近接連星系が astrometric binary になる、 か? 紹介論文 “masses of neutron stars in...
Post on 20-Dec-2015
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近接連星系が Astrometric binary になる、か?
紹介論文 “ Masses of neutron stars in high-mass X-ray binaries with
optical astrometry”Tomsick & Muterspaugh, 2010, ApJ, 719, 958-965
植村誠@雑誌会 101229
紹介論文の概要• 中性子星 (NS) の質量を正確に推定するのは中性子の内
部構造を探るのに大事だけど、一番邪魔してるのが連星軌道傾斜角の不定性。
• 将来の可視スペース干渉計で μarcsec 精度の位置天文(astrometry) ができれば、大質量中性子星連星系(NSXB) の軌道運動が分解できる、かも。
• 試しにスペース干渉計計画「 SIM Lite 」の目標仕様でシミュレーションしてみると、いくつかの NSXB では数%の精度で NS 質量が決定する、という結果に。
(教科書的な)用語説明• 中性子星を含む大質量X線連星
– OB型星と中性子星からなる連星系• Wind accretion
– 連星系としての年齢も若く、軌道の離心率が高いことが多い
– コンパクト天体が中性子星であることは、パルスや X線バーストがX線で検出されることからわかる。
• 中性子星の内部構造– よくわかっていない。クォーク星である、との説もあ
り。– 状態方程式⇔質量ー半径関係、が内部構造によって異
なる。既にいろいろな説が提案。– 質量は連星運動からケプラーの法則を使って質量関数
(mass function)を求めることが多い。– 半径は中性子星表面の熱放射の観測から、放射領域の
サイズを見積もって推定する。• 位置天文 (astrometry)
– 遠方クェーサーなどを基準に座標系を定義して、星の位置を精測する。
– 位置の他に Parallax、固有運動が得られる。– Hipparcos がmili arcsec (mas)精度の観測を行った。現在
までこれが最も良い精度の全天カタログ。• SIM Lite計画
– http://sim.jpl.nasa.gov/index.cfm– 可視のスペース干渉計でμarcsec精度を目指す。基線長
6m、望遠鏡1つの口径50cm。位置精度=数μas、限界等級20等。15度角くらいの領域内を観測。全天サーベイはしない。
– Astro2010 Decadal Survey で推薦されず。NASAは予算打ち切り。
Tomsick et al. (2010)
なんで今日こんな話をするのか、の背景
• JASMINE 計画– 日本のスペース位置天文計画(干渉計ではない)
• nano JASMINE :口径 5cm 、位置精度 ~3mas を目指す。全天サーベイ。 z バンド。小型衛星 (35kg) として来年打ち上げ。
• 小型 JASMINE :口径 30cm 、位置精度 10μas を目指す。バルジ方向数平方度を観測予定。H バンド。 400kg くらいの予定。現在衛星開発の予算獲得のため、計画白書を作成しようとしているところ。
• JASMINE :最終目標。口径 75cm 、位置精度 10μas 。 2020 年代の実現を目指す。– 小型 JASMINE でできるコンパクト天体連星系のサイエンス
• で何か良いアイデアないですか、と問い合わせ。• ない、と即答するのもなんなので、ちょっと調べてみると、激変星や X 線連星の軌道運
動の見込み角とほぼコンパラの位置精度であることがわかった。– 12/1 の JASMINE サイエンス WS で議論(野上さん@京大)
• 先行研究が当然あるだろう、と調べたらあった、のが今回の紹介論文。• GAIA 計画
– ESA のスペース位置天文計画– 可視光全天サーベイ– JASMINE と同等かそれ以上の位置決定精度– GAIA に対する JASMINE のアドバンテージ = 近赤外線でバルジの奥まで。
サンプル
条件:明るいこと。連星軌道の見込み角が大きいこと。軌道周期や距離などのパラメータ、特にが精度よく決まっていること。中性子星であることが確定していること(パルサー or バースター)。 → 17個の HMXB 。
シミュレーション
SIM Lite 計画の目標仕様を使う。
既にシミュレーターが SIM Liteチームによって開発済み。
位置精度の「誤差」をシミュレートするのが目的。→そこから連星パラメータの信頼区間を計算。最終的には中性子星質量の信頼区間を計算したい。
Model fitting天体までの距離、連星(ケプラー)運動、見込み角の関係
天球面上の位置変化
連星軌道を決めるパラメータ7つ:軌道周期:軌道長半径(角度):離心率:軌道傾斜角:軌道面内における近星点 (periastron) の経度:投影面内の node の位置角: 近星点時刻
Thiele-Innes elements
離心率0の円軌道なら話はもっと簡単。
結論
• 数 μas の位置精度があれば、いくつかのNSXB では数%の精度で NS 質量が決定する。
• NS以外にも、 Cyg X-1, SS 433, 4U 1700-377 (2.4Mo の NS という報告あり)、 LS I+61 303, LS 5039 は SIM Lite の精度ならコンパクト天体の質量が精度良く求まる可能性あり。– ただし、 a*sin(i) は別途測っておく必要あり。
軌道運動の分解
• 10μasの位置決定精度なら分解できる?– Astrometric binaryになれば研究史上の「事件」– 既知天体では軌道傾斜角が不定性なしに決定
• これまでは輝線幅や伴星の楕円変光のモデル計算から推定。→降着円盤からの輝線の起源、ジェットと円盤は本当に垂直か?など検証
• 近赤外線域なら伴星が卓越– 伴星がOB型のX線連星なら可視ー近赤外線域で伴星が卓越– 伴星がGKM型のX線連星や激変星だと、8割以上は伴星からの光 (e.g. Dhillon & Marsh 1995, MNRAS, 275, 89)– 可視光では降着円盤やホットスポット、白色矮星からの放射の寄与が比較的大きい。
• JASMINE向き?
天体 距離 連星間距離(cm)
質量比(M1/M2)
軌道傾斜角
連星周期 ( 日 )
角度(μas)
固有運動(Hipparcos; mas/yr)
固有運動( μas/周期)
SS Cyg (CV)
170 pc 1.5e11 1.50 51 0.275 35 111 84
GK Per (CV)
470 pc 5.6e11 2.1 ~75 2.0 54 25 137
Cyg X-1 (XRB)
2.5 kpc 2.9e12 0.36 48 5.6 20 5.6 86
GRS 1915+105 (XRB)
~10 kpc 7.1e12 17 66 31 45 ? ?
典型的な CV,XRB での例
問題点• 9<H<11 で観測可能な天体数が少ない
以下、いずれも全天で、– CV :~10 天体 (Ritter & Kolb catalog)– 伴星が低質量星の XRB :全滅 (Ritter & Kolb catalog)– 伴星が大質量星の XRB :~20 天体 (Catalogue of Galactic high-mass X-ray binaries)
• 時間分解能&精度は足りるか?– 最短で、数時間の軌道周期を 10 分割するとして、数十分の時間ビンでの解析が可能か?– その場合の位置精度は? 精度的にはギリギリか。もう 1 ケタ精度が上がれば良いテーマ?
– 中性子星+大質量連星は楕円軌道なので、パラメータが増えて難しいだろう。– 激変星やブラックホール X 線連星は円軌道なのでその辺りは楽か。
未知天体については?• 既知天体の観測可能数は少なくても、未知の CV,XRB候補天体、特に質量輸送開始前の天体が見つかる?– 連星進化の観点から面白いかも。– CV,XRB だけではなく、食連星を含めた連星一般のテーマ?– 通常の proper motion + parallax のモデルで fitting の後、残差が大きいものを連星候補
と考えて周期解析 を行う?