インドネシアの都市圏概要¼ˆ )や金本・徳岡(2002) などを参照。(4)...

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東方孝之編『インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析』調査研究報告書 アジア経済研究所 2018年 第1章 インドネシアの都市圏概要 * (中間報告) 東方 孝之 橋口 善浩 要約: 本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の 中間報告である。この章では 2010 年人口センサスおよび 2011 年行政村センサス Podes)の情報を用いて、インドネシアの都市圏の特徴をまとめている。まず、イ ンドネシア統計庁(BPS)の定義による都市データと、本研究会で用いている人口集 積に注目した都市圏データとの差異を確認した上で、都市圏がジャワ島に集中してい ることや、他方で、ジャワ島外の都市圏は数、規模ともに小さくなるものの、平均教 育年数でみるならばジャワ島の都市圏を上回る傾向がある、といった特徴を紹介す る。また、日本や米国との比較からは、三大都市圏への人口集中という日本と共通し た傾向が見いだされるものの、人口規模と順位の関係(Zipf’s Law)の比較からは、 日本や米国とは異なり、大規模な都市圏への人口集積が過大となっている可能性を指 摘する。次に、人口集積の負の側面を探るべく、2011 年行政村センサスの情報と組 み合わせて、過去 1 年間の環境汚染(水質汚染ならびに大気汚染)の状況を確認した 上で、最後にこの中間報告書全体の内容を紹介する。 キーワード:都市圏、インドネシア、人口規模、順位、人口集積、環境汚染 * 本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告書である。ま た、本研究の一部は科研費 25871152(代表:東方孝之)の助成を受けている。 アジア経済研究所 (IDE-JETRO): [email protected] アジア経済研究所 (IDE-JETRO): [email protected] 1

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東方孝之編『インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析』調査研究報告書 アジア経済研究所 2018年

第1章

インドネシアの都市圏概要 ∗

(中間報告)

東方 孝之 † 橋口 善浩 ‡

� �要約:

本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の

中間報告である。この章では 2010 年人口センサスおよび 2011 年行政村センサス

(Podes)の情報を用いて、インドネシアの都市圏の特徴をまとめている。まず、イ

ンドネシア統計庁(BPS)の定義による都市データと、本研究会で用いている人口集

積に注目した都市圏データとの差異を確認した上で、都市圏がジャワ島に集中してい

ることや、他方で、ジャワ島外の都市圏は数、規模ともに小さくなるものの、平均教

育年数でみるならばジャワ島の都市圏を上回る傾向がある、といった特徴を紹介す

る。また、日本や米国との比較からは、三大都市圏への人口集中という日本と共通し

た傾向が見いだされるものの、人口規模と順位の関係(Zipf’s Law)の比較からは、

日本や米国とは異なり、大規模な都市圏への人口集積が過大となっている可能性を指

摘する。次に、人口集積の負の側面を探るべく、2011年行政村センサスの情報と組

み合わせて、過去 1年間の環境汚染(水質汚染ならびに大気汚染)の状況を確認した

上で、最後にこの中間報告書全体の内容を紹介する。

キーワード:都市圏、インドネシア、人口規模、順位、人口集積、環境汚染� �

∗ 本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告書である。また、本研究の一部は科研費 25871152(代表:東方孝之)の助成を受けている。

† アジア経済研究所 (IDE-JETRO): [email protected]‡ アジア経済研究所 (IDE-JETRO): [email protected]

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はじめに

都市化を通じた貧困削減について検討している World Bank and IMF (2013) のよう

に、途上国において都市化が急速に進んでいることを反映して、その影響を探る分析が

増えている(1)。ただし、都市の定義は国ごとに大きく異なっていることから、国際間での

比較が困難な状態にある(2)。特に、途上国では人口の集積に関する情報が不足しているた

め、日本や欧米諸国を対象にこれまで精力的に重ねられてきた分析、例えば人口の集積

(都市圏)の情報を用いた集積の(不)経済の影響の分析にまでほとんど手がつけられて

いないのが現状であろう。

本研究会の目的の一つはこうしたギャップを埋めることにある。この研究会では、

OECD (2012) の定義をベースに構築されたインドネシア都市圏パネルデータを用いて、

途上国での都市化がもたらす影響についての分析を進めている。

今回の中間報告では、この研究会で利用している都市圏データについての情報を整理

し、インドネシアにおける都市化についての理解を深めるとともに、現在進行中の分析内

容について部分的に紹介する。ただし、都市圏データについても改善の余地があることか

ら、この中間報告で紹介する分析結果についても、今後のより詳細な分析を重ねるなか

で、その内容に変化が生じる可能性のあることをここで断っておきたい。

本稿の構成は次の通りである。第 1 節では、本研究会で利用したインドネシア都市圏

データの定義を説明した上で、政府統計に基づく都市データとの違いを確認する。第 2

節ではインドネシアの都市圏の特徴について、その成長や、就業者の従事していた産業・

教育水準、そして環境面などについてまとめる。そして最後に中間報告書所収の各章の内

容を簡単に紹介して締めくくりとする。

第 1節 インドネシアの都市と都市圏

最初に、本研究会で用いている都市圏データについて説明する。本研究会で分析に

利用している都市圏データは、先進国の都市圏(3) と比較しうるようにするため OECD

(1) Journal of Urban Economicsの 2017年 3月号(第 98巻)は Urbanization in Developing Countries: Pastand Presentという特集を組んでいる。

(2) 国際比較の試みの一例として、衛星写真などを利用して夜間に確認される光の情報をもとに都市圏を推測している Demographia World Urban Areas (http://www.demographia.com/db-worldua-index.htm)がある。

(3) 日本で分析に利用されている代表的な都市圏データは都市雇用圏(UEA:Urban Employment Area)であり、次のようにデータが作成されている。まず、国勢調査の調査区を基準に、4000 人/km2 以上の地区が隣接しており、隣接する地区全体で人口が 5000 人以上の地区を人口集中地区(DID:Densely Inhabited District)として中心都市を設定する。次に、中心都市への通勤率が 10 %以

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(2012) が提案した定義を参照して、次のように構築されたものである。インドネシア統

計庁(BPS)が作成した地図情報(Peta Digital 2012)ならびに人口センサスの個票デー

タをもとに、(1) 行政村(Desa/Kelurahan)の人口密度が 1500 人/km2 以上で、かつ、

(2) その基準を満たした行政村が隣接する地域の総人口が 10 万人を超える場合に、都市

圏とみなしている。また、都市圏は、総人口が 150 万人以上の場合に巨大都市圏(Large

Metropolitan Areas)、50万人以上 150万人未満を大都市圏(Metropolitan Areas)、20

万人以上 50 万人未満を中規模都市圏(Medium-sized Urban Areas)、10 万人以上 30

万人未満を小規模都市圏(Small Urban Areas)と区分している。

2000 年人口センサスおよび 1999 年行政村センサス(Podes)を用いて作成した 2000

年都市圏データによれば、2000 年時点では 7 巨大都市圏、16 大都市圏、23 中規模都市

圏、そして 30小規模都市圏の合計 76都市圏を確認できる。これが、2010年になると、9

巨大都市圏、17大都市圏、25中規模都市圏、34小規模都市圏の合計 85都市圏に増加し

ている。2000年には都市圏人口は 6350万人(総人口比 31.6%)だったが、2010年には

8260万人(同 35.6%)と 1900万人以上の増加となっている(4)。

都市圏データとの違いを確認するため、次に、インドネシア統計庁(BPS)による都市

の定義をみておこう。インドネシア統計庁は、行政村ごとに都市化指数(最大値 26)を計

算し、指数の値が 10ポイント以上となった場合にその行政村を「都市(perkotaan)」、そ

うでない場合に「農村(pe(r)desaan)」と区分している。ポイントは、(1)人口密度(500

人/km2 で最小値の 1ポイント、8500人/km2 で最大値の 8ポイント)、(2)農業従事世

帯割合(70%以上で最小値の 1ポイント、5%未満で最大値の 8ポイント)、(3)公共施

設(幼稚園や中学校、高校、病院や市場)などへのアクセスのしやすさ(最小値 0、最大

値 10)、にもとづいて配分されている(5)。こうして推計された都市人口割合は 2010年に

はほぼ 5割に到達していたとみられる。

上の市町村を郊外都市とみなし、この中心都市と郊外都市から構成される都市圏を都市雇用圏(UEA:Urban Employment Area)としている(中心都市の DID 人口が 5 万人以上なら大都市雇用圏、1 5 万人なら小都市雇用圏と呼ばれている)。日本の都市圏については総務省統計局の解説(http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/users/kubun.htm#pos4)や金本・徳岡 (2002)などを参照。

(4) 都市圏データについての詳細は Hashiguchi and Higashikata (2017)や Higashikata and Hashiguchi(2017)を参照のこと。なお、第2章では隣接ではなく、行政村の重心からの距離を使って都市圏の範囲を確定するという方法も試みた上で、分析結果に大きな違いが生じているかどうかについても確認している。

(5) この定義が用いられるようになったのは管見の限りでは 2000年の人口センサスからである(BPS 2001)。それ以前には、たとえば 1990年代半ばには、次のような 3つのカテゴリーに分けてスコアを計算して都市ないしは農村の判別をしている。(1)人口密度は 500人/km2 未満で 1ポイント、5000人/km2 以上で10ポイントと 10段階で評価し、(2)農業従事世帯は 96%以上で 1ポイント、25%以下で 10ポイント、そして、(3)都市施設は、まったく存在しない場合に最小値の 2ポイント、8種類以上存在する場合に最大値の 10ポイント、が割り振られる。この合計値が 16ポイント以下の場合にはその行政村は農村、23ポイント以上の場合には都市、17ポイントから 22ポイントの間におさまった場合には発展の程度を確認したうえで判別する(BPS 2000)。

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上記の統計庁と同じ定義を用いて都市人口割合の変化を分析した橋口・東方 (2016)は、

2002年から 2011年にかけての行政村パネルデータを用いて、都市化指数が平均して 1.31

ポイント増加していること、また、その内訳は、農業従事世帯割合の減少(0.69ポイント)

と公共施設などへのアクセスの改善(0.55ポイント)でほぼ説明されるとしている。

ここで 2010 年の都市圏データと統計庁による都市データとを地図上で見比べてみよ

う。図 1 が都市圏を、図 2 が都市に区分された行政村をそれぞれ示している。図 1から

は、都市圏がジャワ島に集中していること、それに対してジャワ島外では位置すら確認す

ることが難しいことが分かる(ジャワ島外の都市圏の位置については第 2節で紹介する)。

一方、図 2では、やはりジャワ島に多くの都市を確認できるが、ジャワ島外にも多く存在

することが分かる。また、都市圏と同じ場所に都市に区分された行政村が集まっているこ

とも確認できるが、他方で、飛び地のように散らばっている地域も多い。

以上、この節では都市と都市圏との違いについて確認してきたが、次節では都市圏の特

徴に焦点をあててもう少し詳しくみてみることにしよう。

第 2節 都市圏の特徴

1 ジャワ島に集中する都市圏

図 1から明らかなように、ジャワ島に都市圏が集中していることから、本節ではまず、

ジャワ島に注目して都市圏の特徴をみていくことにしよう。ジャワ島およびバリ、西ヌ

サ・トゥンガラの一部を含む範囲を拡大したものが図 3 である(都市圏の名前は、その所

在地の主要行政区域名をもとに暫定的に付けたものである)。2010年時点で 51都市圏と

全体の 6割にあたる都市圏がジャワ島に存在している。

表 1はジャワ島内の都市圏の特徴をみるべく、都市圏内の所在地(州)、人口、人口成

長率、就業者の平均教育年数、産業別就業者割合をまとめて、人口規模の大きい順に並べ

たものである。表からは、Jabodetabek都市圏(ジャカルタ首都圏)の人口規模ならびに

人口成長率の大きさが際立っていることが分かる。年率 2.5%という人口成長率は一国の

平均成長率である 1.5%を 1%ポイント上回っている。人口規模ではジャカルタ首都圏の

3割未満しかないものの、Bandung都市圏や Surabaya都市圏の人口は 500万人を超え

ており、島内では 4番目(インドネシア全体では 5番目)に大きい Yogyakarta都市圏の

人口を大きく上回っている。

ここで日本や米国の都市圏の分布と比較してみよう。米国の都市雇用圏情報によれば、

500 万人以上の都市圏が 9 か所、300 万人以上では 17 か所も存在する(6) これと比べて、

(6) アメリカ合衆国国勢調査局(United States Census Bureau)の 2010 年人口センサス(https://www2.census.gov/programs-surveys/decennial/tables/cph/cph-t /cph-t-2 /cph-t-2.xls)を参照。

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日本では 500万人以上の都市圏は東京、大阪、名古屋=小牧の 3都市圏しかなく、名古屋

に続く都市の規模が小さい(4番目は人口 256万人の京都)という特徴が指摘されている

(金本・藤原 2016)。都市圏の定義が異なる点に注意しなければならないが、インドネシ

ア(総人口は日本の 2倍、米国の半分程度である)においても、500万人以上の人口が集

中している都市圏は 3か所にとどまっており、米国よりも日本に類似している点は興味深

い(300万人以上でもMedanを含む 4か所)。ただし、日本では三大都市圏に日本の総人

口の 4割が集中しているのに対して、インドネシアでは 17%にとどまっている。

もう少し詳細に都市圏の人口規模について確認してみよう。図 4 は都市圏の人口規模

と順位の関係についてプロットしたものである。参考までに日本の 2010年の都市圏デー

タも加えているが、傾き(絶対値)を比較するとインドネシアの方が大きく、また、1を

上回っていることが分かる(7)。この単純な比較からは、もし傾きが1であることが効率的

に人口が配分されていることを意味するのであれば、インドネシアでは大きな都市圏への

人口の集中が過大となっている可能性を指摘できよう。

次に、人的資本の集積を調べてみよう。図 5 はジャワ島を事例に、行政村別に就業者

の平均教育水準を算出したものである。都市圏と重なるように色が濃くなっていることか

ら、都市圏には周辺よりも教育水準の高い、高校卒業程度の就業者が集まっている様子

が確認できる。また、表 1 からは、人口規模でみて最大のジャカルタ首都圏在住の就業

者の平均教育年数は 10.4年と、他の都市圏と比べて特にその教育年数が抜きん出て高く

なっているわけではないことが分かる(ただし、ジャワ島内の都市圏のみをサンプルに用

いた場合、人口規模と就業者の平均教育年数との間に正の相関関係を確認できる)。なお、

ジャカルタ首都特別州内に限定した場合でも、その就業者の平均教育年数は 10.8年と大

きく違いはない。後述するように、就業者の平均教育年数は、ジャワ島外の多くの都市圏

でジャカルタ首都圏値よりも高くなっていることを考えると、ジャカルタ首都圏では人的

資本の集積が進んでいないように見える点が興味深い。

最後に産業別就業者割合をみると、ジャワ島内の都市圏では第 2次産業従事者の割合が

相対的に高くなっている。インドネシア全体では第 1次産業従事者が 40.8%、第 2次産

業が 17.4%、そして第 3次産業が 41.8%を占めている。また、製造業では 10.7%となっ

ている。この全国平均値と比較すると、ジャワ島の都市圏では、たとえば人口規模でみて

上位 10番目までの都市圏の平均値は 28.7%、20番目までだと 28.1%と、3割近くが第

2次産業従事者で占められている。製造業部門に限定した場合には、上位 10番目までの

平均値は 21%、20番目まででは 20%とその割合は全国平均のほぼ倍となっている。そ

して、次項でみるように、ジャワ島外の都市圏では第 2次産業従事者の割合が低く、製造

(7) 都市の人口規模と順位の関係(Zipf’s Law)については、ベキ乗則に従う場合には傾きが1になることを導出した Krugman (1996)や、44か国のデータをもとに傾きを推計した Rosen and Resnick (1980)、Soo (2005)などを参照のこと。

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業従事者割合も多くが一桁台にとどまっていることと比較すると、ジャワ島の都市圏の第

2次産業および製造業従事者割合が相対的に高くなっていることを確認できよう。

2 ジャワ島外の都市圏

表 2はジャワ島外の都市圏の特徴を確認するため、基本的に島ごとに人口規模の大きい

都市圏から順番に並べたものである(図 1ではジャワ島外の都市圏の位置が分かりにくい

ため、本項ではスマトラ島、カリマンタン島、スラウェシ島の都市圏のみ図を拡大して位

置を表示する。)。

まず、表からは、ジャワ島外では都市圏は基本的に州都に存在していること、ただし、

中カリマンタン州と西スラウェシ州、西パプア州、パプア州には都市圏が存在していない

ことが分かる。島ごとにもう少し詳しくみていくと、スマトラ島にはジャワ島外の全都市

圏の半分にあたる 17の都市圏を確認できる(図 6)。そのうち 5都市圏は北スマトラ州に

あるが、その 1つに、人口規模でみるならばジャワ島外では最大で、かつ、ジャワ島外唯

一の巨大都市圏(Large Metropolitan Areas)でもあるMedan都市圏が含まれている。

インドネシアの都市圏全体のなかでも、Medan都市圏は Surabaya都市圏に次いで 4番

目に大きい。

次に、カリマンタン島に目を転じると、その 5 つの都市圏は海岸近くに存在している

(図 7)。そのうち Tarakan、Samarinda、Balikpapanの 3都市圏は石炭や原油・ガスと

いった天然資源の豊富な東カリマンタン州の都市圏である(8)。全都市圏を対象に、鉱業部

門従事者の割合が高いところから順番に並べると、上位には Balikpapan(従事者割合 7.8

%)、Samarinda(同 5.5%)、Pangkal Pinang(同 4.0%)、Tarakan(同 3.1%)と続

くが、東カリマンタンの 3都市圏がランクインしている。

最後に、スラウェシ島であるが、島内には、西スラウェシ州を除いて、すべての州に一

つずつ都市圏が存在している(図 8)。スラウェシ島の都市圏の大きな特徴は、Gorontalo

都市圏以外は、平均教育年数が 11年前後ときわめて高い水準にあり、また、第 3次産業

従事者割合も 8割以上となっている点であろう。このスラウェシ島で観察される特徴、す

なわち、就業者の平均教育年数の高さと、第 3次産業従事者の割合の高さは、ジャワ島外

の都市圏全般に認められる特徴でもある。表 2と表 1を比較すると、ジャワ島外の都市圏

では、就業者の平均教育年数は多くが 10年を超えており、全般的にジャワ島内の都市圏

よりも高くなっている。ジャカルタ首都圏の就業者の平均教育年数は 10.4年とジャワ島

の中では最も高いが、ジャワ島外では 9都市圏を除く全ての都市圏の教育年数はその水準

を上回っている。そして、就業者の従事する産業をジャワ島内の場合と比較すると、第 3

(8) ただし、州の分立が 2012年に法律で認められたことにより、Tarakanは現在、新設された北カリマンタン州に属している。

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次産業の占める割合が 7割から 8割程度と相対的に高くなっている(9)。

以上からは、ジャワ島外の都市圏は人口規模では見劣りするものの、人的資本(教育水

準)については、ジャワ島よりもむしろ集積が進んでいるという傾向が確認できる。この

集積の経済の影響については、その一端を第 3章で紹介する。

3 環境汚染

最後に、これまでみてきた都市圏データと 2011年の行政村センサス(Podes)データ

とを組み合わせて、都市圏における環境汚染(集積の不経済)を簡単に探ることにしたい。

Podesには「過去 1年間に環境汚染があったか」という質問項目が含まれている。その

回答をもとに、まず、大気汚染が報告された行政村と都市圏とを重ね合わせたものが図 9

である。大気汚染を報告した行政村の重心に赤くマークが入っているが、ジャワ島に集中

している様子を確認できる。2011年の調査時には全行政村のうち 9%に大気汚染の報告

があったが、都市圏に含まれる行政村に限定するならば、17.1%と倍近くになっている。

一方、水質汚染について同様に確認したものが、図 10 である。大気汚染とは異なり、

カリマンタンやスマトラの内陸でも多くの水質汚染が報告されている点が興味深い。水質

汚染は全行政村の 10.5%が報告しているが、都市圏に限定するならば 17.7%となってお

り、やはり都市圏内では汚染を報告している行政村の多いことが分かる。

では、環境汚染の原因は何だろうか。Podesには環境汚染の原因についての質問項目も

あるが、そこでは家庭からの排出物か、工場からか、もしくはその他か、という 3つの選

択肢が用意されている。その回答を確認すると、インドネシア全体では、大気汚染の原因

は「その他」が 62.4%を占めて最大となっており、次いで、30.8%が工場廃棄物、そし

て家庭廃棄物が 6.8%となっている。都市圏に限定した場合は、「その他」が 49.5%を占

めて最大に、そして工場廃棄物が 44.3%、家庭廃棄物が 6.2%と続くように、傾向として

は同じだが、工場廃棄物の占める割合が高くなっている。次いで、水質汚染についてその

原因を確認すると、「その他」が 37.2%、家庭廃棄物が 33.6%、工場廃棄物が 29.2%と

いう順番で並んでいる。これが、都市圏内の行政村では、工場廃棄物が 48.6%を占めて

最大に、次いで、家庭廃棄物が 31.9%、残りが「その他」となっている。

ここでの簡単な分析からは、インドネシアにおいても都市圏での環境汚染というかたち

で集積の不経済が確認されること、また、その原因としては、「その他」に含まれている

項目が分からないため詳細な分析は難しいが(たとえば森林火災による煙害なども含まれ

ていることが予想される)、工場廃棄物が大気汚染・水質汚染の原因の半分近くを占めて

(9) より詳細にみていくと、たとえば、情報・通信産業部門従事者のシェアを都市圏間で比較した場合には、上位には Balikpapan、Manado、Makassar、Jabodetabek、Pekanbaru、Kendariが並ぶが、Jabodetabek以外はすべてジャワ島外で、かつ、スラウェシの 3つの都市圏が含まれている。

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いること、そして水質汚染には家庭からの廃棄物も 3割と大きな割合を占めていることが

確認できる。なお、都市圏での環境汚染に関しては、第 2章で CO2 排出量に注目してよ

り詳細な分析を行っている。

おわりに:中間報告書の内容について

本章では、2010年人口センサスならびに 2011年行政村センサスを利用して、インドネ

シアの都市圏の特徴をまとめた。第 2 章以降では本章で紹介した都市圏データを活用し

て、以下に紹介するようなトピックについて、より詳細な分析を試みている。

前節では、行政村単位の情報をもとに都市圏の水質や大気の汚染状況を確認したが、第

2章では環境汚染と都市化の関係について、二酸化炭素排出量と都市圏情報とを組み合わ

せた分析を試みている。また、分析の際には、都市圏の定義に変更を加えた場合、分析結

果に大きな違いが生じるかどうかも確認している。これまでの暫定的な分析結果によれ

ば、規模の経済によりもたらされるエネルギーの効率的な利用(コンパクトシティ理論)

は確認されず、むしろ、都市圏の拡大が都市人口一人当たりの CO2 排出量を増大させる

傾向にあったことが示唆される。

第 3章では人的資本の外部効果ならびに移住者(都市圏への転入者)の特徴を分析して

いる。本章で紹介した各都市圏の平均教育年数の情報と賃金情報とをマッチングさせて地

域横断的に分析し、高卒以上の就業者割合が高い都市圏ほど中卒の就業者であっても賃金

が高くなっている様子を紹介している。また、都市圏への人的資本の集積過程を探るべ

く、都市圏への移住者の教育水準や移動距離、そして無業求職率に注目して、2000年時

点の都市圏の特徴との相関関係をまとめている。

第 4章では、インフラ整備を担当する地方自治体の特徴に注目した分析を行っている。

本章でも紹介したように、インドネシア統計庁の定義に従った場合には、公共施設などへ

のアクセスが容易になったことにより、都市化(都市人口割合の増加)が進んできた。イ

ンドネシアでは 1998年にそれまで開発独裁体制を敷いていたスハルト政権が崩壊し、急

速に民主化が進んだが、その民主化の一環として地方分権制度が急遽導入された。第 4章

では、この地方分権の導入を外生的なイベントとみなして、初期時点の地方自治体の特徴

(民族多様性)に注目した分析を試みている。暫定的な分析結果から、地方分権導入前に

民族多様性が高かった地域ほど、その後、地方分権化後には道路の質で測った公共財の供

給水準が低くなっていた可能性を指摘する。

最後に、本章を含めてこの中間報告書で紹介されている内容は、二年研究会の暫定的な

分析結果をもとにしたものである。ベースとなっている都市圏データについても逐次改善

していく予定であるため、今回の報告内容については今後の厳密な分析次第では結果に違

いが生じることもあることを、念のためあらためて断っておきたい。

8

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9

Page 10: インドネシアの都市圏概要¼ˆ )や金本・徳岡(2002) などを参照。(4) 都市圏データについての詳細はHashiguchi and Higashikata (2017) やHigashikata

図1インドネシアの都市圏(

2010年)

出所)筆者作成。

注)都市圏の定義については本文参照のこと。

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Page 11: インドネシアの都市圏概要¼ˆ )や金本・徳岡(2002) などを参照。(4) 都市圏データについての詳細はHashiguchi and Higashikata (2017) やHigashikata

図2インドネシアの都市部(

2010年)

出所)筆者作成。

注)ここでの都市とは、

2010年人口センサスにおいて都市と識別されていた行政村である。インドネシア統計庁(

BPS)による都市の定義は本文参照のこと。

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図3ジャワ島の都市圏(

2010年、バリおよび西ヌサ・トゥンガラの一部を含む)

出所)筆者作成。

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図 4 インドネシアの都市圏の人口規模と順位の関係(2010年)

出所)筆者作成。注)実線はインドネシアをサンプルに用いた場合の近似曲線、破線は日本のケース。単回帰の係数の下にある角括弧内の数値は標準誤差を示す。日本の都市圏データ(2010年)は東京大学空間情報科学研究センターから入手(http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/UEA/)。

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図5ジャワ島の行政村別平均教育水準(

2010年、バリおよび西ヌサ・トゥンガラの一部を含む)

出所)筆者作成。

注)

2010年人口センサスをもとに就業者の行政村別平均教育水準を計算した。サンプルサイズが

20以上の行政村のみを用いている。

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図 6 スマトラ島の都市圏(2010年)

出所)筆者作成。

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図 7 カリマンタン島の都市圏(2010年)

出所)筆者作成。

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図 8 スラウェシ島の都市圏(2010年)

出所)筆者作成。

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図9インドネシアの大気汚染(

2011年)

出所)筆者作成。

注)大気汚染の情報は

2011年の行政村センサス(

Pode

s)を利用。「過去

1年間に大気汚染があった」との回答があった行政村に印がついている。都市圏は

2010年

時点。

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図10

インドネシアの水質汚染(

2011年)

出所)筆者作成。

注)水質汚染の情報は

2011年の行政村センサス(

Pode

s)を利用。「過去

1年間に水質汚染があった」との回答があった行政村に印がついている。都市圏は

2010年

時点。

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表 1 ジャワ島の都市圏(2010年)

     都市圏名         州    人口 人口成長率 平均教育年数 第 1次産業  第 2次産業  第 3次産業

(万人) (%) (年) (%)  (%)     製造業 (%)

Jabodetabek ジャカルタ首都特別州, 西ジャワ州 2652.9 2.53 10.4 3.2 29.7 23.0 67.1

Bandung 西ジャワ州 730.9 1.80 9.7 8.2 32.1 24.9 59.7

Surabaya 東ジャワ州 637.4 1.08 10.1 6.5 32.0 25.4 61.5

Yogyakarta ジョグジャカルタ特別州, 中ジャワ州 245.4 1.06 9.7 14.6 22.4 14.4 63.0

Cirebon 西ジャワ州 203.8 0.67 7.5 16.6 27.3 15.9 56.1

Semarang 中ジャワ州 174.5 1.21 10.2 4.9 27.9 20.8 67.2

Solo 中ジャワ州 167.1 0.82 9.6 10.3 33.8 26.1 55.9

Malang 東ジャワ州 155.4 1.04 9.6 9.1 26.2 16.7 64.6

Tegal 中ジャワ州 149.1 0.19 6.9 27.6 19.0 12.6 53.4

Pekalongan 中ジャワ州 148.8 0.42 7.3 16.4 36.8 30.5 46.8

Tasikmalaya 西ジャワ州 130.9 1.34 8.3 15.6 28.2 20.7 56.2

Jepara 中ジャワ州 115.7 1.21 8.3 8.5 52.7 43.7 38.8

Banyumas 中ジャワ州 96.3 0.95 8.1 16.4 26.1 16.7 57.6

Cianjur 西ジャワ州 75.8 1.23 8.0 25.0 17.4 7.8 57.6

Sukabumi 西ジャワ州 75.5 1.15 8.8 13.1 27.6 18.5 59.4

Kota Kediri 東ジャワ州 53.2 0.62 9.3 14.3 28.0 19.2 57.7

Kuningan 西ジャワ州 44.7 0.58 8.4 21.0 14.2 5.6 64.7

Pasuruan 東ジャワ州 43.8 0.76 7.5 20.2 28.5 20.8 51.3

Kendal 中ジャワ州 39.5 0.47 7.7 32.4 20.5 14.4 47.1

Tulungagung 東ジャワ州 39.3 0.52 8.6 19.2 30.8 22.6 50.1

Kota Probolinggo 東ジャワ州 34.5 1.04 7.9 21.8 19.8 12.9 58.4

Jember 東ジャワ州 34.0 1.09 8.8 14.6 12.6 7.0 72.8

Cilegon バンテン州 29.0 2.02 10.0 5.5 35.8 24.8 58.8

Magelang Tengah 中ジャワ州 28.4 0.51 9.7 9.2 20.4 13.5 70.4

Madiun 東ジャワ州 27.6 0.37 10.0 11.3 15.7 7.7 73.0

Purwakarta 西ジャワ州 27.2 2.49 10.3 5.8 43.4 32.9 50.8

Cilacap 中ジャワ州 25.5 0.44 8.9 18.2 25.9 7.1 55.9

Blitar 東ジャワ州 25.1 0.70 9.0 20.5 19.6 10.0 59.9

Ketanggungan 中ジャワ州 24.0 0.04 5.5 39.5 10.8 4.0 49.7

Kebumen 中ジャワ州 19.5 0.26 8.4 16.0 30.6 22.6 53.4

Wonosobo 中ジャワ州 18.5 0.44 7.3 22.0 18.1 8.3 59.9

Nganjuk 東ジャワ州 17.8 0.58 8.6 26.1 15.6 8.3 58.3

Salatiga 中ジャワ州 17.7 0.82 9.9 6.9 25.6 17.5 67.4

Sumedang 西ジャワ州 17.0 1.25 9.5 11.8 20.2 8.2 68.0

Cipanas 西ジャワ州 16.3 1.38 7.7 27.6 16.1 4.1 56.3

Majalengka 西ジャワ州 16.3 0.63 7.6 15.3 36.7 28.2 48.0

Pandeglang バンテン州 15.0 1.82 8.7 18.2 16.2 9.1 65.6

Banjarnegara 中ジャワ州 14.9 0.27 6.9 33.0 26.3 17.0 40.7

Muntilan 中ジャワ州 14.4 0.79 8.0 25.9 17.0 9.0 57.1

Tuban 東ジャワ州 14.3 0.95 8.6 20.4 17.6 7.6 62.0

Lumajang 東ジャワ州 13.5 0.53 8.8 16.8 14.8 6.9 68.4

Pamekasan 東ジャワ州 13.4 1.27 9.0 21.2 14.1 6.6 64.7

Banyuwangi 東ジャワ州 13.0 0.39 9.1 9.8 18.1 7.9 72.2

Indramayu 西ジャワ州 12.9 0.56 7.4 28.6 12.2 4.9 59.2

Probolinggo 東ジャワ州 12.8 0.65 6.9 36.4 14.8 4.9 48.8

Demak 中ジャワ州 12.2 0.68 8.0 24.3 21.9 12.5 53.8

Bondowoso 東ジャワ州 11.9 0.52 8.0 24.4 11.7 4.2 63.9

Lebak バンテン州 11.3 2.50 9.6 7.5 18.1 8.0 74.4

Ponorogo 東ジャワ州 11.3 0.55 9.8 11.8 13.6 4.5 74.6

Kediri 東ジャワ州 11.1 0.46 8.7 25.8 15.8 9.7 58.5

Bumiayu 中ジャワ州 10.0 0.10 7.7 26.8 14.7 7.6 58.5

出所)筆者計算。注)人口成長率は、2010年時点の都市圏の地理的範囲を基準に、2000年から 2010年にかけての 10年間の人口の変化の指数平均を計算したもの。平均教育年数は、都市圏ごとに 15歳以上の就業者の教育年数の平均値を計算している。

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表 2 ジャワ島外の都市圏(2010年)

     都市圏名         州    人口 人口成長率 平均教育年数 第 1次産業  第 2次産業  第 3次産業

(万人) (%) (年) (%)  (%)     製造業 (%)

スマトラ Medan 北スマトラ州 305.9 1.27 10.9 5.9 22.1 11.5 72.1

  Palembang 南スマトラ州 134.7 -0.16 10.6 3.3 20.2 4.9 76.5

  Bandar Lampung ランプン州 85.1 1.60 10.6 4.6 16.9 5.7 78.5

  Pekanbaru リアウ州 72.4 3.70 11.4 3.5 15.1 3.6 81.5

  Padang 西スマトラ州 65.6 1.06 11.4 4.6 15.2 3.8 80.2

  Jambi ジャンビ州 43.4 1.76 10.8 5.0 19.1 4.8 75.9

  Batam リアウ群島州 41.6 4.86 11.1 1.0 39.0 27.8 60.0

  Banda Aceh アチェ州 26.9 3.27 12.3 2.9 14.1 2.9 83.0

  Bengkulu ベンクル州 22.1 -0.22 11.4 6.9 12.1 2.7 80.9

  Pematang Siantar 北スマトラ州 21.9 -0.45 11.0 5.6 16.8 9.5 77.6

  Tebing Tinggi 北スマトラ州 14.1 1.28 10.2 6.8 17.7 9.7 75.5

  Pangkal Pinang バンカ・ブリトゥン群島州 14.0 2.50 10.4 3.7 20.4 3.3 76.0

  Bukittinggi 西スマトラ州 13.4 1.44 10.6 5.8 18.2 12.8 76.0

  Tanjung Balai 北スマトラ州 13.2 0.95 9.1 25.8 8.3 4.2 65.9

  Dumai リアウ州 12.8 2.57 10.6 2.4 16.6 7.4 80.9

 Metro ランプン州 11.4 2.04 10.6 12.5 13.3 4.1 74.2

  Padangsidimpuan 北スマトラ州 10.4 0.19 10.9 10.6 8.6 1.9 80.8

バリ、ヌサ・トゥンガラ  Denpasar バリ州 125.5 3.79 10.6 4.5 21.0 12.4 74.5

 Mataram 西ヌサ・トゥンガラ州 87.1 2.00 7.6 21.0 16.4 6.1 62.6

  Lombok Timur 西ヌサ・トゥンガラ州 64.2 1.21 6.4 42.7 16.2 9.8 41.1

  Kupang 東ヌサ・トゥンガラ州 29.3 3.19 11.0 5.6 11.7 1.9 82.7

  Buleleng バリ州 11.9 1.54 9.2 9.5 15.9 5.5 74.5

カリマンタン  Banjarmasin 南カリマンタン州 59.7 1.52 9.8 2.4 17.6 7.8 79.9

  Samarinda 東カリマンタン州 46.9 2.16 10.5 4.2 21.5 4.5 74.3

  Balikpapan 東カリマンタン州 46.3 2.63 10.8 2.0 23.0 3.3 75.0

  Pontianak 西カリマンタン州 45.9 1.28 10.3 5.1 16.8 4.2 78.1

  Tarakan 東カリマンタン州 12.8 3.75 9.7 21.2 18.6 6.5 60.2

スラウェシ Makassar 南スラウェシ州 145.0 1.99 10.9 2.2 17.5 5.0 80.2

 Manado 北スラウェシ州 32.9 0.22 10.9 2.6 13.7 2.2 83.7

  Palu 中スラウェシ州 24.5 1.93 11.3 3.2 14.4 3.1 82.5

  Gorontalo ゴロンタロ州 22.2 2.67 9.2 7.5 13.9 5.5 78.6

  Kendari 東南スラウェシ州 12.7 3.56 11.9 1.7 10.1 2.4 88.2

マルク  Ambon マルク州 19.4 5.77 11.6 3.1 9.3 1.5 87.5

  Ternate 北マルク州 13.7 1.32 11.5 3.0 11.9 2.6 85.1

出所)筆者計算。注)人口成長率は、2010年時点の都市圏の地理的範囲を基準に、2000年から 2010年にかけての 10年間の人口の変化の指数平均を計算したもの。平均教育年数は、都市圏ごとに 15歳以上の就業者の教育年数の平均値を計算している。

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東方孝之編『インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析』調査研究報告書 アジア経済研究所 2018年

第 2 章インドネシアの都市化と温室効果ガス *

(中間報告)

橋口 善浩 † 東方 孝之 ‡

� �要約:

本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間

報告書である。本研究会は,インドネシアの最小の行政単位であるDesa/Kelurahan

(以下,行政村と呼ぶ)レベルの人口と面積データを用いて,都市の地理的な範囲,

位置およびその強度を数値化・可視化するとともに,都市の拡大が企業の生産性,農

村家計の所得,環境問題等に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。本

稿はその中間報告として,行政村レベルの CO2排出量データベースの構築作業の成

果および都市化と環境負荷問題に関する暫定的な分析結果を報告する。今回の分析

結果に従えば,都市の拡大は都市人口一人当たりの CO2排出量を増大させる傾向に

あった。

キーワード:都市圏,City Clustering Algorithm, CO2排出量,小地域データ,GIS� �はじめに

都市化は温室効果ガス(二酸化炭素,CO2)の排出量削減に寄与しているのか。この問

題に対してコンパクトシティ理論に従えば,都市化の進展により規模の経済が働き(たと

えば,一人当たりのガソリンスタンドの数,電線の長さ,道路の面積などが減少),それ

によりエネルギーの利用効率は高まる(一人当たり CO2排出量は減少する)と考えられ

* 本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告書である。また、本研究の一部は科研費 25871152(代表:東方孝之)の助成を受けている。

† アジア経済研究所 (IDE-JETRO): [email protected]‡ アジア経済研究所 (IDE-JETRO): [email protected]

22

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ている。コンパクトシティが注目されている理由はそこにある。しかし,一方で都市の高

密度化は深刻な交通渋滞を招き,それがコンパクトシティの経済効果を打ち消すほどの環

境負荷を与える可能性もある。また,豊かな都市に住む人はより資源インテンシブな消費

パターンをとる傾向にあるとすれば,そのような都市住民の消費行動も都市の CO2排出

量の増加に寄与すると考えられる(1)。

都市化が CO2 排出量に与える影響については,1990 年代初頭から現在に至るまで多

数の実証研究が蓄積されている。その多くは国別パネルデータを使って都市人口比率と

CO2排出量の関係を計量経済学的に分析したものである。分析結果はやや混在している

ものの,概して言えば,都市人口比率の増加は CO2 排出量を増やすという結果が多い。

一方,都市レベルのデータを使った研究では逆の結果を示すものもあり,使用するデータ

の種類や推定方法などによって結果が変わる可能性を示唆している。

既存研究の一つの問題は,都市の定義が各国ごとに異なるため国際比較が難しい都市

人口のデータを使用していること,そして,(そのことが理由でもあるが)都市の定義変

更が分析結果に及ぼす影響を分析していない点にある。この点について,Oliveira et al

(2014) は国家統計の都市の定義に依らず,City Clustering Algorithm を使って都市の

境界を定義している。彼らが採用した方法は,緯度 0.1度×経度 0.1度のグリッドセル単

位の人口データを使用して,(1)一定の人口密度を越えるグリッドセルを抽出し,(2)そ

のグリッドセルの中で地理的に近接するものを一つの都市クラスターと定義するもので

ある。小地域データから都市圏を算出するこの方法はボトムアップアプローチと呼ばれ,

OECD (2012) も同様の方法を採用している。しかし,OECD (2012) の場合,ステップ

(2)で地理的近接性からクラスターを検出した後,さらにステップ(3)として,そのク

ラスターが一定の人口規模以上の場合に,都市と定義する方法を採用している。

Oliveira et al (2014)はアメリカのデータを用いて都市部における CO2 総排出量と人

口の関係を分析するとともに,都市の定義変更に対する分析結果の頑健性を確認してい

る。具体的には,次の式

log CO2i = α + β log POPi + εi (1)

を推定し,パラメータ βが 1を超えるかどうかの分析をしている。CO2i と POPi は都市

i の CO2排出量と人口,εi は誤差項である。推定の結果,βは 1.38程度であり,都市部

における 1%の人口増加は 1.38%の CO2排出量の増加をもたらすことを明らかにした。

また,都市の定義を変えても結果は大きく変わらないことも確認している。

この中間報告書では,OECD (2012)と Oliveira et al (2014)を参考に,ボトムアップ

型の方法でインドネシアの都市圏を算出し,都市の拡大が CO2排出量に与える影響を分

(1) この分野の理論的なバックグランドや実証研究のサーベイについては,例えば,Martinez-Zarzoso andMaruotti (2011), Poumanyvong and Kaneko (2010),Sadorsky (2014)や Zang et al (2017)を参照。

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析する。具体的には,まず行政村レベルの人口データと地図情報を使って都市圏を算出

し,その上で都市の人口規模と CO2排出量の関係を (1)式を使って分析する。次節でイ

ンドネシアの都市圏と CO2排出量データベースの作成方法を説明した後,(1)式の推定結

果を報告する。

第 1節 インドネシアの都市圏と CO2排出量データ

使用するデータセットは 2つある。1つはインドネシアの都市圏データベースであり,

これは 2000 年・2010 年の人口センサス(Sensus Penduduk)と行政村レベルの地図情

報を用いて作成したものである。もう 1 つは FFDAS(Fossil Fuel Data Assimilation

System)で公開されているインドネシアの CO2排出量データである。以下,それぞれの

データについて説明する。

1 都市圏データ

OECD (2012) が提案した都市の定義を参考に,行政村レベルの人口と面積データを

使って次の手順でインドネシアの都市圏を算出した。

1. 行政村レベルの単位面積当たり人口(すなわち,人口密度)が一定値 (D∗) 以上の

行政村を抽出。

2. D∗ 以上の人口密度をもつ行政村で,一定の地理的範囲内 (l∗) で近接している行政

村の集合は一つのクラスター(塊)とみなし,そこに含まれる行政村の人口および

面積を集計する。

3. クラスター単位で集計された人口が 10万を越える場合,そのクラスターを 1つの

都市圏とみなす。

人口データは 2000 年と 2010 年の人口センサスを使用し,行政村の面積は 2012 年版デ

ジタル地図データベース (Peta Digital)を使って算出した(2)。表 1と表 2は上の方法で算

出された 2000 年と 2010 年の都市の数(Num),都市人口(Pop),都市面積(Area),

都市の CO2排出量(CO2)である。行政村別の CO2排出量データの計算方法について

は次節で説明する。都市の大きさは 2 つのパラメータ(D∗ と l∗)に依存するため,各

パラメータに複数の値を与えて,それぞれの都市圏を算出することを試みた。具体的に

は,D∗ ∈ {1000/km2, 1500/km2, 2500/km2, 3500/km2},l∗ ∈ {Adj,2km,3km,4km

,5km}と定義した。l∗ が距離(2km–5km)の場合,各行政村の中心点を結ぶ直線距離が

(2) いくつかの行政村で 2000年人口センサスデータが欠損しているため,その部分は 1999年の行政村センサス(Podes)のデータで補った。

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その距離以内であれば,それらを近接とみなすという定義である。l∗ = Adjの場合は直線

距離で近接関係を決めるのではなく,行政村が同じ境界線を共有している,すなわち,隣接

関係にあるときにそれらを近接とみなすという定義である。たとえば,D∗ = 1500/km2,

l∗ = 3km のとき,都市圏の数は 76,都市人口は総人口の約 32%,都市面積は総面積の

0.8%,都市 CO2排出量は 28%を占めている。

2 CO2排出量データ

前節の方法で定義された都市圏に対して CO2 排出量を算出するには行政村別の CO2

排出量データが必要であるが,現時点でそのようなデータベースは公開されていない。そ

こで本稿は FFDASが公開している CO2排出量のグリッドセルデータを使用し,それを

行政村レベルのデジタル地図データベース(Peta Digital)に統合することで,行政村別

の CO2排出量データベースを構築した。これにより CO2排出量の詳細な地理分布が把

握できるとともに,都市圏ごとの CO2排出量の計算も可能となる(3)。

表 3 と図 1 は FFDAS から取得したインドネシアの CO2 排出量と世界銀行のWorld

Development Indicators (WDI) のそれを比較したものである。二酸化炭素換算は CO2

排出量を二酸化炭素の重量で計測したものであり,炭素換算は炭素の重量で計測したもの

である(4)。一貫して FFDASの値は小さいものの,2007年まではWDIの数値とほぼ同様

のトレンドを描いている。しかし,2008年以降,両者は明らかに異なる動きを示してい

る。FFDASは CO2排出量の国家統計,リモートセンシングによる夜間光,人口,発電所

などのデータを用いてグリッドセル単位で CO2排出量を計測しているが,なぜ 2008年

以降にこのようなトレンドの違いが生じるのか。さらなる調査が必要である。

図 2と図 3は行政村レベルのデジタル地図で CO2排出量の分布を可視化したものであ

る。ジャワ島の CO2排出量は他と比較して突出しており,とくにジャカルタ周辺の濃度

は高い。他島でも州都などの都市部とみられる地域を中心に CO2 排出量は高い。また,

2000 年から 2010 年にかけて CO2 排出量の多い地域が全国レベルで拡大している。イ

ンドネシアにおける都市の拡大は CO2排出量の削減に寄与しているのか。次節では,行

政村レベルの都市人口および CO2排出量データを使って都市化と CO2排出量の関係を

示す。

(3) FFDASは,アリゾナ州立大学の Kevin Robert Gurneyと Salvi Asefi-Najafabady,メルボルン大学のPeter Rayner,そしてパデュー大学の Bedrich Benesが構築したデータベースであり,全世界の CO2排出量データが公開されている。データは緯度 0.1度 ×経度 0.1度のグリッドセル単位であり,1997年から 2011年まで利用可能である。詳細は AseïnA-Najafabady et al (2014) を参照。

(4) 二酸化炭素 CO2の分子量は 44であり,その内訳は炭素 Cが 12,酸素 Oが 16となっている。CO2とCの分子量の比は 44/12であるため,この比を炭素重量にかければ二酸化炭素換算の重量が得られる。

25

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第 2節 都市化と CO2排出量の関係:推定結果

図 4 と図 5 は (1) 式の β の 95% 区間推定値をプロットしたものである。2000 年と

2010年の 2つのクロスセクションデータに分けた上で,都市の定義パラメータ(D∗,l∗)

の値を変えながら最小二乗推定を行った。図の横軸は l∗,縦軸は βの 95%区間推定値で

あり,D∗ の値に応じて 4つのプロット図を示している。一部で信頼区間に 1を含むとこ

ろもあるが,概ね β の推定値は統計的有意に 1 を越えている。図中の赤のラインは,各

ボックス内にプロットされている 10個の上限・下限推定値(◦)の平均を表している。赤のラインは,2000年・2010年の両方で人口密度の閾値 D∗ が高くになるにつれて緩やか

に上昇する傾向があり,これは高密度の都市ほど都市人口当たりの CO2排出量が高い可

能性を示唆している。この暫定的な分析結果に従えば,インドネシアにおける都市化はエ

ネルギー利用の効率化に寄与しているとは言えず,むしろ大都市ほど資源を浪費し,温室

効果ガスを過剰に排出している可能性がある。

おわりに

本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間

報告として,インドネシアの行政村レベルの CO2排出量データベースの構築作業および

都市化と環境問題に関する暫定的な分析結果を報告した。今回の分析結果に従えば,イン

ドネシアの都市化は必ずしも CO2排出量の削減に寄与しているとは言えず,都市の拡大

は都市人口一人当たりの CO2排出量を増大させる傾向にあった。しかし,これはあくま

で暫定的な結果であり,本稿で紹介したデータベースや計量分析の手法には解決すべき課

題が残されている。今後はデータベースを拡充させることで,より精緻に都市化が環境に

与える影響とそのメカニズムを明らかにしたい。

引用文献

Asefi-Najafabady, S., P. J. Rayner, K. R. Gurney, A. McRobert, Y. Song, K. Coltin,

J. Huang, C. Elvidge, and K. Baugh (2014) A multiyear, global gridded fossil

fuel CO2 emission data product: Evaluation and analysis of results. Journal of

Geophysical Research: Atmoshpheres, 119: 10213-10231.

Martinez-Zarzoso, I. and A. Maruotti (2011) The impact of urbanization on CO2

emissions: Evidence from developing countries. Ecological Economics, 70: 1344-

1353.

26

Page 27: インドネシアの都市圏概要¼ˆ )や金本・徳岡(2002) などを参照。(4) 都市圏データについての詳細はHashiguchi and Higashikata (2017) やHigashikata

OECD (2012) Redefining “Urban”: A new way to measure metropolitan areas. OECD

Publishing , Paris.

Oliveira, E. A., J. S. Andrade Jr. and H. A. Makse (2014) Large cities are less green.

Scientific Reports, 4, Article number: 4235.

Poumanyvong, P. and S. Kaneko (2010) Does urbanization lead to less energy use

and lower CO2 emissions? Econlogical Economics, 70: 434-444.

Sadorsky, P. (2014) The effect of urbanization on CO2 emissions in emerging

economies. Energy Economics, 41: 147-153.

Zang, N., K. Yu and Z. Chen (2017) How does urbanization affect carbon dioxide

emissions? A cross-country panel data analysis. Energy Policy, 107: 678-687.

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図 1 CO2排出量の比較

(出所)筆者作成。(注)年間 CO2排出量について,FFDAS(Fossil Fuel Data Assimilation System)とWorld DevelopmentIndicators の値を比較。単位は二酸化炭素換算(1000kg CO2/year)。

28

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図2

2000年の

CO

2排出量

(出所)筆者作成。(注)

CO

2排出量データは

FFD

AS(

Foss

ilFu

elD

ata

Ass

imila

tion

Syst

em)データベースから取得

(ht

tp:/

/hpc

g.pu

rdue

.edu

/FFD

AS/

map

.php)。単位は,炭素換算された1平方メートル当たりの年間

CO

2排出量である。

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図3

2010年の

CO

2排出量

(出所)筆者作成。(注)

CO

2排出量データは

FFD

AS(

Foss

ilFu

elD

ata

Ass

imila

tion

Syst

em)データベースから取得

(ht

tp:/

/hpc

g.pu

rdue

.edu

/FFD

AS/

map

.php)。単位は,炭素換算された1平方メートル当たりの年間

CO

2排出量である。

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図 4 CO2排出量の都市人口弾力性(β):2000年

(出所)筆者作成。(注)◦ は β の信頼区間推定値の上限値と下限値を表す。赤の点線は各ボックス内にプロットされた信頼区間推定値の平均である。

31

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図 5 CO2排出量の都市人口弾力性(β):2010年

(出所)筆者作成。(注)◦ は β の信頼区間推定値の上限値と下限値を表す。赤の点線は各ボックス内にプロットされた信頼区間推定値の平均である。

32

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表 1 都市圏の数,人口,面積および CO2排出量 (2000年)

D∗ (Persons per km2) Share of total (%)

l∗ 1000 1500 2500 3500 1000 1500 2500 3500

Num

Adj 74 74 63 502km 94 81 69 543km 76 76 65 534km 62 76 59 515km 59 68 56 51

Pop

Adj 86,973,332 62,872,128 45,421,663 37,431,948 43.73 31.61 22.84 18.822km 71,969,729 56,712,466 42,454,510 35,881,963 36.19 28.52 21.35 18.043km 87,260,819 64,376,385 46,389,877 38,507,957 43.88 32.37 23.33 19.364km 91,211,918 67,562,946 47,471,478 39,131,325 45.86 33.97 23.87 19.685km 93,325,015 68,991,066 48,121,024 39,584,981 46.92 34.69 24.20 19.90

Area

Adj 31,567 14,535 6,506 4,101 1.721 0.792 0.355 0.2242km 21,984 11,863 5,733 3,827 1.198 0.647 0.312 0.2093km 31,633 15,126 6,752 4,302 1.724 0.824 0.368 0.2344km 34,239 16,537 7,067 4,436 1.866 0.901 0.385 0.2425km 35,635 17,202 7,232 4,521 1.942 0.938 0.394 0.246

CO2

Adj 22,784,396 16,725,192 12,555,401 10,668,598 38.27 28.09 21.09 17.922km 18,600,500 14,796,286 11,745,268 10,281,165 31.24 24.85 19.73 17.273km 22,694,265 16,834,001 12,661,652 10,822,708 38.12 28.28 21.27 18.184km 23,390,389 17,324,608 12,782,703 10,893,911 39.29 29.10 21.47 18.305km 23,636,956 17,476,455 12,832,452 10,922,553 39.70 29.36 21.56 18.35

(出所)筆者作成。(注)Num,Pop,Area,CO2はそれぞれ都市圏の数,人口,面積,CO2排出量を示す。D∗

は人口密度の閾値(D∗ ∈ {1000, 1500, 2500, 3500}),l∗ は地理的なクラスターを検出するため閾値である(l∗ ∈{Adj, 2km, 3km, 4km, 5km})。たとえば,l∗ = 2kmであれば,人口密度が D∗ 以上の行政村 iと jが半径 2km以内に存在すれば,それらを一つのクラスターと定義する。Adj は距離ではなく,行政村の境界線を互いに共有する場合にクラスターと定義する方法である。シェアは国全体の総和に対する割合を示している。

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表 2 都市圏の数,人口,面積および CO2排出量 (2010年)

D∗ (Persons per km2) Share of total (%)

l∗ 1000 1500 2500 3500 1000 1500 2500 3500

Num

Adj 87 86 75 612km 104 98 81 663km 85 90 77 634km 73 83 72 615km 70 73 68 58

Pop

Adj 108,009,820 82,591,607 61,519,444 51,713,857 46.48 35.54 26.48 22.262km 86,710,156 71,625,046 55,534,143 47,464,761 37.32 30.83 23.90 20.433km 107,494,519 83,877,002 62,855,417 52,388,462 46.26 36.10 27.05 22.554km 112,380,331 87,279,395 64,705,876 53,381,403 48.36 37.56 27.85 22.975km 114,329,647 88,874,665 65,476,045 53,744,081 49.20 38.25 28.18 23.13

Area

Adj 36,539 18,646 8,993 6,009 1.992 1.016 0.490 0.3282km 24,504 14,487 7,519 5,234 1.336 0.790 0.410 0.2853km 36,215 19,172 9,321 6,135 1.974 1.045 0.508 0.3344km 39,266 20,669 9,841 6,346 2.14 1.127 0.536 0.3465km 40,515 21,395 10,048 6,418 2.208 1.166 0.548 0.350

CO2

Adj 35,348,484 27,957,571 21,764,649 19,065,284 43.48 34.39 26.77 23.452km 28,622,197 23,742,109 19,916,795 17,861,636 35.21 29.20 24.50 21.973km 35,156,644 27,958,274 21,906,196 19,145,307 43.24 34.39 26.95 23.554km 36,213,936 28,747,922 22,152,947 19,277,673 44.54 35.36 27.25 23.715km 36,534,569 28,937,613 22,220,536 19,314,659 44.94 35.59 27.33 23.76

(出所)筆者作成。(注)Num,Pop,Area,CO2 はそれぞれ都市圏の数,人口,面積,CO2 排出量を示す。D∗

は人口密度の閾値(D∗ ∈ {1000, 1500, 2500, 3500}),l∗ は地理的なクラスターを検出するため閾値である(l∗ ∈{Adj, 2km, 3km, 4km, 5km})。たとえば,l∗ = 2km であれば,人口密度が D∗ 以上の行政村 i と j が半径 2km 以内に存在すれば,それらを一つのクラスターと定義する。Adjは距離ではなく,行政村の境界線を互いに共有する場合にクラスターと定義する方法である。シェアは国全体の総和に対する割合を示している。

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表 3 CO2排出量の比較

炭素換算 (FFDAS)1)

(1000kg C/year)二酸化炭素換算 (FFDAS)1)

(1000kg CO2/year)二酸化炭素換算 (WDI)2)

(1000kg CO2/year)

1997 55,462,933 203,364,087 278,658,9971998 49,294,084 180,744,973 214,200,4711999 58,833,748 215,723,743 241,988,9972000 59,533,691 218,290,200 263,418,9452001 61,782,406 226,535,487 294,907,4742002 63,837,461 234,070,691 306,737,2162003 70,631,759 258,983,118 316,792,1302004 75,700,476 277,568,412 337,635,3582005 76,524,454 280,589,665 341,991,7542006 82,047,497 300,840,821 345,119,7052007 85,587,502 313,820,840 375,544,8042008 76,648,818 281,045,667 416,560,1992009 78,522,292 287,915,070 446,409,5792010 81,300,254 298,100,930 428,760,308

(出所)筆者作成。1) FFDAS (Fossil Fuel Data Assimilation System)2) WDI (World Development Indicators)

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東方孝之編『インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析』調査研究報告書 アジア経済研究所 2018年

第3章

人的資本の外部効果と移住者の特徴インドネシアの都市圏データを用いた分析 ∗

(中間報告)

東方 孝之 † 橋口 善浩 ‡

� �要約:

本章では、人口センサスおよび地図情報から構築したインドネシアの都市圏データ

を用いて、人的資本の外部効果を探るとともに、都市圏への移住者の特徴を整理す

る。まず、都市圏での人的資本の外部効果については、賃金情報を含む家計調査結果

(Susenas)と都市圏データとを組み合わせて分析したところ、高卒以上の学歴を有

する就業者の占める割合が高い都市圏ほど、中卒水準の就業者の賃金も高くなって

いるという相関関係が確認された。次に、2010年人口センサスを用いて、都市圏在

住者の居住地が地方自治体(kabupaten/kota)レベルでみて 5年前と異なる場合に移

住者(転入者)と定義してデータをまとめたところ、2000年時点で平均教育水準が

高かった都市圏ほど、10年後には転入者の都市圏人口に占める割合が大きくなって

おり、また、その平均教育年数・移動距離ともに大きく、さらに、(都市圏の労働者

全体に占める)無業求職率が高い、という正の相関関係が確認された。なお、本稿は

「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告

であり、本稿で紹介する分析結果は暫定的なものである。

キーワード:都市圏、集積効果、国内移動、教育、賃金、インドネシア� �∗ 本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告書である。また、本研究の一部は科研費 25871152(代表:東方孝之)の助成を受けている。

† アジア経済研究所 (IDE-JETRO): [email protected]‡ アジア経済研究所 (IDE-JETRO): [email protected]

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はじめに

本稿の目的は、第 1章で紹介したインドネシアの都市圏データを用いて、途上国におけ

る人的資本の外部効果や、都市圏への人的資本の集積過程などを分析する準備段階とし

て、情報を整理することにある。

第 1章では、行政村(desa/kelurahan)別に就業者の平均教育年数をみた場合には、都

市圏内では平均教育年数が高くなっていること、また、都市圏ごとに就業者の平均教育年

数を確認したところ、ジャワ島内よりもジャワ島外でむしろ平均的には教育年数が高く

なっている様子を確認した。本章ではまず、この都市圏への人的資本の集積に注目して、

外部効果が確認されるかどうかを分析する。

次に、都市圏への人的資本の集積過程を分析するために、2010年時点で都市圏に在住

していた移住者の特徴を調べている。人口センサスからは、県市(kabupaten/kota)地方

自治体レベルでの移住の選択行動や、移住者の教育年数などの情報が得られる。そこで本

章では、都市圏への移住者の移動距離や教育年数、また、(失業率の代わりとして)無業

求職率をまとめている。

本章の構成は次の通りである。まず、第 1節では人的資本の集積効果を探る。地域横断

的にみて、人的資本の高い就業者の占める割合が大きいほど、人的資本が低い就業者の賃

金水準も高くなっているという相関関係を確認する。次に、第 2節では都市圏に人的資本

が蓄積するメカニズムを調べるため、2010年時点の都市圏への移住者の特徴をまとめる。

最後に、本稿の暫定的な分析結果をまとめて締めくくりとする。

第 1節 人的資本の集積の外部効果

Moretti (2012:ch3) は大卒者の割合が多い都市ほど高卒者の平均年収が高いという関係

を米国の都市圏データをもとに紹介している(1)。そこでは、大卒者の割合が高い都市、例

えばスタンフォード(大卒者の割合は 56 %)の高卒者の平均年収は 10.7 万ドル(2008

年)、ワシントン DC圏(同 49%)では 6.7万ドルであること、そして、この年収は大卒

者の割合が 20%を下回っている都市在住の大卒者の平均年収を上回る金額であることも

示されている。

本節ではMoretti (2012) と同様な手法によって、インドネシアにおける人的資本の外

(1) 人的資本の外部効果(社会的交流を通じた知識や技術の共有)の理論的背景については Duranton andPuga (2004)や Acemoglu (1996)、企業レベルの生産性や労働者の賃金情報をもとに外部効果を実証した研究としては、Abel, Dey and Gabe (2012)やMoretti (2004)、Acemoglu and Angrist (2001) などがある。

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部効果の確認を試みる(2)。

1 データ

都市圏データについては、インドネシア統計庁(BPS)が収集した 2000年・2010年人

口センサスおよび地図情報(Peta Digital 2012)をもとに、行政村単位の人口密度を計算

した上で、人口密度が 1500人/km2 以上の行政村同士が隣接するひとかたまりの地域の

人口規模が 10万人以上となる場合に、その地域を都市圏とみなしている(3)。こうして構

築された都市圏データをもとに、各都市圏の居住者の教育水準を計算した。なお、インド

ネシアにおいて義務教育は 9年間(4)であり、労働力調査の対象者は 15歳以上となってい

ることから、本章でも 15歳以上の人口・就業者について、教育年数の平均値を計算して

いる(5)。

賃金情報は、本章では 2006年社会経済調査(Susenas)から入手している。行政村コー

ドをもとに都市圏データと社会経済調査とをマッチングしたところ、賃金情報(月額)を

含んでいるサンプルのサイズは 48,731となった。このサンプルをもとに都市圏ごとに賃

金の平均値を計算したが、今回は都市圏単位でみたときにサンプルサイズが 50以上の場

合に限定して分析に用いている。なお、社会経済調査では、本業(pekerjaan utama)から

の月給(手取り額)についてのみ質問している。そのため、インドネシアでは(公務員も

含めて)複数の仕事に従事しているケースが少なからずあることから、今回用いた賃金情

報は、実際に一か月に得ている個人所得と比べて過小となっている点に注意が必要であ

ろう。

(2) Hashiguchi and Higashikata (2017) はインドネシアの製造業企業パネルデータを用いて人的資本の外部効果を分析している。本章では Hashiguchi and Higashikata (2017)と部分的には同じデータを用いているが、分析を製造業に限定していないこと、また、賃金情報を大規模家計調査(Susenas)から集めている点などが異なる。

(3) 統計庁が定める都市・農村区分との違いや 2010年時点の都市圏のリストについては第 1章を参照のこと。(4) 1994年に中学校課程までが義務化された。(5) インドネシアの教育課程は、日本同様に 6 年の小学校課程(7 歳から 12 歳)、3 年の中学校課程(13歳から 15 歳)、3 年の高校課程(16 歳から 18 歳)を経て、高等教育に進む。高等教育は専門学校(Diploma/Akademi)、総合大学(Universitas)に分かれており、人口センサスでは課程ごとに修了したかどうかを尋ねているが、高等教育については一つの回答項目しか選ばれないようになっているため、次のように処理している。1年コース専門学校・2年コース専門学校(Diploma I/Diploma II)は一つの項目にまとめられているため、該当者の教育年数は便宜的に 13.5年と計算した。同様に、3年コース専門学校・アカデミ(Diploma III/Akademi)修了者の教育年数は 15年、4年コース専門学校および総合大学学部(Diploma IV/S1)修了者は 16年、修士・博士課程(S2/S3)は 18年で計算している。

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2 相関関係の確認

先行研究では、都市圏での就業者のうち大卒者の占める割合に注目しているが、インド

ネシアではまだ大卒者の占める割合が少ない。第 1章で確認したように、都市圏の平均教

育年数は基本的に 12年未満であることから、本章では、就業者に高卒者以上が占める割

合と、中卒者の賃金水準との関係について確認する。

図 1は、都市圏を単位として、2010年時点で高卒者・大卒者が就業者に占める割合と、

2006年の中卒就業者の平均賃金(名目値)との関係をプロットしたものである。図から

は、高卒以上の就業者が占める割合の高い都市圏ほど中学校卒業程度の就業者の平均賃金

が高くなっているという相関関係を確認できよう。ただし、この関係は高学歴就業者が多

い都市圏ほど物価が高いことを反映しているだけなのかもしれない。そこで、物価の違い

を調整(6)して両者の関係をみたものが図 2である。図 2を図 1と比較すると、平均賃金

を高卒以上の就業者割合に回帰させた近似曲線の傾きは小さくなっている(7)が、統計的に

は有意な関係を確認できる。

次に、人的資本の集積が高い地域の中卒者の賃金水準をみておこう。表 1 は、都市圏に

おいて高卒以上の学歴を有する就業者の占める割合の高さをもとに、順番をつけ、上位に

入る 5都市圏と下位に含まれる 5都市圏の特徴をまとめたものである。

上位 5都市圏の中卒者の名目賃金をみると、まず、最も水準の高い Batam都市圏に居

住する中卒者の賃金は、下位 5都市圏の高卒者の賃金水準を上回っていることが分かる。

Denpasar 都市圏の賃金は低いものの、それでも Tasikmalaya 都市圏の高卒者の賃金を

上回っており、また、Pekanbaruから Pematang Siantarの各都市圏の中卒者の賃金も、

下位に含まれる都市圏の高卒者の賃金と比較して遜色がないかもしくは上回る水準となっ

ている。次に、物価調整済みの賃金で確認すると、Batam都市圏の中卒者賃金が下位都市

圏の高卒者の賃金を上回っていることに変わりはない。また、Balikpapanと Pematang

Siantarの中卒者の賃金は、Tasikmalaya、Pekalongan、そして Tegalの高卒者賃金を上

回っていることが確認できる。

以上、インドネシアの都市圏の情報を用いて、人的資本の外部効果について探ってきた

が、本節での簡単な分析からは、人的資本の蓄積が高い都市圏では人的資本の低い労働者

(6) ここでは地域間の物価の違いを調整するにあたり、インドネシア統計庁が定期的に推計している県市別貧困線を用いている。インドネシアの貧困線は食料貧困線と非食料貧困線から構成されており、前者は地域ごとで 1 日に 2100 キロカロリー/人を消費するために必要な最低限の食料の組み合わせから、また、後者は衣服・家賃といった最低限の生活をするために必要な費用から推計されている(BPS 2015)。この生活する上で最低限必要な支出額が地域間の物価の違いを反映しているとみなして、ジャカルタ首都特別州の貧困線を基準に、都市圏別に購買力で測った賃金水準を計算している。なお、BPS (2007)によればジャカルタ首都特別州の当時の貧困線は一人当たり月額 29.5万ルピアであった。

(7) 傾きは 0.021から 0.014へと小さくなっている

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の生産性も高まっている可能性があることが示唆される。

第 2節 都市圏への移住者の特徴

前節では人的資本の外部効果を探るべく情報をまとめたが、本節では、都市圏への人的

資本の集積過程を確認するべく、都市圏への移住者の特徴を整理する(8)。

古典的な都市・農村間の労働移動のモデルからは、労働者は、都市・農村間の失業率と

賃金水準の違いを比較した上で、都市への移動を決定していると考えられる。賃金水準の

高い都市ほど人が集まりやすい一方で、失業率が高くなる傾向があるほか、さらに、移動

コスト(9) を考えるならば、期待賃金が高い都市にはより遠くの地域からも労働者の移動

がみられると予想される。

本節では、2010 年時点の都市圏在住者の情報をもとに、(過去 5 年以内に転入してき

た)移住者の教育水準、移動距離や転入先での失業の有無(無業求職者かどうか)につい

てまとめることにする。情報をまとめるにあたっては、事前の都市圏別賃金水準について

のデータを利用して移住者の特徴と関連付けて分析することが望ましいが、都市圏別の賃

金・所得情報を構築することが困難であること、また、仮に構築できたとしても、前節で

みたようにサンプルサイズが小さくなってしまうことが予想される。そのため、ここでは

移住前の都市圏の賃金水準を用いる代わりに、(賃金と高い相関関係のある)教育水準の

データを用いることにした。具体的には 2000年時点の都市圏別平均教育年数を用いて分

析している(ただし、都市圏の範囲は 2010年時点にあわせて固定している)。

1 データ

まず、都市圏への移住者については、2010年人口センサスにおける 5年前の居住地の

情報を用いて、その居住地が 2010 年時点の居住地と異なる場合に移住(転入)があっ

たとみなしている。ただし、5 年前の居住地については人口センサスからは県市自治体

(kabupaten/kota)水準でしか情報が得られないため、たとえば都市圏内での移動であっ

たとしても、それが県市の境をまたぐものであった場合には、ここでは転入があったとみ

なされている点に注意が必要である。逆に、実際には 5年の間に都市圏の外から中へと転

入があったとしても、県市レベルでは居住地に変化がなかった場合には、転入がなかった

(8) インドネシアの国内移動についてはMuhidin (2014)や Liu and Yamauchi (2014)、Farre and Fasani(2013) などがあるが、先行研究では基本的に行政区分間の移動の分析が中心となっている。なお、途上国での中規模都市への移住と貧困削減との関係に注目している点で本稿の関心に近い研究としては、Christiaensen, De Weerdt and Todo (2013) がある。

(9) 物理的な移動に要する費用に加えて、インフォーマルな相互扶助ネットワークから切り離されるコストも発生する(Munshi and Rosenzweig 2016)。

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とみなされることになる。

次に、転入者の移動距離であるが、2010年の調査時と 5年前とで居住している地域と

が異なっている場合にのみ、調査時に住んでいた行政村から 5年前に住んでいた県市の重

心地点までの直線距離を、経度緯度情報を用いて計算している(10)。そのため、実際の移動

距離を計算したものではないことに注意する必要がある。

第三に、移住前の都市圏の経済状況(賃金水準)の代理変数として、2000年人口センサ

スを用いて都市圏別に平均教育水準を計算している。第 1章同様、2000年から 2010年に

かけての都市圏の地理的拡大(ないしは縮小)の影響をコントロールすべく、地理的範囲

を 2010 年時点の都市圏の範囲に固定し、そのエリアに居住していた 15歳以上人口につ

いて教育水準の情報をまとめている(具体的な教育年数の計算方法は前節を参照のこと)。

なお、2000年の 15歳以上人口のインドネシア全体の平均教育年数は 6.6年であったが、

2010年には 7.8年と 1.2年の増加がみられる。

2 相関関係の確認

最初に、2000年時点の平均教育年数と、2010年の都市圏在住者に占める転入者の割合

との関係をみてみよう。

図 3によれば、2000年時点で居住者の平均教育年数が高かった都市圏ほど、2010年時

点での都市圏在住者に占める転入者の割合は大きくなっている。また、その傾向はジャワ

島外の都市圏で顕著に観察される。ジャワ島外では人口規模が小さいために転入者の割合

が大きく変化している可能性はあるものの、ジャワ島外の都市圏と人口規模でみて同程

度のジャワ島内の都市圏に注目するならば、その転入者割合は 5%以下に集中している。

よって、図は、かつて平均教育年数が高かった(そして賃金も平均的には高かったであろ

う)都市圏では、移住者の占める割合が高くなっていることを示していると考えられよう。

次に、転入者の特徴をみることにしたい。横軸は図 3から変更させずに、転入者の平均

教育年数との関係を都市圏ごとにプロットしたものが図 4である。図からは、都市圏への

転入者の平均教育年数はほぼ 9年以上 12年以内の範囲におさまっていること、また、移

住先である都市圏の 2000年時点の平均教育年数を上回っていることが確認できる。そし

て、傾きは緩やかながら、平均教育年数が高かった都市圏ほど、転入者の平均教育年数も

高いという相関関係があることが分かる。特にジャワ島外の都市圏へは、もともと平均教

育年数が高いところに、相対的に高い教育水準をそなえた人たちが移り住んでいる。ここ

からは、平均的にみて賃金水準が高かったと予想される都市圏ほど、より高い人的資本の

集積が進んでいる様子が確認できる。そしてこうした相対的に高い人的資本の集積が、人

(10) STATA(ver 15.1)上で geodistコマンドを用いて計算。

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的資本の低い労働者の生産性(賃金)も引き上げている可能性については前節でみたとお

りである。

では、都市圏への転入者はどこから来ているのだろうか。図 5は、2000年時点の平均教

育年数と移住者の移動距離との相関をみたものである。実線は全サンプルを用いた場合、

そして破線は右上にある 7都市圏を除いた場合の近似曲線であるが、統計的に有意な右上

がりの傾きを確認できる。つまり、図 4とあわせて考察するならば、平均賃金が高い都市

圏には、遠隔地から高い人的資本をそなえた移住者が転入してきていることが分かる。

ところで、移動距離(縦軸)は対数値でみているため、若干の補足を加えると、サンプ

ルの平均移動距離は 135kmから 952kmの間にある(11)。右上に飛び地のように集まって

いる 7つの都市圏の場合は、675kmから 952kmの範囲にある(12)。

興味深いのはジャカルタ首都圏(Jabodetabek)や Bandung、Surabayaの三大都市圏

への転入者の移動距離が近似曲線を下回っている点であろう。特に、全国平均値(1.49

%)を大きく上回る年率 2.5%という人口成長率が観察されたジャカルタ首都圏への転入

者の移動距離は平均して 251kmである。これは、西はスマトラ島南端のランプン州の中

ほど、東は中ジャワ州の西側(西ジャワ州との州境に近い Tegal都市圏周辺)の範囲に該

当するが、この範囲にジャカルタ首都圏への転入者のサンプルの 6割が含まれる。移動距

離を平均値+1標準偏差まで広げるとジャカルタ首都圏から半径 614km の円が描ける。

これは北西には Bengkulu都市圏(ベンクル州中部)、東へは Kediri都市圏(東ジャワ州

中部)あたりまでの範囲に該当するが、この一帯からの転入者が 9割を占める。インドネ

シアは東西の距離をはかると約 5000km と広いものの、ジャカルタ首都圏への転入者の

大部分はジャワ島の西側半分とスマトラ島の南端という狭い範囲からの移住者で構成され

ていることを確認できる。

最後に、失業率との関係について確認しておきたい。図 6 は都市圏別に無業求職率と

平均教育年数との関係をまとめたものである。ここで失業率ではなく無業求職率を用いて

いるのは次のような理由による。2010年人口センサスからは労働統計の定義に従った失

業率の計算ができない。インドネシアの労働統計で用いられている定義によれば、失業者

は、(1)求職者、(2)自営就業の準備中、(3)(雇用される見込みがないという悲観的理由に

よる)非求職者、(4)近い将来の就業予定がある者、から構成されている。これに対して、

(11) 参考までに、名古屋と静岡の直線距離が約 137km、東京と鹿児島の直線距離が約 960kmである。(12) この 7都市圏のうち、Tarakan、Samarinda、Balikpapanの 3都市圏は石炭や原油の産地である東カリマンタン州の都市圏である(州の分立を認める法律が 2012 年に成立したため、現在 Tarakan は北カリマンタン州に属している)。都市圏ごとに就業者の産業別シェアを計算すると、鉱業部門従事者の割合が高い都市圏は上から順番に、Balikpapan(7.8%)、Samarinda(5.5%)、Pangkal Pinang(4.0%)、Tarakan(3.1%)と続く(括弧内は鉱業部門従事者の占める割合)。Pangkal Pinangは錫の産地として知られるバンカ・ブリトゥン群島州の都市圏である。以上からは天然資源産出地の都市圏であることの特殊性が伺えるがこの点についての分析は今後の課題としておきたい。

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2010年人口センサスからは (3)や (4)についての適切な情報が得られないことから、失業

者に代わる情報として、(1)と (2)のみを用いた無業求職者が有業者との総和に占める割

合を計算した。そのため、人口センサスから計算された無業求職率は労働統計から得られ

る失業率と比較して過少となっている。なお、2010年 8月時点の調査によれば、失業者

(失業率は 7.1%)のうち、求職者が 77%と最も多く、次に非求職者(15%)が続いてい

る(BPS 2011)。

さて、図 6からは、傾きは緩やかではあるが、無業求職率と 10年前の平均教育年数の

高さとの間に正の相関関係を確認できる。ここからは、賃金水準が高かったとみられる都

市圏ほど労働者が多く移動したであろうこと(図 3)、ただし、それがゆえに失業率も高く

なっていたであろうことがうかがえる。なお、失業率に新規参入者と 5年以上前から居住

している労働者との間で違いがあったかどうかを確認したものが、図 7である。ここでは

2010年時点での転入者と非転入者との間で無業求職率を比較しているが、図からは、必

ずしも転入者のほうが無業求職率が高かったとは言えないだろう(むしろその割合は低い

可能性がある)。ただし、新規移住者ほど、失業といったショックを緩和することが困難

(例えばリスクをシェアできるコミュニティがない等)であれば、失業と同時に移住先で

ある都市圏から退出していることが予想される。

おわりに

本章では、都市圏の範囲を 2010年時点の都市圏の範囲に固定した上で、教育水準に注

目した簡単な分析結果を紹介した。

まず、賃金データを都市圏データと組み合わせて分析したところ、高卒以上の就業者の

占める割合が高い都市圏ほど、中卒就業者の賃金も高くなっているという相関関係が確認

された。ここからは、インドネシアにおいても人的資本の外部効果により、教育水準(人

的資本)が低い労働者の生産性も高まっている可能性が示唆される。

次に、人的資本の集積メカニズムを探るべく、都市圏への移住者の特徴を分析した。

2000年時点で都市圏の教育水準が高い地域ほど、2010年時点での転入者の割合は高く、

また、教育年数の高い人たちがより遠い地域から流入していた、という相関関係が確認さ

れた。また、無業求職率も高くなっていた。

以上、本章では都市圏の教育水準情報ならびに都市圏データと賃金情報とを組み合わせ

た情報をもとに、人的資本の外部効果や移住のメカニズムについて探ってきた。今後の課

題としては、これまでに整備したデータの改善を進めるとともに、因果関係を検証するこ

とが挙げられる。

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図 1 2006年の中卒就業者の平均賃金(名目値、対数値)

出所)筆者作成。注)円の大きさは都市圏人口に比例している。赤色はジャワ島外の都市圏。

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図 2 2006年の中卒就業者の平均賃金(物価調整済み、対数値)

出所)筆者作成。注)都市圏間の物価の違いは、ジャカルタ首都特別州の貧困線を基準に、2006年の県市別貧困線を用いて調整。円の大きさは都市圏人口に比例している。赤色はジャワ島外の都市圏。

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図 3 2010年時点の転入者の割合と 2000年時点の都市圏の平均教育年数

出所)筆者作成。注)円の大きさは都市圏人口に比例している。赤色はジャワ島外の都市圏。都市圏への転入者の定義は、2010年時点で都市圏に在住しており、かつ、その 5年前の県市水準でみた居住地が異なる場合。

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図 4 2010年時点の転入者の平均教育年数と 2000年時点の都市圏の平均教育年数

出所)筆者作成。注)円の大きさは都市圏人口に比例している。都市圏への転入者の定義は、2010年時点で都市圏に在住しており、かつ、その 5年前の県市水準でみた居住地が異なる場合。

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図 5 転入者の平均移動距離と 2000年時点の都市圏の平均教育年数

出所)筆者作成。注)実線は全都市圏をサンプルとした場合の、破線は右上の 7都市圏を除いた場合の近似曲線。

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図 6 2010年の無業求職率と 2000年時点の都市圏の平均教育年数

出所)筆者作成。

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図 7 無業求職率の転入者と非転入者の比較(2010年)

出所)筆者作成。注)実線は全サンプルを用いた場合、破線は Cilacap 都市圏を除いた場合の近似曲線。短い破線は 45 度線を表す。

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表 1 賃金水準(2006年)

順位 都市圏名 高卒以上の割合 名目値(万ルピア) 物価調整済み(万ルピア)

(%) 高卒者の賃金 中卒者の賃金 高卒者の賃金 中卒者の賃金

1 Batam 47.2 145.9 115.5 204.4 161.9

2 Denpasar 42.4 89.1 65.9 121.8 87.6

3 Pekanbaru 37.4 150.3 88.6 136.8 80.6

4 Balikpapan 36.4 187.8 89.9 248.5 119.0

5 Pematang Siantar 35.8 93.1 79.3 140.6 117.2

37 Pasuruan 17.8 91.8 57.7 132.5 83.7

38 Tasikmalaya 16.1 63.7 38.8 100.4 60.0

39 Cirebon 15.6 87.3 55.3 147.6 93.3

40 Pekalongan 14.7 73.4 53.0 116.0 87.2

41 Tegal 14.7 72.2 54.5 100.4 79.7

出所)筆者計算。注)都市圏間の物価の違いは、ジャカルタ首都特別州の貧困線を基準に、県市別貧困線を用いて調整している。

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東方孝之編『インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析』調査研究報告書 アジア経済研究所 2018年

第 4 章

インドネシアの都市化地方分権制度の影響 ∗

(中間報告)

東方 孝之 †

� �要約:

本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中

間報告である。この章では都市化におけるインフラ整備の重要性に鑑み、地方自治

体レベルでのインフラ整備に地方分権制度の導入が及ぼした影響についての暫定的

な分析結果を紹介する。アジア通貨危機発生後の 1998年、インドネシアでは 31年

続いた中央集権的な開発独裁政権が崩壊して民主化が進んだ。その民主化の一環と

して地方分権制度の導入も急遽決定され、2001 年に県市(kabupaten/kota)地方自

治体に大きな権限が委譲されたが、本章では、同制度が導入される前の地域ごとの民

族多様性の違いに注目し、この初期条件の違いが、地方分権制度の導入後に地域ごと

のインフラ整備状況に及ぼした影響を探っている。この中間報告では、地方自治体

レベルで、行政村(desa/kelurahan)の間をつなぐ主要道路がアスファルト舗装され

ている割合を計算し、1993年から 2011年にかけてのその割合の変化をみているが、

地方分権制度の実施後、もともと民族多様性が高かった地域ほど、アスファルト舗装

率が相対的に低くなっていた可能性が高いことを紹介する。

キーワード:地方分権、インフラ、民族多様性、インドネシア� �

∗ 本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告書である。また、本研究の一部は科研費 25871152(代表:東方孝之)の助成を受けている。

† アジア経済研究所 (IDE-JETRO): [email protected]

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はじめに

第 1章において触れたように、インドネシア統計庁(BPS)の定義によるとインドネシ

アの都市人口割合は 2010年にほぼ 5割に達していたとみられる。インドネシア統計庁と

同じ定義のもとで行政村センサス(Podes)を用いて 2002 年から 2011 年にかけての都

市化を分析した橋口・東方 (2016) によれば、同期間に都市人口割合が 38.2 %から 50.8

%と 12.6 %ポイント増えているが、そのうち 11.7 %ポイント分は、2002 年には農村に

区分されていた行政村が新たに都市と認定されたことによるものであること、また、残り

0.9%ポイント分が従来から都市に区分されていた行政村の人口増だとしている(1)。一方

で、同期間の都市化指数は平均して 1.31ポイント増加しているが、その大部分が指数を

構成する 3カテゴリーのうち、農業従事世帯割合の減少(による平均 0.69ポイントの増

加)と公共施設などへのアクセスの改善(平均 0.55ポイント増)で説明されうる、と指

摘している(残りの 0.07ポイントが人口密度増)。

このように、政府の定義を用いた場合には、インドネシアにおける都市化は、就業者の

従事する産業構造の変化とインフラなどの公共財の供給増により、行政村のステータスが

農村から都市へと変化したことにより進んできたとまとめられる。

一方で、インドネシアにおいては 1998年のスハルト政権崩壊後に民主化が急速に進ん

でいる。1999年には 1955年以来となる自由な選挙が実施されたが、ほぼ同じタイミング

で民主化の一環として地方分権制度の導入も決定された。これにより、2001年以降は地

方自治体に財政権限が委譲され、各自治体の裁量のもとで公共財の供給が決定されること

になった。つまり、政府の定義に従った場合には、2000年代の都市化は公共財の供給増

でほぼ半分程度を説明できると先行研究をもとに指摘したが、そこには地方分権下での地

方自治体の果たした役割が大きかったと考えられる。そこで次に重要になるのは、地方自

治体の供給する公共財がどのように決定されていたかであろう。Beach and Jones (2017)

はカリフォルニアを事例に議会のメンバーの民族多様性が歳出の合意を難しくしているこ

とを指摘しているが、多民族国家のインドネシアにおいても同様な問題が発生している可

能性が考えられる。

以上のような背景を踏まえて、本稿では、公共財の供給にあたって、民族多様性の違い

が地方自治体のパフォーマンスにどのような影響を及ぼしていたか、分析を試みることに

する(2)。ところで、民族多様性の影響については、国や地域の公共財の供給に負の影響を

(1) 2002年から 2011年にかけてパネル化に成功した行政村のみをサンプルに用いている。サンプルは 2002年時点の全行政村のうち 97.7%をカバーしている。

(2) インドネシアの民族多様性に注目した研究としては、民族多様性と社会関係資本との関係を分析したOkten and Osili (2004)やMavridis (2015)がある。インドネシアの地方分権制度については、Synthetic

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与えるとの指摘がある一方で、(特に都市のように小さなエリアでは)逆に経済成長に寄

与しているとの相反する先行研究もあるように、今後も研究のさらなる蓄積が必要な分野

であると言えよう(3)。特に、その性質上、因果関係を明らかにすることが困難であること

が分析結果の混乱をまねている側面が少なからずあると考えられる。そこで本稿では、予

期されていない状況下で地方分権制度が急遽導入された点に注目して、インドネシアにお

ける地方分権化を外生的なイベントとみなして、地方分権導入前から存在する民族多様性

の違いが地方自治体ごとの公共財の供給水準に与えたであろう影響を探り、その暫定的な

分析結果を紹介することにしたい。

本章の構成は次の通りである。まず、第 1節ではインドネシアの地方分権制度が導入さ

れるに至った経緯ならびに制度の内容について簡潔に確認する。次に、第 2節において本

稿で用いたデータや暫定的な分析結果を紹介し、最後に今後の課題などをまとめる。

第 1節 インドネシアの地方分権化

ここではインドネシアの地方分権制度が導入されるまでの推移ならびに制度の内容につ

いて簡潔にまとめることにしたい。

1997年に発生したアジア通貨危機をきっかけとして、1967年から 31年間インドネシ

アを統治してきたスハルト大統領は 1998年 5月に辞任し、翌 1999年 6月、副大統領か

ら昇格したハビビ大統領のもとで 44年ぶりに自由な選挙が実施されたが、この民主化の

一環として地方分権制度の導入も決定された。

ハビビ大統領は就任から半年後の 1998 年 11 月、地方分権導入を国策と位置付け、

1999年 2月には大統領が法案を提出し、5月には国会審議を終えている。こうして地方

行政法(1999 年法律第 22 号)および中央・地方財政均衡法(1999 年法律第 25 号)が

成立し、2001年 1月から地方分権制度が導入されることになった。これにより、県・市

control methodによって、一国レベルではその影響はほとんどみられなかった、と結論付けた Pepinskyand Wihardja (2011)や、地方分権化後、地方分立により県の数が増えた州では違法森林伐採が増えたことを定量的に示した Burgess et al. (2012)、住民の主観的評価結果を用いて導入前後を比較し、地方分権の正の影響を報告した Kaiser (2006)、そして、地方分権制度が導入された後の地方分立や地方首長選挙と、暴力の種類・発生との関係を分析した Pierskalla and Sacks (2017) などがある。

(3) 先行研究については、Montalvo and Reynal-Querol (2017)や Alesina and Ferrara (2005)を参照。本稿との関連では、例えば Alesina, Baqir and Easterly (1999)は米国のデータを用いて、民族が多様な地域では教育や道路、下水施設などといった公共財への支出割合が少なくなっているとの分析結果を紹介している。ただし、Lee, Lee and Borcherding (2016)は、同様に米国の地方自治体データを用いた分析から、民族多様性は必ずしも歳出面での減少を招いておらず、多様性の変化に応じて、例えば道路ではなく警察や防火などに割り振るといったように、歳出内容を調整しているとの指摘がある。なお、因果関係を明らかにした点で注目される研究としては Algan, Hemet and Laitin (2016)がある。フランスの公共住宅政策を実験的状況とみなして、民族的に多様な地域ほど社会的に問題が発生しやすいとの分析結果を紹介している。

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(kabupaten/kota)地方自治体には、外交、国防、治安、司法、金融、国家財政、宗教お

よび政令で定めるその他の分野以外の権限はすべて委譲されることになった(岡本 2012、

川村 2000)。このように急速に制定作業が進み地方分権が導入されるに至った背景には、

1999年 6月の選挙で大統領として再任(4)される可能性を広げるという政治的思惑が指摘

されている(Fitrani, Hofman and Kaiser 2005)。

ところで、地方分権制度導入前は、州や県・市にある中央省庁の出先機関が中央政府の

予算をもとに事業を実施しており、自治体主導の開発事業の計画・実施は困難であった。

公務員数でみても 1998年時点で 9割近くを国家公務員が占めており、また、地方首長も

内務省の監督下で地方議会において選出され、最終任命権も大統領にあった(岡本 2012)。

これに対して、1999年の地方行政法のもとでは、それまで中央政府ならびに州政府の

下に位置付けられていた県・市政府は州政府と同格に位置付けられることになり、また、

地方首長は地方議会によって任命され、県知事・市長はそれぞれ地方議会に対して責任を

負うことになった。ただし、その後、2004年地方行政法(2004年法律第 32号)におい

て、地方首長は住民による直接選挙で選出されるよういに変更されている。また、中央・

地方財政均衡法では、地方政府の財源が定められたが、土地関連の税収は州ないしは県市

政府の財源となり、また、原油収入の 15%、天然ガスの 30%、原油・ガスを除く天然資

源からの収入の 8割も地方政府の財源となった(松井 2003)。

以上からは、地方分権制度がアジア通貨危機直後の民主化の流れのなかでトップダウン

で急遽導入されたこと、また、県市地方自治体の役割が大きく変化したことが確認できる。

第 2節 分析

1 仮説

中央集権体制のもとでは、インドネシアの地方自治体には権限がなかったがゆえに、民

族多様性の違いが地域間でのインフラ整備状況にも大きな影響を及ぼさなかったと考えら

れる。対して、前節でみたように、民主化の導入と同時に地方分権制度が急遽導入された

後に、先行研究が指摘するように民族多様性が公共財の供給に負の影響を与えるのであれ

ば(Alesina, Baqir and Easterly 1999)、インドネシアにおいても地方分権制度導入前に

民族多様性が高かった地域ほど、自治体運営の権限が委譲された後ではインフラ整備に遅

れがみられるようになると予想される。

(4) 2004年以降、インドネシアでは大統領が直接選挙により選出されることになったが、1999年時は 6月の総選挙で選ばれた国会(DPR)議員らにより構成された国民協議会(MPR)の場での選挙を通じて、大統領が決定された。

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2 データ

検証にあたっては、まず、2000年人口センサスをもとに地域別の民族多様性指標を作成

した(5)。民族多様性指標としては、先行研究に従い断片化指数(Fractionalization Index)

を用いている。

断片化指数 = 1 − ΣNi=1 (Si)

2

ここで、Si はある地域における民族 iのシェアをあらわしている。断片化指数は、ある地

域内でランダムに選んだ二人が同じ民族集団に属さない確率を示している。また、この指

数は 0から 1の間の値をとり、民族多様性が高くなるにつれて指数の値は 1に近づくこと

になる。なお、先行研究ではこの断片化指数と並んでしばしば分極化指数(Polarization

Index)も使われていることを考慮して、頑健性を確認すべく分極化指数を用いた分析も

後ほど行うことにする。

次に、インフラ整備状況の情報については、行政村センサス(Podes)から入手した。

Podesは 1993年以降、3年ごとにデータが収集されており、基本的にはインドネシアの

全行政村をカバーしている(6)。

Podesからは、行政村ごとに道路整備状況についての情報が得られるため、今回は地域

別のインフラ整備状態を反映する変数として、行政村間をつなぐ主要道路にアスファルト

舗装がされていた場合に1、そうでない場合に0をとる変数を作り、地方自治体ごとに全

行政村に占める道路がアスファルト舗装されている行政村の割合を計算した。

ところで、インドネシアは 1993年当時の県市レベルでみると、290の地方自治体から

構成されていたが(7)、民主化後に地方の分立が進み、2011年時点で県市の数は 497にま

で膨らんでいる。本稿では、その 497地域の行政区分にあわせて、情報を 1993年にまで

さかのぼってデータを集計し、パネルデータを構築している。ただし、2000年の人口セ

ンサスでは、調査時に Pidie県(のち、その一部地域が Pidie Jaya県として分立)につい

(5) 2000年人口センサスの手引書をみると、2000年人口センサスでは、民族コードは 1072まで(外国籍を加えると 1086まで)用意されている。ただし、部分的に重複がみられるなど、利用にあたっては注意が必要である。

(6) 本稿で利用した Podes を統計庁の付した名称に従って時系列に並べると、Podes 1993、Podes 1996、Podes 2000、Podes 2003、Podes 2006、Podes 2008、Podes 2011となる。この名称をもとに、Podes2000から Podes 2006にかけてのシリーズはしばしば 2000年、2003年、2006年の情報を収集したものとして処理、分析に用いられている研究が多いが、それらの数字は公開された年をあらわしているに過ぎない。実際にはそれぞれ 1999年、2002年、2005年に情報が収集されたものである点に注意が必要である。詳細はインドネシア統計庁のHP(http://microdata.bps.go.id /microdata /index.php /catalog/PODES)から得られる Podes各年版についての説明を参照のこと。

(7) 1999年の住民投票を経て独立することになる東ティモール州の県市は含んでいない。

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ては紛争状態にあったことから情報が収集されていない。そのため、分析のベースは 495

地域となっている。

最後に、地域ごとの特徴をコントロールするために、Podesの調査年と同年に実施され

た Susenas を用いて地域別に平均教育年数や平均年齢を計算した。497 地域の行政区分

にあわせるにあたっては、行政村コードをもとにマッチングしている。

3 推計方法

本稿ではインドネシアでの地方分権の導入を外生的なイベントとみなして、「差の差」

(Difference in Difference:DID)に基づく推計を行う。まずは、直観的に理解しやすい

ように単純な分析枠組みのなかで、民族多様性がインフラ整備に与えた影響を確認してみ

よう。インドネシアの 495地域について、断片化指数をもとに民族多様性指標を計算する

と、平均値は 0.399、標準偏差は 0.289となる(表 1)。ここで閾値を 0.5として 495地域

を民族多様性の高いグループ(205地域)と低いグループ(292地域)とに分け(8)、それ

ぞれのグループのアスファルト舗装率の平均値の推移をみたものが図 1である。図では、

それぞれのグループについて、地方分権が実施される直前の 1999年時のアスファルト舗

装率の平均値を 100に基準化している(9)。

図からは、地方分権導入前ならびに地方分権導入直後の 2002 年までは両者の間に目

立った違いがみられないものの、2005 年から 2008 年にかけては、民族多様性の低いグ

ループでのみアスファルト舗装率に大きな上昇が確認できる。この民族多様性の高いグ

ループと低いグループとの間で生じたアスファルト舗装率の差が、統計的に意味のあるも

のかどうかを確認するためには、基本的には以下の式を推計することになる。

Yj,t = α + βDH + γD + δH + ϵj,t (1)

ここで Y はアスファルト舗装率、D は 2001年以降に1となる地方分権ダミー、H は民

族多様性指標の値が 0.5より大きい場合に1をとる民族多様性ダミーであり、分析では、

係数 βの値が統計的に有意な負の値となるかどうかという点に注目することになる。

ただし、図 1でみた二つのグループは、恣意的に決められた閾値をもとに選り分けられ

ていたことから分かるように、式 (1)の推計結果も少なからずその分類方法に左右される

であろうことが容易に想像つくだろう。そこで本稿の分析では民族多様性指標の値をその

(8) 民族多様性の高いグループに含まれている地域では、そこから住民二人をランダムに選んでその出自を確認した場合には、民族が一致する確率が 2分の 1より低く、逆に、民族多様性の低いグループでは、その確率は 2分の 1よりも高くなっていることを意味する。

(9) 1999 年のアスファルト舗装率は、民族多様性の高いグループの平均値は 54.3 %、民族多様性の低いグループでは 60.4%であった。

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まま用いた次のモデルで推計している。

Yj,t = α + β1DEthnicityj + β2D + β3Ethnicityj + X′j,tγ + ϵj,t (2)

ここで、Yはアスファルト舗装率、Dは 2001年以降に1となる地方分権ダミー、Ethnicity

は民族多様性指標の値、Xはその他の地域間の違いをコントロールするために加えられた

変数である。

最後に、推計は最小二乗法(OLS)および一般化線形モデル(GLM)で行っている。ま

た、被説明変数が二値変数を集計したものであることから、GLMではリンク関数にプロ

ビットを用いている。

4 分析結果

式 (2)をモデルに分析した結果をまとめたものが表 2 の通りである。参考までに式 (1)

に基づく単純なモデルの分析結果も併記している。なお、表中には報告していないが、推

計には年ダミーを加えており、また、地域ダミーを加えた推計の際には、民族多様性指標

との間で完全多重共線性が発生するため、民族多様性指標は推計から落ちている。

では分析結果をみていこう。列 (1) から列 (3) は式 (1) をもとに推計した結果である。

民族多様性ダミーと地方分権ダミーとの交差項の係数は統計的に有意な負の値となってい

る。地域ダミーや平均教育年数、平均年齢といった変数を加えても係数の値はほぼ同じで

あることから、民族多様性が高い地域では、平均して 4%ポイント分、アスファルト舗装

率が低くなっていることを確認できる。

次に、列 (4)から列 (11)までは式 (2)をもとに推計した結果を紹介している。列 (9)と

列 (11)はそれぞれ列 (8)と列 (10)に記載された GLMの推計結果をもとに平均値まわり

での限界効果を算出したものである。民族多様性指標と地方分権ダミーとの交差項の係数

をみていくと、すべての係数が統計的に有意な負の値となっていることが確認できる(10)。

以上からは、断片化指数ではかった場合には民族多様性が高かった地域ほど、地方分権

の実施後は相対的にアスファルト舗装された行政村の割合が小さくなっていたことが分

かる。

5 頑健性の確認

先行研究では民族多様性の影響を分析するにあたって、断片化指数とならんでしばしば

分極化指数を用いている。そこで頑健性を確認するために、ここでは民族多様性指標に分

(10) 列 (4)と列 (5)の比較からは、民族多様性指標と教育水準との間に正の相関関係があることがうかがえる。

60

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極化指数を用いた場合の推計結果を確認したい。

まず、分極化指数は次のようにあらわされる。

分極化指数 = 1 − ΣNi=1

(0.5−Si

0.5

)2Si

ここで Si はある地域における民族 i のシェアを示している。式からは、この分極化指数

は、割合でみて同規模の民族が二つ存在する場合に最大値 1をとる一方で、一つの民族し

か存在しない場合は最小値 0を、また、同程度のシェアを占める民族が多数存在するほど

0に近づいていくことが分かる。このことは、断片化指数との関係を図にあらわすと逆 U

字の関係が描かれることからも確認できる(図 2)。

次に、断片化指数の分析同様、分極化指数を用いた場合の推計結果を確認してみると、

表 3の通りである。地方分権ダミーと分極化指数との交差項の係数をみると、すべて統計

的に有意な負の値となっていることが分かる。また、係数の値も表 2 と比較して大きな違

いがないことが分かる。

おわりに

本稿では、中央集権的な開発独裁政権の崩壊と民主化に伴い、地方分権が導入されたイ

ンドネシアを事例として、民族多様性の違いがインフラ整備状況に与えた影響を探った。

具体的には、行政村の間を連絡する主要道路のアスファルト舗装率に注目し、1993年か

ら 2011年までの地方自治体水準のパネルデータをもとに、初期時点の民族多様性の違い

がもたらした影響を分析した。これまでの暫定的な分析結果によれば、地方分権制度が実

施される以前から民族が多様であった地域ほど、財政権限が地方自治体に委譲された後に

はアスファルト舗装率の水準が相対的に低くなっていることが確認された。

では、もし本稿での分析結果が示すように、民族多様性がインフラ整備に負の影響を与

えたとするならば、地域間での都市化の進展にも負の影響がみられたのだろうか。都市圏

人口については 1990年代にさかのぼって確認することが困難であること、また、県市水

準では都市圏人口がゼロとなるケースが多発することが予想されることなどから、ここで

はインドネシア統計庁が採用している都市の定義を用いて、都市人口割合との関係につい

て簡単に確認しておきたい(11)。

表 4および表 5が、都市人口割合を被説明変数に用いて、前節と同じ分析枠組みで推計

した結果である。民族多様性と地方分権ダミーとの交差項の係数が統計的に有意な負の値

(11) インドネシア統計庁が算出している都市人口割合については第 1章を参照のこと。また、用いたデータは付録を参照。

61

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となっていることから、民族多様性が高い地域ほど、地方分権導入後は都市人口割合の水

準が相対的に低くなっていることが分かる。ここからはインフラ整備の相対的な遅れが都

市人口割合の伸び悩みにつながった可能性が示唆されるが、メカニズムの確認も含めて、

より詳細な分析については次年度の課題としておきたい。

付録

第 1章でみたように、インドネシア統計庁は、人口密度や農業従事世帯割合、公共施設

等へのアクセスのしやすさという 3つの側面からの評価を通じて、行政村単位で都市か農

村なのかを区分している。本稿ではこの行政村ごとの都市・農村の区分をもとに地域ごと

の都市人口割合を計算している。ただし、第 1章でも触れたように、1999年以前には統

計庁の都市の定義が異なる。そこで、1993年から 1999年にかけての都市人口割合につい

ては、Podesに含まれている情報を用いて、2000年以降の定義にあわせて行政村ごとに

都市ないしは農村に区分しなおした上で、地域別の都市人口割合を計算している。こうし

て計算された都市人口割合の平均値は 0.294、標準偏差は 0.313であった(最小値 0、最

大値 1、サンプルサイズ 3,458)。また、民族多様性や教育年数、年齢などの情報は表 1 と

同じである。

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63

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図 1 アスファルト整備状況の推移(1999年= 100)

出所)筆者作成。注)民族多様性の低い(高い)グループは、民族多様性指標の値が 0.5を下回る(上回る)地域から構成されている。なお、民族多様性指標には断片化指数(Fractionalization Index)を用いている。

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図 2 分極化指数と断片化指数との関係(2000年)

出所)筆者作成。

65

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表 1 基本統計量

mean sd min max N

Share of Asphalt Roads 0.606 0.290 0 1 3458

Ethnic Diversity Index (as of 2000 Population Census)

Fractionalization Index 0.399 0.289 0.004 0.938 495

Polarization Index 0.463 0.274 0.008 0.976 495

Average Education 6.2 1.8 0.5 11.4 3155

Average Age 36.5 2.6 28.7 47.0 3155

出所)筆者計算。

66

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表2推計結果:アスファルト整備状況への影響

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)

(7)

(8)

(9)

(10)

(11)

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

GLM

mar

gina

l eff

ects

GLM

mar

gina

leff

ects

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

Div

ersi

tyD

umm

y−

0.03

5∗∗∗

−0.

037∗

∗∗−

0.04

0∗∗∗

(0.0

10)

(0.0

11)

(0.0

11)

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

Ethn

icD

iver

sity

Inde

x−

0.08

5∗∗∗

−0.

116∗

∗∗−

0.08

6∗∗∗

−0.

092∗

∗∗−

0.16

6∗∗∗

−0.

297∗

∗∗−

0.16

2∗∗∗

−0.

275∗

∗∗

(0.0

17)

(0.0

20)

(0.0

18)

(0.0

19)

(0.0

21)

(0.0

38)

(0.0

21)

(0.0

35)

Div

ersi

tyD

umm

y−

0.05

8∗

(0.0

26)

Ethn

icD

iver

sity

Inde

x−

0.06

4−

0.20

0∗∗∗

0.20

2∗∗

0.36

1∗∗

(0.0

44)

(0.0

34)

(0.0

65)

(0.1

14)

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

y0.

055∗

∗∗0.

056∗

∗∗0.

046∗

∗∗0.

075∗

∗∗−

0.02

40.

075∗

∗∗0.

066∗

∗∗−

0.07

8∗∗∗

−0.

139∗

∗∗0.

042∗

∗0.

071∗

(0.0

09)

(0.0

10)

(0.0

11)

(0.0

11)

(0.0

13)

(0.0

11)

(0.0

13)

(0.0

18)

(0.0

34)

(0.0

14)

(0.0

24)

Ave

rage

Educ

atio

n0.

005

0.09

9∗∗∗

0.00

50.

114∗

∗∗0.

203∗

∗∗0.

009

0.01

5

(0.0

04)

(0.0

05)

(0.0

04)

(0.0

09)

(0.0

20)

(0.0

05)

(0.0

08)

Ave

rage

Age

0.00

50.

005

0.00

70.

012

0.00

40.

007

(0.0

03)

(0.0

03)

(0.0

07)

(0.0

12)

(0.0

03)

(0.0

06)

Con

stan

t0.

603∗

∗∗0.

580∗

∗∗0.

377∗

∗∗0.

606∗

∗∗0.

100∗

∗∗0.

580∗

∗∗0.

382∗

∗∗−

3.59

5∗∗∗

−3.

016∗

∗∗

(0.0

16)

(0.0

04)

(0.1

11)

(0.0

20)

(0.0

29)

(0.0

04)

(0.1

10)

(0.2

71)

(0.1

15)

Reg

iona

l Dum

my

NO

YE

SY

ES

NO

NO

YE

SY

ES

NO

NO

YE

SY

ES

Obs

erva

tion

s34

5834

5832

6034

5832

6034

5832

6032

6032

6032

6032

60

Adj

uste

dR

20.

027

0.88

80.

884

0.02

30.

352

0.88

90.

885

Num

ber

ofC

lust

ers

495

495

495

495

495

495

495

495

495

出所)筆者推計。

注)表では省略しているが、推計には年ダミーを加えている。説明変数については表

1を参照。括弧内はクラスター頑健標準誤差。

∗ 、∗∗、

∗∗∗はそれぞれ

5%、

1%、

0.1%水準で統計的に有意であることを示す。

67

Page 68: インドネシアの都市圏概要¼ˆ )や金本・徳岡(2002) などを参照。(4) 都市圏データについての詳細はHashiguchi and Higashikata (2017) やHigashikata

表3推計結果:アスファルト整備状況への影響(民族多様性指標に分極化指数を用いた場合)

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)

(7)

(8)

(9)

(10)

(11)

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

GLM

mar

gina

l eff

ects

GLM

mar

gina

leff

ects

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

Div

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tyD

umm

y−

0.04

0∗∗∗

−0.

040∗

∗∗−

0.04

2∗∗∗

(0.0

10)

(0.0

11)

(0.0

11)

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

Ethn

icD

iver

sity

Inde

x−

0.09

1∗∗∗

−0.

112∗

∗∗−

0.09

3∗∗∗

−0.

096∗

∗∗−

0.14

7∗∗∗

−0.

262∗

∗∗−

0.13

3∗∗∗

−0.

227∗

∗∗

(0.0

19)

(0.0

21)

(0.0

20)

(0.0

21)

(0.0

21)

(0.0

37)

(0.0

24)

(0.0

42)

Div

ersi

tyD

umm

y−

0.01

9

(0.0

25)

Ethn

icD

iver

sity

Inde

x−

0.07

7−

0.16

8∗∗∗

0.17

2∗∗

0.30

7∗∗

(0.0

41)

(0.0

34)

(0.0

60)

(0.1

05)

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

y0.

062∗

∗∗0.

062∗

∗∗0.

052∗

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083∗

∗∗−

0.01

20.

084∗

∗∗0.

075∗

∗∗−

0.07

3∗∗∗

−0.

130∗

∗∗0.

040∗

0.06

8∗

(0.0

09)

(0.0

10)

(0.0

12)

(0.0

12)

(0.0

14)

(0.0

13)

(0.0

14)

(0.0

19)

(0.0

36)

(0.0

16)

(0.0

27)

Ave

rage

Educ

atio

n0.

005

0.09

3∗∗∗

0.00

50.

115∗

∗∗0.

206∗

∗∗0.

008

0.01

4

(0.0

04)

(0.0

04)

(0.0

04)

(0.0

09)

(0.0

20)

(0.0

05)

(0.0

08)

Ave

rage

Age

0.00

50.

005

0.00

50.

008

0.00

40.

007

(0.0

03)

(0.0

03)

(0.0

06)

(0.0

11)

(0.0

03)

(0.0

06)

Con

stan

t0.

590∗

∗∗0.

580∗

∗∗0.

371∗

∗∗0.

616∗

∗∗0.

130∗

∗∗0.

580∗

∗∗0.

387∗

∗∗−

3.53

7∗∗∗

−3.

012∗

∗∗

(0.0

18)

(0.0

04)

(0.1

11)

(0.0

22)

(0.0

31)

(0.0

04)

(0.1

11)

(0.2

61)

(0.1

18)

Reg

iona

l Dum

my

NO

YE

SY

ES

NO

NO

YE

SY

ES

NO

NO

YE

SY

ES

Obs

erva

tion

s34

5834

5832

6034

5832

6034

5832

6032

6032

6032

6032

60

Adj

uste

dR

20.

015

0.88

80.

884

0.02

50.

334

0.88

90.

885

Num

ber

ofC

lust

ers

495

495

495

495

495

495

495

495

495

出所)筆者推計。

注)表では省略しているが、推計には年ダミーを加えている。説明変数については表

1を参照。括弧内はクラスター頑健標準誤差。

∗ 、∗∗、

∗∗∗はそれぞれ

5%、

1%、

0.1%水準で統計的に有意であることを示す。

68

Page 69: インドネシアの都市圏概要¼ˆ )や金本・徳岡(2002) などを参照。(4) 都市圏データについての詳細はHashiguchi and Higashikata (2017) やHigashikata

表4推計結果:都市人口比率への影響

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)

(7)

(8)

(9)

(10)

(11)

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

GLM

mar

gina

l eff

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GLM

mar

gina

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Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

Div

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y−

0.03

7∗∗∗

−0.

038∗

∗∗−

0.04

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(0.0

08)

(0.0

08)

(0.0

08)

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

Ethn

icD

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sity

Inde

x−

0.07

0∗∗∗

−0.

104∗

∗∗−

0.07

1∗∗∗

−0.

075∗

∗∗−

0.22

4∗∗∗

−0.

200∗

∗∗−

0.22

7∗∗∗

−0.

188∗

∗∗

(0.0

13)

(0.0

17)

(0.0

14)

(0.0

14)

(0.0

31)

(0.0

29)

(0.0

18)

(0.0

15)

Div

ersi

tyD

umm

y0.

076∗

(0.0

28)

Ethn

icD

iver

sity

Inde

x0.

184∗

∗∗0.

004

0.25

3∗∗

0.22

5∗∗

(0.0

46)

(0.0

30)

(0.0

91)

(0.0

79)

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

y0.

102∗

∗∗0.

037∗

∗∗0.

018∗

∗0.

115∗

∗∗−

0.08

7∗∗∗

0.04

9∗∗∗

0.03

2∗∗∗

−0.

144∗

∗∗−

0.12

8∗∗∗

0.08

3∗∗∗

0.06

9∗∗∗

(0.0

07)

(0.0

05)

(0.0

07)

(0.0

08)

(0.0

10)

(0.0

06)

(0.0

08)

(0.0

27)

(0.0

26)

(0.0

14)

(0.0

12)

Ave

rage

Educ

atio

n0.

014∗

∗∗0.

132∗

∗∗0.

014∗

∗∗0.

218∗

∗∗0.

194∗

∗∗0.

016∗

0.01

3∗

(0.0

03)

(0.0

06)

(0.0

03)

(0.0

11)

(0.0

16)

(0.0

06)

(0.0

05)

Ave

rage

Age

0.00

30.

003

0.00

40.

004

−0.

006

−0.

005

(0.0

02)

(0.0

02)

(0.0

09)

(0.0

08)

(0.0

04)

(0.0

03)

Con

stan

t0.

198∗

∗∗0.

294∗

∗∗0.

113

0.15

5∗∗∗

−0.

459∗

∗∗0.

294∗

∗∗0.

112

−4.

428∗

∗∗−

2.84

1∗∗∗

(0.0

15)

(0.0

02)

(0.0

67)

(0.0

19)

(0.0

32)

(0.0

02)

(0.0

68)

(0.3

73)

(0.1

32)

Reg

iona

l Dum

my

NO

YE

SY

ES

NO

NO

YE

SY

ES

NO

NO

YE

SY

ES

Obs

erva

tion

s34

6434

6432

6434

6432

6434

6432

6432

6432

6432

6432

64

Adj

uste

dR

20.

032

0.94

80.

950

0.04

20.

527

0.94

80.

950

Num

ber

ofC

lust

ers

495

495

495

495

495

495

495

495

495

出所)筆者推計。

注)表では省略しているが、推計には年ダミーを加えている。説明変数については表

1を参照。括弧内はクラスター頑健標準誤差。

∗ 、∗∗、

∗∗∗はそれぞれ

5%、

1%、

0.1%水準で統計的に有意であることを示す。

69

Page 70: インドネシアの都市圏概要¼ˆ )や金本・徳岡(2002) などを参照。(4) 都市圏データについての詳細はHashiguchi and Higashikata (2017) やHigashikata

表5推計結果:都市人口比率への影響(民族多様性指標に分極化指数を用いた場合)

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)

(7)

(8)

(9)

(10)

(11)

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

OLS

GLM

mar

gina

l eff

ects

GLM

mar

gina

leff

ects

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

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y−

0.02

5∗∗

−0.

026∗

∗−

0.03

1∗∗∗

(0.0

08)

(0.0

09)

(0.0

09)

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

Ethn

icD

iver

sity

Inde

x−

0.06

4∗∗∗

−0.

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0.06

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−0.

074∗

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0.18

6∗∗∗

−0.

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0.18

1∗∗∗

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∗∗

(0.0

14)

(0.0

17)

(0.0

15)

(0.0

15)

(0.0

30)

(0.0

27)

(0.0

23)

(0.0

19)

Div

ersi

tyD

umm

y0.

061∗

(0.0

26)

Ethn

icD

iver

sity

Inde

x0.

078∗

−0.

045

0.14

00.

124

(0.0

39)

(0.0

29)

(0.0

87)

(0.0

77)

Dec

entr

aliz

atio

nD

umm

y0.

100∗

∗∗0.

035∗

∗∗0.

019∗

∗0.

117∗

∗∗−

0.08

3∗∗∗

0.05

2∗∗∗

0.03

6∗∗∗

−0.

142∗

∗∗−

0.12

6∗∗∗

0.07

3∗∗∗

0.06

1∗∗∗

(0.0

08)

(0.0

05)

(0.0

07)

(0.0

09)

(0.0

11)

(0.0

07)

(0.0

09)

(0.0

28)

(0.0

27)

(0.0

16)

(0.0

13)

Ave

rage

Educ

atio

n0.

013∗

∗∗0.

132∗

∗∗0.

013∗

∗∗0.

220∗

∗∗0.

196∗

∗∗0.

014∗

0.01

1∗

(0.0

03)

(0.0

06)

(0.0

03)

(0.0

11)

(0.0

16)

(0.0

07)

(0.0

06)

Ave

rage

Age

0.00

30.

003

−0.

002

−0.

002

−0.

005

−0.

005

(0.0

02)

(0.0

02)

(0.0

09)

(0.0

08)

(0.0

04)

(0.0

03)

Con

stan

t0.

196∗

∗∗0.

294∗

∗∗0.

102

0.19

3∗∗∗

−0.

438∗

∗∗0.

294∗

∗∗0.

115

−4.

170∗

∗∗−

2.82

2∗∗∗

(0.0

17)

(0.0

02)

(0.0

68)

(0.0

19)

(0.0

33)

(0.0

02)

(0.0

67)

(0.3

59)

(0.1

40)

Reg

iona

l Dum

my

NO

YE

SY

ES

NO

NO

YE

SY

ES

NO

NO

YE

SY

ES

Obs

erva

tion

s34

6434

6432

6434

6432

6434

6432

6432

6432

6432

6432

64

Adj

uste

dR

20.

029

0.94

70.

950

0.02

60.

532

0.94

80.

950

Num

ber

ofC

lust

ers

495

495

495

495

495

495

495

495

495

出所)筆者推計。

注)表では省略しているが、推計には年ダミーを加えている。説明変数については表

1を参照。括弧内はクラスター頑健標準誤差。

∗ 、∗∗、

∗∗∗はそれぞれ

5%、

1%、

0.1%水準で統計的に有意であることを示す。

70