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4回 地球社会統合科学セミナー 2013/11/13 慶應義塾大学大学院 小林 周 1 20131213日(金) 4回地球社会統合科学セミナー 新生リビアの国家建設における諸問題 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 後期博士課程 小林 周 [email protected] 1 1 自己紹介 小林 周(こばやし あまね) 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 後期博士課程 研究対象: 現代リビアのガバナンス構築における課題 世界のエネルギー動向から中東政治変動を読み解く? 06年頃、グローバル化への関心から、当時経済 改革と国際社会への復帰を進めていたリビアに 着目。⇒「カダフィのリビア」への疑問。 2 2

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第4回 地球社会統合科学セミナー 2013/11/13

慶應義塾大学大学院 小林 周 1

2013年12月13日(金) 第4回地球社会統合科学セミナー

新生リビアの国家建設における諸問題

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科  後期博士課程 小林 周  

[email protected] 1!1

自己紹介

•  小林 周(こばやし あまね)

•  慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科  後期博士課程

•  研究対象:  – 現代リビアのガバナンス構築における課題  –  世界のエネルギー動向から中東政治変動を読み解く?

•  06年頃、グローバル化への関心から、当時経済改革と国際社会への復帰を進めていたリビアに着目。⇒「カダフィのリビア」への疑問。  

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第4回 地球社会統合科学セミナー 2013/11/13

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本日の発表要旨

•  リビアはヨーロッパのアフリカ植民地支配の過程において3つの地域が「囲い込まれ」、1つの国家として成立した。そしてその歴史的背景は、現在リビアが抱える問題にも大きく影響を及ぼしている。  

•  内戦とカッザーフィー政権崩壊を経て設立された新生リビアだが、「ポスト独裁体制」への移行は順調ではない。  

•  ①「政治的罷免法」の成立、②民兵組織の武装勢力化、③地域主義・部族主義など内部対立の激化−−−といった問題を抱え、リビアの国家建設の道のりは長く険しいと予測される。

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1834年 仏アルジェ併合  1859年 西モロッコ侵略  1881年 仏チュニジア支配  1882年 英エジプト支配  1895年 英東アフリカ支配  1899年 英埃スーダン支配  1912年 伊リビア併合宣言  1912年 仏西モロッコ支配  

4 h?p://2012books.lardbucket.org/books/regional-­‐geography-­‐of-­‐the-­‐world-­‐globalizaLon-­‐people-­‐and-­‐places/secLon_10/30bed3ac4ade857d5d5b423020450093.jpg

リビアという国家は  いつ成立したのか?

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3つの地域

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キレナイカ地方  • 人口約200万人  • 東部都市ベンガジ:    リビア王国時代の首都  • 国内の石油・ガス資源が集中  • 今回の反政府運動の震源地 フェザーン地方  

• 人口約20万人  • 11世紀以降サハラ砂漠の交易拠点として繁栄  • チャド、ニジェール、アルジェリアと国境を接し、サブサハラ諸国との関係も強い  

トリポリタニア地方  • 人口約400万人 • 首都トリポリ周辺にはリビアの政治経済機能が集中  

現代リビア概況

【基礎データ】    •  面積:176万km2    •  人口:600万人   

(2013年、CIA)

•  言語:アラビア語

•  民族:アラブ人(97%)

•  宗教:イスラーム教(スンニ派)  

•  GDP:約786億ドル(2012年、CIA)

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カッザーフィー政権下のリビア 政治・経済事情  •  アフリカ大陸最大の石油埋蔵量(世界第8位)

の資源大国。1人当たりGDPはアフリカ第2位。  •  オイルマネーを背景に、経済協力などを通じ

たサブサハラ諸国への影響力を持つ。  •  1990年代にはテロ支援国家として国際的な

孤立感が高まったが、2000年以降、大量破壊兵器計画の廃棄などを受け、欧米との関係を改善。

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リビアの反政府運動(1)

•  2011年2月中旬、リビア東部ベンガジで起こった反政府デモを、政府は武力弾圧。カッザーフィー政権と反体制派の戦闘が激化し、政権側は空爆を含む武力行使。  

•  抗争の要因  –  42年間に及ぶカッザーフィーの    独裁体制と自由の抑圧。  – 地域間抗争、部族間抗争の    側面もあり。

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リビアの反政府運動(2)

•  国際社会の反応  –  カッザーフィー政権の国

民に対する武力行使を非難。  

–  国連による制裁決議、英米仏を中心に軍事行動を開始。

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リビアの反政府運動(3)

•  数カ月にわたり戦況は膠着していたが、国際社会の軍事介入により反体制派が攻勢を強め、首都トリポリを制圧(8月下旬)。カッザーフィー政権の事実上の崩壊。  

•  2011年10月20日、カッザーフィー死亡。  – 死者2〜3万人、難民40万人。  

•  反体制派の「国民暫定評議会」を中心に、暫定政府の設立。

リビアの全土開放

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新生リビアの政治的課題:  ガバナンス構築

•  憲法制定、制度構築  •  行政システムの整備  •  治安維持:武器と武装集団の拡散への対処  •  国境管理・不法移民問題  •  経済・産業インフラの復旧・整備  

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首相

副首相  (第1~3)

防衛省   経済省 司法省 内務省 外務・  国際協力省

石油省   水資源省 通信技術省 交通省 農業省 電力省

スポーツ・  青年省  

科学技術・  高等教育省

国民議会関連省

計画省 宗教省 教育省

雇用訓練省   社会保障省 保健省 殉教者省 住宅供給省 傷病者保障省

地方政府省 金融省 観光省 文化省

大統領  (未選出) 制憲議会

憲法起草委員会  (未選出)

12 リビア政府資料(2012年)を基に発表者作成。

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42年間にわたる独裁政権の経験を  いかに乗り越えるか?  

•  ジャマーヒーリーヤ:「国家元首も首相、政府も存在しない真の民主主義」  – 代議制民主主義、政党政治、多数決原理を、  

特定の代表や集団による独裁であるとして否定。  – 実質的には抑圧的な治安維持、オイルマネーに

よって支えられた独裁体制的な政治構造。  

•  リビア総人口の約85%が40歳未満、つまりカッザーフィー時代以前のリビアを知らない。

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「内戦の記憶」

•  社会的・経済的立場や居住する地域によって「内戦/革命闘争の記憶」は大幅に異なる。  

•  そしてその差異は、旧体制打倒後の新たな政治・社会体制の再建に当たって様々な対立を生み出している。 – 内戦による損害の甚大な/軽微な地域

– カッザーフィー政権から厚遇/冷遇されていた地域

– 特に大きな損害を受けておらず、地域間対立とその和平にも関心のない地域

– 資源埋蔵量、民族、宗教・宗派、経済的発展度

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「政治的罷免法(PoliLcal  IsolaLon  Law)」

 قانون العزل السياسي  •  1969年9月のカッザーフィーによるクーデター

以降、カッザーフィー政権下において幹部職(軍部や教育を含む)に就いた者に対し、 今後10年間以上新政権下で公職に就くことを禁じる。  

•  リビア国民議会内部に法律草案作成委員会を2012年12月26日に設立、2013年5月に法案可決。  

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法案が問題とされている点(1)

•  追放対象者の範囲や選定過程が極めて曖昧  – 新政権下で実施された選挙により選出された国

民議会議員ですらも、総勢200名の内40名程が追放対象となる。  

– 議員や省庁職員だけでなく、大学や研究機関、治安・軍事関係者、メディア関係者も制裁対象となる。  

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新生リビアのガバナンス構築を担うべき、実務経験や国外ネットワークの豊富な人材が排斥されてしまう。  

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法案が問題とされている点(2)

•  法案の審議・採決に当たり、国内の民兵組織が新政権に圧力をかけ、彼らと関係の深いGNC議員や政権幹部が、武力を背景に法案の可決を議会に迫った可能性が高い。  – 2013年4月28日、200名余りの民兵組織が外務省

と内務省の庁舎、テレビ局を取り囲み、カッザーフィー政権時代の職員を新政権幹部職から追放するよう要求。

17 http://www.libyaherald.com/2013/04/28/miltiamen-blockade-foreign-ministry-want-foreign-minister-abdulaziz-replaced-and-closure-of-libyan-embassies-in-moscow-belgrade/

リビアの民兵組織

•  反カッザーフィー政権闘争時にリビア国内各地で生まれた武装勢力。アフガニスタンやイラクから帰国した者も含まれる。  

•  実際に内戦時に戦った者は5万人程度、現在は約25万人が民兵組織に加入。首都トリポリだけでも約1,000の民兵組織が存在するとされる。  (一方で国軍兵士は数千人とも)

•  暫定政権下で存在と活動を承認されたことで、「正統性」を確保したが、内戦終結以降の国軍・警察への編入を拒絶。  

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h?p://www.thedailybeast.com/arLcles/2013/11/08/libya-­‐on-­‐the-­‐brink-­‐as-­‐miliLa-­‐fighLng-­‐engulfs-­‐tripoli.html  (2013.12.03)

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民兵組織の内戦後の武装勢力化

•  暴力と「カッザーフィー打倒への貢献」以外に政治基盤を持たない脆弱な政治集団。  –  空港や公共施設の占拠、武器を用いた示威行為による

政治的要求。  –  同胞団などと異なり、社会サービスの提供はしていない。  

•  「イスラーム的正統性」確保のためのサラフ主義への接近:聖者廟の破壊  –  新生リビアで「サラフ主義組織」の暴力的活動が最初に活

発化したのは、(イスラーム主義勢力がマジョリティとはならなかった)国民議会選挙の直後。  

•  国内に混乱を起こし、また軍事的な示威活動によって新政権の弱体化を図る政治的企図  –  現政権への反発が即「親カッザーフィー」に結びつくわけ

ではない。 19

新政府のジレンマ

•  強大かつ新政権に反抗的な民兵組織の多くが、カッザーフィー政権打倒に大きく貢献(したと主張)。  

•  民兵組織は規模や装備、資金面で国軍や警察を圧倒し、新政府が物理的に民兵組織を抑制することはほぼ不可能。  

•  新政権幹部、治安維持機関の一部が民兵組織を政治的に利用している、と指摘されている。  

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アリー・ザイダーン首相誘拐未遂事件

•  10月10日、トリポリの高級ホテル22階から武装勢力により誘拐、数時間後に解放。  

•  武装勢力はホテルのある地区を100台以上の武装車両で封鎖。  

•  首相は拉致事件の背後に政府や議会内の政治勢力の存在を示唆。  

•  しかし逮捕者はなし。  21

民兵と市民との衝突

•  11月15日(金)、トリポリ市民が民兵組織拠点へ、撤退と武装解除要求のデモ行進。それに対して民兵側が発砲、47名死亡、400名以上負傷。  

•  カッザーフィー政権崩壊以降最大の衝突。  •  この事件を契機として政府・市民の民兵組織

に対する圧力が急激に高まり、多くの組織がトリポリからの撤退を開始。  

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再燃する地域主義  (というより中央政府への不満?)

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東部地域の不満  ① 反カッザーフィー運動が東部を起点

とし、内戦で多数の被害を出したに

もかかわらず、十分な戦後補償を受けていない。  

② 国政を左右する地域別の議席配分が人口比によって割り振られ、反政府運動への貢献度が十分に考慮されていない。  

③ 議会、主要省庁のトリポリ集中。  ④ 東部地域にはリビアにおけるエネ

ルギー資源の大半が埋蔵されているにもかかわらず、資源収入の配分において東部地域が優先されて

いない。  ⑤ 東部地域における有力部族連合や

かつてのリビア王国政府の関係者が、新政権において重用されてい

ない。

南部地域の不満 ① 治安悪化、不法移民、部族・民族

間紛争に対する政府の対策不備。  ② ライフライン、インフラの破壊、不備。  ※ 政治的不満は顕在化せず。

政府の安全保障能力の欠如 •  2012年9月11日、ベンガジの米国領事館襲撃事

件により、スティーブンズ駐リビア米国大使と4人の職員が死亡。  

•  2013年4月23日、トリポリのフランス大使館前で自動車による爆発事件が発生。  

•  病院やインフラ施設の襲撃・占拠。  •  政府高官の誘拐・暗殺事件。

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2010年以降の中東地域における政治変動

① 全国規模での内戦状態への突入

② 反政府勢力の組織化と国際的支援獲得

③ 内戦への国際社会の軍事介入

④ 政治指導者の亡命、訴追、殺害

⑤ 内戦の周辺諸国への波及

⑥ 内戦、政治崩壊から国家再建へ  ⑦ 国家再建過程での内部対立の顕在化

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リビアに国家は本当に必要なのか?

•  未経験の「国民の意思を政治に反映する」仕組みづくりが最大の課題。  – 暴力手段の合法的な独占  – 官僚・政治家による政治的共同体  – 憲法制定で全てが解決するわけではない。  

•  検証のキーワード:  – 「能力の罠」「正統性の罠」  – 「移行期の正義」  (TransiLonal  JusLce)

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主要参考文献

•  小林周「新生リビアの国民議会選挙と今後の展望」公益財団法人中東調査会『中東研究』515号、pp87-­‐94、2012年。

•  ―――「リビアにおけるイスラーム主義組織展開の歴史的背景」公益財団法人中東調査会『中東研究』517号、pp.46-­‐54、2013年。

•  中東研究センター「カッザーフィー体制の崩壊と今後のリビア情勢」日本エネルギー経済研究所、2011年

•  日本国際問題研究所『「アラブの春」の将来』日本国際問題研究所、2013年。

•  水口章「リビアの政治変動と新制度構築」『中東協力センターニュース』2011年10/11月号、中東協力センター、2011年。  

•  山尾大「外部介入によるイラクの民主化」酒井啓子編『中東政治学』有斐閣、2012年。

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ご清聴ありがとうございました。