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⽇本の⾃殺 日本 における自殺 Suicide in Japan)は主要な死因 の⼀つであり * [1]10 万⼈あたりの⾃殺率は 20.9 ⼈であり、OECD 平均の 12.4 ⼈と⽐べて未だに⼤ きい値である(2014 年) * [2]。⾃殺率のピークは 1990 年代であったが、その後 2000 年から 2011 の間に 6.3% 減少した * [2]。しかし未だ OECD 平均 と⽐べて⾼い数値であるため、明らかに要注意で あると OECD は勧告している * [2]suicide rate >13 6.5-13 <6.5 no data WHO による⼈⼝ 10 万あたり⾃殺率(年齢ೀ準化) * [3]ঐは 13 以上、сは 6.5-13、⻘は 6.5 以下 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 Age- st andardised rates per 100 000 populati on Est onia Korea Finland Hungary Denmark Ja pan Greece Ireland It aly Spain OECD Trends in suicide rates, selected OECD countries, 1990-2011, (OECD Health at a glance 2013) OECD 各国の⼈⼝ 10 万⼈あたりೀ準化⾃殺率。ピンク OECD 平均、オレンジが⽇本 * [4] 1 概要 WHO 2011 年の時点では、⽇本の⾃殺率を世界 10 位(21.7%)と報告していた(国の⾃殺率順リ スト)OECD は⽇本の⾃殺率は 1990 年代末には 急上昇したが、以降は以前の値に戻っていると述 べている * [4]⽇本において⾃殺は主要な死因の⼀つであり、 2006 年(平成 18 年)度の場合、全世代の統計 としては、 悪性新⽣物 30.4%)、 ⼼疾患(16.0%)⾎管疾患(11.8%)肺炎(9.9%)、不慮の事故 (3.5%) に次ぎ、 6 番⽬の死因で 2.8% が⾃殺により死亡し * [1]。なお、20 代から 30 代にかけては⾃殺が死 因のトップとなっており、 2003 (平成 15 年)の 場合、死亡者のうち 15.8%(20 代前半)20.9%(20 代後半)22.8%(30 代前半)25.0%(30 代後半) が⾃ 殺している * [5]特に⽇本の男性中⾼年層⾃殺率は世界でもトップ レベルである * [6]OECD は、⽇本はうつ病関連⾃ 殺により 25.4 億ドルの経済的損失をまねいてい ると推定している * [7]2 自殺者数の推移 戦後は戦前に⽐べ⾃殺率の変動が激しく、男性の 場合、⾼度経済成⻑期(⼈⼝ 10 万⼈あたり 15 ⼈) バブル期(同 20 ⼈)は下がった * [13]1953-1959 年のピーク (31.5 )1983-1986 年の ピーク (28.9 )、さらに年間⾃殺者数の 3 ⼈超えが継続した 1998 年〜2012 年までのピーク (2003 年は同 38.0 ) の計 3 回の⼤きなピークを迎 えている(厚⽣労働省 ⼈⼝動態統計* [13] * [14])。 ⼀⽅、⼥性の場合は男性と類似した曲線をたどる ものの、1953-1959 年のピークを除けばさほど⼤ きな変化は⾒られず * [13]、このことから男性の⾃ 殺率の増減が⽇本⼈全体の⾃殺率の増減の主な 影響であることがわかる。また、19531959 年の ピークは、⻘年層の復員兵の⾃殺が多かったとさ れる * [13] が、それに対し、残り 2 つのピークでは、 中⾼年の男性の⾃殺の増加が⾃殺率を押し上げて いる * [13]1998 (平成 10 年)には年間⾃殺者数が 32863 警察庁 発表。⼈⼝動態統計 では 31755 ⼈)とな り、統計のある1897 以降で初めて 3 万⼈を突 破した。 2003 年(平成 15 年)には 34427 ⼈(⼈⼝ 動態統計で 32109 ⼈)に達し、現在までにおける 過去最⼤数となっている。以降は2009 (平成 21 年)までほぼ 3 2 千⼈台で推移、2010 (平成 22 年)より減少傾向となって 3 万⼈を超える⽔準 2011 年(平成 23 年)までの連続 14 年間続いた。 ただし、厚⽣労働省発表の⼈⼝動態統計のデータ では過去にも2001 (平成 13 年)と2002 (平 14 年)、 2006 (平成 18 年)に 3 万⼈を割って いる * [15] * [16]。「年間 3 万⼈」は⼀⽇あたり平均 80 ⼈以上となり、⽇本で 2012 年までの 14 年間だ けでも 45 万⼈が⾃殺で亡くなっており、⽇本で 家族を⾃殺で亡くした遺族 300 万⼈を超えると 推計されている * [17]清⽔康之 によれば、⽇本で 1

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⽇本の⾃殺

日本における自殺(Suicide in Japan)は主要な死因の⼀つであり*[1]、10 万⼈あたりの⾃殺率は 20.9⼈であり、OECD平均の 12.4⼈と⽐べて未だに⼤きい値である(2014 年)*[2]。⾃殺率のピークは1990年代であったが、その後 2000年から 2011年の間に 6.3%減少した*[2]。しかし未だ OECD平均と⽐べて⾼い数値であるため、明らかに要注意であると OECDは勧告している*[2]。

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WHOによる⼈⼝ 10万あたり⾃殺率(年齢 準化)*[3]。は 13以上、 は 6.5-13、⻘は 6.5以下

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Trends in suicide rates, selected OECD countries, 1990-2011, (OECD Health at a glance 2013)

OECD各国の⼈⼝ 10万⼈あたり 準化⾃殺率。ピンクが OECD平均、オレンジが⽇本*[4]

1 概要

WHOは 2011年の時点では、⽇本の⾃殺率を世界10位(21.7%)と報告していた(国の⾃殺率順リスト)。OECD は⽇本の⾃殺率は 1990 年代末には急上昇したが、以降は以前の値に戻っていると述べている*[4]。⽇本において⾃殺は主要な死因の⼀つであり、2006 年(平成 18 年)度の場合、全世代の統計としては、悪性新⽣物(30.4%)、⼼疾患(16.0%)、脳⾎管疾患(11.8%)、肺炎(9.9%)、不慮の事故 (3.5%)

に次ぎ、6番⽬の死因で 2.8%が⾃殺により死亡した*[1]。なお、20代から 30代にかけては⾃殺が死因のトップとなっており、2003年(平成 15年)の場合、死亡者のうち 15.8%(20 代前半)、20.9%(20代後半)、22.8%(30代前半)、25.0%(30代後半)が⾃殺している*[5]。特に⽇本の男性中⾼年層⾃殺率は世界でもトップレベルである*[6]。OECDは、⽇本はうつ病関連⾃殺により 25.4 億ドルの経済的損失をまねいていると推定している*[7]。

2 自殺者数の推移

戦後は戦前に⽐べ⾃殺率の変動が激しく、男性の場合、⾼度経済成⻑期(⼈⼝ 10万⼈あたり 15⼈)やバブル期(同 20⼈)は下がった*[13]。1953-1959年のピーク (同 31.5⼈)、1983-1986年のピーク (同 28.9 ⼈)、さらに年間⾃殺者数の 3 万⼈超えが継続した 1998 年〜2012 年までのピーク(2003年は同 38.0⼈)の計 3回の⼤きなピークを迎えている(厚⽣労働省「⼈⼝動態統計」*[13]*[14])。⼀⽅、⼥性の場合は男性と類似した曲線をたどるものの、1953-1959 年のピークを除けばさほど⼤きな変化は⾒られず*[13]、このことから男性の⾃殺率の増減が⽇本⼈全体の⾃殺率の増減の主な影響であることがわかる。また、1953〜1959年のピークは、⻘年層の復員兵の⾃殺が多かったとされる*[13]が、それに対し、残り 2つのピークでは、中⾼年の男性の⾃殺の増加が⾃殺率を押し上げている*[13]。1998年(平成 10年)には年間⾃殺者数が 32863⼈

(警察庁 発表。⼈⼝動態統計 では 31755⼈)となり、統計のある1897 年 以降で初めて 3 万⼈を突破した。2003年(平成 15年)には 34427⼈(⼈⼝動態統計で 32109⼈)に達し、現在までにおける過去最⼤数となっている。以降は2009年(平成 21年)までほぼ 3万 2千⼈台で推移、2010年(平成22年)より減少傾向となって 3万⼈を超える⽔準は 2011年(平成 23年)までの連続 14年間続いた。ただし、厚⽣労働省発表の⼈⼝動態統計のデータでは過去にも2001年(平成 13年)と2002年(平成 14年)、2006年(平成 18年)に 3万⼈を割っている*[15]*[16]。「年間 3 万⼈」は⼀⽇あたり平均80⼈以上となり、⽇本で 2012年までの 14年間だけでも 45 万⼈が⾃殺で亡くなっており、⽇本で家族を⾃殺で亡くした遺族は 300万⼈を超えると推計されている*[17]。清⽔康之によれば、⽇本で

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2 3 ⾃殺の原因

暮らす⼈の 40⼈にひとりは⾃殺者の遺族であり、⽇本⼈にとっては⾮常に深刻な問題で、⾝近にある問題であり、また⽇本の⾃殺者数は世界で 8番⽬で、⽶国の 2倍、イギリスやイタリアの 3倍となっており危機的な状況が続いていると指摘している*[17]。2011 年(平成 23 年)までは年間⾃殺者数が 3 万⼈を超える事態が続いていたが、近年は減少してきており 2012年には 15年ぶりに 3万⼈を下回った。2012 年(平成 24 年)の⽇本の⾃殺率*[注 1]

(⼈⼝ 10万⼈あたりの⾃殺者数)は 21.8⼈で総⾃殺者数は 27858 ⼈である(警察庁 発表*[18])。これは同年の交通事故者数(4411⼈)の約 6.32倍に上る*[19]。2013年3⽉ 14⽇、警察庁は 2012年の⾃殺者数を前年⽐ 9.1% 減の 27858 ⼈と発表した。近年は減少傾向にあったが年間⾃殺者数が 3万⼈を下回るのは 1997年以来、15年ぶりであった。しかし、20代 −40 代の若年者における⾃殺率は依然⾼いままで、1997 年の⽔準と⽐較しても特に 20 代の⾃殺率の増加が深刻である*[18]。2014 年 1 ⽉の警察庁発表では、2013 年の⾃殺者は 27283 ⼈で、4 年連続で減少した事が明らかとなった。特に経済・⽣活問題を動機とする⾃殺者が減っている。経済状況の好転の他、⾃治体単位での⾃殺を防ぐ活動による効果が出たと分析されている*[20]。2014年版⾃殺対策⽩書では、15歳から 39歳の各年代の死因のトップが「⾃殺」であり、⾃殺対策⽩書は「15-34 歳の若い世代で死因の 1 位が⾃殺となっているのは先進 7カ国では⽇本のみ」としている*[21]。2015年 3⽉ 12⽇、警察庁は 2014年の⾃殺者数を25374⼈で、11年前の 2003年よりも約⼀万⼈減少と発表した*[22]。

2.1 1990年代後半:戦後最大の自殺者数の急増

1998 年以降から近年まで続いたピークは戦後最⼤のものであった*[13]。それまで約 2-2.5 万⼈程度であった年間の⾃殺者数が 3 万⼈以上で推移する状況にあったが、1998年は前年の 24391⼈から 8000⼈以上も急増(前年⽐約 35%増*[23])した*[24]。うち 25%は 45歳以上の層のもので、中⾼年の⾃殺増が急増への寄与が⼤きい*[23]。急増した原因として景気 の悪化を指摘するものも多く*[25]、各種統計や⾃殺者の遺書などから、今回のピークの原因は不況によるものと推測されている*[13]。OECD は 90 年代後半の⾃殺増の理由としてアジア通貨危機を挙げている*[4]*[2]。また読売新聞1999 年 8 ⽉ 7 ⽇付けの記事では⾃殺の急増、とりわけ男性の⾃殺者が増えたしたことを報じたが、そこでは「元気ない男性」として、男性が家事や育児に参加して男性の意識改⾰を図るべ

きとジェンダー 論から⾃殺原因や対策を報じた。⼀⽅、船瀬俊介は著書「クスリは飲んではいけない!?」(徳間書店)にて 1998年に⾃殺が急増したのは新抗うつ剤が出現した時と⼀致しているとの⾒解をしている。

不況 の影響を受けやすい中⾼年男性でピーク後の⾃殺率が特に急増し、遺書から調べた⾃殺原因では、1998年以降、ピーク前と⽐べて「経済・⽣活問題」が急増している*[13]。内閣府経済社会総合研究所の統計では、失業要因が安定して有意に男性⾃殺率を増加させ*[25]、1998 年以降の 30 歳代後半から 60 歳代前半の男性⾃殺率の急増の要因は、雇⽤・経済環境の悪化である可能性が⾼い事が年齢階層別データ分析、都道府県別年齢階層別データ分析の双⽅において確認できる*[25]。⼥性の⾃殺率はピーク前とあまり変わらず、男性の⾃殺率の影響が顕著である*[13]。男性は⾼年齢層で⾃殺しやすく、⾼齢化は男性の⾃殺率増加の原因を 2割程度説明する*[13]。年齢別で⾒ると、40〜60 代の増加が顕著で、特に 60 代ではピーク前の3割増になっている*[13]。以上の 1998 年以降の「定年 に⾄っていない中⾼年男性の⾃殺率増加」の背景には、過去のものとは動向が異なり、「経済・社会的な要因」が⼤きく影響している可能性が指摘されている*[26]。2003年(平成 15年)には、年間⾃殺者数が 3万 4千⼈に達し、統計のある 1897年以降で最⼤(⾃殺率も27.0と過去最⼤)となった。

3 自殺の原因

⽇本での⾃殺の原因について記述する。

まずは、省庁が発表する表⾯的・表層的なデータから⾒てゆく。

2010年の警察庁のデータでは、⾃殺者の 74.4%が遺書などにより動機が特定でき、残りの 25.6%は動機不明*[8]。遺書で特定できた場合では、動機原因は「健康 問題(病気)」15802⼈、「経済・⽣活問題(貧困)」7438⼈、「家庭問題」4497⼈、「勤務問題(仕事・職場 の⼈間関係)」2590⼈の順とされた(遺書などから明らかに推定できる原因を各⼈ 3つまで計上)*[8]。この順位は前年と変わらなかった*[27]。この統計によると、40歳代および50 歳代の男性(いわゆる「働き盛りの男性」。⽇本を⽀える主⼒となっている層)の場合は「経済・生活問題」が 1位であり、2位の「健康問題」を凌駕しており*[8]、事業不振、倒産、失業などが根本原因であることがうかがわれる。男性の残りの世代、および⼥性では「健康問題」(病気)が最たる理由である*[8]。⾃殺者 305名の遺族を対象にした調査を元にした危険複合度の分析によれば、主な最初の要因として「事業不振」、「職場環境の変化」、「過労」があり、それが「⾝体疾患」、「職場の⼈間関係」、「失業」、「負債」といった問題を引き起こし、そこか

3

ら「家族の不和」、「⽣活苦」、「うつ病」を引き起こして⾃殺に⾄る*[28]*[注 2]。⾃殺に⾄る経過は有職者・失業者で異なり、有職者は配置転換や転職がきっかけになるのが多いのに対し*[29]、失業者は「失業→ ⽣活苦 → 多重債務 →うつ →⾃殺」という経路をたどることが多い*[29]。なお、雇⽤保険受給中の失業者の場合、離職⽇からの⽇にちには特に傾向はない*[29]。多くの実証研究が、不況と労働条件の悪化、⾃殺者数の増加との相関関係を⽴証している*[30]。不況期になると⾃殺率が約 30% 増加するとされている*[31]。詳しくは#職業性ストレスを参照。

3.1 精神疾患

WHO の⾃殺予防マニュアルによれば、⾃殺既遂者の 90%が精神疾患 を持ち、また 60%がその際に抑うつ状態であったと推定している*[32]。⽇本においては、⾼度救命救急センター搬送の⾃殺未遂者の 80%以上について、DSM-4基準に基づく精神疾患が認められた*[32]。またある調査では、⽇本の⾃殺者 305 名への遺族調査によれば、119 名がうつ→⾃殺という経過をたどっていた*[28]。ただし、同調査はうつ病は⾃殺の根本要因ではなく、他の根本要因がうつを引き起こしていることを明らかにしている。

また厚⽣労働省の⾃殺・うつ病対策プロジェクトチームは、精神科や⼼療内科で処⽅される向精神薬 の多剤⼤量服⽤ が⾃殺を引き起こす要因になっていることを挙げており*[33]、国会でも取り上げられた*[34]*[注 3]。厚労省は多剤⼤量処⽅への診療報酬をカットする対策を講じている。

3.2 日本の社会構造・行政組織の連携不足による連鎖反応の放置

清⽔康之は「日本の社会には人々が生きづらくなるような社会的な悪条件や困難が多い」と指摘しており、本⼈が死を積極的に選んでいるというわけではなく、死を選ばざるを得ない状況に追い込まれて亡くなっていると指摘している*[17]。要因は「将来についての不安や絶望」「家族からの虐待 や周囲からのいじめ」「過重労働」「貧困」「介護疲れ」「孤独」などで、⾃殺に追い込まれるプロセスを分析すると、⾃殺で亡くなった⼈はこれらのさまざまの要因を平均で 4 つ抱えていた*[17]。また、⽇本の社会は、人に悪条件が複合的に(あるいは連鎖的に)のしかかってくるような構造が放置されており、失業者に対する生活支援策は少ない、その結果、多重債務を抱えることになり、失業や多重債務に陥った⼈々に対して精神的なケアをする組織が少なかったり、その連絡先の広報・周知徹底がなされておらず彼らがたどり着くことが少なく、うつ病になり、うつ病に追い込まれた

ために再就職がなお⼀層難しくなり、⾃殺に追い込まれる、というような経路がある*[17]。また⽇本では、⾼校中退→不安定な職にしか就けない状況 →経済的困窮・借⾦ →家庭内の⼈間関係の悪化→⾃殺というような複合的(連鎖的)なことも起きうる*[17]。あるいは、⼦供のころ虐待を受ける → 結婚して家族からの暴⼒をきっかけに精神疾患に→離婚→経済的困窮→⾃殺、といった連鎖もある*[17]。

4 統計

⽣活保護を受けている⼈の⾃殺率は、⼀般の⼈の 2倍となっており、20代だと 6倍となっている

(2012年時点)*[36]。

4.1 年齢差

年齢別では中⾼年の⾃殺者数が多く、2010年の場合、「50歳代」(5959⼈、18.8%)、「60歳代」(5908⼈、18.6%)、「40歳代」(5165⼈、16.3%)、「30歳代」(4596 ⼈、14.5%)の順である*[8]。年齢別に⾒ると、40 代から 60 代前半にかけてが⾃殺率は最も⾼い*[37](2003年度)。

経済学者の飯⽥泰之は「多くの国では⾃殺が多いのは 60歳以上であり、病苦が原因である。または10代である。働き盛りの男性に⾃殺が多いのは⽇本の⼤きな特徴である」と指摘している*[38]。

4.2 職業差

就業者の中では、男性の場合「農林漁業作業者」(10万⼈中 54.2⼈)、「サービス職業従事者」(10万⼈中 51.1 ⼈) で男性全体の⾃殺率 (10 万⼈中 42.3⼈)を上回っている (平成 12年の場合)*[39]、産業別では、男⼥ともに「第 1次産業」の⾃殺率が⾼い*[39]。また、⽣活保護受給者の⾃殺率も全体の⾃殺率より⾼い*[29]。⾃殺率でなく⾃殺者数で⾒た場合、職業別では2010年の場合、「無職者」(18673⼈、58.9%)、「被雇⽤者・勤め⼈」(8568⼈、27.0%)、「⾃営業・家族従事者」(2738⼈、8.6%)、「学⽣・⽣徒等」(928⼈、2.9%)の順であり*[8]、この順位は前年に同じ*[27]。ただし、無職者は主婦や年⾦⽣活者を含んだ数字で、内訳は「その他の無職者」(8151 ⼈)、「年⾦・雇⽤保険等⽣活者」(6068⼈)、「主婦」(2336⼈)、「失業者」(1990 ⼈)、「利⼦・配当・家賃等⽣活者」(67⼈)、「浮浪者」(61⼈)である*[8]。

4.2.1 自衛官の自殺

かつては⼀般⼈と同⽔準だったが、現在は 1,5 倍になっている。*[40] 2008年頃から⾃衛隊員・⾃衛官の⾃殺が社会問題化している。2010年には防衛

4 4 統計

省職員 の⾃殺者が2004 年 から 6 年連続で 100 ⼈を超え、他省庁⽐ 5割増という異常事態になっていることが防衛省の調査で判明している*[41]。⾃衛官の⾃殺のうち特別の事情として「いじめ」の問題があるとされ、遺族が初めて国家賠償請求を起こした1999年(平成11年)11⽉に当時 21歳の三等海曹の⾃殺(「さわぎり (護衛艦)事件」)の原因も、上司の⼆等海曹による「ゲジ(スペードの2、役⽴たずの意味)」と呼ぶ、「海の上ではだれかいなくなってもわからない」その他の暴⾔の連続があったと遺族は裁判内で主張された。裁判では、事実は認定されたが、⼀審では暴⾔は⾃衛官教育の範囲内とされた。この事件を契機に⾃衛隊内でのメンタル・ヘルスが研究されるようになったとされるが、⾃殺者は⾃衛隊全体で事件後も減っていないうえ、2004 年 10 ⽉にはたちかぜ⾃衛官いじめ⾃殺事件をきっかけに、艦内パワーハラスメントが発覚(護衛艦たちかぜ暴⾏恐喝事件)するなど「いじめ」と⾃殺の因果関係がクローズアップされる*[42]。いじめに関しては、(防衛省として現在統計資料の有る)2003(平成 15)年度から2006(平成 18)年度までに『私的制裁』として 92⼈、『傷害⼜は暴⾏脅迫』として 291 ⼈の者に対して懲戒処分を⾏っている。

その他、問題となる⾃殺に、陸上⾃衛隊の駐屯地内での武器の使⽤による⾃殺がある。これは、⼩銃(ライフル)を連射モードに切り替え、数発(1‐9発程度)を命中させて⾃殺する者が、実包を装填した銃器を携⾏して歩哨警備を⾏う⽕薬庫の警備時に多発している。2004年(平成 16年)度以降、2008年 8⽉まで 5件の弾薬庫警備任務中の隊員による⼩銃を使⽤した⾃殺、⾃殺未遂事件が起きている。

なお、2004年から 2006年度は 3年連続で、25万⼈の陸海空⾃衛官の内⾃殺と断定された⾃衛官の数は、毎年 100 ⼈程度に達している(防衛省調)。2006年度に死亡した隊員は陸海空あわせて 224⼈

(陸⾃ 156⼈、海⾃ 35⼈、空⾃ 33⼈)。このうち⾃殺と認定された者は、97⼈(陸 66⼈、海 20⼈、空 11⼈)で死亡理由の 4割を超える。

4.3 季節・日時による差

⽉別では 3⽉が最も多い*[29]*[43]。多年度を通して平均したグラフで⾒ると、2 ⽉が⾃殺者がかなり低いのに対して、3 ⽉が⼀気に⾼くなり、4 ⽉、5⽉、6⽉がそれに準ずる⾼さで徐々に低くなっている*[43]*[44]。3〜6⽉が年間の⾃殺者数を引き上げている*[29]。近年では特に 1998年と 2003年にこの傾向が顕著であるが、前者は⼤⼿銀⾏や証券会社が破綻した時期であり、後者は失業率のピークであり、同時にヤミ⾦取⽴てによる⾃殺が増加した時期である*[13]。曜⽇別で⾒た場合、男性は⽉曜が最も多く(10万⼈当たり 80.7⼈)*[45]、曜⽇が進むごとに減っていき、⼟⽇が最も少なくなる(それぞれ 10 万⼈

当たり 53.5⼈、55.3⼈)*[45]これは欧⽶で⼀般に「ブルーマンデー症候群」と呼ばれる症状と関連があると⾒られている。⽉曜⽇というのは、仕事をしている⼈々にとっては、⼟⽇における解放が終わり、再び社会の厳しい現実と向かいあわなければならない⽇なのである*[43] と⾔われる。(⽇本では類語でサザエさん症候群 とも)。⼀⽅⼥性の場合、このような明確な差はない*[45]。

4.4 性別による差

⽇本の⾃殺率は性別差が激しく、⾃殺者の 70%以上が男性(例えば 2010年は 70.3%*[8])である。つまり、統計的には男性は⼥性より 2.5 倍⾃殺しやすい。男性の⽅が⾃殺しやすい原因として、失業を含む勤務問題が挙げられる。遺書などから⾃殺原因を調べた場合、20 代から 60 代では「勤務問題」・「経済・⽣活問題」を挙げる者の数が男⼥で実に 10倍近くの開きがあり*[8]、働く性としての男性に過度の負担がかかっていることがわかる。他の要因では男⼥の違いは 2 倍以内である*[8]。1998 年以降の不況で男性の⾃殺率が急増する⼀⽅で、⼥性の⾃殺率はさほど増えていない*[13]。カトリーヌ・ヴィダルらは、失業時や離婚時に男性の⽅に負荷が集中しやすいことを指摘、失業や離婚をした場合、⼥性であれば家族や社会の状況に組み込まれて保護されるのに対し、男性は社会的に孤⽴を余儀なくされることを挙げている*[46]。統計的に⾒ても配偶者と離別したもの同⼠の⾃殺率の男⼥⽐や失業者同⼠の⾃殺率の男⼥⽐の場合はそれぞれ 6.04 倍(2000 年)*[47]、11.4 倍

(2009年)*[27]に跳ね上がるため、離別や失業が⾃殺に男⼥差がある⼤きな原因であることがうかがえ、上述の⾒解を裏付ける。これは未婚同⼠・既婚したもの同⼠・死別したもの同⼠のいずれの⾃殺率の男⼥⽐も⼤きな差はなく、それぞれ 2.85倍、2.772倍、3.32倍(2000年)*[47]であるのと対照的である。ただし、未婚・離婚・死別の全てを含めても(この離別⾃殺に関してだけは)、男性⾃殺者の 55.5% に過ぎない*[48]、(⼥性の場合は60.1%*[48])ことにも注意を払うべきである。

他のほとんどの国でも男性の⽅が⾃殺しやすい*[49]。男⼥⽐が特に極端な旧共産圏諸国*[49]を除けば、⽇本における⾃殺の男⼥⽐は平均的なものである*[49]。特に男性の場合、35歳から 54歳の年齢階層では、配偶者と離別した無職男性の⾃殺率は有配偶・有職男性の⾃殺率の 20倍にものぼる*[29]。職業別で⾒た場合も、無職男性の⾃殺率は⾮常に⾼く、「35歳から 54歳の年齢階層では有職者の約 5倍になっている」*[29]。NHK の報道番組『クローズアップ現代』「中⾼年の⾃殺」の収録中、⼤原健⼠郎が、男は⼥に殺されているようなもの、といった趣旨の指摘をした。それについて、⼥性の国⾕裕⼦から「本番では絶

4.6 ⼿法 5

対に⾔うな」と⼝⽌めをされたという*[50]。

4.5 地域差

特に男性では⾃殺率が地域ごとに 1.6-1.7 倍の差がある*[13]。警察の全管轄 1387 個(当時)に対して⾃殺率を調べた調査*[52] によると、上位 50の管轄の相当数が⼯場地域ないしそれに隣接する地域であった。このことから、下請け・孫請け・派遣会社における過酷かつ不安定な労働環境が⾃殺に地域差がある原因と考えられる*[52]。都道府県別に⾒た場合、東北三県の⻘森県・岩⼿県・秋⽥県が際⽴って⾃殺率が⾼く、それ以外では新潟県・島根県・⾼知県などが⾃殺率が⾼い*[53]。⼀⽅で東京都、千葉県・神奈川県などの⾸都圏、⼤阪府・兵庫県・京都府・奈良県などの近畿圏、愛知県・静岡県 などの中京圏 の⾃殺率は平均以下となっている*[53]。なお、⾃殺率でなく⾃殺⼈数を⾒た場合は、⼈⼝が多い東京都が⾃殺数最多である*[52]。地域による⾃殺率は男⼥で差があり、男性では北東北・南九州・⼭陰で⽐較的⾼い傾向がある*[13]のに対し、⼥性では秋⽥県を除くと男性ほど明確な地域差はない*[13]。このことから男性への負担が地域差の原因であると考えられる。なお、北東北・南九州・⼭陰で男性の⾃殺率が⾼い傾向は、1960年代以降ほぼ固定化している*[13]。なお、98年以降の増減は、⾃殺率の⾼い地域でより増加する特徴がみられる*[13]。したがって、⾃殺率の地域差は 1998 年以降の⾃殺の急増と何らかの関係があることを⽰唆し*[13]、不況が⾃殺の地域差を⽣んでいることがわかる。地域差がある他の原因として、地域産業が衰えたことによる「経済⾯」と、⾼齢化による「健康⾯」の 2つが⼤きな理由に挙げられている*[54]。また地域の保守性のため、規範からはずれた⽣き⽅を恥とする⼈が多いことも要因として考えうる。たとえば富⼭県は⽣活保護率が⽇本で最も低く*[55]、新潟県は離婚率が⽇本で最も低い*[56]。また、これらの地⽅では冬に曇り と雪 が続くため、季節性情動障害 との関係が取り沙汰される*[57]が、統計的には⽇照時間と⾃殺率には相関が⾒られず*[58]、例えば 2010 年の秋⽥県における⾃殺が最多の⽉は 6⽉、富⼭県における⾃殺が最多の⽉は 5⽉である*[8]。2010年現在、最も⾃殺率の⾼い都道府県は⼭梨県

(10 万⼈当たり 41.6 ⼈)*[8] で、全国平均の 24.9⼈*[8]を⼤きく上回っている。ただしこれは発⾒地別の統計の場合で*[59]、住居地別の統計では⾃殺率は平均程度である*[59]ため、⾃殺者が県外から⻘⽊ヶ原樹海 といった⾃殺の名所 に訪れることが原因であることがうかがえる。なお、発⾒地別統計と住居地別統計に極端な差があるのは⼭梨のみで、他県ではさほど差はない*[59]。2006 年の最も⾃殺率の⾼い都道府県は秋⽥県 であり、10 万⼈当たり 43.5 ⼈であった*[60]。これは、⻘⽊ヶ原樹海を擁する⼭梨県の 42.7⼈をもし

のぐ数字であった*[60]。2007年には、秋⽥県が⻑年にわたり⾃殺率全国⼀位の都道府県となっていることが世間の注⽬を集めた*[61]。これを受けて秋⽥県では⾃殺予防のための様々な取組みが⾏われた結果*[62]、2010年の同県の⾃殺率は、⼭梨県

(41.6⼈)、岩⼿県(35.1⼈)に次ぐ全国三位の 33.9⼈にまで押し下げることに成功した*[8]。2014 年において最も⾃殺率が低いのは⼤阪府 であり、10万⼈当たりの⾃殺者は 15.7⼈である*[63]。

4.6 手法

⽇本では⾃殺⼿段でみた場合、男性は縊死(66.4%)、ガス (13.3%)、⾶び降り (7.1%)、薬物 (3.3%)、溺死(2.3%)、⾶び込み (2.1%)、その他 (5.8%)の順で多く、⼥性は縊死 (58.9%)、⾶び降り (12.8%)、薬物(6.7%)、溺死 (6.7%)、ガス (4.8%)、⾶び込み (3.6%)、その他 (6.5%)の順である(平成 15年*[64])。

4.7 場所

⾃ 殺 の 場 所 は 「⾃ 宅」(男 ⼥ 合 計 17511 ⼈、54.3%)、「乗 物」(3334 ⼈、10.3%)、「⾼ 層 ビル」(1656⼈、5.1%)、「海(湖)・河川」(1649⼈、5.1%)、「⼭」(1387 ⼈、4.3%)、の順である*[65]。男⼥別では男⼥とも「⾃宅」がトップであるが、2位以降は差があり、男性では「乗物」が 2位だが⼥性では乗り物の順位は⾼くなく*[65]、⾞を使う男性とそうでない⼥性の間で⾃殺⽅法に差があることがうかがえる。逆に⼥性では「⾼層ビル」が2位だが男性では⾼層ビルの順位は⾼くない*[65]。

4.8 未遂歴・相談歴

⾃殺実態⽩書による⾃殺者 305名の遺族に調査した調査によれば、⾃殺者の 30%に⾃殺未遂歴があり、60%にはなく、10%は不明である*[28]。特に⼥性の場合は⾃殺者の 45%に未遂歴がある*[28]。同調査によれば 72% が⾃殺前になんらかの相談機関に相談に⾏っており*[注 4]*[28]、相談機関の 58%が精神科、25% がその他医療機関であった*[28]。そして相談に⾏っていた 202 ⼈中 62% が⾃殺直前の1か⽉以内まで相談に⾏っていた*[28]。

5 リスクファクター

5.1 職業性ストレス

川⼈博、⾼橋祥友は、中⾼年の⾃殺の増加の要因として「過労⾃殺」を焦点に、

1. 業務型による⾁体疲労

2. 精神的ストレス

6 8 法

3. 達成できないノルマのための落胆

4. 職場での⼈権侵害

などの事例を挙げている*[66]。医学博⼠・精神科医の⾼橋祥友は、リストラ・解雇にともなう精神的なショックが⾃殺のきっかけを構成すると指摘している*[66]。例えば、組織との絆の喪失、⾃尊⼼の低下、失職後の家庭での役割の低下、再就職の不安などが挙げられる*[66]。実際、失業問題は⾃殺との関係が深い。有効求⼈倍率と⾃殺率には強い負相関が存在し*[23]、従業員 5⼈未満の零細企業の倒産件数は⾃殺率と強い正の相関がある*[23]。経済学者の岸⽥研作 は、30 代後半以降の男性の失業率の増加は、⾃殺率を押し上げ、⾃殺の変動を説明する最⼤の要因となっているとしている

(2001年時点)*[67]。バブル崩壊後の⻑期低迷により、中⼩企業の社⻑などが借⾦を返済できず、⾃殺に追い込まれるといった事件が頻発したが、これはリコース・ローン(遡及型融資)が要因である*[68]。経済学者の⽵中平蔵は「倒産・失業は本来⾃分の命を絶つようなことではない。⽇本で中⼩企業の経営者が⾃殺するケースが多いのは、経営者が銀⾏に対して個⼈保証をしていることに関係がある。倒産・失業が増えていることは問題であるが、それ以上に倒産したら何もかも失うという⽇本の社会システムは、重⼤な⽋陥である」と指摘している*[69]。⽵中は「アメリカよりも⽇本の⽅がはるかに弱⾁強⾷の⾯がある。アメリカには貧富の差はあるが、⾃殺は⽇本ほど多くない」と指摘している*[70]。男性については所得の変動、負債、失業といった要因が⾃殺率に関係する*[13]。⼀⽅⼥性の場合は失業と⾃殺の関係が⾒られない*[13]。ただし、各国ごとのジニ係数と⾃殺率には相関がみられず*[13]、これは所得格差は⾃殺率と相関が少ないことを意味する。ただし、ジニ係数は⾃殺未遂率とは有意な相関がある*[13]。

5.2 子どものいじめ

1986年、1994年 - 1996年、2006年および 2012年-の時期は、⼦供の⾃殺についての報道が多かった。原因としては「学校におけるいじめ」が取りざたされた。また、これに関連して⽂部科学省が学校における「いじめの把握」が不⼗分であることが指摘された。

いじめ⾃殺が相次いだ 1995年 12⽉には、横浜市のいじめ 110 番に⾃殺をほのめかす電話が殺到し、当時の横浜市⻑⾼秀秀信が緊急会⾒を開くなど現場は⼀時騒然となった。そしてそのわずか 2ヵ⽉後には⽇本各地の新聞社や放送局にいじめ⾃殺の予告やテストや運動会を取りやめないと死ぬといった⾃殺予告の⼿紙が多数送られ、実際に試験

⽇を延期する学校が相次いだ。そして 10 年後の2006 年 11 ⽉には中⾼⽣が⽂部科学省に⾃殺予告を送り、マスコミでも⼤きく取り上げられた。

⽂部科学省 によれば若年層の学⽣については、2004年度の場合、「厭世」、「⽗⺟ 等の叱責」、「精神障害」、「進路問題」、「学業問題」、「恋愛」の順となっている*[71]。

5.3 災害

震災により、家族や財産を失ったことが原因による⾃殺。2011年 3⽉に発⽣した東⽇本⼤震災関連では、同年 6⽉だけで震災関連の⾃殺が 16⼈に上ると報道された*[72]。

6 遺族

⽇本には⾃殺者の遺族に関する統計が無いものの、300 万⼈前後と⾒積もられる*[73]。遺族 305⼈を対象にした調査では、遺族達の 4⼈に 1⼈が⾃分も死にたいと考えており*[73]、⼀家の⼤⿊柱を失ったことによる経済的困窮に悩まされる*[73]など、その厳しい実態がうかがえる。⾃殺が起こったことを 48% の遺族が⾃分のせいだと考えており*[73]、10年近く経過しても抑うつ感が消えない遺族も多い*[73]。また⾃殺者が事前に何らかのサインを出していたかという問いには 46.2%があったと答えているが、⾃殺以前にそれに気づいたのは 20%にとどまった*[73]。56.4%が周囲からの偏⾒にさらされた経験があり*[73]、「あなたのせいで死んだ」などの⼼ない⾮難を受けている*[73]。

7 自殺未遂

⽇本では、⾃殺者の 10 倍以上の⾃殺未遂者がいると推計されている*[74]。平成 19 年の場合、⾃損⾏為で救急⾃動⾞の出場した件数は 71866件であり、搬送⼈数は 5 万 2,871 ⼈であった*[59]。⾃殺者のうち、以前に⾃殺未遂経験があるものが男性では 13.5%、⼥性では 28.6%である*[59]。特にこの割合は 20 代、30 代の⼥性で多い(それぞれ46.4%、44.5%)*[59]。

8 法令

⽇本でも他⼈を⾃殺させること、⾃殺を助けることは⾃殺関与罪(刑法第 202条)とされ、法律で禁⽌されている。また、もともと⾃殺する意思がない⼈に⾃殺を決意させて⾃殺させることは⾃殺幇助罪として、法律で禁⽌されている。また、⼀⼈で⾃殺しようとしそれが未遂で終わった場合、その⾏為⾃体では処罰の対象とはならない。だが

7

⾃殺を複数⼈数で⾏おうとし未遂に終わった場合は、互いに対する犯罪として処罰される(⾃殺関与・同意殺⼈罪)。また、現在の⽇本の刑法では、⾃殺しようとした⾏為で同時で他者に危険を及ぼした場合(ガス⾃殺を図った場合のガス漏出罪・失⽕罪など)は、具体的な被害がなくても処罰される可能性がある。また、第三者に被害が発⽣した場合(たとえば⾶び降り⾃殺、⾶び込み⾃殺など)には、刑事⼿続上は重過失致死罪などの罪により⾃殺した者は、被疑者死亡で送検される可能性があり、⺠事上は被害者から、⾃殺した者の遺族に対して損害賠償 責任が発⽣する可能性がある(厳密には、「⾃殺した本⼈に賠償請求をして、それを遺族が相続する」という形となる。ここで⾔う「遺族」とは、相続権を保持する⼈のことである。⾃殺者が残した遺産の総額と損害賠償額を⽐較して、損になるような場合には相続放棄をすればよい)。

その他、⽇本での⾃殺に関する法律として、2006年(平成 18 年)の⾃殺対策基本法 や、銃砲⼑剣類所持等取締法第 5条での「⾃殺をするおそれがあると認めるに⾜りる相当な理由がある者については銃砲⼑剣類の所持を許可してはならない」といったものがある。

また保険法(第 51条第 1号)には「保険者は、被保険者が⾃殺をしたときには、保険給付を⾏う責任を負わない」とある。貸⾦業法12条の 7でも「保険契約において、⾃殺による死亡を保険事故としてはならない」とある。ただし、精神障害 によって⾃殺⾏為の結果に対する認識能⼒のない精神疾患者による未遂の場合は、例外的に保険給付される*[75]。

9 自殺対策

9.0.1 いのちの電話

⾃殺対策のひとつとして、ボランティアらによって営まれているいのちの電話(⽇本いのちの電話連盟)が、深い悩み・つらさを抱えて誰にも相談出来ずに⾃殺を考えるほどになっている⼈の話を聞くための電話を設けて、24時間受け付けている*[76]。「いのちの電話」が設置されている地域では、そうでない地域と⽐べ、男⼥とも⾃殺率が有意に下がっている*[13]。また統計分析は「近所づきあいの頻度が⾼い地域で⾃殺率が低い傾向にあったことを不完全ながらも⽰して」*[25] おり、「⼈的ネットワークを⼟台とするセーフティーネットの構築が⾃殺予防に有効である可能性が⾼い」*[25]。

9.0.2 日本政府

政府系では、⾃殺予防総合対策センターのサイトが、⾃殺を考えるほどに悩んでいる⼈、あるいは

⾃殺しそうな家族をもつ⼈からの相談を受け付ける、各都道府県・都市の相談窓⼝・相談のための電話のリストを公開している。⾃殺防⽌対策として、相談室の設置、カウンセラーの増強などの対策が取られている地域がある。例えば静岡県 では富⼠市 をモデルにうつ病の観点から⾃殺防⽌に取り組み、⼤きな成果を挙げた*[77]。2005年7⽉、参議院厚⽣労働委員会で「⾃殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」がなされ、同年 9⽉には第 1回「⾃殺対策関係省庁連絡会議」が開催された。2006年10⽉ 28⽇には⾃殺対策基本法が施⾏された。しかし、ほとんどは NPO による⾃主活動またはボランティア任せで政府・⾏政側がバックアップをとっておらず、、多くの⾃殺相談室が⼈材・予算不⾜で苦境に⽴たされた*[78]。また、政治家の認識も薄いとの指摘もある*[注 5]。また⾃殺者の 46.2%が事前に何らかのサインを出していた(と遺族は考えている)が、⾃殺以前に遺族がそのサインに気づいたのは 20%にとどまった*[73]。(ただしあと知恵バイアス を考慮に⼊れるべきである)。⾃殺者遺族の 4 ⼈に 1 ⼈が⾃分も死にたいと考えており*[73]、⾃殺予防のためには遺族への対策を取ることが考えられる。⾃殺者72%が⾃殺前に精神科などなんらかの相談機関に相談に⾏っていた*[28]。内閣府の意識調査では、⾃殺したいと思ったことがある⼈は 19.1% で、ない⼈は 70.6% であった*[79]。⾃殺したいと思ったことがあるのは男性(16.3%)よりも⼥性 (21.9%)の⽅が多く*[79]、実際の⾃殺者では男性の⽅が 2.5倍も多いのと対照的である。年齢別では 30 代 (27.8%)、20 代 (24.6%)が「ある」と答えた割合が⾼く、後は年を追うごとに少なくなっている*[79]。⾃殺を考えた際、60.4% は誰にも相談せず、残りは友⼈ (17.6%) や家族 (13.9%) などに相談している*[79]。⾃殺の是⾮については「⽣死の判断は最終的に本⼈にまかせるべき」という問いに「そう思う」もしくは「ややそう思う」と答えた⼈は 35.3% で、「そう思わない」もしくは「ややそう思わない」は 41.7%であった(残りは分からない (11.9%) もしくは無回答 (11.1%))*[79]。また「⾃殺せずに⽣きていれば良いことがある」という問いに「そう思う」もしくは「ややそう思う」と答えた⼈は 79.4%で、「そう思わない」もしくは「ややそう思わない」は 6.1%であった*[79]。

自殺対策白書

国は鬱病患者や多重債務者への⾃殺予防策を進めており、2012 年の⾃殺者数は 2 万 7858 ⼈で、15年ぶりに 3万⼈を下回った。ただし、20歳代の⾃殺死亡率は⾼まる傾向にあり、政府が閣議決定した「⾃殺対策⽩書」では、若年層への効果的対策を急ぐ必要性を指摘している*[80]。

8 10 注

9.1 課題

清⽔康之は、⽇本政府や⾃治体の対策は、複合的・連鎖的な悪条件の連鎖に対応したものになっておらず、連携不⾜で、「点的」になっており、⾃殺要因の連鎖を⾷い⽌めるような形になっていないと批判している*[17]。実際に関係機関が連携して⽀援策を打ち、⾃殺に追い込まれる⼈を減らせた地域がある。たとえば東京都⾜⽴区は 2009 年ころから⾃殺総合対策に取り組み、2011年には⾃殺者を前年⽐で 40 ⼈、20% も減少させることができた*[17]。清⽔の提⾔は以下である。⾃殺の地域ごとのありさまはさまざまに変化するものであり、⾃殺の実態に関する情報や統計がない状態では、的確な対策を打つことができないので、各⾃治体 はまず、その⾃治体域内の⼈々の⾃殺の統計をとり、細かい統計を迅速に発表するとよい*[17]。例えば毎⽉ベースで統計をとり、1ヶ⽉後には発表するとよい。⽇本の⾏政がやるべき連携的な活動とは、例えば、誰かが失業したら、その⼈は複合的に「失業・経済的困窮(⽣活苦)・多重債務・うつ病」という問題を抱える傾向があることは事前に統計的にわかっているのであるから、本来ならば、⾏政というのは、ハローワーク・福祉事務所・弁護⼠・保健師などが連携・情報交換してそのひとりの⼈に対して「総合的な相談会」などを共同で実施して⽀援にあたる、ということなのである*[17]。「死にたい」と思い詰めている⼈の多くは、実は同時に「⽣きたい」とも思っており、必要な⽀援が得られて困難が解消すれば、多くの⼈は⽣きる道を選ぶ*[17]。⽇本では、⼈が⽣きることを選択できるように社会環境・社会制度を改善すれば⾃殺率を減らすことができる。⾃殺対策とは、「⽣きることの阻害要因」をできるだけ取り除いて、「⽣きることの促進要因」をできるだけ増やすという、包括的な「⽣きる⽀援」であり、そうした包括的な⽀援を、当事者の事情にあわせて関係機関が連携して⾏えば、その地域では「⽣きる道」を選択できる⼈が増え、結果的に⾃殺が減るのである*[17]。

10 脚注

10.1 注釈

[1] ⾃殺率は、⼈⼝ 10 万⼈当たりの⾃殺者数を⽰す(⾃殺者数 ÷⼈⼝ ×100,000⼈)。⼈⼝は、総務省統計局の推計⼈⼝(毎年 10⽉1⽇現在)の総⼈⼝に基づく。

[2] ⽇本に関する研究ではなく、⼀般論としての書籍ではあるが、『脳と性と能⼒』では、ヴィダルやドロテ・ブノワ =ブロウエズは、このような精神的危機の背景には、激しい競争社会 や低い⾃⼰評価に起因するさまざまな否定的感情、家庭・職場での⽣活 が困難、など複数の要因がある、とし、膨⼤な数の統計学的・疫学的研究は、⽂化(宗教・教育)と⽣活様式(「都会暮らし」か「⽥舎暮らし」

か)と家族の状態(独⾝か既婚か)、社会的状況(失業者や囚⼈など)が⾃殺⾏為に重要な意味を持つ、としている(出典:カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ =ブロウエズ『脳と性と能⼒』(集英社新書))。

[3] なお抗うつ薬 の服⽤開始直後には、年齢に関わりなく⾃殺企図の危険が増加する危険性があるとアメリカ⾷品医薬品局 から警告が発せられ、⽇本でもすべての選択的セロトニン再取り込み阻害薬 およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 の抗うつ薬の添付⽂書に⾃殺企図のリスク増加に関する注意書きが追加された(賦活症候群)*[35]。

[4] 305⼈中、相談の有無が不明だった 23⼈を除いたうちの 72%。

[5] ⾃殺者が年間 3 万⼈を超えた際、時の⾸相・⼩泉純⼀郎は「悲観することはない。頑張ってほしい」とコメントしたのみであった(2004年7⽉ 23⽇)、また、ある政治家は⾃殺問題よりも⾼速道路 料⾦引下げの⽅が有権者に喜ばれる政策だとも発⾔した。さらに内閣府と厚⽣労働省のある幹部は、男性の⾃殺対策より、男性の育児休暇の取得に全⼒で取り組むべきだと発⾔した(中⽇新聞 2010年 5⽉ 16⽇の記事)。

10.2 出典

[1] 厚⽣労働省:2006 年(平成 18 年)⼈⼝動態統計(確定数)の概況

[2] OECD 2014, Country press releases - Japan.

[3] Suicide data (Report). WHO.

[4] Health at a Glance 2013 (Report). OECD. (2013-11-21).Chapt.1.6. doi:10.1787/health_glance-2013-en.

[5] 厚⽣労働省 2003 年(平成 15 年)⼈⼝動態統計⽉報年計(概数)の概況死因順位(1〜5位)別死亡数・死亡率(⼈⼝ 10万対),性・年齢(5歳階級)別

[6] 経済社会総合研究所 2006, p. 15.

[7] OECD 2014, p. 45.

[8] 警察庁⽣活安全局⽣活安全企画課 (2011 年 3 ⽉ 3⽇), “平成 22 年中における⾃殺の概要資料” (⽇本語) (PDF) (プレスリリース), 警察庁 2011 年 3 ⽉4⽇閲覧, "注)⾃殺率は、⼈⼝ 10万⼈当たりの⾃殺者数を⽰す(⾃殺者数 ÷ ⼈⼝ ×100,000 ⼈)。⼈⼝は、総務省統計局の推計⼈⼝(毎年 10⽉1⽇現在)の総⼈⼝に基づく(平成 22年は概算値)。"

[9] 平成 23 年中における⾃殺の状況内閣府⾃殺対策推進室警察庁⽣活安全局⽣活安全企画課

[10] 平成 24年中における⾃殺の内訳 (PDF)(警視庁の統計)

[11] 平成 25年中における⾃殺の状況 (PDF)(警視庁の統計)