the hr agenda magazine - jan-mar 2014 issue (日本語版)

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Volume 3 Issue 3 ISSN 2186-277X あけましておめでとうございます! Japan’s first bilingual HR magazine published by The Japan HR Society (JHRS) THE AGENDA ® 2014 1−3 月号 定価1575円(税・送料込み) 無料!ヂジタル版のみ HRのなかで先を行く、突拍子もない研究とデジタルの新しい特質 11 ゲーミフィケーション 14 未来はだれのものか? 16 自分の庭にシリコンバレーを作ろう 21 HR 2.0 ヒト、アイデア、テクノロジー

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Japan's first and only bilingual HR-focused magazine, published quarterly by The Japan HR Society (JHRS). This issue's theme: HR 2.0

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Page 1: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

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Volume 3 Issue 3 ISSN 2186-277X

あけましておめでとうございます!

Japan’s first bilingual HR magazine published by The Japan HR Society (JHRS) THE AGENDA®

2014年1−3月号定価1575円(税・送料込み)無料!ヂジタル版のみ

HRのなかで先を行く、突拍子もない研究とデジタルの新しい特質 11ゲーミフィケーション 14未来はだれのものか? 16

自分の庭にシリコンバレーを作ろう 21

HR 2.0ヒト、アイデア、テクノロジー

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発行人からのメッセージ意味のある活動をしよう。HRを目指そう2014年に向けてのJHRSコミュニティ現状報告カビッティン・順 MBA/MS/HRMP

JHRSコミュニティ ・ニュース2014年の女性のリーダーシップ 私たちの達成希望リストエリザベス・ハンドーヴァー ミレイル・ワタナベ・ハンドーヴァー

アウトソーシングとシェアードサービスを活用する「The HR Agenda」

特集記事

HRのなかで先を行く突拍子もない研究とデジタルの新しい特質ヒルダ・ロスカ・ナルテア

ゲーミフィケーションデイビッド・バートン

ウォートンの知恵未来はだれのものか?

日本における個人情報の保護圓山 卓 弁護士

HR法律相談

有期労働契約従業員への年次有給休暇の付与大山滋郎 弁護士

人材管理

“ミックス”に加わろうハイテクセンターとしてのシリコンバレーがもたらす独特の人材・文化のブレンドジェームズ・ロビンソン

自分の庭にシリコンバレーを作ろうジェームズ・サンタガタ

HRに聞け

“積極的な中断”をHRとビジネス実践に持ち込むアンドリュー・マンターフィールド 松井義治(ヨシ)

書評

従業員による「新世代電話」の使用を管理することステファニー・オーバーマン

論説HR 2.0 ヒト、アイデア、テクノロジーアネット・カセラス

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目 次2014年1−3月号

最新のHR情報を発信し、日本と世界のHRプロフェ

ッショナルの橋渡し役となって、人事・労務の事例、

一般慣行や体系的知識の普及促進を目的とする。

「The HR Agenda」 の使 命

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「The HR Agenda」はThe Japan HR Societyが出版する日本初かつ唯一の2ヶ国語人材(HR)専門季刊誌。制作はエイチアールセントラル株式会社(The Japan HR Society事務局)のエイチアール学習・出版部門。

THE AGENDA®

Japan,s first bilingual HR magazine published by The Japan HR Society (JHRS)

発行人  TheJapanHRSociety(JHRS) [email protected] www.jhrs.org www.jhrs.org/hr_agenda統括編集人 カビッティン・順MBA/MS/HRMP [email protected]

編集長 アネット・カセラス [email protected]

上級寄稿編集者 ステファニー・オーバーマン

上級編集者 岡本浩志

寄稿編集者 ヒルダ・ロスカ・ナルテア

翻訳者 澤田公伸大川紀男 岡本浩志サイラ・モリイ デザイン・制作   ブーン・プリンツ デザイン担当 アネット・カセラス

広告セールス・ エイチアールセントラル株式会社マーケティング [email protected] および配布

編集補佐 マーク・スィリオ

編集局 エイチアールセントラル株式会社 (TheJapanHRSociety事務局) 〒108-0075 東京都港区港南2-14-14 品川インターシティフロントビル3階デスカットMB28号電話/ファクス +81(0)50-3394-0198+81(0)3-6745-9292

購読http://www.jhrs.org/hr_agenda/subscribeまで、オンラインでご注文下さい。

日本国内購読・デジタル版(最新号のみ):無料・プリント版(周年号)1冊:1,575円(税・送料込み)・年間購読-プリント版(周年号)1冊とデジタル版(最新号とバックナンバー):年間3,150円(税・

送料込み)・年間購読-デジタル版のみ(最新号とバックナンバー):年間1,575円(税込み)・大口注文:Emailで[email protected]に、氏名、会社名、住所、必要数、ご希望の支払い方法を

お知らせください。私どもより、郵送料を含んだ見積書をお送りします。

海外購読・デジタル版(最新号のみ):無料・年間購読-デジタル版のみ(最新号とバックナンバー):年間1,575円(税込み)・大口注文:Emailで[email protected]に、氏名、会社名、住所、必要数、ご希望の支払い方法を

お知らせください。私どもより、郵送料を含んだ見積書をお送りします。

広告掲載詳細をお送りしますので[email protected]までご連絡ください。

海外配送エージェント募集中[email protected]まで連絡下さい。

「TheHRAgenda」とTheJapanHRSocietyのロゴは登録商標であり、TheJapanHRSocietyに帰属します。

©2014TheJapanHRSociety 無断複写・転載を禁じます。

表紙イメージアネット・カセラスの構想とアールディー・コロマの技術と人物抽出をもとに、ブーン・プリンツが編集・デザイン

画像の出典:Businessman holding clipboard by Zestmarina, Business woman peeping over white billboard by Zmkstudio, Cloudscape dramatic abstract by Joanne Zh, Cumulus Clouds by Tyler Olson, Childish adult by Bowie15, Paid leave by Photooasis, Collaborative working system by Burnedflowers, Japan Zen Garden by Patricklin, Groovy Line Abstract by Ardie Coloma, Annette Karseras by John Matthews

お断り掲載した記事にある見解や意見は執筆した寄稿者、筆者個人のものであり、必ずしも「The Japan HR Society」の一般会員、事務局、アドバイザー、会友、後援者の立場や見解を反映したものではありません。本協会は、掲載された記事や広告に含まれるデータ、統計、情報の正確性、真実性につき、その全体もしくは一部に関し、責任を負いません。更に、掲載した助言、意見、見解は情報提供だけを目的としたものであり、資格を有する法律専門家、財務専門家のより専門的な法的、財務的助言にとってかわることを目指したものではありません。

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発 行 人 からの メッセ ー ジ

今年こそ自分自身と仕事の質を変えるときです。

2014年1−3月号

毎年、「TheHRAgenda」の中で「JHRSコミュニティの現状報告」を発表する時期になるとTheJapanHRSociety(JHRS)は、次の年に向けたコミュニティとしての願いと目標を表すシンプルかつ力強い言葉、最適な表現を選んできました。2012年、私たちが選んだのは「実り多い一年」という言葉であり、2013年のそれは「もっと前に、もっと高く!」でした。そして2014年、私たちは次の言葉を力強く宣言します。

「意味のある活動をしよう。HRを目指そう」

では、どうすれば「意味のある活動」ができるのでしょうか。私が提案したいのは次の3つです。

職業として意味のある活動をする昨年1年だけを見ても本誌は相当数のページを割いて、日本に

おけるHRの役割が、単なるつまらない仕事をする人や組織の中の警察ではなく、より戦略的なビジネスパートナーに変貌しようとしていることをいくつかの記事を通じて紹介してきました。読者がそれを受け入れるかどうかは別としても、この件における“不都合な真実”は職業としてのHRが組織にとって意味を持つのは、それがその組織に本当の価値をもたらすときに限るということです。

繰り返しますが、HRは常にデイビッド・ウルリッチがいった有名な引用を思い出す必要があります。すなわち「HRは価値を与え、予告しなければならない」。以下、この点を私たちの意識下に落とし込むのに有益な資料をいくつか紹介します。

◦ HRビジネス・パートナリング何を、なぜ、どうやって◦ クアラルンプールからHRビジネスリーダーへの呼びかけ

グローバルHRエクセレンス会議◦ HR戦略は忘れなさい!◦ HRビジネス・パートナリング グローバルなホーキー・コー

キー◦ HRは新規採用に関わるべきか?◦ ビジネスリーダーとしてのHR:難解な心理学用語と奥義の

無意味さとを乗り越える◦ あなたがHRの世界にいる“理由”:ヒント—HRの仕事は人間

だけが相手ではない

本誌今回号のために、もう少し深くこの問題を掘り下げてみましょう。その上でより進歩した、前衛的なHRの実践、そしてHR2.0と総称されるツールに関する記事を提供したいと思います。これらの記事を読み、それらから学び、そして何より重要なのは、学びを実践に生かすことです。もし何か助けが必要なら、いつでも私たち([email protected])にコンタクトください。JHRSはいつでもお手伝いします。

HRの専門家として意味のある活動をするHRが職業として意味を持つようになるために、HR機能の中にい

る人たちもまたHR専門家として意味のある活動をする必要があることは多言を要しません。それを実現するために私たちは自身の専門性開発のために投資しなくてはなりません。そうすることで初めて私たちに、企業と私たちのステークホルダーの期待に応えるための最新かつビジネスと関連を持つHR2.0実践、ツール、技術が身に付くのです。

もしまだ取得していないのであればMBAの資格を取ってもよいし、「JHRSアカデミー×テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)」や「JHRSeAcademy×eCornell」を通じてHRサーティフィケートを取得するのもよいでしょう。また、もしあなたが世界的に認められたHRの資格を真剣に望むのであれば、私たちの連携パートナーである「HRサーティフィケーション・インスティテュート(HRCI)」から資格を取得し、「HRマネージメント・プロフェッショナル(HRMP)」「HRビジネス・プロフェッショナル(HRBP)」「グローバル・プロフェショナル・ヒューマン・リソース(GPHR)」といった、世界中の専門家集団に加わることも可能です。詳しくはここをクリックしてください。

メッセージはきわめて単純です。「他の専門家(弁護士、医師、会計士など)から“専門家”として扱ってほしければ、そのように考え行動することが必要」ということです。誠実と信頼はタダで与えられるものではなく、自ら獲得しなければなりません。

日本におけるHR専門家のコミュニティとして意味を持つ今年私たちは創立7周年を祝います。私たちの全体的な成果を

祝う方法として、JHRSコミュニティを全体として強化・活性化し、拡大戦略と国内外の知名度の向上を推進すること以上によい方法はな

意味のある活動をしよう。HRを目指そう2014年に向けてのJHRSコミュニティ現状報告

カビッティン・順 MBA/MS/HRMP

The Japan HR Societyチーフ・コミュニティ・オフィサー

英語原文から翻訳

Page 6: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

カビッティン・順MBA/MS/HRMP エイチアールセントラル(株)代表取締役社長、テンプル大学日本校非常勤講師を務め、20年以上にわたり人事のバリューチェーン全体に携わってきた。(多くが日本に特化したものである)人事に関する継続教育、知識の共有、最優良事例の活用を通じ、人事の課題を解決することができると強く信じている。経営学修士、経営工学修士、HR研究認定(コーネル大学)

いでしょう。それによって私たちは、さらなる繁栄と日本における意味のあるHRプロのコミュニティになることができるのです。

私たちはこれまで確立してきたTUJ、eCornell、Knowledge@Whartonとの連携を誇りにしています。私の知るかぎり、日本におけるHR関連団体の中で当協会ほど、日本に焦点を当てたHR専門家のための継続的なHR教育、HRに関する資格認定システム、日本で最初かつ唯一のバイリンガルのHR専門誌などを提供することに、精力的に活動してきた団体は他にないと自負しています。

私たちは今スタートしたところです。今後私たちは、JHRSを次のよ

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もし寄稿について考えをお持ちでしたらぜひお知らせください。「TheHRAgenda」のメールアドレスである[email protected]まで電子メールをください。また当雑誌に関するご意見などフィードバックいただけるのを歓迎します。私どもは受理したメールについてすべて掲載できるとはお約束できませんが、少なくとも返事を出すことはポリシーとしています。本誌で取り上げて欲しいトピックもお寄せください。

「The HR Agenda」革新的なプラットフォーム日本における最初の二ヶ国語による人事担当者向け雑誌として、「TheHR

Agenda」は 非常にユニークな舞台(プラットフォーム)を提供しています。英語と日本語で書かれた資料を提供し、寄稿者から提出された文章もバイリンガル翻訳することで、純粋の2方向性を持った意見交換の場を提供します。過去150年ほどの間、日本はもっぱら西洋の知見を日本語に翻訳してきました。私どもは日本の声を国際的な舞台にも紹介できるような場を創造したのです。私どもの目的は物事の裏表や問題のすべての相を理解することにあります。私どもは日本と海外における読者の方々や、世界中のHRプロフェショナルや研究者、オピニオン・リーダーたちの間でオープンかつ誠実な対話を実現させ、それによってお互いの切磋琢磨を促すことを願っています。

何人の名前が言えますか?各号、「TheHRAgenda」は、JHRSイベントの特別ゲストに寄稿者を招いています。

寄稿者と読者が語り合う場です。あなたが書く言葉が、HRの最優良事例に影響を与える発想となります。

どうぞ、話し合いにお加わりください。

今年私たちは創立7周年を祝います。私たちの全体的な成果を祝う方法として、JHRSコミュニティを全体として強化・活性化し、拡大戦略と国内外の知名度の向上を推進すること以上によい方法はないでしょう。それによって私たちは、さらなる繁栄と日本における意味のあるHRプロのコミュニティになることが

できるのです。

うな団体に育てたいと念じています。すなわち、政府と企業のリーダーたちが産業と日本という国に影響を与える、HRに関連する多様な事柄に関する専門的な意見を得たいと思うときに訪ねてくるような団体です。日本におけるHR専門職のための経団連や商工会議所になるというのが私たちの念願です。

創立以来、当協会のビジョンとミッションは一貫して変わることがありませんでした(そしてこれからも変わらないでしょう)。すなわち

「日本におけるHRマネジメントの進展につながる、成長と進歩の主導者を目指す」ことです。私たちに意味のある活動ができるのは、私たちが自分たちの発言と行動のすべてにおいて本物であり、自分たちの中核原則を断固順守していくことによってであると信じます。

それを踏まえ、2014年に向けて私たちは1つの重要な新年の決意をしたいと考えます。問いは「意味のある活動をするか、それとも無意味な活動をするか」です。むろん私は意味のある活動をしたいと願います。あなたはどうでしょうか。あなたの答えを投票するためにここをクリックしてください。

意味のある活動をしよう。HRを目指そう。

追伸:「JHRSコミュニティの現状報告」の中でいつも収録されている統計と「今年のヒットと残念」を読みたい方は、ここをクリックしてください。

追々伸:2014年JHRS新年会の申し込みをお忘れなく(申し込みはここをクリック)。そしてよいスタートを切ってください。新年会でお会いしましょう。

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2014年の女性のリーダーシップ私たちの達成希望リスト

2014年1−3月号

C O M M U N I T YN E W S Get to know the latest news and updates within the JHRS Community.

日本で女性のリーダーシップを開拓するという挑戦的で複雑な仕事をどうやって始めるのか。二人の女性トップリーダーにとって、それはすべて、達成希望リストを書きあげるというパワフルな行為から始まる。

2013年、日本において女性のリーダーシップに関する話題が盛んに議論されました。今年4月、安倍晋三首相は、成長戦略についてのスピーチのなかで「社会のあらゆる分野で、2020

年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上にする。」と約束しました。5月、私たちは、再度WIN(ウィメンズ・インターナショナル・ネットワーキング)の会議を東京で開催するお手伝いをし、スペシャルゲストに森雅子内閣府特命担当大臣(男女共同参画)をお招きしました。また同月、在日米国商工会議所(ACCJ)及び米日カウンシル(USJC)は大成功を収めたウィメン・イン・ビジネス・サミットを共同開催しました。7月には、FacebookのCOO(最高運営責任者)であり、「リーン・イン」の著者でもあるシェリル・サンドバーグ氏が日本を訪問し、NHKの番組「クローズアップ現代」に出演したり、首相とミーティングを行ったりしました。今や、誰もが女性のリーダーシップを話題にする時代になっているようです。経済同友会、経団連など経済三団体さえも他分に洩れず話題にしています。

ではこれからどのように前に進めばよいのでしょうか。問題は複雑で広範囲にわたっているため、話し合うだけでは日本のビジネスや社会を変えることはできません。いよいよ行動すべき時がやってきました。そこで私たちは、2014年に実現してほしいことがらを最初の課題に決め、活動を開始することにしました。

エリザベス・ハンドーヴァーJHRS「WomeninHR」提唱リーダー

ミレイル・ワタナベ・ハンドーヴァーJHRS「WomeninHR」アドバイザー

英語原文から翻訳

エリザベスの要望1. 多様性を認める

もはや猶予はありません。アベノミクスが公約を果たせるかどうか金融市場は見守っています。専門家によると、この6か月が勝負で、ウーマノミクスが成功の鍵を握っているのです。私は、あらゆる会社や組織の人事部が、来年の5月までに少なくとも1つのイニシャチブを積極的に行うことを要望します。それは広報活動でも、多様性や女性のリーダーシップのトレーニングでも、より柔軟な労働時間を設けることでも、また女性が休暇をとったあとも職場に戻りやすい環境を作ることでも何でもよいのです。

2. インフォーマルなメンター制度およびサポートネットワークを確立するキャリアを積もうとしている女性が、職場で孤立したり、やる気をなくしたりすることがよくあります。公のサポートプログラムは大事ですが、ロールモデルとなるような重要なポストに就いている女性がほとんどいないのが実情です。女性が同僚のメンターとなり、仕事についてアドバイスを行い、助け合い、アイデア、プランおよび行動を呼びかけることができるネットワークグループを、すべての会社や組織が積極的に支援するならば、女性の労働環境は変わるでしょう。

3. 企業のリーダーが発言する大企業の中には、進んで社内で女性のキャリアを支援するところもあります。このような企業のリーダーがさらに一歩踏み出して、経済を活性化させるには女性の雇用が必要であるということをイベントの場で話し合い、メディアを使って発言し、強いメッセージを発信してほしいのです。より多くの企業の有力なリーダーが、男女雇用均等の労働環境を作る姿

いよいよ行動すべき時がやってきました。そこで私たちは、2014年に実現してほしいことがらを最初の課題に決め、

活動を開始することにしました。

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Page 9: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

勢を公に示せば、日本株式会社がより多くそれに追随するでしょう。

ミレイルの要望1. キャリアのある女性を学校に招いて話をしてもらう

小学校から高校まで、仕事でがんばっている素敵な女性をゲストとして積極的に招き、話をしてもらいます。仕事に対して大きな夢を持たせるためには、幼い時から教育する必要があります。厚生労働省の最近の調査によると、結婚後できれば専業主婦になりたくないと思っている女性は、調査した未婚女性のうちわずか38%しかいませんでした。現状は、多くの少女が専業主婦か、低賃金のパートタイムの仕事にしか就いていない母親のもとで育っているので、彼女たちの励みになるようなロールモデルを紹介することが必要です。日本の若い女性が大きな夢を持たないことも問題なので、男女を問わずゲストスピーカーを招くことは、すべての世代の若者にやる気を起こさせる助けになるでしょう。

2. 働く母親のポジティブなイメージをメディアで紹介する子どもが生まれた後も働き続ける母親の多くは、罪悪感に苦しんでいます。洗剤や頭痛薬のテレビコマーシャルでもお馴染みの家族に尽くす専業主婦のイメージによって、最高の母親とは、仕事をしないで家にいる母親であるという固定観念を植えつけます。デンマークで行われた最近の調査によると、働く母親を持つ子どものほうが、そうではない母親を持つ子どもより学校の成績が良いことがわかりました。社会通念を変えるために、そして母親が働くことを誇りに持てるように母親やその家族をサポートするため、働く女性の姿を日本のメディアでもっと紹介してほしいのです。

3. 男性同様、女性にも平等な昇進の機会が与えられるようにする若い女性が働き始める時点で、男性と同様の昇進のチャンスが与えられていることが重要です。平等な機会が保証されないと、より多くの女性がキャリアを捨て、家に居ることを選びます。また、女性が昇進の可能性がない仕事に縛られないように、一般職(ノンキャリアの事務職)制度も是正する必要があります。

ミレイル・ワタナベ・ハンドーヴァー  ルミナ・ラーニングのアジア地域パートナーである。ルミナの講師メンバーとして、彼女は、グローバル・リーダーシップやダイバーシティ、チームワークやプレゼン技術の分野に関する参加者のモチベーションを高め、実践に役立つワークショップをルミナのライセンスを持つ講演者が開催できるようにするため、研修や支援を行っている。

エリザベス・ハンドーヴァー  イントラペルソナKKの社長であり、ルミナラーニングのアジア地域パートナー。彼女はACCJウィメン・イン・ビジネス・コミティーの共同代表であり、ウィメンズ・リーダーシップ・ディベロップメント・センターの共同創始者、またグローバルWINコンフェレンスの特別顧問でもある。

御社が女性のキャリアまたはリーダーシップに関して、どのようなことを率先して行っていらっしゃるのか教えてください。mailto:[email protected]へご意見をお寄せください。よろしくお願いいたします。

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Page 10: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

アウトソーシングとシェアードサービスを活用する

「The HR Agenda」

英語原文から翻訳

21世紀が突き付ける難題を日本が克服するために、日本が活用することができるアウトソーシングとシェアードサービスについて、サミットがその方法を示す。

人口が高齢化するなかタレントを持った人材を管理すること、国

際的な拡大のために準備すること、アジアの新興市場との競争に対

処すること、データを保護することなど、いま日本企業が負っている

課題は実にさまざまだ。今年11月に開かれた「第3回ビジネストラ

ンスフォーメーション、シェアードサービスとアウトソーシング日本サ

ミット」で取り上げられたのも、まさにこの問題だった。

同東京サミットの2日目に、TheJapanHRSociety(JHRS)は同協

会機関誌「TheHRAgenda」で取り上げたテーマ「卓越したタレント

人材の管理」(詳しくは、「選抜と配置」と「多様性と包摂」を取り上げ

た号を参照されたい)をパネルディスカッションの議題として提出し

た。このパネルディスカッションの司会を務めた本誌編集長のアネ

ット・カセラスは、「人びとが持つさまざまな経験とアイデアをシェア

することで私たちは、作業可能な変化とそれを実行するための方法

の発見にさらに一歩近づくことができるのです」と述べた。

パネリストであるクリスティン・メグロ日本ストライカー社最高財

務責任者は、柔軟な就労形態の重要性を強調した。具体的にいえ

ば、家事が必要なとき、女性が仕事できるよう在宅勤務を認めると

いったことである。彼女はまた、「ストライカー社のように、新しいプ

ロセスを適切に取り入れることに熱心な会社の事例」を、聴覚障害

を持った人材を支援するために筆記者を準備した実例を交えて紹

介した。

同じくパネリストであるサトウ・アキラMSD社取締役は、「事業プ

ロセスをスキル限定の作業に細分化することで、多様な能力を持

った従業員を人材として活用する」ことが可能なことを説明した。彼

は、中国と日本の間で交わされる膨大な量の請求書をスキャンする

ために、学習障害を持った人たちを訓練した事例を紹介した。

同じくパネリストであるカビッティン・順JHRSチーフ・コミュニテ

ィ・オフィサーは、日本企業が「適切な能力を持った人材を適切なコ

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Page 11: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

ストで確保するために外国人を雇用する」ことが、日本の法制によ

って徐々に容易になりつつあると語った。カビッティン氏によれば

2010年、日本政府は「出入国管理基本計画(第4次)」を策定。これに

よって、「科学、技術、ビジネス、さらにはオーストラリア・カナダ・米

国などで見られるものと類似の芸術の分野においても高度なスキ

ルを持った個人がポイントベースで移民できる体制」が整ったと

いう。

TheSharedServices&OutsourcingNetwork(SSON)のサミット

におけるネットワーキングは、アウトソーシングの関係づくりに伴う

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タレント型人材管理に対する高齢化の影響

日本の労働力の高齢化が急速に進むなか、日本企業の成長のためにはスキルを持ったタレント型人材の導入が不可欠である。このイベントでは、女性の職場復帰を促す、国外居住者を積極的に雇用するなどにより条件に合った従業員を引き付ける方法、また中間管理職を吸引する必要性に焦点を当てる。

貴社事業の変革と国際的拡大への準備

世界の各市場が縮小するにつれ、事業の国際化を円滑化し育成するための方法はますます重要に なっている。これは、コスト削減を目指 して業務の標準化を図り、シェア ードサービスがビジネスユニッ トの支援に役立つことを理解し て初めて実現することができる。

ITのアウトソーシングとデータの保護

コストを効果的に削減しながら 貴社のデータと知的財産権をど うすれば守ることができるか、あ なたもぜひこの議論に参加していただきたい。

アジア新興市場における競争力の維持今日、アジア市場における競争はますます熾烈なものになっている。それを踏まえたうえで、ビジネスにおける競争力を獲得することによって中国、インド、フィリピンといった国々との競争が可能になることに注目する必要がある。

また、議論の対象になったのは、彼の会社の「協力企業」の1つ

(タイとベトナムに製造拠点を持つある日本企業)との現在の関係

をさらに拡大することができるかということだった。人件費が推定で

50%削減できること、日本への輸入税がこれからもずっと5%だと、

アジアにアウトソースすることの財務的意義はとても大きい。

彼が「では品質はどうですか」と問われると、別のマネジャーが品

質管理問題を解決するために週末のゴルフの予定をキャンセルせ

ざるを得なかったことを明かした。上海から組み立てのために送ら

れた部品のサイズが設計書より5mm違っていたのである。彼はグ

リーン上の新規事業のための接待から呼び戻され、上海の精度に

対するアメリカの既存顧客の反応を“処理”しなければならなかった

という。

タイやベトナムにアウトソースするという提案についていえば、

パートナー企業(同社が現在の関係を持っている日系企業)が品質

保証のための追跡記録を明らかにしたという事実を見るだけで、タ

イ・ベトナムへのアウトソーシングこそ前進のための最善の方法で

あるように思われた。だがこのマネジャーには、しっかりした戦略を

確実なものにするためには、自社には2つ以上の魅力的な企業が必

要になることが分かっていた。彼は、今回のサミットによって思考の

ための追加的な“栄養”が得られるよう、「最もコスト効率の良いモデ

ルを維持するためのインハウス(内製)とアウトソースの比率につ

いて」のセッションに続いて、中国・インド・マレーシアにおけるシェ

アードサービスとアウトソーシングに関する事例研究があればよか

ったと語った。アウトソーシングとシェアードサービスについて2014

年にアジアで開催される様々なイベントに注目。

「人びとが持つさまざまな経験とアイデアをシェアすることで私たちは、作業可能な変化とそれを実行するため

の方法の発見にさらに一歩近づくことができるのです」。

ビジネスの現実を理解する好機をもたらした。「TheHRAgenda」が

インタビューしたある企業のゼネラルマネジャーは、過去10年以上

にわたって彼の会社は3%の成長目標を達成したが(それを上回る

こともあった)、一方でその10年において間接コストは10倍に上昇。

なかでも人件費が利益確保において最大の難題だったと語った。

このマネジャーはまた、自分の週末はいつも売上げ拡大とコスト

削減のための戦略の立案に費やされ、また、向こう1か月は海外代

理店との戦略的アライアンス構築のための会議がびっしりと詰まっ

ていると語った。彼の会社は、今後5年間、高い成長率を達成しより

多くの利益を得るために、どうしても海外の新規市場を攻略する必

要があるとのことだった。

出典: http://www.ssojapan/com/

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Page 12: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

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日時2014年1月31日(金) 18:30-21:00

会場東京都内(追って発表)

登録はこちらから

後援

Page 13: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

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特 集 記 事2014年1−3月号

ヒルダ・ロスカ・ナルテア「TheHRAgenda」寄稿編集者

英語原文から翻訳

HRのなかで先を行く突拍子もない研究とデジタルの新しい特質

ハリケーン・サンディが渦巻き、轟音をたてているところを想像し

てみてほしい。

次に災害直後、停電のマンハッタン南端部できれいな飲み水を

探し食べ物をあさる、日々の生存に追われる姿を想像してみてほし

い。温かい風呂に入りたいと切に思う。小説家アブハ・ダウェサル氏

は、水を熱するためだけではなく電子機器を充電するために日々電

気を探し求めたという。デジタル通信のための電気を求めて何時間

も列に並んだのは彼女だけではない。ハリケーン被害を受けたコミ

ュニティで被害者のために発電機を準備した喫茶店や店には、彼

女のほかにも数百人が並んでいた。

災害の時ほど、人が何を本当に大切するかが分かるときはないと

ダウェサル氏は言う。彼女の回想は、他人とインターネットで繋がっ

ていたいという要求は、食べ物や水を求める動物としての基本的要

10年足らずのうちに、デジタル革新の数々はビジネスの仕方を完全に変えてしまった。HRは次世代テクノロジーへの準備ができているだろうか?

求と同じぐらい基本的なものということを示している。デジタル技術

の進展は、人々の考え方、感じ方、行動の仕方を変えた。今や情報通

信技術は私たちが私たちであることの一部といってよい。

ビジネス界においてはデジタル革新の影響が顕著である。2012

年、ノーベル物理学賞が量子世界の境界を究明した功績により旧友

同士のアロシュ博士とワインランド博士の2人に授与されたとき、

私たちは新たなデジタル・パラダイム突入し、そこでは私たちの知る

物理科学は素早く溶けてなくなる。最も変革的で画期的なITトレン

ドであるクラウド、モバイル、ソーシャルメディア、ビッグデータの進

化は、これまでそれを計量し変化予想してきたリニア(直線的)なカ

ーブをたどらない。デジタルの進展と量子的思考は私たちに指数関

数的成長の新しい道筋に目を向けさせる。

Page 14: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

企業向けクラウドソフトを提供しているネットスウィート社は、人材管理スペースTribeHRを取得した。後者は「Workday」の中間市場規模版すなわちHRのためのクラウドプラットフォームであるSuccessFac-tors といえる。

2014年、注目すべきHR関連の新進企業の1つがBackOpsである。同社は昨年、Sherpa Venturesと Google Venturesから投資資金を獲得したことで一躍、注目を浴びた。BackOpsは現在、「クラウドソフトプラットフォームと経験豊かな自宅作業志向の専門職グループ」との融合を目指しているとAll Things 3Dは伝えている。

2014年、注目すべきHR 2.0企業

組織は対数的に変化する

技術は指数関数的に変化するどの変化を導入する

かは技術管理が決定する

?

?

マルテックの法則―技術は指数関数的に変化し、組織は対数的に変化する

出典ScottBrinker@chiefmartec

マルテックの法則―人間対技術の変化の速さ

多くの世界的ビジネスリーダーたちにとって、この急速な発展こ

そ、技術変化の究極的推進力である。IBMのCEOであるジニー・ロメ

ッティ氏は昨年、「技術は決定的に全てを変えるだろう」とのコメン

トを発表した。

こうした環境にあって、従来の手段や解決策にのみ頼る企業は後

れをとっていると感じ、デジタルの世界で伸び悩みを感じているか

もしれない。生存と成長は、自分の組織にとって重要な実社会・リア

ルタイムの進展をどう予想し対応するか、その会社がどれほど前向

きで決断力があるかにかかっている。HRは、自社で人々が取り入れ

ることができる技術を見分ける上で主要な役割を果たす。デジタル

世界で今HRが優れている必要があるのは、人材と技術の間につな

がりを見つけ、それを作り出すことにより、素早く大規模な変化に適

応できるよう従業員を援助することだ。とりわけ、ビジネスにおける

技術は、いかに人々が道具や機械を使うかということなのだ。

ゲーミフィケーションが重要な役割を果たす

次世代の最前線において ゲーミフィケーションこそHR2.0技術

である。顧客をもてなすため、セールスやマーケティングにおいて

ゲームの概念が長らく利用されてきた。今日の勤労者世代は彼らの

居間に1つまたはそれ以上のゲーム機をもって成長してきた。この

ことは、ゲーミフィケーションをビジネスのより広い範囲で適用する

ことが、10年前に比べてより低コストでより簡単にできることを意味

する。より多くの組織が創造性・批判的思考、チームワーク、競争とい

った遊びの主要概念をいかに従業員の関与・功績・統率力の促進

に利用できるかその方法を研究している(本号のゲーミフィケーショ

ン参照のこと)。先見の明のあるHRプロは、ゲームの要素を採用・訓

練・外注・パーフォーマンス管理といった主要機能に取り入れ始め

ている。ガートナー・グループは、世界のトップ2,000のグローバル企

業の70パーセントが今年末までにそのアプリの最低1つをゲーム

化すると予想している。

日本でゲームをベースとしたアプリは、世界で最も洗練された安

全運転シミュレーターを新発売したレクサスのような産業リーダー

から、ゲーミフィケーションを肯定的変化のための道具と見なす非

営利組織まで、社会の広い範囲で利用されている。最も保守的な分

野においてすら、遊び心があり、カワイ子ぶったゲームの世界が研

究されている。政治においては、自民党が安倍ホップというスマート

フォンゲームを公開している。

2012年日本のゲーム人口は、家庭用ビデオゲームで3,142万人、

ソーシャルメディアゲームで1,385万人、スマートフォンゲームで

1,000万人に急増している。スキルレベルのたゆまぬ向上を伴う増

え続けるゲーム人口のもと、多くの人、特にHRの人々が、会社のゲー

ム要素のないビジネスプロセスにゲーム的思考をいかに取り入れ

るかを考え始めている。しかし課題は、HRが主導するゲームを確か

に計画に乗るようにすることだ。そうでないと不十分な設計のため

失敗に終わる、ゲームベースのビジネス・アプリの80パーセントの1

つになる危険性がある。(編集者:サンタガタ氏が言うように成功す

るよりも失敗する確率が高いのが普通であることを受け入れ「前向

きに失敗」し学び続けることだ。)

ビッグデータを使った採用が増えている

ソーシャルメディア、インターネット、モバイル技術はビッグデー

タを特徴づける量・速度・多様性をいっせいに創り出している。専

門家の採用は、少し前には分析の手段がなかったデータの新しい

世界の入口にいる。「BigData:ARevolutionThatWillTransform

12

Page 15: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

ヒルダ・ロスカ・ナルテア シドニーに本拠を置くPRエージェンシーのライティングチーム責任者。そのかたわら、複数のNPO法人のコンテンツプロデューサーを務める。またかつて、フィリピン・エネルギー省のもとで、国連開発計画のいくつかのプロジェクトを担当したこともある。

HowWeLive,WorkandThink(ビッグデータ:私たちの生き方・働き

方・考え方を変える革命)」の著者たちは、ビッグデータを「私たちが

新しく見つけた大きな情報量を処理し、それをすぐに分析し、ときに

はそこから思いがけない結論を引き出す能力」と表現している。

採用担当マネジャーであるマーク・トルトリーチ氏は採用のプロ

はいくつかの目的でデータ駆動型の採用を利用することができると

指摘している。その目的とは、その取り組みが期待の成果を挙げるこ

と、正しい候補者プロフィールをインターネットの適切な場所に見

つけること、そして正しい受け手に向けて求人メッセージを作成す

ることである。しかし、これらは全て、データを解釈し、この知識を貴

重な解決策へと変換するHRの能力にかかっている。貴社の人事部

でこの課題を受けて立つ意欲を持つ者は誰か?

ソーシャルネットワーキングサイトが意思決定をデジタルに変える

トルトリーチ氏は、ソーシャルネットワーキングの情報は多様性

という基準に欠けるのでビッグデータではないという。別の言い方

をすれば、(あなたがリンクトインのプロフィールを毎秒ごとにアッ

プデートする人々の1人でない限り)常に変わり続けるものではな

いということだ。それは目指す受け手を探し語りかける手段である

だけではなく、採用とブランドづくりのチャンネルとして機能する今

日の企業にとってきわめて価値ある道具でもある。たぶん、ソーシャ

ルネットワーキングサイトに関して最も顕著なことは、それが採用の

プロや雇用主に将来を垣間見させる能力があることだ。ソーシャル

メディアからのデータによりトレンドが分かり、予測でき、将来採用

の可能性のある人 と々現行の従業員をより理解できるようになるの

だ。それは、個人のプライバシーという伝統的な限界を越え、情報共

有の境界の捉え方に流動性を作り出す(「新しい電話を使っての従

業員管理」参照のこと)。

Web2.0のデジタルツールが世界を席巻し私たちの生き方を変えるのに10年

足らずしか要しなかった。

さらに、Facebook、Flickr、Google+、LinkedIn、Pinterest、Second

Life、Tumblr、Twitter、Wikipedia、Wordpress、Yahoogroups、

Yelp、YouTube、ZoomInfoなど主要なSNSはより行き届いたデータ

分類を可能とするよう常に自前のアルゴリズムを微調整している。

世界中に2億5,900万人のユーザーを持つLinkedInが提供する最

新の機能の1つに「PeopleYouMayWanttoHire(あなたが雇い

たと思うかもしれない人たち)」がある。この機能は、Forbesが人事

向けの“デジタル上のカンニングペーパー”と名付けたものである。

きわめて簡単に使えるデータベースが企業に代わって意思決定し

てくれる、あるいはそこまでとはいわないまでも、より賢明な選択へ

と導いてくれるという事実を企業は好ましく思っているようだ。2012

年のSHRMの調査で55パーセントの組織が12か月以内にソーシャ

ルメディアの利用を増やす計画があると答えている。

渦の中に足を踏み入れる

Web2.0のデジタルツールが世界を席巻し、私たちの生き方を変

えるのに10年足らずしか要しなかった。このような指数関数的成長

のもと、今後5年で私たちの生活を一変させる革新が何であるかわ

かる者が誰かいるだろうか?「不変なのは変化し続けるということだ

けだ」という古い格言を聞いたことがあるだろう。新しい格言は、「

不変なのは、変化は加速し続けるということだけだ」である。データ

を分析するときには、そのデータはすでに古いものとなっている。し

かし、先見の明がある企業にとって、真の課題は、最高速度を達成す

ることではなく、自社の人々に正しい速度を作り出すよう前向きに

なることだ。この入口を通して新たなデジタルの次元をのぞき見て

いるHRビジネスパートナーであるあなたはこのトレンドがやってく

るのをただゆっくり待つだけだろうか?それとも、今まさに近づいて

いるHR2.0の波に乗る準備ができているだろうか?

13

Page 16: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

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デイビッド・バートンゲーミフィケーションプロセスの提唱者

英語原文から翻訳

ゲーミフィケーション

ゲーミフィケーションはコンピューターオタクのためだけでなく、従業員をもやる気にさせ、その行動を予測し、また、彼らの長所と短所を把握することを可能にしてくれる。

ゲームというとこれまではクリスマス休暇に自宅でモノポリーゲームをする家族や、暗い部屋で一晩中、コンピューターゲームにふけるオタクの姿を思い浮かべたものだ。

しかし、ゲームに関するこの従来の考えは、企業戦略にそのまま当てはまるものではない。ゲームに関する考えは刻々変化している。

CourseraやBunchball、Bigdoorのようなベンチャー企業のおかげで、ゲーミフィケーションはたいていの企業の枠を超え、さまざまな部門のための有効なオプションになろうとしている。

ではゲーミフィケーションとは何だろうかそれは単にビデオゲームやボードゲームを作るということを超え

た、むしろより幅広い目標を達成するための報酬システムを含む。教育の世界では、ゲームは子どもと関わり、彼らのやる気と集中

力を養うための方法として広く受け入れられ使われてきた。これと同じ考え方を任務により得られる報酬を使って職場環境に持ち込むことができるようになる。

ここで用いる報酬は、必ずしも物質的なものや金銭的価値を持つものである必要はない。スコアボードや向上心をあおる目標も、しばしばユーザーを関わらせるベストな方法の一つである。

基本的かもしれないが、古典的なゲーミフィケーションモデルとしては、商店におけるポイントカードがある。商品を購入する際、カードを使う顧客はポイントを稼ぎ、それを将来の商品購入やお金などに交換できるのだ。

ゲーミフィケーションは、シンプルな動機付け利用の範疇を超え、分析を加えることで、実際に従業員の行動を予測したり、その潜在的な長所や弱点を把握したりできる。

そのプロセスはますます有名になり、著名なコンサルタントたちも事業の選定とその資金注入の両方を支援するためにこのプロセスを採用するケースが増えている。

これらの背後にある原理はコンピューターゲームに起源をたどることができる。現実の世界では、ゲームの達成目標は何の価値もないが、ゲームを達成したいという欲望についてみれば、意欲を高める目標の利用は、人々を成功に導くことになる。これと同じメンタリ

Page 17: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

15

ティーはどこででも見られる。キリスト教の四旬節という宗教慣行にまで遡ることができる。定められた期間にだけ何かを控え、期間が過ぎれば元に戻るようなことは、何の現実的目的をも果たさない。ここで大切なのは、本人が何かを成し遂げたと自覚することで満足する点にある。

ゲーミフィケーションはまた、ビジネスの見地から両当事者にとりお互いに有益でありうる。外国語学習サイトのDuolingo.comを例にとってみよう。Duolingoは利用者が「レベリングアップ」や「ルージングライブス」というレベルや獲得ポイントの増減を通じて外国語を学ぶことができるようになっている。Duolingo側の利益は、これと引き換えに、専任の翻訳家がいなくてもホームページを翻訳できる点である。

このような双方向に有益なビジネスモデルは誰にでも楽しめ、ゲーミフィケーションが達成できる能力の高さを示しており、ともすれば単調になりがちな任務に、楽しく思わず引きずり込むような魅力を付加できるのだ。

ゲーミフィケーションの限界は、それを実行しようと思う利用者のイマジネーションにのみ存在する。さてあなたは、ゲーミフィケーションをどのビジネス分野に利用できるだろうか。

デイビッド・バートン 企業内でイノベーションの進展を支援するゲーミフィケーションの導入を積極的に提唱してきた。彼は英国と米国の複数の企業にこのコンセプトを導入した。

編集者注本稿は『チーフ・ストラテジー・オフィサー・マガジン』に最初掲載されたものである。許可を得て再掲載。

ゲーミフィケーションは・・・単にビデオゲームやボードゲームを作るということを超えた、むしろより幅広い目標を達成するための報酬システムを含む。

ではこれをどのようにビジネスに援用するのか

ゲーミフィケーションが現在使われている中心的な分野のひとつは、人が必要な基準を満たす能力についてである。たとえば、LinkedInが利用者のプロフィールを完成するのにこれを使う方法を見てみるとよい。そこでは利用者のプロフィールがどこまで完成しているかをパーセンテージで示すためスクリーンの上部に棒グラフが置かれている。たとえば、75%を示している棒グラフを見ると、たいていの人はそのグラフを完全に満たすまで頑張ろうとするだろう。実際の世界では、そのような目標達成は個人には何ほどのものでもないが、それをやり遂げなければならないという強制力が働いているように感じるのだ。

同じことが社内の研修や任務についても働く。それらの進捗度を測り、表示する手段を持つようになれば、その研修や任務に従業員を引き込む重要な手段となりうるのである。

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2014年1−3月号

未来はだれのものか?Knowledge@Wharton(ペンシルバニア大学ウォートン校)

ジェロン・ラニエ氏が、情報経済における最も流通可能な通貨、つまり個人情報に関する難しい質問に答える。 問題は人々が自分の持つデータの価値をいまだに理解していないことだと彼はいう。

もし技術産業が真のルネサンス型人間の存在を誇るとすれば、

それはジェロン・ラニエ氏をおいて他にないだろう。博学なコンピュ

ーター科学者であり、作曲家であり、ビジュアルアーチストであり、作

家でもあるラニエ氏は、現在53歳。ドレッドヘアを肩まで垂らした彼

は、1980年代初頭、「仮想現実(VR)」という言葉をいち早く世に広め

たことで最初の名声を獲得した。ラニエ氏は2006年から2009年ま

でマイクロソフトで研究にあたり、それ以来、マイクロソフト研究所

のパートナーアーキテクトを務めている。Knowledge@Whartonは

このほど、未来はだれのものと彼が考えるか、ワシントン州レドモン

ドのマイクロソフト本社で、ラニエ氏に聞いた。

K@W:情報経済における最も流通可能な通貨、つまり個人情報を、無料かデジタルトリビアと引き替えに、だれもが積極的に放出しているように見えるのはなぜでしょうか。ラニエ:人はだれも、頼まれたことが比較的容易で楽しいかぎり、人

の助言を比較的積極的に受け入れるものです。人が何かを試してみ

ようということに、特別な意味があるとは思いません。問題は、自分

たちが持つデータの価値を人がいまだに理解していないことです。

だれもが目にする、流行のアレンジメント(お膳立て)―そこでは、個

人情報と引き替えにタダのサービスか、あるいはお買い得品を手に

入れている―は公正な取引だと信じているのです。でも実際はそう

ではない。なぜなら多くの人は第一級の取引参加者ではないから

です。私がいう「第一級の参加者」とは、交渉の当事者、つまり誰もが

ほぼ同じ交渉能力を持ち、結果として交渉したあとの結果が開かれ

た市場経済においてフェアな取引になる、そうした交渉の当事者を

意味しています。だが、提供されるものが何であれ受け入れざるを

得ない立場に置かれれば、だれもが受け入れざるを得ないし、そう

なれば、あなたのデータを持っている人に対し、交換によってあな

たが得る以上のものを与えなければならなくなるのです。

ポイントカード、リピート顧客会員制度のようなものを見てみまし

ょう。顧客に関する情報を集めることと、彼らを囲い込むこととの違

いについてはよく議論されますが、これら2つのやり方のベネフィッ

ト(利益)は深いところで同じだと私は考えています。ある個人を1

年間という期間において、ポイントカードを使うか使わないかで判

断するときの違いは、その人の個人情報の価値のごく一部を計るこ

とでしかありません。こうした手法を使って得た個人情報の集積的

価値を計れば、毎年価値は増していくと私は考えています。

もし私のいうことが正しければ、興味深い質問は次のようなもの

です。つまり、「典型的な人間から得た情報の価値は貧困ラインを超

越するか」ということです。安定した社会保障を組織的な方法で実

際に創造する、まったく新しいタイプのより完全な市場も存在し得る

のです。その可能性を考えると私はわくわくしてきます。こうした未来

を想像することはけっして非合理ではありません。

K@W:データの不平等という問題の責任は、どの程度ソーシャルメディアに帰せられるとお考えですか。ラニエ:その問題はそもそも、ソーシャルメディアの責任ではないと

私は考えています。それよりもむしろ、過去20年から25年の間に金

融面で起こったのと同様の、ある種の極端な収入の集中を引き起こ

す、消費者に面と向かうインターネットの使用にあると私は考えてい

ます。こうしたことが起こった背景にシリコンバレーの不道徳な仕組

みがあったとは思いません。例えばグーグルは、最初からいかなる

ロードマップ(工程表)も持っていなかった。つまり、「われわれがす

べての人の個人情報を集めたら、取引にアクセスする世界中の人に

徐々に税金を課することが可能だ」と彼らはいわなかった。あるいは、

「ビッグデータを統計的に計算できる力を使って結果を操作でき

る」ともいわなかった。

シリコンバレーは、サイバネティックスを最初に提唱したノーバー

ト・ウィーナー氏の古い考えを再発見したのですが、ある意味、それ

Page 19: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

17

はあまりに直接的な利益があったため内省を許すことがで

きなかったのです。金融の世界で起こったことととても似た

パターンが今、シリコンバレーで起きています。つまり、劣っ

たコンピューターの持ち主を凌駕するような情報有利性を

獲得するために、大規模なコンピュテーションの使用が起

きているのです。(本号のシリコンバレーに関するサンタガ

タ氏とロビンソン氏の論考も参照のこと)。

FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグの初期のEメー

ルを読んだことがある人は少ないと思いますが、学生時代

にフェースブックを創業したとき、彼は「人が持っている情

報をすべて与えてくれることがボクには信じられない」とい

っています。つまり彼は、人がみなそうしていることにとても

驚いたのだと思います。彼の友だちがそうしたのは単純で、

初め、ほとんどの人は人を信頼し、人がよく、またやる気満々

だからです。だが、ソーシャルメディアに起こっていることと

いえば、彼らはみなわずかながら“脅迫的”なサイクルにとら

われており、それゆえに人は夢中になり、そしてはまってし

まっているのです。なぜなら、フェースブックをいつもしてい

なければ、あなたの名声が危うくなるからです。

Email us at [email protected] and bring Andrew and Yoshi to your organization!

編集者注本稿はKnowledge@Whartonの許諾を得て“‘WhoOwnstheFuture?’WhyJaronLanierRemainsaDigitalOptimist”と題する元の原稿を短縮したものである。

日本における個人情報の保護

「未来はだれのものか?」の著者ジエロン・ラーニエ氏が、人々がしばしば進んで個人情報を渡していることに触れている。しかし、いくらかでもプライバシーを持ちたいと思う者には保護手段も存在するのである。

日本においても、2005年4月から個人情報保護法が施行され、事業者は、個人

情報の適正な取扱いが求められている。同法において求められる内容は、いわゆ

るOECD8原則の内容を踏まえたものになっているが、事業者を所管する各省庁

がその内容を具体化するために詳細なガイドラインを発出しているので、事業者

は、それらの内容にも留意する必要がある。

個人情報保護法上、事業者に要請される内容の一つとして、個人情報に関する

「安全保護の原則」がある。そこで、事業者としては、従業員が取り扱う個人情報

に対してもセキュリティ対策を行う必要があるが、従業員の電子メール、アクセス

ログ等を監視することには、従業員のプライバシー保護の問題も生じ得る。

圓山 卓 弁護士IPAXパートナー&IPAXアドバイザリーサービス

ソーシャルメディアに起こっていることといえば、彼らはみなわずかながら“脅迫的”なサイクルにとらわれており、それゆえに人は夢中になり、そしてはまってしまっているのです。

K@W:あなたは前著「You Are Not a Gadget(人間はガジェットではない)」で今回の著作「Who Owns the Future?(未来はだれのものか)」の下準備をしました。前著においてすでにあなたはIT産業の良心という評価を得たのですが、2番目の本を書こうと決めた理由は何ですか。ラニエ:具体的なデジタルトレンドがいかに私たちの経済、

社会、それに政治に大きな影響を与えているかを理解する

ためには、少なくとももう1つ別のステップが必要と感じま

した。ただ、前著でもそうであったように、書いていくうちに

さらに多くの疑問が湧いてきて、それを解決するためには

さらなる著作が必要だと感じています。今回の本でもまだ

完全ではないというのが私の今の考えです。

事業者としては、従業員が取り扱う個人情報に対してもセキュリティ対策を行う必要があるが、従業員の電子メール、アクセスログ等を監視することには、従業員のプライバシー保護の問題

も生じ得る。

この点について、日本の裁判例には、監視の目的・手段等を総合的に考慮して、

社会的な相当性が認められれば、従業員の同意を得ずに行った監視も違法では

ないとするものがある(東京地判平成13年12月3日等)。

もっとも事業者としては、個人情報の流出を予防することこそが求められてい

るのであり、従業員が監視制度の存在自体を知らなければ、その抑止力を期待す

ることもできない。事業者は、監視制度を導入する場合、就業規則等でその具体

的な内容を定め、従業員には、これを丁寧に説明し、周知させることが必要であ

ろう。

圓山 卓 弁護士 1999年に日本の弁護士資格を取得。一般企業法務・労働・知的財産・紛争解決について多国籍企業にアドバイスすることを専門とする。マッキンゼー(東京・ロンドン・フランクフルト)において経営コンサルタントとしても活躍。2010年に独立し、IPAX総合法律事務所とIPAXアドバイザリーサービス株式会社を設立。

日本語原文による寄稿

Page 20: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

18

L E G A LC L I N I C

"Ignorance of the Lawis no excuse."

我らがエクスパートのご紹介

お断り:筆者がここで述べているアドバイスや意見は一般的な情報を提供するのが目的で、専門的な法律アドバイスではありません。法律的なアドバイスが必要な方は資格を持った専門家に個別に相談してください。

人事関係の法律に関するご質問、エクスパートへのご志願は[email protected]までお寄せください。

L E G A LC L I N I C

有期労働契約従業員への年次有給休暇の付与

2014年1−3月号

私どもは1年後に復帰する予定のフルタイムの従業員の休暇の穴を埋めるために従業員を1人、有期契約で6か月間雇いました。この6か

月の期間中、5日の有給休暇を彼女に与えました。ところで、この従業員の雇用期間を6か月間延長する必要が生じたため、もう5日間、有給

休暇を与えようと考えています。これで1年間に全部で10日間の有休を与えることになります。法の定めは6か月間勤務した労働者に10日の

有給休暇を与えるとしていることは承知しています。この定めに照らして私どもの扱いは法的に問題ないでしょうか。それとも、彼女に与えた

初めの5日は無視し、新たに10日を与えなければならないでしょうか。

質問

本件は、最初の契約書がどういうものだったかによって回答が違

ってきます。ポイントは、労働基準法の定めよりも有利な労働契約な

らOK、不利ならダメということです。

最初に締結した労働契約は半年の有期契約だということですの

で、回答は非常に簡単です。半年の期間が終わったところでもう一

度、半年の有期契約を締結すれば済む話です。そのときに、5日間

の有給休暇を与えればよいのです。

回答日本語原文による寄稿

大山滋郎弁護士 東京大学法学部とワシントン大学セントルイスのロースクール卒。アルパイン株式会社の特許法務部門と米国シドリー・オースティン法律事務所の東京オフィスで16年間勤務した後、横浜パートナー法律事務所を開設し、クライアントに対して労働法を始めとした法的サポートを提供している。日本と米国ニューヨーク州の弁護士資格を持つ。

ポイントは、労働基準法の定めよりも有利な労働契約ならOK、不利ならダメと

いうことです。

有休の定めについて、当初から有期契約がもう一度締結される場

合を想定し、半年後に10日生じるかわりにそのうちの5日は最初か

ら生じるという内容であったのならば、半年後に追加の5日の有給

が生じることで問題ありません。労働基準法で定める半年後に10日

生じるよりも従業員に有利な規定だからです。ところが、最初の契約

で、もともと雇用から半年間で5日の有休を与えるとだけ定めていた

となると、少し話が違ってきます。従業員としては、半年たったところ

で10日の有休をもらえると期待していた可能性もあるからです。そ

の意味で、最初の契約によって労働基準法の規定よりも不利になっ

たと考えることもできそうです。

ただ、本件については、本人と話して解決すれば大きな問題は生

じないでしょう。

少なくとも、今後の制度設計にあたっては、法律違反の疑いが生

じないように十分に注意する必要があると思います。

ビッキー・ベイヤー採用 、ベネフィット・プログラム、 解雇、退職、従業員関係、差別および ダイバーシティ、非競争、調査および懲戒関係

トビー・マレン米国でのビジネス、労使問題と雇用、不動産法律関係

大山滋郎会社法、知財権法

グラント・スティルマン国際組織および貿易に関する法律

Page 21: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

19

ジェームズ・ロビンソンシリコンバレー不動産社長

英語原文から翻訳

“ミックス”に加わろうハイテクセンターとしてのシリコンバレーがもたらす

独特の人材・文化のブレンド

シリコンバレーの特質は、何といってもさまざまな発明を仕掛け、

またそうした発明が急速に広まる企業を創造していることである。

シリコンバレーといえば、かつては何か新しいことを試みてそれを

成功させる小企業のスタートアップの場所だった。だが、シリコンバ

レーにおける環境は大きく変わり、今では多くの企業にとってとても

魅力的なものになっている。アップル、グーグル、オラクル、インテル

といった大企業がシリコンバレーを本拠地と呼んでいるのもその現

れといってよい。

日本やその他の国のハイテク企業やものづくり企業も、今こそグ

ローバルな製品開発チームをシリコンバレーに移すべきだという

のが私の考えである。なぜか?それは、企業がシリコンバレーで、有

用な人材・文化・ネットワークに簡単にアクセスできるからだ。

多様で教育を受けた人材の宝庫

シリコンバレーにおける製品開発・マーケティング人材の蓄積は

世界で最も優れている。才能を持った人材が世界中から集まり、文

カリフォルニア州のシリコンバレーのようなハイテク革新センターは、才能を持つ人材、利益につながるネットワーク機会、躍動的な文化の理想的な“ミックス”を企業に提供する。

化を共有し協力し合う。多くの企業が最も優れ最も知的能力の高い

人材をシリコンバレーに送り込み、この高度に生産的で創造的なコ

ミュニティーの最重要な一部になろうとしている。こうした人材のプ

ール(蓄積)は主に3つの特色を持っている。第一に、人材がきわめ

て多様なことである。さまざまな人生経験、多彩な背景と関心を持

った人材がここに集まっている。2012年現在、シリコンバレーの人

口の37パーセントがアメリカ以外の出身者だった。第二に、そうし

た人材の教育水準がきわめて高いことである。人口の48パーセント

以上が少なくとも学士号を持っており、18パーセントが修士・博士

号または専門的な資格を持っている。最後に、そうした人材プール

が大きく、かつ成長していることである。このことは、人材プールの

33パーセント(中核的な生産グループといってよい)が25歳から44

歳の“働き盛り”という事実からも分かるだろう(出典:「シリコンバレ

ー・インデックス」)。

今年、シリコンバレーにグローバル研究センターを設立した「NTT

アイキューブ社」はまさに、シリコンバレーの卓越した環境の活用

人 材 管 理2014年1−3月号

Page 22: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

を決めた企業の絶好の事例といってよいだろう。「私たちの最優良

実践は常にグローバルに行われており、今や活動の場は日本だけ

でなく新興国にも広がっています。それには、シリコンバレーの地

の利を生かしたオープンイノベーション(開かれた技術革新)を通

じて、シリコンバレーの豊かな人材を活用することが不可欠なので

す」と、同社は述べている。

信頼、スピード、革新

シリコンバレーの文化のキーワードといえば、信頼、スピード、革

新といってよい。誰かが優れたアイデアを考えれば、それはすぐに実

行に移される。その中で牽引力が働くので、さらに人材と資金が加

わり開発とマーケティングのスピードが速まる。仮にそのアイデアが

成果を生まなくても、誰もがイノベーターの努力に敬意を払い、失

敗から価値が生まれることを評価する。

こうした“革新の文化”は、2013年10月、HRプロ株式会社が主

催した「HRソリューションフォーラム2013」において株式会社ワー

クハピネス社長・吉村慎吾氏が述べた次の言葉に凝縮されている。

「経営者は、イノベーターに失敗する機会を与えなければならな

い。イノベーションが失敗するなかでイノベーターは学び、また再

度挑戦する機会を持つことで最後はソリューションを見つけるの

である」。

シリコンバレーの美点は、まさにこうした文化が人や企業にグロ

ーバルに考えるよう促していることである。この文化のおかげで、

「何かやる価値のあることは、地球上の誰にとってもやる価値があ

る」とみなが考える。こうした文化は、高い労働倫理と日本企業によ

る人材への惜しみない投資と相まって、ライフスタイルを変えるよう

な次代の製品やサービスをもたらすに違いない。

ジェームズ・ロビンソン シリコンバレー不動産社長。東京とシリコンバレーの生活が長く、これら2つの都市の企業向け不動産事業で12年の経験を持つ。

行き届いたネットワーク

革新エンジンの回転を助けているのが、技術的・ビジネス的知識

を持った、シリコンバレーの人的ネットワークである。企業が新しい

製品のアイデアを探すとき、また技術的ソリューションを見つけよう

とするとき、シリコンバレーのプロたちのネットワークがしばしば実

現のカギとなる。

その実例をBMWに見てみよう。BMWはカリフォルニア州パロア

ルトに技術センターを開設し、自動車業界では初めて自動車にiPod

を取り入れたメーカーである。この製品はアップルとBMWとのコラ

ボレーションによって生まれた。

このようにシリコンバレーは企業に多様なベネフィット(利益)を

もたらす。若く革新的思考を持つプロたちの人材プールは、新しい

製品の開発のための“脳力”を企業に与えてくれる。シリコンバレー

の文化はイノベーターを支援し、彼らの成功を助ける。最後に付け

加えたいのは、技術的・ビジネス的知識を持ったプロたちのネット

ワークが、新しい製品やサービスが広まるうえで必要な、多様な要

素を実現するということである。

Page 23: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

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シリコンバレーという言葉を聞くと、世界を驚嘆させる次世代技術の開発に血眼となる、気が変でないとしてもかなり奇抜な企業家たちが推し進める最先端のイノベーションというイメージが強い。

しかし、シリコンバレーをそこまで成功させたものはいったい何だろうか。さらに重要なことは、それを複製することは可能だろうか。中国には中関村があり、インドにはバンガロールがある。ところで、日本の「シリコンバレー」はどこか。世界第3位の経済大国日本は、カリフォルニア州にあるような大規模でフォーマルな技術の中心地をまだ持っていない。

ビジネスで成功するために、このような技術の中心地は21世紀においても依然として重要だろうか。シリコンバレー業界の関係者を含めた多くの人々が即座に、また見当はずれに、「そうだ」と答えるだろう。

しかし、より理性的・内省的な分析を行えば、その成功は、場所ではなく人材がより重要だということがわかる。もっと具体的にいえば、それは単に人材ではなく、その人材をどのように選抜・開発・配置・管理するかが大切なのである。

シリコンバレーの雰囲気を作り上げるために、企業には次の3つのスキルを持つ従業員が必要である。

1. 大きなチャンスを見つけるビジネス上の鋭い洞察力2. それらのチャンスをつかむリーダーシップ3. チャンスを素早く生かすために人材を選別・開発・配置・管

理する能力

このことを理解した上で、シリコンバレーに集まる人材のレベルまで成長し才能を発揮できる人材を開発しようとするときに、われわれが焦点を当てるべきコアとなるスキルとはいったい何だろうか。

詳しく見ると、それらはすべて現有の従業員の内で開発可能であり、次に挙げるコアとなる5つのスキルに要約される。

1. リーダーシップ…リスクを取り、ビジョンを持ち、人を成功に導く能力。これは単に上級のリーダーだけでなく、すべてのキーとなるプレイヤーをも含むもので、そうすることで、上級経営幹部から同僚、はては自分たちの部下に至るまで、すべてのレベルを横断する形で、人をいかに率いるかについて学ぶことができる。また、このリーダーシップには、一般的に失敗やミス、または失策と認識される事項を、学びの重要な教訓と捉える能力も含まれる。

スティーブ・ジョブズは、iMacやiPod,iPhoneやiTunesから、さらに映像制作スタジオのピクサーまで、幅広い分野にわたる、さまざまな製品を生み出して成功した。このことは偶然ではなく、驚くには当たらない。なぜなら、これら各分野はすでに真のリーダーが見つけ出し、熟れた果実が豊かな収穫を待っていたのだから。アップル社が音楽関係ビジネスへの進出を巡る訴訟でビートルズのレコード会社に敗訴したのを乗り越える必要があったとき、彼がiTunes開発に動いたのも、まさにリーダーシップの表われといえる。また、彼のiPodでの成功は、当時ウォークマンのヒットから半導体素子開発へ進むのを躊躇したソニーの姿勢により可能となったものだ。

2. コミュニケーション…1対1の話し合い、グループミーティング、フォーマルな報告、プレゼン、またビジネス電子メール、テレビ会議など、さまざまな手段でのコミュニケーションを最善のアイデア。

自分の庭にシリコンバレーを作ろうジェームズ・サンタガタ

シリコンエッジ社チーフコンサルタント

英語原文から翻訳

自社の人材を正しく選抜・開発・配置し、そして管理すれば、ハイテクな経済拠点の利点を自社で享受することができる。

Page 24: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

最善のアイデアや市場の動きは、多くの場合、サポートエンジニア、セールス、カスタマーサービスといった顧客に最も近いスタッフがもたらす。しかし、こうした情報は、やはり多くの場合、製品担当マネジャーや経営幹部に届かないか、明瞭に伝えられないことが多い。

(「集合知を生み出すリーダーシップ」を参照。)

3. 影響力と説得力…ある事業を支援するよう他人を説得したり、他人が支援に積極的でない場合、最低限、積極的に抵抗させないようにしたりする能力。

これまで、企業が直面する可能性があるか実際直面しているチャンスと障害を捉え、それを明瞭に伝える必要について述べた。しかし、コダック社がフィルム使用カメラからデジタルカメラの製造に移行する必要があった場合のように、明瞭なコミュニケーションがあり、チャンスがあったのに、無視された例はたくさんあるのだ。

チャンスに抵抗し、障害に関する警告を無視する理由はいくつもあるが、そのひとつは、このような情報、本業の移行に関する提案が企業に恩恵をもたらす可能性があるにもかかわらず、ある個人またはある部署の運営、さらにはエゴや地位、ボーナスといった物を危険にさらす可能性があるからだ。この理由から、明瞭なコミュニケーションは始まりの一歩に過ぎない。これを越えて、影響力や説得力が威力を発揮されなければならないのである。

4. 交渉力…外部とだけでなく、しばしばもっと重要となる内部における交渉を行う能力。事業可能性調査の実施にゴーサインが必要な場合、製品開発のための資金や資源の確保を要請する場合、現在の売れ筋商品に将来、取って代わる可能性のある製品を打ち出すのに承認を得たり、買い入れたりする必要がある場合などに、この交渉力が特に重要となる。

影響力と説得力ではあるところまでしか導いてくれず、そこからは、交渉力が必要となることが予想される。そこでは、双方にとり都

合の良いウィンウィンの解決方法を見つけ出すとともに、相手側もそれを目指すように持って行く能力が求められるのだ。相手側が心理的に反対に回り、「自分が損しても相手に得させてなるものか」という極端なシナリオに走ることがあるため、このウィンウィンの解決策は誤解されたり、妨害されたりする可能性があるばかりでなく、そうなりやすいのである。このシナリオでは従業員、マネジャー、株主、顧客、誰もが損をする。

5. 自己主張の強さ…自分の意見やアイデアを伝え、プロらしい肯定的な方法で、他人の意見やアイデアに反論する能力と自信

自己主張の強さ(往々にして攻撃性と混同されやすい)は、人柄、話すことへの関心のあるなし、会社内の地位や立ち位置に関係なく、エンジニア、サービス担当者などといった、重要な洞察力や知識を持っているかもしれない者にとってのきわめて重要なスキルである。従業員にこのスキルを教え込むことは、非常に高い生産性やチャンスを産み出すことができるとともに、問題や障害をそれらが危険や損害をもたらす前に察知するのに有効である。

これらの5つのコアとなるスキルを会社の既存の人材の内に開発することにより、従業員の持ち前の創造性と革新性は無駄となることなく、これらのアイデアを持つ者たちが自分たちの同僚や上司にこれらを伝え、最終的には市場に持ち込むためのツールとスキルを持つこととなるだろう。

ジェームズ・サンタガタ シリコンエッジ社チーフコンサルタント。日本およびアジアの国々において外資系企業や日本企業に対してコミュニケーションやリーダーシップ開発に関する研修を提供している管理職を指導する国際的なコーチである。

失敗を学習経験としてとらえ、失敗の大小にかかわらず、マネージメントシリコンバレーの価値観

の反応

に意気消沈したり避けたり嫌がったり恐れたりすることなく、前向きに失敗する能

必要なら、曖昧さに向き合い、対処し、構造化フレームワークを開発する能力

今日

の事実が昨日の神話と映り、今日の最先端の製

品が

明日に

は骨董品やノスタルジアとなるので、常に学び、

学ん

だことを忘れ、そして再び学び直す能力

Page 25: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

23

A n d r e w & Y o s h i ’s

AskHRHelping you solve your people issues.

Ask Andrew & Yoshi: email us at [email protected]

“積極的な中断”をHRとビジネス実践に持ち込む

システムを変えるためには一度きりの調整ではなく、下記のよう

に、(a) 組織のシステムと文化、(b) チーム・協同作業システム、そして

(c) 個人的能力、それぞれを変革することで行動様式と能力に変革

をもたらすべきだ。

(a) 組織のシステムと文化

◦組織内の革新と不要または成果が上がらない活動の中断に

戦略的焦点を置くべきだ。

◦成功率と新ビジネスの価値を専ら判断基準とすべきだ。

(本号のジェームズ・ロビンソン氏の「シリコンバレー」を参照

のこと)

(b) チーム・協同作業システム

◦まず組織のメンバーは、ハイパフォーマンスチームのコンセ

プトを理解し、自分たちの仕事に革新的なプロセスを組み込

む協同作業システムを開発する必要がある。

◦基準による評価、情報の共有化、知識の管理など力を高める

活動をワークシステムの中に組み込む。

「わが社の最高経営責任者がビジネスの成長と各部門・機能の効率改善を目指して、“積極的な中断”を持ち込むことを模索しています。HR機能に“積極的な中断”を取り入れるための創造的なアイデアについてご助言をお願いします。」

―愛知県にある外資系企業の人事・総務マネジャー

H R に 聞 け

(c) 個人的能力

◦創造的かつ革新的な能力を引き上げる新しいスキルを獲得

するため、組織のメンバーはアクション・ラーニング・ワークシ

ョップに参加する必要がある。(アクションラーニングに関す

るマーコード博士のインタビューを参照のこと)。

◦学習とパフォーマンスの成長を伸ばすため、能力発展の過程

を記録し報いる必要がある。

即効性のあるパフォーマンス変革を実現するため、連続したワー

クショップを含むアクションリサーチまたはアクションラーニングを

実施し、クリエイティブな能力を築き、革新的な戦略プランを開発し

て実施することを勧める。組織の変革はその過程で起きるだろう。

2014年1−3月号

アンドリューの見解英語原文から翻訳

アンドリュー・マンターフィールド須田マンターフィ-ルドコンサルティング エグゼクティヴ・コーチ&シニア・コンサルタント人は「さらなる達成感を得たい」という願いをもち、かつ、その願いを実現する能力を持っている、と考える彼が目指すのは、クライアントそのひとが持つ価値・能力を見出し、クライアントが自信と輝きに満ちた毎日を送ることができるよう導くことだ。「ギネス®」「キルケニー®」、「スミノフ アイス®」などのブランドを所有する英酒類大手ディアジオ社での27年にわたる輝かしいキャリアの持ち主で、10年以上におよぶ人事部門そしてセールス部門での管理職在任中には、日本、オーストラリアそしてイギリスでの駐在をはじめ、アジア、ラテンアメリカそしてアフリカ地域を奔走し、当該地域における社の発展に貢献した。そのなかで、アジアの文化、特に日本の文化を背景とした日本特有の雇用問題や企業における問題などを深く理解するようになった。

Page 26: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

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HRの視点からみると、果たすべき役割が2つある。1つは機能部

門の内部でチャンスを見つけることであり、もう1つは、例えば組織

設計において組織横断的に見ることだ。

まず、HR自体について見ると、下記のような組織的変革を実施で

きるだろう。

◦ラインマネージメントにおける能力を構築し、HRをより戦略

的なものにするために、ビジネスパートナリングを持ち込む。

◦ラインマネジャーに自分のチームにおける人材採用と開発に

責任をより多く持たせるため採用支援を中止する。

◦能力レベル引き上げのため、能力・競争力についての新しい

フレームワークを導入する。

次に、組織の効率改善の主導を提案する。変革を作り出す強力な

方法は、組織を何らかの方法でモデルチェンジすることだ。2つの強

力な例は次のようなものだ。

◦ビジネス目標と競争相手を設定し直す あなたの会社の商売

が年率5%で伸びていたら、何か違うことに挑戦せざるを得な

いようにするため10%の成長率を目標とするのだ。これを実

現するためには、競争相手を現在からより広いグループに広

げることだ。たとえば、オートバイを販売しているとしたら、現

在の競争相手は他のオートバイ製造業者かもしれない。これ

をあらゆる自動車の製造業者まで拡げてみると、あなたの考

え方が変わり、新しいチャンスが見えてくるに違いない。

◦組織の焦点を変える(そしておそらく組織の構造も)例えば、

焦点の当て方を顧客から消費者に変えてみる、またはその逆

を考えてみることだ。つまり、自分のビジネスのやり方に新し

い考え方を持ち込むのだ。

HRリーダーとして、あなたはこれらの議論を主導すべきである。

お断り アンドリューならびにヨシの回答、意見、見解は個人のものであり、必ずしもThe Japan HR Societyやその会員、事務局、会友、支援者の全般的見解や感情を代表するものではありません。更に、アンドリューならびにヨシの回答、助言、見解は情報提供だけを目的としたものであり、資格を有する法律専門家、財務専門家のより専門的な法的、財務的助言にとってかわることを目指したものではありません。

リストはまだ続くが、私のアドバイスは、他の機能部門の代表や

HRチームと話し合い、うまく機能している物とそうでない物につい

て尋ねることから始めることだ。そこでの良い質問とはおそらく次の

ようなものだろう。「もし、ビジネスパフォーマンスを劇的に改善する

変革のためにHRができることがあるとすれば、それは何だろうか」

こう質問することは、必要な変革を特定することにつながるだろう。

ヨシの見解日本語原文による寄稿

松井義治(ヨシ) HPOクリエーション 代表取締役社長12年間のマーケティング経験と12年間の人事と組織開発の経験をもとに、リーダーシップ開発と組織開発を専門とする。エグゼクティブコーチング、リーダーシップ開発、組織変革、マーケティング及び営業力強化などを通して、顧客企業のビジネス成果・組織の健康・社員の能力と士気の強化を支援。北九州大学外国語学部卒(異文化コミュニケーション専門)、ノースウェストミズーリ州立大学経営学修士(MBA)。現在、ペッパーダイン大学にて教育学博士コース(組織変革専攻)を修了し博士論文執筆中。

まず、HR自体についてみると、ラインマネージメントにおける能力を構築し、

HRをより戦略的なものにするため、ビジネスパートナリングを持ち込むような組織

的変革を行うこともできる。

Page 27: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

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書 評2014年1−3月号

ソーシャルメディアは至る所にある。今日、従業員は自分の手のひらからすぐにソーシャルメディアにアクセスできるとSHRM編集者であるアライア・D・ライト氏は述べている。

不正使用から会社と従業員をどう守ればよいか?

従業員による「新世代電話」の使用を管理することステファニー・オーバーマン

「TheHRAgenda」上級寄稿編集者

英語原文から翻訳

「ソーシャルメディアは存在し続ける。・・・(中略)・・・『あのソーシャルメディアとか何とかいう物を覚えているかい』と人々が言うのをあなたが耳にする時代はやって来ないだろう」と、ライト氏は自分の著書、『必要悪:Facebook、Twitter、LinkedIn、そしてその他の数百のソーシャルメディアサイトの使用について従業員の活動を管理すること』

(2013、SHRM)で述べている。しかし、あまりにも多くの企業が「恐れか

混乱、もしくは変化を受け入れるのに頑固なまでに抵抗しているかのいずれかの理由により、新世代電話の極めて重要な機能を従業員が使うのを禁止し続けている」とライト氏は分析する。

頑固さを直す薬はないかもしれないが、この恐怖と混乱に対抗するために、ライト氏は自身の著書で、ソーシャルメディアとは何か、なぜそれが大切なのか、そして、どうやってソーシャルメディアに向き合った適切な社内方針を作り上げればよいのかを説明する。彼女は、広範囲な知識への道筋を示しながら、マネジャーたちに「従業員らが現在使っているソーシャルメディアネットワークに自ら馴染む」ように、とアドバイスする。

全般的にみて、企業の7割近くがソーシャルメディアに関する社内方針を持ち合わせていないが、たとえ現在、従業員たちがソーシャルメディアを使っていなかったとしても、企業は何らかの戦略を持つ必要があるのだ、とライト氏は主張する。それはなぜか。「なぜなら、あなたが希望するか否かに関係なく、従業員はソーシャルメディアを普段から使っているのだから、会社の利益と評判(そして彼ら従業員の利益と評判)を守るために、ガイドラインが必要となるのだ」とライト氏は説明する。

うまく戦略を立て、その戦略を反映させた効果的な社内方針を作り上げるために、彼女は、社内の部署をまたいだ人材からなるソーシャルメディアグループをつくることを勧めている。

ライト氏は著書で、良い社内方針が持つべき特徴について、以下のようにアドバイスしている。

● ソーシャルメディアに関する習慣に関連して、従業員たちの生産性に対する企業の期待

● 特定のタイプの情報をネットで公開する前に従業員が会社から承認を得る必要があるケースに関するガイドライン

● 従業員が情報の取り扱いで過ちを犯した場合の法的な帰結と彼らに対する懲罰的な対応

社内のソーシャルメディアに関する方針は、会社内であれ家庭であれ、その他の自分の時間内であれ、特に、会社の他の方針に違反するような情報を公開したり、シェアしたりするなど、インターネットに情報を公開した場合には、従業員がその内容について法的責任を問われうることを明確にすべきである。

また、その社内方針では、従業員が企業秘密や、機密情報または極秘情報を漏らしてはならないことをはっきりさせておく必要がある。

しかし、ライト氏は「あなたはソーシャルメディアを取り締まる警官ではなく、むしろソーシャルメディアの現場におけるパートナーであることを肝に命じることだ」と付け加える。

あなたの会社は職場でソーシャルメディアを使う従業員に制限をかけることはできるものの、ライト氏はむしろ、ソーシャルメディアの使用を誰に対しても認めるよう促している。なぜなら、ソーシャルメディアの使用を止めさせることは、恨みや不信を育む一方で、知識の共有やイノベーション、またはコラボレーションを妨げることになる、と彼女は指摘する。

ライト氏は著書の1章を割いて、最高経営責任者にソーシャルメディアの効用を売り込んでいる。彼女によると、誰でもどこの部署であっても「ソーシャルメディアを独占して」はならず、最高経営責任者を含むすべてのステークホルダーたちが、外部のまたは内部のネットワークに積極的に貢献すべきなのだ。

ステファニー・オーバーマン 「The HR Agenda」の上級寄稿編集者であり、米ワシントンD.C.を拠点にして職場に関する分析を著作にしている。

Page 28: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

PEOPLEIDEAS

TECHNOLOGY

論説2014年1-3月

ヒトアイデアテクノロジーアネット・カセラス

「The HR Agenda」編集長

英語原文から翻訳

「クール神山」六 本木ヒルズを上回る接続速度とは・・・「クールジャパン」のことは誰しも耳にしたことがあると思う。新

しいスタイルのアニメ、ハイテクのゲーム、“かわいい”が合い言葉のポップカルチャーなどなど。でも、「クール神山」という言葉はまだ聞いたことがないのでは?

私がこの小さい山町のことを聞いたのは、30代のある女性エンジニアからだった(彼女の名前を仮に伊藤佐久子さんとしておこう)。佐久子さんは毎週金曜日の夕方になると六本木ヒルズにあるオフィスのコンピューターを閉じ、パンプスに履き替え、皇居の石垣沿いに1時間のジョギングを楽しんだあと、東京駅に向かう。そこで夕食を摂ると徳島行きの夜行バスに乗り込む。数百キロの道をひた走るバスの心地よい振動の中でぐっすりと眠った彼女は、まだ残る四国の静けさの中で日の出少し前に起床する。その後彼女は、四国内陸部にある神山町を40分かけて目指す。彼女のパートナーとともに購入した家を修理するため、また険しい山道でトレールランニングをするために、週末をここで過ごすのだ。

佐久子さんは神山町の人びとの気さくな人柄をとても愛している。何世紀にもわたってお遍路さんを迎えてきた、6,000人強のこの町の人びとは見知らぬ人に対しても臆することがなく、彼女を積極的に夕食に招き、そして語り合う。彼女は、パン工房、ブティック、そして洋風居酒屋の出店を日本中から募集してトレンディーな町の中心街を設計しようとする町役場の努力を評価する。この町には、ミシュラン認定の店で修業したシェフが経営するフランス料理店さえあるのだ。この町は、1990年代から国際的な「神山アーティスト・イン・レジデンス」事業を展開しており、毎年100人以上の人びとがこの事業に応募している。佐久子さんはまた、この町の伝統的かつローテクな発電方法と、環境に優しいハイテクな技術革新との“頭のよい”融合にとても刺激を受けている。彼女が自分の家を手直しするのを見た近隣住民は、彼女の家を訪ねては彼女がこの地元の知恵を利用できるよう力を貸してくれる。でも何より彼女が驚くのは、この町の1人あたりのデータ転送速度が六本木ヒルズよりも速いことだ。

驚異のコストパフォーマンス六本木のオフィス賃料が1平米あたり4万円なのに対し、その約

半分であることを考えれば、日本における先進的な地方雇用の促進に取り組んできた神山町や他の農村地域を、HRが人材募集や移住のための適地として考慮するのも何も不思議なことではない。

ここ数年、徳島県神山町は、NHKの「にっぽん紀行」や日経ビジネスなど、多くのメディアに取り上げられてきた。NHKのあるドキュメンタリー番組は、外国企業のために特別につくられる、新しい情報管理サービスプログラムを開発するためにこの地に派遣された、3人の若いプログラマーを紹介した。佐久子さん、これらのプログラマー、そしてその他のテレワーカーにとって神山は、自分たちを刺激する都会型オフィスの騒音を必要としない、熱心なエコライフスタイル信奉者のための最先端の技術ハブといってよい。また、この地にサテライトオフィスを設けている10以上の企業にとっては、この地はまさに、労働関係の経費削減戦略の一環となるビジネスハブになっている(これについては本号記事「アウトソーシングとシェアードサービスを活用する」も参照されたい)。

テレワークの種類一般にテレワークとは、企業の主たる事業所の外で行われるすべ

ての作業を指す。例えば、従業員自身の自宅で行う作業や、企業が持っている世界中のサテライトオフィスで行う作業などである。遠隔通信の進歩は、テレワークが第3の場(例えばコーヒーショップ、山の頂上、ヨットなど)でも問題なく可能になったことを意味する。スウェーデンなどではテレワークを「企業のネットワークに離れたところからアクセスすること」と定義している。一般に、テレワーカーが企業のITネットワークにアクセスするときは、IT部門によって「仮想プライベートネットワーク(VPN)」によるログインを求められる。今や多くの国がVPNアクセスと3G、4G、あるいはGSMとを統合することで

あなたの組織は従業員のさらなる流動性を維持することができるだろうか? 国内外で

ビジネスが成功を続けるには、堅固な遠隔管理戦術、安定したITインフラ、インクルー シブで

プロや専門家がどこにいようとも彼らを引き付けるよく結束した協力的な文化が鍵を握っている。

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Page 29: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

PEOPLEIDEAS

TECHNOLOGY

論説2014年1-3月

ヒトアイデアテクノロジー

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モバイル機器によるインターネットアクセスの利便性を図っている。

現在、さまざまな国と企業がテレワークを推進しているが、その理由もまたさまざまだ。例えば、費用を削減するため、排出ガスを減らすため、両親・介護にあたる者に働きやすい環境を提供するため、地域の再活性化を図るため、勤務への集中を高めるため、災害時の事業継続を計画するため(サイドバー「世界のテレワークの現状」参照)などである。

一方、アイルランドのように、「Bring-Your-Own-Device(BYOD)」がすでに定着している国もある。BYODとは、従業員が個人所有の機器を業務に使うことを企業が積極的に認めることをいう。従業員が自前の機器を使うにあたり、ウィルス対策ソフトを無料でインストールする、ヘルプデスクを設けるといった支援策を講じている企業が多い。反対に、中国のように、遠隔通信設備のほかにホームオフィスのための家具までテレワーカーに支給している国もある。テレワークのためのインフラコストを減らすために、それほど高いセキュリティーを必要としない業務には、例えばスカイプといった無料の通信プラットフォームを使うよう従業員に勧める企業も増えている。今後は、悪意のあるソフトウェアが産業にもたらす遠隔地における脅威についても、より一層の検討が必要になってくるだろう。

日本国内および国境を越えたテレワーク日本の総務省の統計によれば、日本におけるテレワーク

は年々増加しており、2004年は15%の、また2009年には約19%の企業がテレワークを採用したという。19%の内訳を見ると、7%が自宅を拠点としており、約12%がその他の施設を利用していた。2010年を全体として見ると、日本の全労働人口の16%以上、つまり約1,100万人がテレワーカーだった。ヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパン株式会社は「日本におけるテレワークの増加は従業員の満足度を高め、事業経費を下げる」とテレワークの利点を強調する。

一方、国境を越えたテレワークについて、国際弁護士のドナルド・ダウリング氏は「HRマネージメント協会(SHRM)」のために書いた論文の中で3つの主なシナリオを指摘する。HRの役割はそれぞれにおいて違ってくる。

1. 企業がすでに現地拠点を置いている国におけるテレワーク

2. 新しい国におけるテレワーク3. 現地事業を段階的に縮小するためのテレワーク

ダウリング氏は「法律は、勤務の場所を明記した、文書による雇用契約あるいは覚書を必要としている」と指摘すると

世界のテレワークの現状のテレワーク“投資利益率”の数式オーストラリア政府は毎年11月

の全国規模の「テレワークウィーク」を設けており、またテレワーク“投資利益率”を算定するツールを公開してきた。これによって、テレワークプログラムを導入することであなたの企業がどれだけの時間と費用を節約し、どれだけ炭素排出を減らすことができるかを知ることができる。

のテレワークの目標は炭素排出の少ない地域をつくること中国は2010年、湖北省をテレワークのパイロット地域

に選んだ。その主な目的は炭素排出を減らし、同地域を「低炭素地域」のモデル地区にすることである。世界自然保護基金(WWF)とチャイナモバイルとの共同調査によれば、中国の遠隔通信部門は2009年、二酸化炭素排出量を5,820万トン削減することができたという。

における技術の企業・私的利用の境が不明確に

アイルランドは1998年、いち早く電気通信諮問委員会を設立した。現在ではアイルランド労働力の約50%がテレワーカーで「技術を企業・私的の別にかかわりなく利用する従業員が増えている」とIDCのモバイル・エンタプライズ・ストラテジーズEMEAのディレクターであるニコラス・マクワイア氏は語る。

におけるテレワークの動機は福利、労働力、電力不足の3つ日本がテレワークを推進する理由は、東京における電力

不足を補うこと、それに「労働、育児、高齢者介護の間で良いバランスをとる」必要が増していることである。人口の減少と高齢化という問題に直面するなか、テレワークによって「潜在候補者の蓄積の拡大」を目指す。それによって、家庭内の福祉的働きと専門職業とのバランスを取る必要を感じている、才能のある女性を含めるためだ。

の「スマートワークセンター」がテレビ会議システムを採用韓国安全行政部はこのほど、自宅で業務に専念できな

い従業員のために「スマートワークセンター」を開設した。テレビ会議システムを備えたこのセンターを使えば、従業員は他のセンターにいる同僚と直接話すことができ、管理職は従業員が仕事を完了することを見届けることができるためとても満足できるという。1人・1週間あたり1日ないし2日のスマートワークを設けることで最大3時間の従業員の通勤を節約することができるとともに、排出権取引と移動のためのコストを1人あたり年約310ドル削減できるという。

では約50%の人がオフサイトで就業250人超の従業員を擁するスウェー

デン企業の50%がエネルギー消費を減らし、またテレワークのためにITを採用している。金融・ICT業界では全従業員の75%以上が、企業のITシステムを利用して定期的にオフサイト(オフィス以外)で働いており、90%以上の人が3G、4G、またはGSMを使ってインターネットに接続している。また、最も速いペースで技術変更を行っているのは従業員数が10ないし49人の企業ということが分かった。

のグリーン技術と実践に貢献するテレワークアメリカの全労働力の約24%は、勤務日あるい

は昼間できなかった仕事を終業後にするために、自宅で仕事をしている。また、約10%が少なくとも週に1日、定期的に自宅で仕事をしている「センサス2010」。「従業員のためのテレワーク実践プログラム」はアメリカ政府による「グリーン技術と実践(GTP)」の重要な一部を成している。労働統計局自身、「テレワークの改善と支援」を目標の1つに掲げており、それによって「家庭と仕事のバランス」を図り、さらに「才能を持った、多様な個人の確保、訓練、つなぎ止め」を進めたい考えである。

オーストラリア

中国

アイルランド

日本

韓国

スウ ェーデン

アメリカ

Page 30: The HR Agenda Magazine - Jan-Mar 2014  Issue (日本語版)

PEOPLEIDEAS

TECHNOLOGY

論説2014年1-3月

ヒトアイデアテクノロジー

従業員あたりの生産性人

従業員あたりの収益性

時間管理 自己管理

管理者・「警察」としてのHR ビジネスパートナー・人間中心戦略リーダーとしてのHR

従業員満足 従業員エンゲージメント

ポジションでの採用(ポジションを定義しそれに合った者を雇う)

人での採用(良い人を雇い、ポジションを考え出させていく)

標準化された福利厚生制度(報酬の固定リスト)

考え

個人別の福利厚生制度 (選択型福利厚生制度)

従業員自社株購入権(従業員つなぎとめ目的) 制限付き株(RSU)、付与

割り当てられた仕事スペース(事務所ベース、個人別机/区画) 柔軟または共用の仕事スペース(どこもが職場、ネット利用の在宅勤務)

ISO 9000 ISO/TC 260 HRM

従業員からの内部紹介 「クラウドソーシング」を使った外部紹介

機能的役割 中核的研究拠点 (COE)

終身雇用 (大学教育+会社固有のスキル訓練) 終身雇用可能性(継続学習+移転可能な専門的能力の開発)

対処的/受動的な労働法順守、労働組合・労働裁定機関対策 積極的なHR順守(倫理・企業ガバナンスを含む)、労使協議会、内部オンブズマン・調停制度

(スティルマン氏の記事を参照のこと)

内部採用担当部署 採用過程の外注

直接雇用 専門職雇用の外注

職務内容記述書 パーフォーマンスに基づいたポジションの選択

HRの一部としての採用 マーケティング/サプライチェーンの一部としての採用

インターネットの求人掲示板

技術

双方向的な現実に即した環境、ソーシャルメディアネットワーク(LI、 Twitter、Facebook1、Pinterest,など)

サーバーベースのHR技術 サービス型ソフトウェアまたはクラウドベースのHR技術

IDカード 生体認証

数量/パーセントの進捗を示すリアルタイムなデジタル表示 ビッグデータから掘り起こした結果を広範囲にわたって視覚化するインフォグラフィック表示

紙ベースの従業員情報管理システム 従業員が自分のデータを入力し更新するセルフサービスのポータル/HR情報キオスク端末

教室とインターネットを組み合わせた学習と知識の集中的管理 ゲーム化された学習と同僚同士で社会的に可能となる知識の分かち合い

カビッティン・順、アネット・カセラス、ステファニー・オーバーマンが取りまとめた。

2.0HR 1.0

Web 1.0 Web 2.0DoubleClick

OfotoAkamai

mp3.comブリタニカ・オンライン

個人ホームページevite

ドメインネーム推測ページビュー

スクリーンスクレーピングパブリッシング

コンテンツマネジメントシステムディレクトリー(分類法)

スティッキネス

Google AdSenseFlickrBitTorrentNapsterWikipediaブログupcoming.org と EVDB検索エンジンの最適化コスト・パー・クリックホームページサービス参加Wikiの類いタギング(「フォークソノミー」)シンディケーション

技術

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PEOPLEIDEAS

TECHNOLOGY

論説2014年1-3月

ヒトアイデアテクノロジー

ともに、自宅を含めるために就業場所を変更するときは「それを反映した雇用契約の修正に従業員が同意することを確認することが重要だ」と助言する。

経営者の視点と“見えないこと”のパラドクス昨年、世界企業300社の経営者を対象に行われたコーン・フェリ

ーの調査によれば、その94%が「テレワークは働く両親のための重要な選択」と考えており、また圧倒的大多数(81%)が「テレワーカーには通常の勤務者と同等の待遇を与えるべきだ」と考えていることが分かった。だが、テレワークには独自の〝コスト″がかかると考えている経営者も少なくない。「テレワークは昇進を制約する可能性があると思うか」と問われたとき、60%が「YES」と答えている(もっとも、逆説的にもそうした経営者の77%が実際テレワークの経験を持っているが)。

成功は、積極的な企業文化、そして親しみやすい遠隔通信のためのインフラの両方にかかっているといってよいだろう。これら2つの要素がなければ、テレワーカーがその他の人たちにとって“見えない存在”になりかねない。コーン・フェリー・リーダーシップ&タレントコンサルティングのCEOであるアナ・デュトラ氏は、従業員の昇進の機会がテレワークによって制約されることのないよう次のようにいう。「テレワーカーが事業所の同僚・幹部とできるだけ緊密な関係を維持することが重要だ。」

テレワークを賢く利用するには、悪用を理由に取り消すことができる特権と見なすのではなく、政策の洗練が重要である。YahooのCEOマリッサ・メイヤー氏が昨年、今となっては悪い決断と見なされているが、テレワークの中止を決断したのも、VPNによるログインデータによって多くのヤフー従業員が自宅で作業する際に十分なログインを行っていないことが分かったからだ。その結果、同社のテレワークは全面禁止になってしまった。

コンピューター・IT技術サービス大手のヒューレット・パッカード(HP)は、メイヤー氏が巻き起こした論争から学んだらしく、テレワークに対しもう少し違ったアプローチを取っている。HPの幹部たちは従業員たちに(常にではないが)オフィスでの就労を増やすよう促している。その背景にあるのは、「より連携した労働部隊の創造、および協働と革新の推進を助ける」新しい文化シフトだとアリク・ヘセルダール氏は伝える。

私たちが“ウェブ2.0時代”に巻き込まれれば巻き込まれるほど、従業員の期待に応え、また競争優位性を維持するために雇用モデルの形は変わってくる。テレワークに関する政策をうまく洗練すれば、性格や家庭状況の違いに合わせることによりパーフォーマンスを向上させることもできる。外向的傾向がより強い従業員は、人と繋がっている時間が長いほど精力的に働くだろう。しかし内向的傾向がより強い従業員はそれによって疲れてしまうかも知らない。これら2つのグループのパーフォーマンスを最適化するために、HRは(在宅での個別の仕事に対して)リアルタイムまたは対面の協力量を期待に合わせて調整することができる。

テレワークはまた長時間通勤に替わるパーフォーマンス向上の選択肢を親たちに提供する。上海のコールセンターについてのスタンフォードの研究では、事務所でなく自宅で電話をとったときの方が生産性において13パーセント上昇したと伝えている。

「テレワークは昇進を制約する可能性があると思うか」と問われたとき、60%が「YES」と答えている(もっとも、逆説的にもそうした経営者の77%が実際テレワー

クの経験を持っているが)。

人は、賢く機動性をもった自由を持つことで、日本で不足しているといわれる創造性をもつことができる。

テレワークは個人に新しい物理的な環境を提供する。このシンプルな景観の変化は新しいエネルギーを与え、創造性を刺激してくれる。「エンタープライズ2.0」とは企業の壁を乗り越え、ダイバーシティとインクルージョンを見える形にするのに十分強力な協働の企業文化を創造することにほかならない。

時間帯の調整と部屋着の時間多くの企業において、トップチームはその中にいるタレント型人

材の特定の組み合わせを使って働いている。それを可能にしているのは、そうした人材の蓄積を世界中に最大限広げることだ。X世代の人びと(世代に関しては「(世代)ギャップを気にかけよう」を参照のこと)は、技術インターフェースを今もコミュニケーションを妨げる不愉快な障害と考えるかもしれないが、多くの新世紀世代の人びとはソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を通じて“誰かとつながっている”という抵抗し難い感覚を持っている(HRに影響する新しい波に関しては本号特集記事「HRのなかで先を行く」を参照)。

隣り合った経度の時間帯にいるチームを調整することによって専門家たちたちは、コア時間に(面と向かってか離れたところであるかは別として)他の専門家たちと集うことによってチームの密接感と活気に加わることができる。携帯メールとライブのウェブ映像は、東京中心部の通勤圏にいようと、新しくネット接続が可能になった日本の田舎にいようと、またインドのシリコンバレーといわれるバンガロールや北京の中関村のようなITセンターにいようと、働く人たちをつないでくれる。

本誌はまさに、グローバルなテレワークによって何ができるか、どうすればよいかの“生きた証し”といってよい。本誌の編集者、翻訳者、総括人、グラフィックデザイナー、それにリサーチャーは、マニラ、東京、ワシントンDC、また私のように自分にとっての〝神山″であるイギリスの海岸の村であるコーンウォールをたまに拠点にするなど、各地に広がっている。「ワードプレス」を始めたグローバルなテレワークの推進者の1人であるマット・マレンウェッグ氏は、「自分の好きなところで働くことを楽しむ人、またワードプレスに興味がある人の誰にとっても、オートマティック社はこれからも“みんなのもの”であることを100%約束する」と主張する。たしかに、自宅を離れることなくバーチャルに旅行することは多くの人にとって驚くほどスリルに満ちている。

次第に国際化する離れ分散した職場間の保護策として、組織のすべてのレベルにあ

る、日本に拠点を置く従業員が面と向かって海外にいるパートナーを管理または交渉することを求められる前にグローバルテレワークによって海外とパートナー意識を育むチャンスを得ることができる。伝統的な知恵は、まず出会ってからであるが、日本では往々状況が違っている。見知らぬ人にもフレンドリーな神山と違って、ほとんどの日本人は閉鎖的で、海外の同僚と働くテレワークで、例えば時間管理やルール遵守など、これまでと違った方法に少しずつ慣れることに消極的である。これまで国内の経験しか持っていない従業員にとって違った方法で働くことは直感的に恐怖を与えるか、そうしたことに意識が及ばない。

ローレント&ホフによれば、日本人労働者の60%以上は上司がすべての答えを持っていることを期待しているという(ちなみにアメリカのそれは15%以下)。上司と部下の間のこうした権威的関係は中国でも一般的だ。これは日本人マネジャーにとっては適応が少なくて済むことを意味する。

中国に関する近年の調査は、成功に必要な要素として指示的なリーダーを強く支持する傾向が見られるという。明確なガイドラインとテレワークに関する迅速なフィードバックを伴ったテレワーカーへ

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アネット・カセラス 組織のリーダー養成、チームデベロップメントのコーチ兼コンサルタント。コーチ養成機関「CTI」と「組織学習協会

(SoL)システム・パースペクティブ部会」で研鑽を積む。日本の大学でも「グローバル・マインドセット」や「コミュニケーション・インテリジェンス」に関するコースを受け持っている。英国国立レスター大学修士号取得。

謝辞足立心一、O.ジオレット、C.李、C.中岡、J.ピーターズ、J.ロビンソン、E.末広

のシフトは、「指図がましい」というよりは支援的と受け取る中国人テレワーカーは多い。その方が上司の期待という点で自分が今どこにいるのかをより明確に知ることができるからだ。組織の一員ということを感じることができるよう、上司や同僚との関係を築くための私的なコミュニケーションもまた中国人テレワーカーにとってはとても重要だ。「定期的なグループ会議、信頼の置けるイントラネットシステム、“ためになる”高頻度のニュースレター、それに組織化された社交行事」こそ、離れて働く中国人従業員の中の団結を強化するための方法と見なされた。

この点、距離を隔てた仕事関係が、人件費・オフィス賃料を削減する効果的な解決策になるとともに、グローバルなスキル開発のための実質的なセーフティネットおよび防護壁となるのである。

テレワーク戦術から持続可能な戦略へあなたの組織が1.0世界から2.0世界に移行しようとしているかど

うかを判断する最適な方法は、テレワークがどの程度より広範な戦略の中に統合されているかを知ることである。「事業遂行とリスク管理の推進者にとってモビリティー(流動性)は重要な戦略になりつつある」とした上で、モバイル・エンタプライズ・ストラテジー社のアンジェラ・サルメロン氏はこう語る。「だが企業はデバイス、ネットワーク、流動性の応用階層を越えて効果がある全体的な解決策を必要としている。」

HRの戦略的利用に関して最後に紹介するのは、ヘイ・グループ・インサイト社のマーク・ロイヤル氏である。ロイヤル氏はテレワークを単に「目先の解決策」として使わないことが重要だと注意する。

「組織は、従業員がより生産的に働き、個人的な責任を果たす時間をより多く得、より高いレベルの組織忠誠度を蓄積するよう、従業員を支援することでワークライフバランスへの長期的な解決策とすることにも注意を払わなければならない」とロイヤル氏はいう。

佐久子さんにとって何より幸運なのは、コンピューターの時間を神山町の大自然を駆け抜けるトレールランニングに振り向けることができることだ。長い通勤時間を余儀なくされる親たちにとってそれは家族と夕食を摂る、また子どもの宿題を見てやる機会を与える。また。多くのカップルにとってテレワークは混んだ通勤時間をソファで寄り添う時間に変えてくれる。こうした単純で当たり前で自然なことが元気の回復をもたらしてくれる。HRの意義はテレワークの元気が従業員に忠誠を与え成果を高めることなのである。

「The HR Agenda」はこれからも折に触れてワークライフバランスを掘り下げて行きたいと考えている。もしあなたの組織が持続的なキャリア開発の創造において明確なワークライフや福利厚生戦略を伴った実績を挙げているのであれば、インタビューさせていただきたい。ぜひここに連絡いただきたい。

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