y=exp(ee十eix) (1) -...

16
153 回帰式推定における変数変換について 1.はじめに 回帰分析において,より良い回帰モデルを求めることは重要である。回帰モ デルは,散布図の形から推測するか,対象とする現象の性質より特定されるこ とになる。多くの場合には,多項式モデルによる線形モデルにより表現される。 しかし,これが非線形方程式になることもしばしばある。非線形方程式のパラ メータ推定は,Gauss-Newton法により行うことができる(6)。本稿では,この ような非線形推定法によらず,変数変換法による線形化モデルについて論じる。 回帰推定における変数変換の例は,経済学のCobb・Douglas型生産関数, 種々の需要関数の推定などに見られる。理工学の分野では,化学反応,制御過 程などの多くの現象は非線形関数により表現される。このような非線形モデル で推定の際に問題となるのは,パラメータに関する非線形性である。 モデルの形式には y=exp(ee十eix) (1 のように,変数変換により線形化できる線形化可能モデルと y=:bo(e-eex-e-e;m) (2 のように,線形化できない本質的非線形モデルが存在する。しかし,線形化可 能モデルにおいても誤差項の加法性,定分散性の条件を満足するかどうかが問 題となる。これに関して,分散安定化変換の立場(4),(8)よりの変数変換に ついて論じる。 さらに,Box G. E.PとCox D. R.(2)による総合的な立場よりのべキ変換 モデルの応用について考察する。この場合には,非線形モデルとしてベキ導線

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Page 1: y=exp(ee十eix) (1) - libdspace.biwako.shiga-u.ac.jplibdspace.biwako.shiga-u.ac.jp/dspace/bitstream... · 4.3.依存変数yのBox-Cox変換による安定化変換

153

回帰式推定における変数変換について

森 健  一

1.はじめに

 回帰分析において,より良い回帰モデルを求めることは重要である。回帰モ

デルは,散布図の形から推測するか,対象とする現象の性質より特定されるこ

とになる。多くの場合には,多項式モデルによる線形モデルにより表現される。

しかし,これが非線形方程式になることもしばしばある。非線形方程式のパラ

メータ推定は,Gauss-Newton法により行うことができる(6)。本稿では,この

ような非線形推定法によらず,変数変換法による線形化モデルについて論じる。

 回帰推定における変数変換の例は,経済学のCobb・Douglas型生産関数,

種々の需要関数の推定などに見られる。理工学の分野では,化学反応,制御過

程などの多くの現象は非線形関数により表現される。このような非線形モデル

で推定の際に問題となるのは,パラメータに関する非線形性である。

 モデルの形式には

   y=exp(ee十eix) (1)のように,変数変換により線形化できる線形化可能モデルと

   y=:bo(e-eex-e-e;m) (2)のように,線形化できない本質的非線形モデルが存在する。しかし,線形化可

能モデルにおいても誤差項の加法性,定分散性の条件を満足するかどうかが問

題となる。これに関して,分散安定化変換の立場(4),(8)よりの変数変換に

ついて論じる。

 さらに,Box G. E.PとCox D. R.(2)による総合的な立場よりのべキ変換

モデルの応用について考察する。この場合には,非線形モデルとしてベキ導線

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 154 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号)

形モデルを仮定し,ベキの値を推定することになる。

            II.変数変換の目的

 変数変換の基本的な目的としては,通常つぎの4つがあげられる。

 1)回帰式の簡単化,線形化(ケチの原理)

 2)誤差分散の安定化(定分散性の満足)

 3)誤差項の独立性のより良い達成

 4)誤差項の正規性のより良い達成

 Boxらのモデルは,これらの条件を満足させることを目標としているが,

尤度解についてもかなりの数値計算を必要とする。また,一般によく用いられ

る対数変換,逆数変換などでは,誤差項に関する2)~4)の仮定が乱されるとい

うことが生じうる。

 ここでは,この種の線形化回帰についてての基になる変換モデルの仮定とと

もに,誤差項の定分散化の方法について考察する。この結果として,Bartlett

の分散安定化変換法を援用した変数変換法を提案する。同時に,Boxらの方

法についてもその数値計算についての提案を行なう。

 これらの結果として,非線形推定法にたよることなく,よい回帰推定がなさ

れることを示す。

       III. Bartlettによる分散安定化変換について

 定分散の仮定2)が成立しない確率モデルを取扱う問題がしばしば生じる。

Bartlett(4)は,このような場合に有効な変数変換の方法を提案している。

 ある確率変数Xの変換をφ(X)とすると,その平均値ξ近傍での展開より,

Y=φ(X)とおき

   E(y) cr ip (e) (3)   y-E(y) =¢’ (6) (x-e) (4)を得る。これより

   V(y)or{φノ(ξ)}2Y(x)                                   (5)

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                回帰式推定における変数変換について  155

が求まる。いまV(x)=g2(ξ)σ2なる分散不安定性があれば

   V(y)={φ’(ξ)}292(ξ)σ2                         (6)

となる。これを定分散化するにはφs(ξ)g(ξ)=1とおいて,変換φ(・)を

   φ(ξ)七,毒)・・     (・)

と定めればよい。たとえば,g(・)とφ(・)の

   9(ξ)==k>!で一 → φ(ξ)=v?/々

   ・(ξ)=・・kξ一φ(ξ)一ti・ξ

という対応より,それぞれ平方根変換,対数変換が有効なことがわかる。

        IV.分散安定化を考慮した変数変換回帰

 ここでは,3通りの安定化変換について考察し,それぞれに対応する変換を

提案する。この考察において対象とするモデルは,式(1)の線形化可能タイプ

である。このとき問題となるのは,最小自乗基準が非変換の

                 

   H、=Σ(蟄一yi)2               (8)     f=1

と変換形の

      れ                H2=Σ{φ(2/i)一φz(yi)}2                     (9)

     i=1

とで,求まる解が異なることである。ただし,πは観測値の個数とする。この

基準の問題についても論じる。

 4.1。加法形誤差項での変換

 ここでは,モデルとして加法的な誤差項を付加した

   y=rp(x[e)+e

    =rp(xle) {1十E/v(x/e)} (lo)を考える。ここにη(xlθ)は,独立変数x=(x、,……, Xp)とパラメータθ

=(θ1,……,θ,)をもつ応答関数であり,E(ε)=o, E(ε2)=σ2とする。

 このとき,パラメータθに関する非線形性をもつ応答関数η(以下簡単のた

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156  吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号)

め変数部分を略する)の線形変換をφ(・)とすると,式(10)の変換は

   iP (y)=φ(η)・φ(1十ε/η) (乗法系変換)           (11)

または

     =φ(η)+φ(1+ε/η)(加法系変換)          (12)

と書ける。

 式(11)で,右辺第2項を展開すれば

   ip(y) :¢(rp)[ip(1)十g6’(1)e/rp] (13)

となる。さらに,φ(1),φノ(1)が定数なることから,φ(1)=1,φ’(1)=kと

おくと

   ip (y)rip (rp) 十[le ip (n) /rp]E (14)

を得る。このとき,最小自乗基準は加重形式

   H3=Z.wi{¢(y,)一¢[v(x,le)]}2 (ls)     f鴇1

 となる。ここに,κ,,yi(i=1,……, n)は第∫番目の観測値であり,加重

係tW Wtは

   w,={le¢[rp(xi)IO)]/v(xile)}’2 (15)’

である。この例としては逆数変換がある。

 他方,式(12)の変換形では,その第2項の展開より

   ¢(y) cr ip (n) 十 ip (1) 十¢’ (1)s/n

     =¢(lj)十ki十k2e/rp (16)となる。ここにk、=φ(1),k2・・ il’(1)は定数である。この推定には,式(15)

の加重係va Wiを

   w,=[rp(x,)/le,]2 (16)’とすればよい。この例としては,対数変換が考えられる。

4.2.Bartlett分散安定化の利用

式(10)の回帰モデルでの変換φ(・)がモデルを線形化し

  Z一 ip (y)

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               回帰式推定における変数変換について  157

       グ   =Bo+ Σ]BゴX,十ε’                                  (17)

      弁1とするものとしよう。ここにB」,(ゴ=0,……,r)は,元のパラメータθゴ,

(ブ=1,……,のの,X」はX」,(戸1,……, p)の関数であり,誤差項ε1は

E(ε1)=oで,V(ε1)=g(Yz)σ2(i=1,……, n)とする。このとき,回帰関数

Z=φ(y)に式(4)と同様の関係

   乙一Zi !g6’(yi)(y,一yi),(i=1,……, n)        (18)

を得る。ただし,齢は第ゴ番目の観測値の推定値乙=φ(鱗)とする。この

関係よりg(y,)={φ’(yi)}2となり,最小自乗基準は

     だ           H4=Σ(yi-yi)2     i=1

     れ                    

    =Σ{ip’(yi)}一2(Zi-Zi)2           (19)     ∫=1

となる。これは,式(15)のH3で

   ω、={φ’(yi)}一2             (19)’

としたものと一致する。ただし,式(19)では加重係数w,が推定値yi依存であ

るから,その初期値を

   齢=yi,(i=1,2,……, n)               (20)

として,繰返し計算をする必要がある。同様に,式(15),(16)の加重係数もη,

φ(η)に依存するので,パラメータ推定値を必要とし,繰返し計算となる。

 この状況を数値例により示すことにする。

回帰モデル例1.

 モデルとして

     θ,x       +ε                    (21)   忽=    θo十x

を考える。逆数変換により

  Z=y i=Bo十B,X十ε’                                   (22)

とな:る。ここに

  Bo=1/θ1, B,==θo/θ, Xニ1/x

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 158 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号)

である。このとき,式(15)tより

   Wt=[1/η睾]一2

    =η1

となる。他方,式(19)tより

   w、 ==(1/yi) 4

     ^4N  4    瓢箪一η乞

となる。本質的にこの2方式は一致する。

回帰モデル例2.

 モデルとして

   y=θoe一θ’X+ε                                        (23)

をとりあげる。対数変換を用いれば,式(22)と同じ線形モデルが求まり,式

(15)「より加重係数は

         Wi =rp;

となる。他方,式(19)ノより

   Wi・=[1/〃、P

     〈2~  2    =隣一η・

となる。

 これらのモデル例では,上述の2方式はほとんど同一の推定手順を与えるこ

とがわかる。

 4.3.依存変数yのBox-Cox変換による安定化変換

 これは,基本的にはBox-Hillにより提案された分散安定化法(3)の考えを

用いる。かれらは,誤差のモデルでの分散の不均一性

   1!(εi)==Ciσ2, (i=1,・・一・・, n)                            (24)

をy tlこ対するBox-Cox変換により修正する方法を提案した。ここにOzは未

知定数である。またBox-Cox変換は,変換パラメータをλとすると

   φ(・)・・ yCA)一/(∵)謄:  (25)

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と定義される。

 この考えを式(18)に適用すると

  φ’(yt)=Ψ1λ一1)

より,式(19)のH4は

     れ                 H,=Σy呈(1『え’(Zt-Zi)2

     i=1

回帰式推定における変数変換について  159

(26)

となる。よって,問題は式(26)を最小にする線形パラメータ推定問題となる。

このとき,逆数型の変換ではλ=一1となり,加重係数瑚=班4とする例1

の推定問題と一致してくる。

 しかし,現実の推定問題では得られるデータが必ずしも理論を満足するとは

限らず,通常はべきの値は4より少しずれた所で,最良の推定結果が得られる。

すなわち,推定問題としては,変換パラメータλも含めて(2,.B。,……, Br)

を推定する問題となる。

             V. 回帰式の推定

 w,・・yi(1“n)として最小自乗法による式(26)の基準よりの回帰係数B=(B。,

B、,……,B,)’の推定量は

   B=(.X/1曜7’X)一IX’WW「                                 (27)

となり,推定値の分散共分散行列は

   V(B) =(X’VVX)一ia2 (28)となる。ここに,Xは式(17)の独立変数X,の観測値X、d,(∫=1,……, n;

ブ=0,1,……,r)を要素とする(n X r)行列, W =diag(ω1,……, Wa), Z

=(Z1,’鱒”㍉ 2n)’である。さらに,σ2の推定値は

   σ2=(e/r7e)/(n-r)                             (29)

となる。ここにe==Z-z,rは求めるパラメータの個数である。

 また,変換パラメータλの推定は,H、の同時最小化問題として数値解析に

よることにする。

 ついで回帰モデルの良さを比較するためには,変換されたモデルを逆変換に

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 160 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号)

より式(10)の初期モデルに変換し,式(8)の基準について評価する必要がある。

比較のためにさらに有効なのは重相関係数の自乗R2である。この値が1に近

いほど,その推定結果は良いと判定される。

1V.数値計算例

例1として,表1に示す10組のデータにより4.2での回帰モデル例1のパラ

メータ推定を考える(13)。このモデルは,既に示したように,逆数変換により

          表1.加重していない回帰による結果

No y 推定値y 残 差

1234567890

         1

12.7

21.1015

51.7063

77.2201

212.314

 9.50029

22.5022

42.3012

67. 7966

234.742

.103

.466001

.767001

1.57299

2.46202

.083

.399001

. 888999

1. 735

2.35999

 .1213

 .222143

 .867189

 2.56182

-1.68549

 .0876438

 .240995

 . 600074

 1. 65229

-1.54555

一.0183003

 .243858

一.100188

一.988825

 4.14751

-O.00464

 .158005

 . 288926

 .0827096

 3.90554

 回帰の分散=4.20226 標準偏差=2.04994

 変換Mode1:Z=一1.15555十119.375*X 初期Model Parameter:θo=一103.305 θt=一. 865385

 重相関係数R2=一3.70575

線形化される。式(22)の線形推定で,式(8)の等加重基準H、によれば

   Z=1. 156 十 119. 37X

と推定される。これを逆変換すれば,初期モデルは

      一〇. 865x   蜜=     一103.26十x

となる。この推定結果は図1.に示すようにx=103.26で不連続な直角双曲線

となる。そして,データNo.5,10の点を説明していない。これは,逆数変換

の結果,誤差項の等分散性が乱れていることによるものと考えられる。

 これを改善するため,分散安定回帰を用いる。この結果は表2に示すように

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h

3

2

1

 ;2 7:

6va

L-O

9.

 s

 

8.3

回帰式推定における変数変換について  161

L二2.8

 5  .10

 100 200       x図1.数値例1の回帰結果

表2.数値例1の加重回帰

300

No y 推定値y 残 差

1234567890

        1

12.7

21.1015

51.7063

77.2201

212.314

 9.50029

22.5022

42.3012

67.7966

234.742

.103

.466001

.767001

1. 57299

2.46202

.083

,399001

.888999

1.735

2.35999

. 438009

.670418

1.27638

1.60734

2.41474

.338688

.70565

1.12105

1.49793

2.48285

一.335009

一.204417

一.509378

一.0343419

 . e47282

一.255688

一.306649

一.232048

 .23707

一.122859

 回帰の分散=.0876813  標準偏差=.29611 θ,= SS.5158  θi=3,38735  重相関係数

   Z=O. 295 十25. 246X

となり,逆変換により初期モデルは

 Z=. 295216十25 . 2456 * X

R2=.901813

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 162 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号)

     3. 387x          (R2 :O.902)   y=    85.516十x

となる。

 ここで,式(26)の加重係数をyiのし乗,すなわち

   zvi 一一 Ay eCl-R)

    =yf (i=1,一一・一, n)

とする。このとき,理論的には最小自乗推定を与えるべき乗は逆数変換では

A=一1すな:わちし・4であるが,実際にはデータの性質により少し異なる。

表1のデータにおいてこれを求めてみると,だいたいし=2.8となった。この

結果は,表3に示す通りであり,推定された初期モデルは

表3.加重係数のべき乗L=2.8とした回帰結果

No y 推定値y 残 差

1234567890

        1

12.7

21. 1015

51.7063

77.2201

212.314

 9.50029

22.5022

42.3012

67.7966

234.742

.103

.466001

.767001

1.57299

2.46202

.083

.399001

.888999

1.735

2.35999

.340945

.537838

1.11285

1.47115

2.51558

. 260327

. 568744

. 956144

1.34882

2.61705

一.237945

一.0718372

一.345848

 . 101843

一.0535572

一.177327

一.169743

-0671441

 .386177

一.257052

回帰の分散=.0533255 標準偏差=.243568

変換Model:Z=.236207十34.2496*X初期Model Parameter:θo=144.998 θ,・=4.23358

重相関係数R2=.9333566

     4, 234x          (R2= O. 934)   y ==     145.0十x

となる。このときλ=一〇.4となり,加重係数よりみればBox-Cox変換では

逆平方根変換(or)一1が良いことを示している。

 ついで推定例2として,化学反応過程での理論式のパラメータ推定(5)につ

いて考察する。この理論式は

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   回帰式推定における変数変換について  163

表4.数値例2のデータ

No Xl X2 X3 応答値y

123456789012345678901234

         111111111122222

8876967239 63

・・・・・・・・・… 

7142162 31

54914226300174・・・・・・…

000020103700915055067105

242424241433230000001554

              3333314221

99927296823627 715 694

024722620484261311393481

997890894461444444808949

  11 11111 2111111 2 212

13493949697751 24 4 9572

769468447611076077632140

334412338880158988633415

    唱■111     1  1

17423871616463834218244

499296959298894050740059

536752741080616303260675

3264  2232 5512333112971

                  1     1

      eee2(x2-x3/K)                                (30)   翌=     1十eiXi十e2×2十e3×3

であり,実験データは表4に示す通りである。ここに,θ。,θ,,θ、,θ3は推定

すべきパラメータであり,K=1.632で, Xl,κ2,κ3は設定される独立変数で

ある。式(30)は,逆数変換により

   z= B,+B,x,+B,x,+B,x,

と線形化される。ここに

   z==x,/y, x,=x,一x,/K, B,==1/e,e,,

   B,=e,/0,e,, B,=1/e,, B,=e,/e,e,

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164 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号)

       表5.加重係数のべきL =1.9とした回帰結果

変換モデルのParameter

 B,= 1.22139 B,==. 0517992 B, =. 0264014

 B3=. 118727

初期そデルのParameter

 e“=:37.8767 e,==.0424099 e2=.0216158 e,=.e972064

No 観測値y 推定値y 残 差e

123456789012345678901234

         111111111122222

17423871616463834218244

54

R9

ネη592679451902890868P64300530解640060得59

3264   2232  551233311129711

3.64796

2. 44048

6.40909

4.94433

 .736023

 .5793

3.15562

2.53533

3.91671

2.28879

 .64529

4.4e326

6.27901

1.26058

2.84947

2.82801

2.81111

2.83613

1.57645

11.6937

2.2015

9.99047

7.00587

11.628

 .106965

 .0434811

 .284907

 . 222325

 . 143023

 .3113

 .358616

 . 0843294

 .720708

 . 267794

一.25071

一.680744

 .593009

 . 0675807

 .201472

  474987

  242891

  46587

  3e5449

  045743

  199504

  386467

  748128

  038044

  回帰の分散=:.162928 標準偏差=.403644 重相関係数 R2・・.986571

である。このとき,加重係数wzは

    Wt=!ノ量/劣観  (i=1, 2,・・・… , n)

となる。この推定により求められたモデルは

           2. 727 (x2 一 x3/1. 632)

                                 (R2=O. 985)     y=        1 十〇. 138x, 十〇. 089x, 十〇. 293x,

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                回帰式推定における変数変換について  165

となる。数値例1と同様に考えて

   wi==(9t/v’]IIEt)L (i一一1,・・・…, n)

とおいて,しも同時に求めるとし=19付近で最良の結果

   ・一、+轟灘瀧鷲も、7。,(R・・・・・…987)

を得る。これはし=4の場合と比較して,乗相関係数R2はそれほど変わらな

い。しかし,推定されたパラメータ値は,かなり異なっているといえる。この

推定結果は,表5に示す通りである。

 上述の通りこれらの推定におい                               数値例2                 1.0て,加重係数の大ぎさを与える乗

tw Lを変えることにより,推定の                出湯さが変化する。このしと推定の 暇                伍良さの指標としてOfimca係数の轟

自乗R2との面面上述の・ 唐O’5

の数値例について示したのが図3商

である。どちらの例も逆数変換な

ので,L=4となることが期待さ  0.1

れる。しかし,最良のR2を与え

るLは,これと少し異なっている。

これらの値は上述の通りである。

ただし,数値例2では,

ズー繍lx/

1

o l t 2 3  x加重係数の乗数L

しとR2の関係

4

                     図3

           L =4としてもR2はそれほど変わらない。しかし無

加重すな:わちし=0では,推定結果は良くない。特に数値例1のそれは,全く

誤った推定値となっている。

VII. 線形変換推定についての考察

まず,求められた推定方式をまとめてみると,次のように書ける。

①与えられている関係

  y==rp(xle)+e

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 166 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号)

  に適当な変換φ(・)を施して,線形関係式(17)を求める。

 ③求められた線形式のパラメータBを式(19)のH、または式(26)のH,を用

  いて,最小自乗推定する。

 ③推定値Bと逆変換により元のパラメータとモデルを求める。

 この方式において推定基準となるH4, H5の加重係数は, yに対する変換

φ(・)により理論的に定まる。これは,一般にべき乗の形式になるが,その理

論値は必ずしも良くないことを数値例により示した。これよりW、 ・・ Y;とし

て,べき乗値しも同時に推定する方式を提案した。数値例よりもわかるように,

しの困睡推定値は理論値(逆数変換では4,対数では2)より小さくなる傾向

がある。その原因は,現実データの木確定性にもあると考えられるが,次のよ

うにも考察される。

 すなわち,式(18)の変換式では2塗以上の項が除いてあるが,これに起因す

ると見るわけである。2次項も含めた展開は

   z= ip (y)

   一φ⑰・殉)(y-y)・静(蜘一9)・+・(n-2)  (・・)

となる。0(一2)を無視して両辺の期待値をとると

   E(z) 一¢(Ay)+S-ip”(y’L)v(y) (32)

なる関係を得る。これはZの期待値とφ(y)の間に偏りがあることを示してい

る。その値は,逆数変換では

   一ll一¢”(g)V(y) =a2/?3

となり,加重係tw Wiに影響を与えるものとみられる。

 もう1つの問題点は,評価基準に関するものである。式(8)の基本的な基準

Hエは,もちろん式(9)の変換基準H,とは等価ではない。これらを結合する

のが加重係tw Wiであり,その決定法については,4.1,4.2節において述べた

通りである。この結果,H、, H、, H,の加重型推定基準が導かれるわけである。

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回帰式推定における変数変換について  167

VIII.結 言

 本論文では,変換により線形化が可能な非線形モデルのパラメータ推定につ

いて述べた。コンピュータが普及した今日でぽ,非線形モデルのパラメータ推

定はそれほど困難な問題ではない。しかし,非線形性には種々の推論を進めて

行く上での見通しの悪さがある。他方,線形モデルでは問題は少ないといえる。

また,モデルを線形化し,推定基準を正しく設定することにより,累積されて

いる線形モデルの成=果が使えると考えてもよい。

 ただ問題となるのは,線形化変換のそれであろう。ここでは,いくつかの可

能性を示し,具体的な問題として定式化し,推定法を提案した。ただし,統計

的推論の問題については,それほど触れていない。しかし,逆変換に伴う配慮

を入れて線形推論の従来の方法が,ほとんどのまま使えると考えられる。

             引用および参考文献1. Anscombe, F. J. and Tukey, J. W.: ”The Examination and Analysis of

Residuals”, Technometrics, Vol. 5, No. 2, pp. 141一一160 (1963).

2. Box, G. E. P. and Cox, D. R.:“An Analysis of Transformations,” J. Roy.

Stat. Soc. Ser. B, Vol. 26, pp. 211-252 (1964).

3. Box, G. E. P. and Hill, W. J.: ”Correcting lnhomogeneity of Variance

with Power Transformation Weighting”, Technornetrics, Vol. 16, No. 3, pp

385-389 (1974).

4. Bartlett, M. S.: ”The Use of Transformations”, Biometrics, Vol. 3, pp.

39-57 (1947).

5. Carr, N L. : ”Kinetics of Catalytic lsomerization of n-pentane”, lnd. &

Eng. Chemistry, No. 52, pp. 391-396 (1960).

6. Draper, N. R. and Smith, H.: Applied Regression Analysis, John Wily

(1966).(中村慶一訳:「応用回帰分析」森北出版(1968))。

7. Hartley, H. O. : ”The Modified Gauss-Newton Method for Fitting of Non-

linear Regression Function by Least Squares”, Technometrics, VoL 3, pp・

269-280 (1961).

8. Himmelbrau, D. M. : Process Analysis by Statistical Methods, John Wiley

(1970).

9. Kendall, M. G. and Stuart, A. : The Advanced Theory of Statistics, Vol.

3, pp. 85-96, Charles GriMn (1966).

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168 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号)

10.森健一,黒沢敏郎:“時系列データのべき変換について”,日本経営工学会誌,

 Vol.26, No.3, pp.244-249 (1975).

11.黒沢敏郎,森 健一=“加重2乗和規準による適応的予測法(第3報)”日本経営工

 学会誌,Vo】.30, No.1, pp.48-53(1979).

12.黒沢敏郎,森 健一,加瀬滋男:“非正規誤差をもつ時系列データのべき変換パラ

 メータの推定法”,日本経営工学会誌,Vol.30, No,3, pp.245-250(1979).

13.後藤昌司:「多変量データの解析法」,pp.88-90,科学情報社(1975)。