リードタイム短縮で 利益を生み出す 現場をつくろう · 14 vol.57 no.10...
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Vol.57 No.10 工場管理12
震災で問われたサプライチェーン、在庫は持つべきか?
東日本大震災では、自動車産業のみならずさまざまな業界で資材、部品調達がままならずに生産停止や遅延に追い込まれた。メディアは「在庫を持たないジャスト・イン・タイムは綻びを見せた」と書き立てたが、果たしてそうだろうか。 仮に在庫を2カ月分以上持っていた場合、調達遅延による生産停止や生産遅延は回避されたかもしれない。しかし、それは千年に一度と言われたこの震災が起きたから在庫が有効になるわけで、有事が起こらなければ会社を運営するのに必要な資金を2カ月分も寝かせることになる。もし客先の商品にモデルチェンジや仕様変更もしくは売れなくなった時に、在庫は買ってもらえずに売れ残ることになる。 千年に一度の有事に備えて在庫を持ち、千年のうちの残り999年は必要のない在庫を持つ必要はないのではないだろうか。 在庫を持たずにリードタイムを短縮し、時代の変化に俊敏に対応するモノづくりが必要とされてている。
在庫は資産ではなく、停滞のムダ
在庫を持つ大量生産の発想は、モノ不足の時代の発想だ。モノ不足が産業革命を起こし、人力から動力へと転換した。そしてアメリカはフォード
が生み出した分業とコンベアによる大量生産は、単一製品を安くつくり、市場を席巻した。しかし顧客のニーズに対応したGMのフルライン戦略がフォードを追い抜く。今や時代はモノ不足ではなく、モノ余り時代となり、多品種少量でも安くつくるトヨタ生産方式が生まれ、今や多品種変量が求められている。 「つくれば売れる」時代にできた会計では、在庫は「資産」であり、お金と同様の扱いを受けている。決算書では在庫は棚卸資産に記載され、一年以内にお金になる流動資産の中に記載される。 しかし次々に新商品が出される中、一年たった在庫は安売り処分される。在庫はもはや資産ではなく、資金繰りを悪化させて経営を圧迫する「停滞のムダの廃除」(解説①)でしかない。現場の中の停滞のムダを廃除し、リードタイムを短縮させ、市場の変化に俊敏に対応することが必要だ。
リードタイムの短縮で対応力が上がり、売上増加、高付加価値品の受注が可能に
それでは、リードタイムを短縮するとどのような効果があるだろうか。まず顧客対応力が増す。そして在庫が減少する。ここで納期と納入リードタイムの関係を見てみよう。 1.納期 > 生産リードタイム:完全受注生産 顧客の希望する納期よりも工場で生産する生産リードタイムの方が短い場合、受注生産が可能となり、この場合、製品在庫は必要なくなる(図1)。
総論
リードタイム短縮で利益を生み出す現場をつくろう
PEC産業教育センター
加藤 卓也 本多 亨 三浦 聡彦
工場管理 2011/09 13
◆◆特集◆◆ 利益を増やすリードタイム短縮の定石と実践
2.納期 < 生産リードタイム 顧客の希望する納期よりも生産リードタイムが長い場合、完成品を在庫として持つことになる。もしくは生産の途中工程、以降の生産リードタイムが納期よりも短い場合は、途中工程で仕掛品を持ち、そこから後工程は受注生産で生産し出荷する(図 2、図 3)。
図2 受注生産+見込み生産
顧客仕掛 工程2工程1 製品①注文
②生産指示
③生産②出荷
見込生産
図3 見込み生産
見込生産
顧客仕掛 工程2工程1 製品①注文
生産指示
②出荷
生産リードタイムが短いとは、工程間の仕掛品が少ないことを意味する。生産リードタイムが長い場合は、生産ロットが大きくなりがちだ。 リードタイムを短縮し、顧客対応力を強化しよう。小ロット、単納期が可能になったため、売上が増え、また高付加価値の小ロット品に特化したことで利益を増やした企業がある。
リードタイム短縮のメリット
1.経営を悪化させる在庫を削減し、キャッシュフローを生み出す
リードタイムが短縮されれば、仕掛品在庫、完成品在庫が減少するため、借入金が減少し、キャッシュフローがよくなる。 2.停滞のムダ廃除は動作・運搬のムダを廃除
する 工程間の仕掛品がなくなると、作業者の「取り置き」回数が減少する。倉庫への運搬作業や探す作業がなくなるため、停滞のムダに付随する動作・運搬のムダがなくなる。そのため、工数低減が可能となり、活人、コストダウンができる。モノの置き方をストア・レイゾウコ(解説②)にすることで、工程間の仕掛品が見えるようにしよう。 3.不良品が減少する 工程間の仕掛品が多いほど、緊張感のない職場になる。不良が起きても「まだたくさんある」と思いがちだ。また前工程の不良が後工程で見つかった場合、工程間の仕掛品はすべて不良品の可能性がある。しかもどの機械で加工したものかわからない場合は、不良対策が遅れるために、さらに不良品が発生しかねない。工程を整流化(解説③)して流れを作り、間締め(解説④)をして工程間および工程内の仕掛品を廃除しよう。 4.問題が見えるようになる リードタイムを短縮するには、顧客の情報で出荷を基準に考えてモノをつくることが必要になる。そのためには、出荷管理板、生産管理板などの管理板(解説⑤)を活用して現場を見える化することが重要だ。また、リードタイムを短縮していくと、仕掛品をすぐに削減できる工程と削減できない工程がわかってくる。工程の問題も管理板を見ることで問題点が浮き彫りになる。
☆ リードタイムを短縮するために、本特集では次の構成になっている(表1)。 1)リードタイム短縮の定石(解説+改善事例) 停滞のムダの廃除、モノの置き方、整流化、間締め、管理板の5項目について解説と改善事例を記している。 2)企業事例 リードタイム短縮により、生産性向上、不良削減、コストダウン、売上増、利益増を達成した企業事例を掲載した。
本特集を参考にリードタイムを短縮し、筋肉質の現場をつくりあげ、現場の人が主役となる現場づくりに取り組んでみよう。
図1 完全受注生産
顧客仕掛 工程2工程1 製品①注文
②生産指示
③受注生産②出荷
Vol.57 No.10 工場管理14
表1 リードタイム短縮を妨げる問題点と問題解決の着眼点
着眼点
現場での問題点管理・管理板
工場内に仕掛品が多い
製品在庫が多い
段取時間が長い生産アイテムが多い
残業時間が多い
納期が守れない
参考事例
●月単位で管理されているか? 日にち単位で時間単位で管理されているか?その管理状況が現場でどのように作業者が把握されているのか…●何時までに何をどれだけ作業しなければならないのか、把握することが大切
●生産管理板、生産工程の中で何時までにどれだけ生産しなければならないのかを見える化するアイテム。もちろん後工程の予定に合わせて「作りすぎ」がないように予定を組む●出荷管理板とは、どの製品が何時に出荷されるのかを「見える化」するアイテム。顧客と工場をつなぐ大切な情報をどれだけ現場で把握できているだろうか?
A分類など、毎日流れる製品、月に1度の頻度で流れる製品などを分析し、段取治具などの色分別できるようにしているか?
宇部興産・富士電機・フレシュール・亀井製作所・協栄金属工業
工場管理 2011/09 15
◆◆特集◆◆ 利益を増やすリードタイム短縮の定石と実践
モノの置き方 整流化・多工程持ち
●使うモノの置き場「レイゾウコ」、作ったモノの置き場「ストア」としてPECではモノを見て誰が管理しているのかが把握できるようにしている。作りすぎはリードタイムを長くする最大の原因。 現場を見て誰が管理している製品かわかっているか?●ラインごと、機械ごとで「目で見る管理」を行うように心がけているか?段取り作業で使う治具・台車なども正常異常がわかるモノの置き方になっているか?
●工程内、工程間の仕掛品は「整流化」を行う上での妨げになる サイクルタイムを明確にして作業者の手待ちなどに着目する●工程内に運搬や移動のロスはないか?●工程間でどこからどこへ行く製品か、把握できているか?
製品のABC分析、段取時間の外段取り内段取時間を分析する。A分類製品の内段取時間を外段取りに改善しているか?
協栄金属工業・亀井製作所
●工場内ではさまざまな製品をさまざまな社員が扱っている。探す時間や運ぶ時間なども稼働時間内に含まれている。使う順に置いてあるのか、作るセットで置いてあるのかを確認してみよう●製品を見て、置き場を見ていつ出荷なのか、いつ後工程が必要なのかが把握できているか?
宇部興産・富士電機・フレシュール・亀井製作所・大阪染工・協栄金属工業
着眼点
筆 者: かとう たくや 主任研究員, ほんだ とおる 主任研究員, みうら としひこ 主任研究員
所在地:〒501-6257 岐阜県羽島市福寿町平方 1-5T E L:058-397-2531