東京大学先端科学技術研究センター 熊谷晋一郎
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社会的障害 の 経済理論・実証研究( REASE )第 1 回 研究会 日時 : 2012 年 10 月 13 日(土) 13 : 00 ~ 17:00 場所:東京大学学術交流棟(小島ホール)2階 小島 コンファレンスルーム 障害の不安定性と意思決定の困難 - 発達障害と慢性疼痛の当事者研究を手がかり に-. 東京大学先端科学技術研究センター 熊谷晋一郎. 発達障害と慢性疼痛の当事者研究がつきつける課題. 身体障害者の自立生活運動における 自己決定の原則. 自立生活をする身体障害者の多くは 介助者の「良かれと思ってやる先回り行為」 を批判する。 - PowerPoint PPT PresentationTRANSCRIPT
社会的障害の経済理論・実証研究(REASE)第1回研究会
日時:2012年10月13日(土)13:00~17:00場所:東京大学学術交流棟(小島ホール)2階 小島コンファレンスルーム
障害の不安定性と意思決定の困難 - 発達障害と慢性疼痛の当事者研究を手がかりに-
東京大学先端科学技術研究センター熊谷晋一郎
発達障害と慢性疼痛の当事者研究がつきつける課題
身体障害者の自立生活運動における
自己決定の原則• 自立生活をする身体障害者の多くは 介助者の「良かれと思ってやる先回り行
為」 を批判する。
• 確認せずに手を出すことは 自己決定の原則に反するからだ。
• つまり介助者は、文字通り被介助者の 「手足」になるべきだ、というわけである。
手足になること=身体化• 自己決定の原則を順守する真面目な介助者の中には、 際限なく自己決定を迫る人がいて参ってしまう。
• そもそも、健常者が日常生活を送るときに一挙手一投足の 動作まで意識的に自己決定などせず、 何か別のことを考えながら、手足が勝手に動いているは
ずだ。
• 私の経験でも、手足のように感じる介助者の条件とは、 ほとんどの行為を勝手にやってくれ、ここぞという要所
で さりげなく選択肢を提示する人だ。
• 要所の個所は、被介助者によってもちろん変わるだろうが、
自己決定を迫ることがいつでも自由を与えることに なるわけではない。
「手足になること」と「自己決定の原則」の間にある矛盾
過剰な自己決定の不自由~綾屋紗月の場合~
身体内外からたくさんの刺激やそれにまつわる記憶が等しく引き出されてしまうために、
意味や行動をまとめあげるのが
ゆっくりな状態
行動選択肢の乱立
○ 仕事を続ける○ 予定確認○ 資料探し○ 書類作成
行動選択肢
○ ソバを食べる○ 薬味を入れる○ つゆを飲む○ ソ バ 以 外 を 注文する
行動選択肢
○ 昼休みを取る○ トイレに行く○ お茶を飲む○ 携帯メールチェック
行動選択肢
○ 申し訳なさそうに 「 昼 食 を 摂 り に行ってきます」と言う
○ 横柄に、「じゃ、失礼ます」と言う
○ こっそり抜け出す○ 食事は我慢する○ おなかはすいてないことにする
行動選択肢
○ 鶴亀庵まで歩いて行く○ 鶴亀庵まで走って行く○這って行く○寝る
行動選択肢
○ ドアを開けて出て行く○ 誰かが開けるのを待つ○ノックする
行動選択肢
「昼休みに昼食をとる」という行動をしたいのに、たくさんの選択肢が乱立して、選べない。
マクロな行為が妨害される
早く出かける
身支度をする
髪をとかす
握力を調整する
左指の第一関節を調整する
・・・
・・・
意識的手動的
無意識的自動的
多くの人
の境界ライ
ン
マクロな行為
ミクロな行為
綾屋の
境界ライ
ン意識的手動的
無意識的自動的
綾屋の特性(多数派との差異)
朝食をとる
顎関節を調整する
口を動かす
パンを食べる
発達障害においてはこれまで、感覚過敏などの言葉で表されるような特有の感覚情報処理や自己身体イメージについて注目されてきた。
しかし発達障害と、痛覚情報処理の問題から生じる慢性疼痛との関係については、ケースレポートのレベル( Bursch et al.2004 )では散見されるものの、合併率についての疫学的調査や共通する神経基盤についての研究は、いまだに行われていないのが現状である。
Bursch B et al."Chronic pain in individuals with previously undiagnosed autistic spectrum disorders."J Pain. 2004 Jun;5(5):290-5.
発達障害と慢性疼痛
しかし、 「扁桃体を中心とした辺縁系」 「自己意識や mentalizing にかかわる内側 前頭前野や default-mode network 」 「ボディ・イメージにかかわる頭頂葉」 「実行機能にかかわる背外側前頭前野」 「睡眠覚醒リズムにかかわる脳幹網様体」などはいずれも、自閉症スペクトラムと慢性疼痛の双方の基盤として、各々の研究領域から注目されており、共通するメカニズムの存在が示唆される。
発達障害と慢性疼痛
痛みと意思決定
emotional decision-making能力は、慢性腰痛の強度の 60% 以上を説明する変数である。
慢性腰痛と異なり、 CRPS ではemotional decision-making 課題の成績が、交感神経ブロックによって影響を受けない。
自閉症スペクトラムにおけるインペアメントとディスアビリ
ティの混同
なぜコミュニケーションのすれ違いを
一方の障害のせいにするのだろう。
例:☆アメリカ人と日本人
☆聴者とろう者
社会性・コミュニケーションの障害?
コミュニケーションのすれ違いは
あくまでも両者の「間」に生じるもの。
「社会性の障害」という定義では
社会のほうにある原因を問うことができない。
新しい能力基準( 2003)
OECD(経済協力開発機構) DeSeCoプロジェクトキー・コンピテンシー人生の成功と正常に機能する社会の実現を
高いレベルで達成する個人の特性
テクノロジー・社会文化・経済の各領域に渡って「変化」「相互依存」「複雑性」が増している社会へと変化⇒ 求められる能力基準が変化⇒ 能力基準が変わると、障害者の定義も変わる
キー・コンピテンシ―とアスペルガー症候群診断基準の関係
・相互的社会関係能力の限界
・コミュニケーション能力の限界
・想像力の限界(こだわりが強い)
表面的に比べるとキー・コンピテンシーの欠乏として診断基準が読めてしまう。でも、診断基準とキー・コンピテンシーの双方が抱える問題は、「相互作用」という個人化できないことを個人化しているという点にあるのではないか。
発達障害を取り巻く背景
遺伝的・個体的要因だけでなく、身体と環境との相互作用が重要
自閉症の急増 半数は「原因不明」
【現状】
【世界的課題】Nature, 2011, 自閉症特集
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「心の理論」仮説に対する疑問
• 多数派の心理を少数派が推測できない状況を 「少数派に心の理論が備わっていないから」 と解釈してよいのだろうか。
• このとき同時に、少数派の心理を 多数派は推測できていないのだから 両者が心の理論を失調している ともみなせる。
• 著者は、アスペルガー症候群のある方々の完璧な自助グループを観察した個人的経験はない。またそうした活動をしているという報告も聞いたことはない。報告されている多くの活動は、施設や機関の職員が支援者あるいはコーディネーターとして会の運営の一部を担い補強して成り立っている。
• 自助グループの役割の一つである‘わかちあい’は、そもそもアスペルガー症候群のある方々がいくら同じ世界観をもっているといっても、自然に行うことは難しいのではないだろうか。東條もこうしたグループに参加できかつ有用な体験の獲得は、心の理論システムがかなり動き始めているアスペルガー症候群のある人たちに限られるのではないだろうかと提言している。
• 木邨らも自らの経験から当事者だけを主体にグループを運営することは、事実上無理であると断言している。その貴重な失敗経験から、グループの趣旨を明確にし、事前の予告を徹底し、参加者を吟味し、スケジュールを予定時間通りに管理するという徹底的な構造化で再生を図ろうとしている。
当事者のみで自助グループは無理?田中康雄 . (2007). ケアと社会的対応 家族・家族会・自助グループ . 日本臨床
二段階で語られていない自閉症スペクトラムにおける「社会性の障
害」
社会性コミュニケーションの
障害(自閉症スペクトラ
ム)聞こえない
(聴覚障害)
うまく動けないうまく話せない
(脳性まひ)標準から外れた身体特性( impairment)
コミュニケーション障害
活動レベルや社会参加における障壁 ( disabilities)
?
・「社会性の障害」という言葉は、どんなに社会の側に問題があっても、それに適応できない個人に問題がある、というロジックを補強してしまう。 ・ゆえに、この概念によって進行しつつある社会的排除が、個人の問題にすり替えられかねない(個人化)。 ・ただし、社会が悪いと言ってしまうだけだと、自閉症特有の困難やニーズが見逃され、社会の側がどのような合理的配慮をすべきかについての構想ができない(社会化)。 ↓社会性の障害に先立つ知覚運動特性 に基づいた再定義の必要性
「社会性の障害」に先立つインペアメントを明らかにする当事者研究
当事者の語りが研究の方向を変える
発達障害当事者研究を進める上で
①「社会性の障害」 「コミュニケーションの障害」か
らは 出発しない。
②知りたいのは 「アスペルガー症候群とは何か」で
はなく、 個々人の体験を言い当てる言葉。
当事者研究の具体的な進め方
他の支援法と当事者研究の比較カテゴリーとプロトタイプの観点から
全体社会 全体社会
カテゴリーのプロトタイプ
全体社会
健常者への同化的適応 排他的コミュニティへの同化的適応
カテゴリー創造的適応(当事者研究)
• 健常者に少しでも近づくための治療や支援を行う
• 健常者に至らない自分を責め続ける思考にとらわれたり、自分の体験が周囲と共有されない孤独感にさいなまれやすい
• オルタナティブな言葉や価値観、生活スタイルに触れ、全体社会の同調圧力から保護してくれる
• 同質な人々からなるコミュニティ内で、縮小再生産的に同調圧力が生じる
• 既存のカテゴリーを踏まえつつも、自分の体験を語る言葉を創造し共有
• 他者と共有される形で自己認知を深め合うことで、自他分離・他者認知・意思決定を促進
1.知覚の特徴と同一性の混乱
全体よりも部分にフォーカスした情報を たくさん摂取する
【綾屋の特徴】身体内外にある数多くの情報が次々に私の意識に届けられる。
たくさんの感覚情報を処理できず頭を埋め尽くしてひどく苦しくなる。
感覚飽和
胸がわさわさ
ボーッとする
頭皮がかゆい
手足が冷たい
頭 が重い
倒れそう
皮膚がはがれそう
肩 が重い
胸が締まる 胃のあたりが
へこむ
気持ち悪い
イライラ
さみしい
動けない
フォーカスした身体内部の情報をたくさん摂取する
「おなかがすいているのかも?」「風邪かも?」「鬱に突入?」
「何か悩みがあったかな?」「生理前?」
「さっき言われたことがイヤなのかな?」
「疲れてきたのかしら?」「寒いのか?」
バス停にて
フォーカスした身体外部の情報をたくさん摂取する【視覚】
親しい顔はパーツの寄せ集め親しい人の顔になるほどよく見ているので情報が増えて細分化が進み、パーツの寄せ集めになる。
「目の下にくまができている」「髪の流れが違う」などパーツの変化には敏感だが
「太った」「やせた」など全体の変化には鈍感。
たまに全体像を引きで見ると急に「誰!」と不安になる。
フォーカスした身体外部の情報をたくさん摂取する【聴覚】
♪ ♪
♪
♪
フォーカスした身体外部の情報をたくさん摂取する【味覚】
このカレールーに含まれる舌がヒリヒリする辛さとは異
なった、もわっとした鼻への刺激は何のスパイスでしょうか。
刺激を色に例えれば黒なんですけれど。
黙って喰え
部分に注目する特性:「同じ」を「違う」と感じるすれ違い
全体
対象物
対象物
対象物
対象物
フォーカスした情報をたくさん摂取する
=差異に気付きやすい
シソ科オドリコソウ属
ラン科:ネジバナ
ヒメオドリコソウ
ホトケノザ
タデ科:イヌダテ
マメ科:カラスノエンドウ
【紫の雑草】
全体
対象物
特徴
特徴
特徴特徴
特徴対象物
特徴
特徴
特徴特徴
特徴
対象物
特徴
特徴
特徴特徴
特徴
対象物
特徴
特徴
特徴特徴
特徴
部分に注目する特性:「違う」を「同じ」と感じるすれ違い
individuals
私にはこんな風にちらついて見えます
なぜか?
差異への気付きやすさ≒似ているものの見つけやすさ
ceo
ceoceoe
ec
c ecコミックサンズはふぞろい =読みやすい
Comic sans MS
Times New Roman Arial
差異への気付きやすさ似ているものの見つけやすさ≒
差異への気付きやすさ似ているものの見つけやすさ≒
人の顔のパーツ同士を比べて「 Aさんと Bさんは似ている」と言うので他者に共感されない。
≒
≒
≒
≒
イラスト:わたなべふみ
他者と共有されないわからないことだらけの世界
社会性以前の知覚運動特性
・近年、「心の理論」説に対する代案として「社会的認知の相互作用説 [interaction theory]」が提案されている。相互作用説によると、他者理解のための基本的能力とは、理論的あるいはシミュレーション的な推論能力ではなく、他者と相互作用を行うための感覚運動的/身体的な実践的能力である(Miyahara, in press)。・自閉症児は参照的語彙学習(他者の言語実践を参照して語彙を学習すること)を苦手とするが、それは顔への注目や視線追従ができないからではなく、むしろ視線の先の目的物に注目できないからである( Akechi, 2011)。Miyahara, Katsunori. (in press) Neo-pragmatic Intentionality and Enactive Perception: A Compromise between Extended and Enactive Minds. Phenomenology and the Cognitive Sciences. Akechi, H et al. (2011). Do children with ASD use referential gaze to learn the name of an object: an eye-tracking study. Research in Autism Spectrum Disorders 5 (3), pp. 1230-1242.
社会性のレベルこれまで重点的に
研究されてきた
知覚運動レベル当事者の内部観測が
必要不可欠
トマセロの usage-based model
まとめあげ困難説の作業仮説 少
数派独自の共同注意フレー
ム立ち上げによって、改善し
うる可能性 →
当事者研究