40度を超えるものまで収穫できました。生ニンニクでは甘さは感じられませんが、黒ニンニクに加工するとその甘さが際立つ大変優れた品質です。昨年は収穫した生ニンニクの一部を会津青果市場に、黒ニンニク、皮むき生ニンニクを一般消費者、食品加工工場に試験出荷しましたが、お客様の評価も良く、市場から高い評価をいただきました。今後は作付面積の拡大を図り(昨年の植付け面積2町歩)、生ニンニク、ニンニク加工品を本格的に販売する計画です。
大きな変化の予感 企業の経営に関しては、変化への対応が極めて重要であることは論を待ちませんが、今は2つの変化の時期であると考えます。勿論1つ目は震災復興モードから通常モードへの移行です。2つ目は AI、ビッグデータ、ロボット、自動運転などがもたらす変化です。1つ目の変化には、既述の通り既存事業の強化と新規事業の育成で対応することになると思いますが、2つ目の変化はどの範囲まで影響を及ぼすのか今の段階では想像がつきません。場合によっては社会や仕事のやり方を根本から変える可能性があると考えます。卑近な例ですが、「チャットボット」といわれる AI 内蔵システムでは、AI との対話で音楽のダウンロードやピザの注文が出来ます。更に進化すると、資材の購買といった仕事は、弊社のような商社を通さず、顧客がチャットボットと会話しながら、最も安く、短納期の商品をチャットボット経由で注文するといったことが出来るだろうと思います。新しいテクノロジーで変化する社会に如何に対応するか、経営者として会社の進路を模索する上の重要なテーマだと感じております。
加工された黒ニンニク 「ちからにんにく」会津の地から。そこぢから。