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1 薬の投与計画 ポピュレーションファーマコキネティクス PPK; 母集団薬物速度論) 母集団の薬物速度論パラメータの統計分布を解析、比較、あるい は応用の対象とする学問。 PPK パラメータは、母集団から統計学的に得られた集団平均値個体間誤差および残差変動(測定値の変動情報)である。

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薬の投与計画

ポピュレーションファーマコキネティクス(PPK; 母集団薬物速度論)

母集団の薬物速度論パラメータの統計分布を解析、比較、あるいは応用の対象とする学問。

PPK パラメータは、母集団から統計学的に得られた集団平均値、個体間誤差および残差変動(測定値の変動情報)である。

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集団の場合は、パラメータ値は集団の人数分あり、さらにそれが何らかの母集団からのサンプルであれば、パラメータは連続的な統計分布をとる

個別の薬物動態解析では、パラメータの真の値は 1 つ。

母集団のパラメータの統計分布を効率的に精度よく求め、詳しく比較し解析することで、最終的には医療の向上に結びつける。

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二段階法少数の被験者で行われ、各被験者で固体内変動を予測して被験者ごとの PK パラメータを算出した後、被験者間における PK パラメータの標準偏差(個体間変動)を算出し、回帰分析することでPPK パラメータを構築する。

二段階法による PPK パラメータの算出は、変動効果(個体変動や個体間変動)と被験者個々の要因(年齢、性別、病態など)である固定効果を加えた混合モデルを用いて行われる。

PPK パラメータを構築する方法

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複合モデル解析より多数例で薬物が適応すると考えられる代表的な患者集団を含めた PPK パラメータの構築を直接行う手法。

二段階法は少数の被験者で構築されるため、被験者から逸脱する特徴(病態など)を持つ対象では得られる PPK パラメータに大きな誤差を生じる。この欠点を補うために用いられるのが複合モデル解析である。

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パラメータの変動要因をモデル化すること(誤差モデルを構築すること)により、個人別のパラメータは求めずに母集団の統計分布を直接求める方法。解析プログラム:NONMEM(非線形混合効果モデルソフトウェア)

【利点】・パラメータの統計分布がデータより直接求められる。・個々の薬物血中濃度の測定点が個人のパラメータを推定するには不十分な数しかなくても、さらには採血の時間が不特定であっても、全体として十分な被験者数があれば母集団のパラメータを求められる。

臨床試験における PK モデル構築や PK パラメータの変動要因を解析する際にも使用される。

NONMEM(Nonlinear Mixed Effect Model:非線形混合効果モデル)

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母集団の薬物動態パラメータの分散を知る=患者の薬物血中濃度のばらつきの程度を知る治療効果の個人差を推定して、その違いに対して準備することが可能になる

PPK 解析には、パラメータの個人差がどのような要因によるかを統計的に評価する仕組みが含まれているその情報を利用することで薬物動態の個人差の予測が可能

PPK は今後の個別化医療における鍵になる技術

パラメータの分散を知ることの有用性

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特定の背景をもつ母集団のパラメータの統計分布を知ることは、背景の異なる母集団との薬物動態の違いを統計的に論ずることを可能とする。

PPK は、体重、年齢、性別、病態、人種、併用薬などにより薬物動態に違いを生ずるかどうかを検討する効率的方法である。

複数の因子を一括して効率的に評価できるのが PPK の特徴である。

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TDM(治療的薬物モニタリング:Therapeutic Drug Monitoring)通常の薬物動態解析では採血ポイント数が不足であればパラメータが不定となり役に立たないのに対し、あらかじめ NONMEM 法で得られた母集団のパラメータを事前分布とし、得られた血中濃度を患者個別の事後分布としてベイズの定理から患者個別のパラメータを推定する。

推定されたパラメータから、至適濃度が保たれるように用法・用量を調整する。

ベイズ推定と TDM

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ベイズ推定母集団のパラメータの統計分布が得られれば、少数の血中濃度データからでも個別のパラメータが求められる。誤差はあるものの、患者の治療方針を具体的に考えることを可能にする優れた方法。

ベイジアン法患者個々の薬物動態パラメータから投与計画を設定する方法。最小二乗法により患者固有パラメータを推測するが、解析に個体間変動や残差変動を含めることで、推測する患者固有パラメータがPPK パラメータから大きく逸脱することを防ぐことができる。

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患者の

バイオアベイラビリティ(F)吸収速度定数(Ka)分布容積(Vd)クリアランス(CLT)

などの薬物動態学的パラメータを予測する。

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現在、日常的に応用されているのは、TDM が保険適用されている少数の薬の一部に限定されている。

将来はより多くの薬について、治療時の適切な患者の薬物濃度の情報が PPK 解析を通じて臨床の現場に提供されることが望まれる。

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1) 1点採血で得られた血中濃度測定値(18.5 μg/mL)をもとに、患者の薬物動態学的パラメータ(Ka、Vd、CLT)をベイジアン法により推定

2) 得られたパラメータを用いて、現在の用法・用量での血中濃度推移をシミュレーション

3) 血中濃度が有効血中濃度域から外れていても、副作用がなく治療効果が得られていれば経過観察するが、変更の必要があれば、有効血中濃度域に入るように用法・用量を再計算

4) 算出した推奨投与量(300 mg/day)と投与間隔(8:00、20:00)で血中濃度推移をシミュレーションする。投与直前の血中濃度が13.6 μg/mL と予測される

5) 処方変更後、定常状態に到達した時期をみて、再度TDMを実施し、得られた血中濃度(13.5 μg/mL)を確認

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患者固有の投与設計

患者固有の薬動学的パラメータ:消失速度(Kel)、分布容積(Vd)、クリアランス(CL)等

薬の投与量により変化しないパラメータ

投与計画の対象とする薬物の母集団パラメータ(PPK)をもとにして、患者の血中薬物濃度を測定することで、決定論的および推計学的に推定した患者固有の薬動学的パラメータである。

患者固有パラメータを用いることで、患者個々の身体機能や病態を考慮した詳細な投与計画が可能である。

患者固有のパラメータ

TDM 薬物などで示されている目標血中濃度(有効血中濃度)は、薬物を複数回投与した後に定常状態に到達した薬物血中濃度を用いることが多い。

薬物が線型 1-コンパートメントモデルに従うなら、患者固有のパラメータを用いて定常状態における薬物血中濃度を予測できる。

F×X0

Kel×Vd×τ

Css:定常状態での平均血中濃度 F:バイオアベラビリティX0:体循環流入量(静注の場合は投与量、経口投与の場合は投与量×生物学的利用能)Kel:消失速度定数 Vd:分布容積 τ:投与間隔

Css =

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血中薬物濃度

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患者の特性値に応じたパラメータ

患者固有パラメータの推定に必要な PPK パラメータを決定する際に、患者の生理的因子や遺伝的因子、生活因子などの患者の特性を反映する患者情報は重要な因子となる。

PPK パラメータは、患者情報をもとにして選択する必要がある。

クレアチニンクリアランスなどは、患者の血清クレアチニン値、年齢、体重や性別を使用し、得られたパラメータから関係式を用いて近似値を算出して使用することも可能である。

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カルバマゼピンの PPK パラメータ<消失速度定数(Kel)または全身クリアランス(CL)>・15 歳以上

併用なし:Ke = 0.0548-0.000248×年齢フェニトイン、フェノバルビタール併用:

Ke = 0.0363-0.000188×年齢・15 歳未満

併用なし: CL = 0.09333-0.00285×年齢フェニトイン、フェノバルビタール併用:

CL = 0.0618-0.00189×年齢

<分布容積(Vd)、吸収速度定数(Ka)>Vd/F = 1.61×体重Ka = 1.23

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患者固有パラメータを求める方法

患者に薬物を投与し、得られた薬物血中濃度をもとに、決定論的アプローチおよび推計学的アプローチにて患者固有パラメータを推定する。

決定論的アプローチでは、薬物濃度測定値の誤差は考慮せずに計算を行い、患者固有パラメータを測定する。

推計学的アプローチでは、薬物血中濃度測定値のもつノイズ(誤差)を加えて最小二乗法を用いて患者固有パラメータを推定する。

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テーラーメイド薬物治療

理想的な薬物治療:目的とする薬物の治療効果が薬物に起因する有害反応を起こすことなく達成されること

テーラーメイド薬物治療:患者固有の遺伝子情報や分子情報に基づいて、個々の患者に最も適した診断、医療、予防法を提供する。テーラーメイド医療、オーダーメイド医療、個別化医療