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アパレル業界の経営戦略 ~UNIQLOの経営戦略~
神野 光指郎ゼミナール
福岡大学商学部 3年次
長瀬 亜耶
秀島 千晶
松永 直樹
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目次
序論
1.「UNIQLO」ブランドのビジネスモデル
1-1.UNIQLOの概要
1-2.ブランドコンセプトを可能とする SPA業態
1-3.商品戦略にみる UNIQLOの企画・開発体制
1-4徹底した.効率化・厳格な品質管理が行われる生産体制
1-5.店舗に権限を委譲した店舗を中心とした販売戦略
2.「ZARA」「H&M」ブランドのビジネスモデル
2-1.ZARA・H&Mの概要
2-2.グローバルマーケットのニーズを収集する情報力
2-3.トレンドを製品に反映させる企画力
2-4.スピードを重視させた生産力
2-5.ジャスト・イン・タイムの物流力
2-6.高回転を実現する販売力
3.「UNIQLO」ブランドの世界 No.1構想実現への課題
3-1.FAST RETAILINGの 2020年 No.1構想の概要
3-2.市場の強化を図る国内事業
3-3.市場の開拓と拡大を図る海外事業
3-4.リアルとバーチャルをミックスさせた UNIQLOのブランディング
3-5.トレンド・ファッション性を付加する新たな商品戦略
3-6.グローバル展開を見越したサプライチェーンの再構築
3-7.販売を担う人材育成システムの構築
3-8.次世代の経営を担う人材輩出機関
結論
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序論
2009 年 9 月 15 日、サブプライムローン問題に端を発した米国住宅バブルの崩壊は米国
の大手投資銀行 LEHMAN BROTHERS を破綻へと追い込んだ。影響は米国内だけにとど
まらず、100 年に 1 度と呼ばれる不況を世界経済にもたらした。もちろん日本も例外ではな
くトヨタ自動車をはじめとする製造業は大きな打撃を受け、外需頼みによって支えられた
景気は海外のマーケットの急速な需要の冷え込みによって再び日本経済は出口の見えぬ景
気低迷に陥った。日本国内の景気後退はただでさえ景気を実感せぬまま終わった消費者の
節約志向を以前にも増して強め、「消費」に対しさらに厳しい視線を注ぐようなった。当然、
外需に比べ内需の冷え込みは深刻で、特に内需に依存している小売業界は不振を極めてい
る。その中でも大きな打撃を受けたのは高価格帯の商品を取り扱う百貨店であり、とりわ
け売場に関して言えば最も売上を落としているのは婦人服のフロアであった。高価格帯の
衣料品は消費意欲が落ち込んだ消費者には全く魅力的に見えず百貨店を中心に売場を展開
していた百貨店系アパレルと言われるワールド、オンワード樫山といった日本の大手アパ
レルメーカーは苦戦を強いられ、業績不振にあえいでいる。一方 H&M・ZARA といったフ
ァストファッションブランドを抱える海外アパレルメーカーが新たな勢力として台頭し、
マーケットを席巻している。現在の状況のようにファストファッションがアパレル業界に
おいて大きなポジションを占め続けるのであろうか。また今後ファストファッションでな
ければマーケットで成長し生き残ることはできないのであろうか。
本論文ではファストファッションブランドが席巻する中で、積極的な店舗展開を行って
いる UNIQLO を取り上げ、加えて海外ファストファッションブランドの ZARA,H&M も
取り上げていく。UNIQLO を傘下に抱える FAST RETAILING の代表取締役会長兼社長の
柳井正は著書「」の中で「UNIQLO はファストファッションではない。」と述べている。
その通り UNIQLO が「高品質・ベーシックカジュアル」の重視の商品戦略は「スピード・
トレンド」を重視する ZARA、H&M とは対極の立場にあると言ってもいい。それにも関わ
らずファストファッションが席巻するマーケットにおいて、2010 年 8 月期 UNIQLO は売
上高 8148 億円と過去最高を更新した。なぜ UNIQLO はこれだけの成長を遂げているのだ
ろうか。また今後この成長を持続的なものとし 2020 年に ZARA、H&M といったアパレル
ブランドを抜き、世界ナンバーワン構想を実現することができるのか。UNIQLO をはじめ、
H&M、ZARA といったアパレルブランドのブランディングとビジネスモデルを比較、検証
し課題と展望を提案する。
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1.「UNIQLO」ブランドのビジネスモデル
1-1.UNIQLO の概要
UNIQLO は山口県に本社を置く FAST RETAILING 傘下のアパレルブランドであり、
「MADE FOR ALL」をコンセプトの下に「高品質・ベーシックカジュアル」に特化した路
線を取っている。「FAST RETAILING アニュアルレポート 2010」によれば 2010 年 8 月
期、UNIQLO 事業を展開している国と地域は 10 カ国 944 店舗におよび、グループ売上構
成比 83.2%を占める中核事業である。企画から生産・販売まで一貫して行う SPA 業態とい
うビジネスモデルである。また SPA の各過程においても独自の施策を取っており、それら
が上手く機能することによってブランドとしてマーケットで優位性を発揮しているのであ
る。次の項では UNIQLO の SPA というビジネスモデルにスポットをあてていきたい。
1-2.ブランドコンセプトを可能とする SPA 業態
UNIQLO は SPA 業態というビジネスモデルを導入しており、その SPA 業態を提唱した
のは米国アパレルメーカーGAP の創業者ドナルド・フィッシャーである。GAP が導入した
SPA業態は第1世代と言われており、自身で企画した商品を外部の工場に生産を委託する。
工場の選定の仕方は1200にものぼる取引工場によるオープン型の入札方式により決定され
ていた。入札は個々の商品に対して行われていたため、スケールメリットがはたらかなく
なり結果として商品価格の上昇を招いた。さらに取引工場同士の価格競争に陥り、工場は
利益を出すために生産過程において様々な手抜きを行い品質のばらつき・悪化を招いた。
GAP の SPA は卸等の中間業者を排除し、大幅なコスト削減を可能としたが、1200 にもお
よぶ取引工場を管理することは難しく、品質に差が生じた。またそれを助長したのが工場
を選定する際の入札方式であった。これによって大幅に削減したコストもスケールメリッ
トがはたらかず上昇した商品価格に相殺される形となってしまった。これを教訓に
UNIQLO の SPA はシステム構築されており、導入している SPA 業態は商品を企画し、生
産を委託するまでの一連の流れは同様である。しかし取引する工場を 70 社近くに絞ること
で管理を容易にできる。さらに 1 社あたりに発注するロット数が相対的に大きくなり、工
場側としても大きなビジネスチャンスとなり継続的な取引は経営の安定性に繋がる。これ
だけ大規模な取引をすることで工場の経営にも大きく関与することができ、自社で保有し
ている工場のように動かすことを可能としている。この協業体制を続けることで長期的に
は品質の向上や生産コストを下落させることができ、それが両社にとってさらなる利益・
ビジネスチャンスをもたらすという Win-Win の関係を構築している。これが第 2 世代 SPA
の特徴であり、日本企業の系列化の考え方を取り入れた UNIQLO の SPA である。次の項
以降では UNIQLO の各段階において行っている独自の施策をみていく。
1-3.商品戦略にみる UNIQLO の企画・開発体制
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まず UNIQLO の商品力である。商品戦略はベーシック路線を取っており、商品の品番は
1000 程度である。これは ZARA の 1 万品番、H&M の 50 万品番に比べると圧倒的に尐な
い。両社は服のデザインに価値を見出しているのに対し、UNIQLO は服本来の機能・品質
に価値を見出している。このため UNIQLO の企画・開発体制は川上の東レなどの繊維メー
カーと戦略的なパートナーシップを結ぶことで差別化を図っている。その成功例と言える
のが「HEAT TECH」である。HEAT TECH は発熱・保温・保湿・抗菌・静電気防止・経
常保持・ストレッチという 7 つもの機能を付加した高機能インナーである。これはマーケ
ットに高機能インナーという今までにない新たなマーケットを創造した。こういった新た
なマーケットの創造によって独占的に利益を享受できる。UNIQLO はブルー・オーシャン
戦略を HEAT TECH によって実践したのである。さらに近年では川下のデザインにも注力
するようになっている。2009 年にはデザイナーのジル・サンダー氏と提携し、「+J」とい
う新たなラインも立ち上げ新規の顧客層の取り込みを図った。この提携によって UNIQLO
は最新のパターン・スタイルを手に入れることができたのである。このように UNIQLO は
商品戦略において川上では素材、川下ではデザイン性と差別化を図ることで独自性を打ち
出しているのである。
1-4 徹底した.効率化・厳格な品質管理が行われる生産体制
次に生産面である UNIQLO は生産体制においても様々な施策を講じている。UNIQLO
の生産拠点は中国に集中しており、70 社近くの提携工場で生産されている。提携工場の生
産システムは生地製造から縫製・プリントまで各工程において通常は専門の業者による分
業であるが、一貫して 1 つの工場で全ての工程を行うことで徹底的に効率化を図っている。
さらに UNIQLO の支援により生地や部材がハンガーにかけられ工程を行き来する「ハンガ
ーシステム」を導入し、生産効率を高めている。こうした設備投資に UNIQLO が踏み切れ
るのは長期的な取引関係を築いているためで、さらに取引を深めていこうという相手への
信頼の表れでもある。この他に UNIQLO が行っている施策に「匠」プロジェクトがある。
「匠」プロジェクトとは日本の繊維産業に長年携わってきた熟年技術者を「匠」として、
中国にある提携工場に派遣し、生産の各工程において指導し、品質管理をおこなうプログ
ラムのことである。これにより UNIQLO が謳っている「高品質」を可能としている。その
生産拠点を束ねているのが中国に置かれた生産管理事務所である。150 人を超える生産管理
担当者が毎週担当する工場に赴き、全ての工程をチェックし生産計画を調整するのである。
この体制により UNIQLO は高品質な服を大量に生産することを可能としている。
1-5.店舗に権限を委譲した店舗を中心とした販売戦略
販売面に関して、UNIQLO は店舗のフォーマット化を行い出店を加速させてきた。その
ため全国に 808 もの店舗を抱える。これだけでも多くのエリアをカバーでき消費者を取り
こむことが可能となる。さらに UNIQLO は既存店舗の大型化を進め 1 店舗当たりの収益強
化を図っている。近年ではロードサイド型の店舗だけでなく店舗のバリエーションを増や
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し、都市型店舗、ショピングセンター型店舗、駅構内の小型店舗などと出店エリアを拡大
させている。その他、複合商業施設「ミーナ」の運営も手掛け、核テナントに UNIQLO を
置き、他のテナントとの相乗効果により売上の拡大を図るという新たな試みも行われてい
る。ここまでは店舗戦略を主にみてきたが、その店舗を運営するオペレーションはどうな
っているか。店舗のオペレーションにおける権限は店長のランクによって裁量の幅が違う
が現場である店舗に与えられており、発注量の調整・商品陳列・店舗運営・販促といった 4
つの権限が付与されている。店長はランクによって与えられた裁量の幅の中で店舗が立地
する商圏の特性を加味し自由に権限を行使することができる。その体制をサポートするの
が本部の役割であり、UNIQLO ブランドのもとチェーン店の意思統一を図る重要な役目を
担い、店舗が適正に運営されているかをみるセーフティーネットの役割も果たしている。
こうした戦略の下、UNIQLO は大量の商品を売り切ることを可能としているのである。
2.「ZARA」「H&M」ブランドのビジネスモデル
2-1.ZARA・H&M の概要
ZARA はスペイン・ガリシア地方に本社を置く INDITEX 社傘下のアパレルブランドで
ある。ブランドコンセプトは「ほしいものを形にする」であり、そのコンセプトの下トレ
ンドを重視した路線を取っている。それを SPA 業態によってビジネスモデルとして成立さ
せている。ビジネスの展開は 77 カ国 1723 店舗におよび、売上高は 1 兆 514 億円に上り、
グループの 64.6%を占め同社の中核事業である。
H&M はスウェーデンに本社を置く H&M 社傘下のアパレルブランドである。ブランドコ
ンセプトは「ファッションとクオリティを最良の価格で提供する」としており、トレンド
を重視した路線を取っている。それを UNIQLO、ZARA と同じく SPA 業態によってビジネ
スモデルを成立させている。ビジネスの展開は30カ国2206店舗におよび売上高は1兆3966
億円に上り、単一ブランドとしての売上規模としては世界最大である。
2-2.グローバルマーケットのニーズを収集する情報力
ZARA が商品の企画を立ち上げる際に情報を取得するチャネルは複数あり、現場である
店舗から販売動向・来店動向・来店客の服装等から情報を得て本部に伝達する。その他 ZARA
が抱えるデザイナーが世界各国のマーケットに出張しリサーチを行っている。
H&M はミラノ・パリ・ニュヨークといいた世界のコレクションからトレンドの情報を得
ている。
2-3.トレンドを製品に反映させる企画力
トレンドを収集し商品に反映させる企画力に関しても各社独自の施策を打ち出している。
ZARA はデザイナー、市場動向専門家、バイヤーから構成されるコマーシャルチームが企
画を担っている。コマーシャルチームが手掛ける品番は 4~5 万点におよび商品化されるの
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は 1 万点である。このチームの各役割は「デザイナー」が先述した通り世界各国のマーケ
ットの情報をはじめ、店舗から上がってくる情報をデザインに取り込みデザインを作成す
る。「市場動向専門家」は担当しているエリアから上がってくる情報を売上、注文状況等の
直近のデータに関し、日々連絡を取り合い、デザイナーとの新商品に関する会議で活用す
る。「バイヤー」はチーム内で議論され商品化が決定されたものに対し、どの商品を、どの
タイミングで、どの程度生産するかをさらに議論する。生産開始後は全ての工程において
バイヤーが管理を行う。このコマーシャルチーム内でのきっちりとした役割分担とプロセ
スを経ることで、ZARA の製品群に一定のスタイルを維持するのに役立っているのである。
H&M は商品を企画するチームを 6 カ月チームと 3 週間チームという 2 チームに分け企
画構成を行っている。この 2 つのチームが手掛ける品番は 50 万アイテムにも及ぶ。6 カ月
チームは基本のラインアップをコレクション等の情報から長期的なトレンドを予想しデザ
インに反映させ商品化を投入する。3 週間チームはシーズンに入る前のトレンドの変化を加
味したデザインの作成や、直近の店舗の売上データを下にデザインに修正を加え、追加で
商品開発を行い投入するといった役割を担っている。これによりトレンドの変化に柔軟に
対応できる体制を構築しているのである。さらに H&M では定期的に有名デザイナーとの
コラボレーションしたコレクションを発表し話題性のある商品を提供している。
2-4.スピードを重視させた生産力
「生産」に関しては ZARA、H&M 両社共にリードタイムの短さが特徴である。トレンド
を重視した商品戦略のため、トレンドやシーズンに合わせ投入できなければ過剰に在庫を
抱え込むことになるからである。そのため生産において品質よりもスピードに重きを置い
ている。さらに ZARA・H&M ともに全世界に展開しているため、同じトレンド・シーズン
であってもずれが生じることや、全く違うこともありうる。そのために生産工場も全世界
にある工場と取引することでそのリスクを最小限にすることができ、生産工場を一国に集
中させた場合のカントリーリスクも回避することが可能である。そのことから両社共に工
場は全世界に点在しているのである。
ZARA はファストファッションブランドの中でもリードタイムに関して言えば特に短く、
商品リードタイムは 2 週間と言われる。これを可能としているのがスペイン国内に点在す
る 22 か所におよぶ自社工場である。ZARA は同じく SPA 業態を行う UNIQLO、H&M と
異なり唯一自社に工場を抱えている。これは通常 SPA 業態を取るブランドは小売業出身が
多いが、ZARA が製造業出身ということも大きく影響しており「生産」という過程に対し
非常にこだわっている。自社工場以外にも全世界に 400 社の提携工場があり、最長 6 カ月
といった様々なリードタイムやトレンドによって、上手く工場を使い分けている。
H&M の商品のリードタイムは最短 3 週間であり、全世界にある 700 社にもおよぶ生産
委託工場で生産する。これによって 30 カ国 2206 店舗に展開するマーケットのそれぞれ違
うトレンド・シーズンに商品をベストのタイミングで投入することが可能となるのである。
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2-5.ジャスト・イン・タイムの物流力
物流はファストファッションブランドにとって生命線と言える。いくら生産計画に則り
商品が出来上がったとしても、消費者の手に渡る店舗に行き届くまでにトレンド・シーズ
ンが終わってしまっては、どんなに素晴らしいデザインの商品であったとしても在庫とな
ってしまうのである。そのため物流に関しても両社ともに力を入れている。ZARA の場合
はスペイン国内にロジスティクスセンターを保有しており全世界で生産された商品を再び
集めハンガーにかけ、すぐに店舗に並べられる状態にして週 2 回全世界に発送する。これ
により店舗到着時の商品陳列の手間が最小限に済む。配送は全て航空便で行うことにより
店舗までの到着の大幅な短縮を実現。ヨーロッパ以外の地域でも 48 時間以内での配送を実
現している。このことからも ZARA がいかにスピードを重視しているかの表れともいえる。
一方 H&M は全世界に展開するマーケットをいくつかのエリアに区分し、1 つエリアに対
し 1 つのハブ物流センターを置いている。配送は鉄道もしくは船便によっておこなわれる。
そのためリードタイムが ZARA に比べ务るが、H&M は物流センターをいくつも点在させ
ることにより、トレンド・シーズンに柔軟に対応でき、さらにハブ物流センターから毎日
出荷し各国の物流センターに配送を経由し店舗に届けることにより、商品の新鮮さを保っ
ている。
2-6.高回転を実現する販売力
販売戦略においては ZARA、H&M 両社共に店舗を核とした戦略を中心にしており、TV
等のメディアを大々的に使ったプロモーションは行っていない。ここではその販売戦略に
スポットを当て見ていきたい。
ZARA の場合、店舗も商品の投入サイクルに合わせ 10 日に 1 度更新されている。店舗の
レイアウトデザインは本部のレイアウトデザインチームによりデザインされ、それが全世
界の店舗に通達される。そこから各国の消費者の情報を踏まえたうえでグローバルデザイ
ンをベースに最適なデザインへの変更が行われている。店舗のレイアウトは家具の配置か
らウィンドウのディスプレイの細部に渡るまで全て本部のレイアウトチームが取り決め、
ZARA ブランドの世界観の統一に一役買っている。またストアマネジャーが日々カントリ
ーマネジャーと売上、在庫管理、トレンドの状況等の連絡を取り合うことで常に店舗の商
品を消費者のニーズと合致するベストな状態を保つことを心がけている。
H&M の場合、店舗そのものが広告宣伝であるという考え方から TV 等のメディアを使い
PR することは尐ない。そのため店舗戦略は他社に比べ変わった施策を打ち出している。
まず出店スピードである。H&M では世界の総店舗数の 10~15%の割合で毎年出店しており
出店スピードを一定にすることでコストをコントロールし、生産計画を立てやすくしてい
る。また出店する店舗の立地に関しても 1 等地に出店するというのは UNIQLO、ZARA 共
に新たなマーケットに進出する際は宣伝効果を発揮させるためにも非常に重要であるが、
H&M は UNIQLO のように店舗に標準フォーマットを設定しておらず立地に合わせてコン
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セプトストアから大型のフルラインストアまで非常に幅広い出店バリエーションを持ち合
わせていることが特徴である。また店舗が立地するマーケットの特性に合わせ複数のコン
セプトラインを陳列することで売上を最大化できるかを常に戦略の柱に置いている。
そしてこの多種多様な出店バリエーションが先述したように毎年一定の割合での出店スピ
ードを可能としているのである。
3.「UNIQLO」ブランドの世界 No.1 構想実現への課題
3-1.FAST RETAILING の 2020 年 No.1 構想の概要
2010 年 9 月 13 日、事業説明会において FAST RETAILING 代表取締役会長兼社長の柳
井正は「2020 年に売上高 5 兆円を実現し、世界 No.1 のグローバルリテーラーとなる。」と
宣言した。これが世界 No.1 構想であるが、売上高 5 兆円というのは 2010 年 8 月期の連結
売上高 8148 億円の約 8 倍にあたり非常に野心的な数値設定である。この構想における売上
高 5 兆円の内訳は UNIQLO 国内事業で 1 兆円、UNIQLO 海外事業で 3 兆円、その他事業
で 1 兆円という内訳となっている。この内訳から分かるように UNIQLO 事業で 4 兆円売り
上げなければならず、特に海外事業に至っては 3 兆円という数値設定であり、2010 年 8 月
期の海外事業の売上規模 727 億円から換算すると 40 倍を超える売上規模である。当然これ
だけの売上規模を確保するには、UNIQLO 海外事業の出店スピードをさらに加速させてい
く必要がある。この章ではその UNIQLO の 世界No.1構想が実現可能であるのか現在のビ
ジネスモデルに焦点をあて課題と展望を提案していく。
3-2.市場の強化を図る国内事業
UNIQLO国内事業は世界No.1構想において売上高1兆円という目標を掲げている。2010
年 8 月期の国内事業売上高 6055 億円からさらに 4000 億円近くの上積みが必要となってく
る。この目標は市場全体が尐子高齢化の影響で縮小傾向にある中で非常に高い数値設定で
ある。目標達成のために既存店舗の大型化や、百貨店への出店といった従来の出店エリア
とは異なる出店を行うことで新たな顧客層の取り込みを図り売上の拡大に繋げようとして
いる。しかし上積みできる額には限界がある。現在 UNIQLO はベーシック特化路線を取っ
ており、それにより国内のベーシックカジュアルのマーケットを総取りしてきたが、ベー
シックカジュアルでなおかつ高品質とあっては次回の購入機会までのスパンが長くなるこ
とがビジネスモデルの問題点である。これは海外事業のように UNIQLO が市場において拡
大している段階にあってはいいが、日本のようにマーケットが縮小しなおかつこれだけ
UNIQLO が普及している中では現在の商品戦略において「HEAT TECH」のようなヒット
商品が持続的に出なければ極めて厳しいと言わざるを得ない。これが国内事業 1 兆円達成
への課題となっている。
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3-3.市場の開拓と拡大を図る海外事業
UNIQLO 海外事業は 2010 年 8 月期売上規模 727 億円であり、グループ売上高構成比は
8.9%と国内事業に比べると売上高は見务りし収益に貢献しているとは言い難い。しかし国
内事業に比べると 2010年 8月期海外事業の売上高は前年比 92.6%という高い伸び率を記録
しており、国内事業に比べまだまだ伸び代があると言える。特にその海外事業において成
長エンジンと位置づけられているのが中国市場である。中国市場は欧米市場に比べて
UNIQLO が ZARA、H&M より先行して参入しており、消費者にも UNIQLO ブランドが
浸透している。将来的には中国市場単体で 1 兆円を売り上げることを目標としている。他
のアジア市場においても事業は順調に推移していると言える。さらなる事業規模の拡大に
向け、出店を加速させているが人材育成のスピードが追いついておらず店舗におけるサー
ビスの低下が課題となっている。欧米市場においてはアジア市場の事業規模と比べると進
捗状況は遅れていると言わざるを得ない。進出はアジア市場より早かったにも関わらず、
依然として旗艦店戦略を通じたブランド認知段階から抜け出せないでいる。これは欧米の
アパレル市場は成熟しており、その中でベーシック路線を取っている UNIQLO の商品戦略
がどこまで受け入れられるかが課題となっている。
3-4. リアルとバーチャルをミックスさせた UNIQLO のブランディング
日本国内では絶大な知名度を誇る UNIQLO であるが、海外の市場、特に ZARA、H&M
が先行する欧米市場にあっては、UNIQLO がどのようなブランドであるかを認知してもら
う必要がある。ブランドコンセプトが消費者にきちんと伝わらなければ、店舗網を拡大す
るうえで大きな足かせとなりかねない。そのため UNIQLO は旗艦店戦略と Web 戦略を組
み合わせ、リアルとバーチャルからブランディングを行っている。旗艦店は UNIQLO のシ
ョーケースであることから、商品はフルラインアップで揃え、最先端の VMD を導入し日本
流のきめ細やかなサービスを提供している。これにより消費者は最高の店舗体験を実現し
ておりブランドイメージを具現化でき確立に役立っている。さらに Web 戦略としては
「UNIQLO INTRODUCTION」がある。UNIQLO ブランドを理解してもらうための特設
サイトであり、サイトに掲載されている画像にクリックするとそれに関連する情報を閲覧
することができる。UNIQLO の商品に対してバーチャルな空間で触れることが可能となっ
ている。このようにリアルとバーチャルを融合させたブランディングを行っている。
3-5.トレンド・ファッション性を付加する新たな商品戦略
商品戦略は従来のベーシック路線にトレンド・ファッション性を付加することで新たな
顧客層を取り込む商品を打ち出そうとしている。その試みとして現在は「UNIQLO
INNOVATION PROJECT」を立ち上げ、外部からクリエイティブ・ディレクターの佐藤可
士和氏とデザイン・ディレクターに滝沢直己氏を起用し UNIQLO ブランドの再構築を商品
から手掛け、ベーシックに画期的な機能性とデザイン性を融合させて究極の普段着を目指
![Page 11: アパレル業界の経営戦略zenkyu55.web.fc2.com/ronnbunn/2-16-1u.pdf · 1000 程度である。これはzara の1 万品番、h&m の50 万品番に比べると圧倒的に尐な](https://reader031.vdocuments.site/reader031/viewer/2022020115/5c6cad7809d3f21b2e8b49b8/html5/thumbnails/11.jpg)
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すとしている。さらに UNDER COVER といたブランドとコラボレーションした商品を投
入することで UNIQLO に新たなパターン・スタイルを取り込み、商品開発体制をよりトレ
ンド・ファッション性を打ち出せる体制へと進化を遂げるため、今後も継続的に有名ブラ
ンドとのコラボレーションを行うとしている。
3-6.グローバル展開を見越したサプライチェーンの再構築
UNIQLO の現在の店舗網は日本国内中心であり、生産拠点も中国に集中しており、今後
海外に展開するうえでアジア偏重のサプライチェーンの再構築をする必要がある。特に生
産拠点が中国一極集中すればカントリーリスクの危険性が高まり、近年は所得が増えマー
ケットとして認識されるようになり、UNIQLO が提携する工場にも賃金の値上げ圧力が高
まっている。そのため依然のような利益水準を確保することは難しい。この対策として
UNIQLO はバングラディシュ、ベトナムなどの東南アジアに生産拠点を開設し、中国にお
ける生産比率を引き下げリスクヘッジしようとしている。加えて生産拠点を拡大させるこ
とで今後見込まれる生産量の増大に対応できる体制を構築しようとしている。生産体制の
構築だけでなく品質の維持も大きな課題となっており、現在の「匠」プロジェクトをさら
に徹底させる必要があるが、人員の問題から非常に難しく「匠」の後継者を育成する必要
に迫られている。
3-7.販売を担う人材育成システムの構築
さらに販売戦略においても人材育成という課題が残る。特にこの問題が深刻なのは中国
市場である。急速な店舗出店に対し人材育成のスピードが追いついておらず、そのため教
育が徹底せずサービスの質が低下しそれが店舗の売上を押し下げる可能性がある。この問
題は欧米市場も UNIQLO が市場拡大局面に入れば、いずれ顕在化してくるであろう。
そのため人材の育成システムをグローバルで構築する必要がある。UNIQLO では施策とし
て「民族大移動」というグローバルで育成する体制の構築を進めている。まずは日本国内
から海外店舗へ社員を派遣し海外のオペレーションを学ばせ、入れ替わりに国内では海外
店舗で働く社員を日本店舗に迎えきめ細やかな日本流のサービスを指導していくことで、
社内全体で人材交流を活発させサービスの向上を「民族大移動」という体制の下で持続的
なものとし、既存店舗においても収益の強化に繋げる戦略を取っている。
3-8.次世代の経営を担う人材輩出機関
UNIQLO において最大の事業リスクは FAST RETAILING を率いる柳井正自身である。
ここまで UNIQLO が大きな成長を遂げてきたのは柳井正のカリスマ性によるところもあ
る。その強烈なリーダーシップを失えば、事業展開は大きく失速する可能性がある。その
ため次世代の経営を担う人材を育成し、円滑に引き継ぎ事業の継続性を保つ必要がある。
このことから FAST RETAILING は企業内に「FR-MIC」というビジネススクールを開講
![Page 12: アパレル業界の経営戦略zenkyu55.web.fc2.com/ronnbunn/2-16-1u.pdf · 1000 程度である。これはzara の1 万品番、h&m の50 万品番に比べると圧倒的に尐な](https://reader031.vdocuments.site/reader031/viewer/2022020115/5c6cad7809d3f21b2e8b49b8/html5/thumbnails/12.jpg)
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し、社内と社外から 100 名ずつ計 200 名を選抜し育成していく。経営者を育成し輩出する
機関を設立することは UNIQLO の事業リスクを軽減することが可能となる。さらに今後欧
州・米国の本部にも経営者育成機関を設立し、全世界的に経営人材を輩出する体制を整え
ていこうとしている。
結論
UNIQLO は「MADE FOR ALL」のブランドコンセプトの下、顧客層を絞らないベーシ
ク路線を取り服本来の品質・機能を追求し低価格で提供することで、日本国内のマーケッ
トを成長エンジンとして急成長を遂げてきた。しかし、日本のマーケットは尐子高齢化の
影響で縮小傾向にある。今後、さらなる成長を遂げるには海外事業に注力する必要がある。
そのため UNIQLO は世界の主要都市に旗艦店を出店し、世界進出を本格化させている。
UNIQLO の市場拡大局面においては、現在のビジネスモデルが上手く機能していくが、
日本国内のように UNIQLO ブランドの商品が幅広く普及しているマーケットにおいては
持続的な成長を続けるには、新たな顧客層の取り込みが必要不可欠であり商品戦略の見直
しが不可避となっている。その商品戦略モデルとなるのが ZARA、H&M といったファスト
ファッションブランドである。トレンドを重視したラインアップを打ち出すためには、従
来のビジネスモデルを中心に構築してきた体制の再構築が求められる。世界展開を本格化
させる中で UNIQLO は現在の体制をグローバル化に耐えうるものへ進化させているが、
これを機に ZARA、H&M といったビジネスモデルの体制を取り入れる必要があるのではな
いか。それが従来のビジネスモデルの課題を打ち破る新たな解となる。またその新たなビ
ジネスモデル成立をさせてこそ、ファストファッションを超える成長性を実現し、UNIQLO
がアパレル業界において新たな潮流を生み出し「世界 No.1 構想」を実現できると考える。
![Page 13: アパレル業界の経営戦略zenkyu55.web.fc2.com/ronnbunn/2-16-1u.pdf · 1000 程度である。これはzara の1 万品番、h&m の50 万品番に比べると圧倒的に尐な](https://reader031.vdocuments.site/reader031/viewer/2022020115/5c6cad7809d3f21b2e8b49b8/html5/thumbnails/13.jpg)
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参考文献
新井美江子・大坪亮『ユニクロ 柳井正の野望と死角』週刊ダイヤモンドオンライン
第 98 巻 23 号 2010 年 5 月 pp.26-57
波田野久美 『世界最強チェーンの正体』販売革新、08 年 9 月号
ホセ・マルシア『ZARA-グローバル SCM』月刊ロジスティック・ビジネス 04 年 11 月号
横田増生 『ユニクロ帝国の光と影』文藝春秋 2011 年
川島幸太郎 『ユニクロ・柳井正 仕掛けて売り切るヒット力』ぱる出版 2009 年
川島幸太郎 『なぜユニクロだけが売れるのか』ぱる出版 2008 年
片山修 『柳井正の見方・考え方』PHP 研究所 2009 年
梛野順三 『ユニクロ増収増益の秘密』ぱる出版 2010 年
松下久美 『ユニクロ進化論』ビジネス社 2010 年