熊本県立大 2012.5.09 現代生活と環境問題werl/pdf/gendai_kankyo/2012... · 1...

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1 熊本県立大 2012.5.09 現代生活と環境問題 第四回 化石燃料の枯渇と環境破壊 環境共生学部 教授 篠原亮太 【資源の分類】 (1)自然資源:水、大気、植物、動物、海洋生物、土壌、太陽光、風力、波、地熱 (2)鉱物資源:化石燃料(石油、石炭、天然ガス)、ウラン等の放射性物質など (3)廃棄物資源:一般廃棄物資源(あきカン、あきビン、廃プラスチック、古紙、 その他)、産業廃棄物資源(廃自動車、廃家電、廃建材、廃 OA 機器、廃食品、その 他) ◎人類は現在エネルギーの 8 割を化石燃料に頼り、植物が 4 億年かけて太陽エ ネルギーを利用して作ったものを僅か数百年で消費しつくそうとしている。 【エネルギー資源の現状と将来】 図1 エネルギー資源の寿命(2005 年現在)

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熊本県立大 2012.5.09

現代生活と環境問題 第四回 化石燃料の枯渇と環境破壊

環境共生学部

教授 篠原亮太

【資源の分類】

(1)自然資源:水、大気、植物、動物、海洋生物、土壌、太陽光、風力、波、地熱

(2)鉱物資源:化石燃料(石油、石炭、天然ガス)、ウラン等の放射性物質など

(3)廃棄物資源:一般廃棄物資源(あきカン、あきビン、廃プラスチック、古紙、

その他)、産業廃棄物資源(廃自動車、廃家電、廃建材、廃 OA 機器、廃食品、その

他)

◎人類は現在エネルギーの 8 割を化石燃料に頼り、植物が 4 億年かけて太陽エ

ネルギーを利用して作ったものを僅か数百年で消費しつくそうとしている。

【エネルギー資源の現状と将来】

図 1 エネルギー資源の寿命(2005 年現在)

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*ロシアの天然ガス埋蔵量は世界最大、1993 年で 48 兆 1600 億㎥、世界の 1/3、米国

の 10 倍に相当する。

◎資源の寿命:石油と天然ガスは 50 年前後、ウランは 85 年、石炭が 147 年

●この寿命とは、調査時点の価格で経済的に採掘できる量を調査時点の年間消費量

で割ったもので、価格が上がれば採掘できる量も増えるが、開発途上国を中心に消費

も増えるので、寿命は延びない可能性もある。

3

【1人当たりの一次エネルギー消費】

◎1993 年、世界のエネルギー需要は石油換算で 80 億トン。(開発途上国が 26%)

◎開発途上国では人口当たりのエネルギー消費は少ないが、消費の伸び率と人口増加

率とが高いため、今後は需要が大幅に増加すると推測

◎世界のエネルギー需要は、2010 年には石油換算で 120 億トンに近づき、開発途上国

のシェアがその 39%に達すると予想

表 1 主要国の1次エネルギー消費(石油換算 100 万 ton, 1993 年)と年

間1人当たりのエネルギー消費(石油換算 ton)

*火力発電によるものは含まず。水力、原子力などのよるもの

【鉱物資源とエネルギー】

◎1次エネルギー:化石燃料、水力、地熱、風力、太陽エネルギーなど、自然界で直

接得られるエネルギー資源

◎2次エネルギー:1次エネルギーから変換された電力、燃料ガス、ガソリン、灯油

など

・ガソリンや重油等の石油系燃料の発熱量は約 10,000kcal/kg

・石炭の発熱量は 5,000̃7,000kcal/kg 程度であり、木材の発熱量は石炭の半分以

・石炭で石油系燃料と同じ発熱量を得るためには、1.4̃2.0 倍の使用量が必要

223

0.250.14

0.600.38

3.362.66

3.802.66

4.054.22

4.863.99

7.575.91

54150 11 8

709

117562 16 14

417

204 85 53 75

219

77153196

328

123 98 65 42

717

162159352 44

1953

767451534201

ton/人 (1993年)ton/人 (1980年)

合計

石油石炭ガス電力*

インド中国日本フランスドイツロシア米国

4

表 2 燃料の発熱量

3.9̃4.0

0.6̃0.9

1.7̃1.8

23,850

13,000

5,000̃7,000

~10,000

水素

天然ガス

石炭

石油

H/C(水素/炭素原子比)発熱量(kcal/kg)燃料

【一次エネルギー供給量の変化】

◎全世界において1次エネルギーに占める石油のシェア

・1970 年には 47.9%、1980 年には 46.3%と微減、1991 年には 39.4%まで低下し、

全供給量は 1.6 倍へと増加、石油消費の絶対量は 1.3 倍程度の増加

◎天然ガスのシェアは同時期に 18.4%から 21.6%へと増大、絶対消費量は 1.88 倍

◎ 石炭のシェアは 1970 年の 30.9%から 10 年間で 29.3%に低下、1991 年のシェアは

29.4% 絶対消費量では 1.52 倍も増加

表 3 日本及び世界における1次エネルギー構成

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【化石燃料と酸素の燃焼によって発生する二酸化炭素】

6CO2 + 12H2O + 光(熱)エネルギー ⇄ C6H12O6 + 6O2 + 6H2O

6 mol 688 kcal 1 mol 6 mol

(264 g) (180 g) (192 g)

◎地球誕生 46 億年前

⇩�生命の誕生 38 億年前

⇩�海水中で生命活動は 4億年前まで続く

⇩�二酸化炭素が石灰岩として固定(石油、石炭埋蔵量の 9000 倍)

⇩�植物プランクトン酸素を放出

⇩�オゾン層の生成⇨�生物が陸上へ

●セメント製造は大量の二酸化炭素放出源

【生物圏の二酸化炭素】

◎大気における酸素の回転率 0.00022/年

◎大気における酸素の滞留時間 4500 年

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すべての石炭、石油(推定 1000 億トン・C)を燃焼すれば二酸化炭素は 2700 億ト

⇩�現在 358ppm の二酸化炭素が 5000ppm(14 倍)に増加

【ヒトの営みが二酸化炭素の収支を変える】

◎現在二酸化炭素は 7500 億トン(358ppm)

◎613 億トン・C(陸上生態

系における光合成)-600 億

トン・C(呼吸によって放出)

=13 億トン・Cが貯留

◎920 億トン・C(海洋生態

系における光合成)-900 億

トン・C(呼吸によって放出)

=20 億トン・Cが貯留

図 2 地球規模の炭

素収支(億トン・C/年)

◎人間活動による化石燃料の燃焼やセメント工業によって 55 億トン・Cが放出

【炭素の収支は黒字か赤字か】

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◆地球上の森林の年間消失面積は 1540 万 ha (約 30ha/分)

○モンスーン・アジアの総面積 17 億 6000 万 ha (13.4%/世界)

○モンスーン・アジアの森林面積 4 億 6900 万 ha (11.5%)

○モンスーン・アジアの森林生態系年間炭素貯留量 2.6 億トン・C (18.4%)

○モンスーン・アジアの年間二酸化炭素の放出量 0.8 億トン・C (16.4%)

★ 貯留-放出=1.8 億トン・C(14%)⇒森林は炭素吸収機能として働いている。

しかし、人間活動(主に工業活動)による炭素放出量が大きいので、この地域の

炭素収支は-11.3 億トン・C(放出)で世界の 24%

○ 日本の森林面積は 2470万 ha→国土の約 66%を占める。 ○ この森林で年間9080万トンの二酸化炭素を吸収→工業活動による二酸化炭素放出量 11億 4000万トンの 8%としか吸収できていない。

【割り箸問題を考える】 ○ 箸は、紀元前に伝来した。古事記に記載されている。箸を初めて食事に使用し

たのは聖徳太子と言われている。一般的に使用され始めたのは、7世紀の初めである

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○ 割り箸のルーツは、18世紀、江戸時代にそば屋などで使用した酒樽の端材から作られたことに始まる。

○ 一膳を割って使う「割り箸」は、19世紀の終わり(大正時代)に奈良県の教師である島本忠雄氏によって開発された。

○ 北海道で工場生産が成功し、20世紀初頭には「衛生箸」として全国に普及した。 <割り箸問題の変遷> ○ 割り箸の原料は、カバ、エゾマツ、アスペン、シラカバなどの北方材である。 ○ 1990年の生産量は 1960年の 6倍であり、1990年以降、ファーストフードの拡大とともに廉価の中国製が急増した。

○ 中国からの輸入によって、結果的に国産が大打撃を被った。 ○ 現在国内消費量は、年間 250億膳(一人当たり 200膳)である。 ○ 現在、国内消費の 94%は輸入品である。 ○ 一方。中国国内では、低品質あるいは余剰の割り箸を使用してきたため、割り箸文化が中国に定着した。

○ そのため、森林破壊が止まらず、中国の林業はあと 3,4年で崩壊すると懸念されている。

割り箸問題は、日常生活の問題に見えるが、実は地球規模の問題として考える必要

がある。 <対策> 1. 割り箸使用を止める。 2. 割り箸の代替品を探す。 3. 使用済み割り箸のリサイクルをする。 4. 割り箸輸入を止めて、国産を推進する。 環境問題は変化する(進化する)。